魔女の側近たち①
オーストラリア。地球上で最も小さい大陸だ。俺の世界では産業革命ののちに発展した航海技術が新たな新天地を求めた白人たちの侵略によって原住民族のほとんどが迫害されてしまって白人が政治的実権を握っていることの多い国だ。その後も移民を受け入れたりして多くの人種が混在する国だ。しかし、この魔術世界はその産業革命が起こる前に魔力を持つ石、魔石を発見したことで魔術が革命的に発展して行っている。魔術の発展の影響で俺でも知っているコロンブスのような冒険家が現れてなかったらしい。ちなみに俺の世界の歴史も学んだアキの情報である。そのせいか日本も明治維新のような江戸と近代的建物が混ざったような街並みだった。
それでもってオーストラリアはというと・・・・・。
「・・・・・なんか見たことある」
高層ビルのような鉄筋コンクリートとビルが立ち並ぶ都市が垣間見れた。だが、俺たちが時空間魔術で移動した先は赤レンガ作りのヨーロッパのような風景の街並みだった。町を歩く人々は黒人もいるがほとんど白人だった。どういう歴史を積み重ねたかは知らないがこの魔術世界でも俺の世界でも歩んでいる歴史に変わりはないようだ。
南半球ということもあって俺たちのいた日本とは季節は逆。つまり、オーストラリアは真冬なのだ。施設を出る前にサイトーから右胸に騎士のエンブレムの入った黒の騎士団の黒のコートを借りて寒さをしのいでいる。それは香波もいっしょだ。
多くの魔力で動く車のような物が目の前を通り過ぎていく。どういう仕組みで動いているのか今は説明してくれる詳しい人がいないので知ることができない。
今は魔術の世界と自分の世界の違いに驚いている場合ではない。
時空間魔術で移動できる駅のような施設から出てきょろきょろ見渡す。施設を出るとバルコニーのような魔力で動く車や空飛ぶバスの停留所など人々が行き交っている。そんな多くの人が行き交う中で背伸びをしたサイトーは何かを探していた。
「何探してるんだ?」
サイトーは答える。
「イムはんの使いや」
一応、分隊長の役職だけあって迎えも人任せか。
だが、団員を植物人間にしてしまうようなやつが上司となると抵抗を俺は感じる。
「やけど、全然見当たらんのや。ここでいいと思うんやけど」
サイトーははんてんの袖口からカードを取り出した。おそらく通信系の魔術の類だろう。触れることで通信できることのできる魔術だ。魔術師でなくても魔術を発動した魔術師が健在ならば持続可能な魔術だろう。
行き交う人々はみんな背が高い。さすが海外だ。体格のいい人種の人たちが行き交うこの国では俺たちがすごく小さく感じる。俺もせいぜい身長は170センチくらいで香波も10センチくらい低い。サイトーも俺とあまり変わらない。というかトモヤ・サイトーと名乗っているが本当は日本人なのではないかと思う。何か事情があるみたいだから口出ししなかったが気にならないと言ったら嘘になる。
「ねぇねぇ、お兄さん」
「はぁ?」
香波の方を向く。香波はきょとんとしていた。その姿はかわいいとは言わない方がいい。
「何か言ったか?」
「え?私は何も・・・・・」
「おい。無視すんな」
「また聞こえた。どこからだ?」
「ここだよ!ここ!ここ!」
声が聞こえた方を見下げるとそこにはひとりの少年がいた。黒髪で髪は短く藍色の短パンにおそろいの藍色のパーカーを着ている。パーカーは中が綿になっているようで共も暖かそうだがパーカーの前のチャックは前回になっていて中から白のTシャツを着ている。それを見ると寒そうだ。ムスッとした幼顔は幼稚さが見れてかわいげがある。
それを見た香波は笑顔で少年と同じ目線になって頭を撫でる。
「僕?どうしたの?お母さんとはぐれたの?」
と優しく語りかける。
「うっさい、ばばあ」
「ば!」
と固まる香波。
「きょ、キョウ君!」
即座に俺に迫るように顔を目の前に持ってやって来る。
「な、なんだよ!」
顔が近い!近い!
