魔女の側近たち②
人が行き交う時空間魔術の施設からビル群の見える都市部を背にしてレナを先頭に薄暗い路地のような道を歩いている。頭上は建物同士の間に洗濯紐を通して洗濯物を干している。子供たちが建物に入る階段のそばでボールを使って遊んでいる。たまに魔術を使って相手を驚かせて笑顔がこぼれる。その光景は微笑ましい。
さっきのような時空間魔術による長距離移動を使った商売は世界中で行われているらしい。俺たちの世界で言うと空港のようなものに当たる。この魔術世界では長距離移動の手段は時空間魔術の他に船や風属性などで空を飛ぶくらいらしい。特に時空間魔術による移動は巨大3大魔術組織間でその使用に制限を条約で駆けているためにその3つ魔術組織に所属していない国々でも時空間魔術を使った移動には神経をとがらせている。このような時空間魔術の移動を商売にしている施設はそんな規制の厳しい時空間魔術による移動を管理するものらしい。目に見えるところで人がどこに移動したのかを確認するためらしい。この施設で移動できる先は魔術組織に所属している国同士らしい。
しかし、サイトー曰くオーストラリアという国はイギリス魔術結社にも黒の騎士団にも組織にもどこにも属している中立の国である。よって、時空間魔術による移動は隣国のインドネシア、ニュージーランドに限られているらしい。インドネシアは黒の騎士団の傘下の国であるので3大組織間の中では最も黒の騎士団がアクセスしやすい国である。それにもかかわらず、魔術組織間でオーストラリアが中立国であるのがなぜなのか?
その答えはサイトーの口から答えられた。
「この国はある弱小魔術組織が管轄下に置く国なんや」
「弱小魔術組織?」
「そうや。オーストラリアはその位置する大陸は全組織から見ればかなり遠いし、魔石の資源も多いとは言えないんや。やから、手つかずやったところに目を付けた奴がいるんや。そいつが統括している」
そうか、俺の知る3つの魔術組織以外にも弱小組織として魔術組織は存在するのか。
「そいつはまず、オーストラリアに入国する魔術師を制限したんや。他組織による干渉を嫌ったからや。下手に干渉されて戦いが広まるのを嫌う奴やからな」
「でも、俺たちはこの国にいる」
「その答えは簡単だよ!国分!」
元気よく前を歩くレナが笑顔で告げる。
「その人とハンナは仲がいいんだよ」
その様子だとレナもそいつを知る仲のようだ。
「もっとも、仲ようなったのはイムはんがオーストラリアの情勢調査の任務の影響でこの国に入国してからやろ?」
サイトーがレナに確認すると再び前を向いて答える。
「たぶんね。僕もハンナと出会った時にはその人と仲良かった感じだったし」
「そのこの国を統括するその人って言うのはどんな人なんだ?」
「一言で言うとね」
歩みを進める俺たちは狭い路地を抜けると太陽の日差しが差し込んできた少しばかりの日差しの暖かさが俺たちを包む。そんな大通りに出てまるで安心したような口調でレナは答えた。
「最強」
それは冗談でもなく本気で言っていた。冗談くらいでしか聞かない単語だけあって本当にそうなのかと疑問を一瞬浮かべたがレナの様子を見ればそれは事実であると確信してしまいそうになった。だが、具体例がいない以上信用できない。
「最強って具体的に言うと?」
「本人に確認すればいいよ。そうでしょ?風夏?」
レナが声をかける風夏という名前は俺たちの後方に向かって呼ばれて名前だった。俺と香波は思わず振り返るとそこには人がいた。そいつはどこから出てきたのか全く分からなかった。名を呼ばれて路地の影から出てきてその顔を見ることが出来た。黒タイツに茶色のロングコートに身を包んでいる小柄だが、落ち着いた大人びた女性の雰囲気が醸し出された色白の肌の女。赤いラインの入った灰色の毛糸のマフラーで顔が半分隠れているが鼻は低く目は細く決して美形とは言えない。だが、それよりも目立つのはその短い緑色の髪だ。まるでロックバンドのように染めた髪は艶やかで手入れのされたその髪は風を象徴しているようだった。
「何勝手に私のことをべらべら話してるの?」
「別にいいじゃん。減るものでもなし」
「まぁ、そうだけど」
ゆっくりと俺たちの間を裂くように歩み寄って来て俺の真横を横切ったと思ったら振り返って俺の前にやってきて顔を近づける。そして、じーっと俺の顔を見つめる。
「な、なんですか?」
思わず緊張してしまう。
「緊張する必要ないっしょ。それとも何か隠していることでもあるの?」
「いや、ないけど」
すぐに答えた。そうでないと身の危険を感じたからだ。その即答を聞いた風夏は顔を俺から離してレナの元にゆっくり歩み寄る。
「じゃあ、紹介するよ。彼女がこのオーストラリアの魔術組織の事実上の支配者の風見風夏。えっと、国分とそこにおばさんは初めてだよね」
おばって香波が呟いた気がした。すぐに私は城野香波ですっと刃向かうように名前を教えた。そういえば、俺は名乗ったかもしれないが香波は名乗っていなかったな。そうなるとレナは名前の分からない相手のことをおばさんとかおじさんとか呼ぶようだ。次に知り合いにレナを紹介する時は用心しよう。主に美嶋には。普通に怒りそうだ。
「つか、風見風夏って」
「どうしたの?」
首をかしげた。
「も、もしかして・・・・・機関出身者とか?」
もしかしたら、機関出身であることをひた隠しにしたい可能性もあるので名前からしてほぼ確信していたが疑問形で尋ねると抵抗もなく答えた。
「そう。よく知ってるね」
「知り合いに機関出身者がいて」
「へぇ~」
興味なさそうな反応をされた。だから、なんだと。そうだな。そんなことを教えて何にもならないよな。
「悪い。気を悪くしたなら謝る」
「別に謝る必要ないっしょ」
「え?」
「機関出身だってことを隠したいのなら名前を変えるとかの方法を取っている知り合いとかもいる。私がこうして機関の名前を使っているのは相手を脅すため。普通怖いっしょ。言語や計算みたいな通常教育を受けずただひたすら敵を殺すために魔術を学んだ私らを象徴する名前を聞いたら怖いっしょ」
確かにそうかもしれない。属性魔術に特化した属性戦士たちは普通に強い。霧也も氷華も属性魔術もそうだが剣術も他を越える強さを持っている。正直言えば、俺が誰も死なせない、それでアキに人の死を見せないという約束を霧也も実行しようとしていた。そのせいでセーブされている実力がむき出しになって本気で斬り殺されにかかられたらどうなるか分からない。実際に俺と同様に多くの戦火を潜り抜けてきている。
「風見風夏って言う名前は要するにただの脅しなの」
それに付け加えるようにサイトーが告げる。
「それにや。こいつが怖いのはさっきエジソンが言ったとおり最強ということなんや」
日差しが陰って来た。何が不気味な雰囲気を連れて来たように風夏の表情が陰った。そして、その陰ったタイミングを計ってしまったかのように俺はサイトーに尋ねる。風夏の方を見ないように。
「風見風夏。こいつはな、あのMMとフレイナと同じ規格外や」
そこで俺は風夏の方を見る。その陰った表情から薄く笑みがこぼれていた。風が名前の中に入っているということは使う属性は風属性。その規格外ということは本来ならば苦手とする火属性、氷属性を全く苦にしない強さを持っているということになる。それを機関に付けられた自らの名前で強調していた。
そこにサイトーはさらに付け加える。
「皆は彼女のことを最強の暴風女と呼ぶんや」
レナの言う最強はその通り名から来ていた。最強の暴風女。それと同時に強い風が吹き荒れて風夏の緑色の髪をなびかせる。その風すらも自らが起こしたもののように一体となっているようだった。彼女の周りに風が起きるのが当たり前のように風は吹き荒れる。
「あなたたちはハンナに会うんっしょ。だったら、行くよ」
「そうだ!そうだ!」
この温度差の違う二人に俺はただ困惑するしかなかった。