「私のどこにおばさん要素があるの!小じわとか目立つの!」
「子供の意見に間を受け過ぎだ!」
香波にはおばさん要素なんて微塵もない。大きな瞳に低い鼻、プルンと下唇に髪はまっすぐとしたロングヘアー。誰もが認める美少女だ。そう俺の好みだ!
「だって、子供って素直だから・・・・・どうしよう。私まだ16なのにそんなにおばさんに・・・・・」
俺の方を見て顔を隠した。よっぽどショックだったのだろう。特に俺の目の前で言われて。
「僕は子供じゃない!」
「はいはい。分かった。いいからさっさと自分の親のところに行け。はぐれたんだったら迷子センターくらいには連れて行ってやるよ」
「うっさい!このおっさん!」
「誰がおっさんだ!」
思わずむきになってしまう。いや、俺はまだ16だぞ!どこにおっさん要素があるんだよ!
「臭い!加齢臭が臭い!近寄るな!」
加齢臭だと!まだ、そんなものが出るような年じゃない!つーか、さっき俺のことをお兄さんとか呼んでなかったか!
「俺って臭いか?」
香波に聞くがそんな聞く耳はなくどこが悪いのかとぶつぶつつぶやいている。ダメか・・・・・。
「なんや。こんなところにおったんか」
「あ。サイトー」
え?知り合い?
「もしかして、このガキが」
「イムはんの使いや」
「ガキとかいうな。くそじじい」
「誰がくそじじいだ!」
なんか使いだって分かるとさらに腹立つ。
「こいつは他人のことをそうやってバカにするのが日常茶飯事や。気にしてたらきりがないで」
「そんなこというな!サイトーのおっさん」
「誰がおっさんや!」
お前も普通に怒ってるじゃないか。
「貴様ら今後僕を罵ったりバカにしたり子ども扱いしたりガキ扱いしたら、今みたいな呼び方で一生呼び続けて、あるとあらゆる方法を用いて世界中にその呼び方を広めてやるか覚悟しろよ!」
子ども扱いもガキ扱いも同じじゃ・・・・・。つか、腹立つがなんかこれ以上ガキ扱いしたら俺のメンタルが持たない気がするからこれ以上を何も言わないでおこう。
「ごめんなさい!」
香波。行動が早いぞ。
「えっと・・・・・」
何て呼べばいいのか分からないようだ。確かに俺はこの少年の名前を知らない。
「あ~。僕?僕の名前はエジソンだよ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」」
俺と香波はぽかんとする。
「なんだよ!その反応は!」
「いや、ちょっと待て。というか俺たちからすればよく知れた名前で」
不機嫌になったエジソンをなだめる。
「僕の名前を知ってるの?」
香波と目を合わせる。エジソンという名前は俺たちの世界では電球や蓄音機とかを発明した名高い発明家だ。努力と天才をかけた名言とかも残している。もしかして、この世界ではエジソンという名前があまり知られていない可能性もあった。魔術の発見があるのとないのとでは情勢がまったく違う。例外があるとすれば、アキと美嶋のふたりだ。
するとエジソンはぼそりと俺たちの知る名前を告げる。
「トーマス・エジソン」
「え」
「あ」
お互いに聞いたことのある名前。例の発明家エジソンの名前だ。
「僕の遠いおじいさんだよ。偉大な発明家だったんだけど」
「こっちの世界でもそうだったのか?」
すると目の前のリトルエジソンは初めて笑顔を見せた。
「そうなんだ!そっちの世界でもトーマス・エジソンはいたんだ!」
「ああ」
そうか。魔術の影響を受けない人物はアキと美嶋以外にもいたのか。目の前のリトルエジソンがそうだ。
俺は手を差しだす。
「俺は国分教太だ」
するとリトルエジソンはその差し出した手を小さな手で強く握り握手をする。
「レナ・エジソン。レナって呼んで、国分」
心強く不思議な少年。レナ・エジソン。俺はこの時知らない。俺たちの知るトーマス・エジソンが持つ天才の血を色濃く引き継いでいるということに。




