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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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黒の騎士団⑤

 コーヒー代とその他、店の窓枠の修理代やで店の商品をダメにした御代はすべてサイトーが払った。妙に落ち込んでいたがまぁ、自業自得であるのには間違いない。元はと言えばあいつが遅刻して香波を危険目庭せる要因を作ったのが原因なのだ。それについての反省の色が見えないことにアテナは怒っていた。俺からすれば、香波が無事に助かったのもサイトーの働きあってのおかげだと思っているのでアテナ程の怒りをサイトーには抱いていない。

 サイトーはアテナに吹き飛ばされて馬車に退かれているのにも関わらずぴんぴんしていた。傷らしい傷も見えたらなかった。

 サイトー本人は話せる状況ではないのでアテナに尋ねる。

「サイトーは不死身なのか?」

 その問いにアテナは何の抵抗もなく答えた。一応、敵対組織の人間であるということで黒の騎士団の機密事項については聞かれないようとしていたが、あっさり教えてくれた。

「不死身ではないですのよ」

「じゃあ、なんであいつは死なないんだ?」

「サイトーは教術師ですのよ。そして、その教術は常に発動状態ですのよ」

「教術を常に発動状態って」

 それだと魔力不足に陥って危険じゃないのか?アキとかも魔術を使うたびに魔力不足に陥っていつも顔色悪そうにしていた。

「魔力不足は基本気にする必要がないんですのよ。サイトーはランクSですのよ」

 ランクSってMMやフレイナと同じくらいの魔力を持っているのか!その割には強そうには見えない。拳銃の攻撃は普通に食らっていたし。

「治癒魔術知ってしますのよ?」

「知ってる」

 人の持つ治癒能力を底上げする魔術だ。治癒魔術を宿らせた相手は治癒魔術の魔力が尽きるまで治癒能力の向上は持続される。要するに傷を負っても勝手に傷が治る便利な魔術だ。怪我人を治療する時には回復魔術と同時に使用されることが多い。

「サイトーは治癒魔術の教術を使いますのよ」

「治癒魔術の教術」

 膝を抱えて落ち込むサイトーを慰めるように肩を叩く香波。だが、サイトーは明日からどう生活すればいいやと落ち込んで香波の慰めは一向に意味がない。それでもかわいそうだと思ったのか同じように座って慰めている。

「ランクSで強力なうえに魔力の総量も多いのでそっとやちょっとの傷はすぐに治してしまいますのよ。それが不死身に見られても不思議ではありませんのよ」

 あいつが使えるのは治癒魔術のみ。基本的に教術師が使える教術は一種類に決まっている。俺は例外だがサイトーにはそんな例外はない。治癒魔術だけでは戦うことは難しい。以前、リュウがリンさんのために魔力剥奪から逃れるために特例の一部を利用するために銃の腕を磨いて魔力の剥奪を逃れたようにこいつも戦いでは使えない教術のために努力を重ねて来たに違いない。力がすべてこの世界で生き残るために。そんな強さを俺はこの男から学ぶべきだ。魔術や教術の力がすべてではないんだ。

「それでこれからどうするんですのよ!いつまでいじけてない!」

 いや、誰のせいでいじけているんだよ。

 褐色の肌をした現地の人々の目線が痛い。それはこんな真夏の熱帯地域では短パンにTシャツといったラフな格好をしている現地の人たちに対してがっちりとした赤と黒の軍服で固めた香波に背中から翼をはやしたアテナに真夏なのにはんてんを着ているサイトーと明らかに浮いている。あんまり目立ちたくないのは本音だ。俺としてはイギリス魔術結社から狙われている身だ。目立つ行動は俺としては避けたい。だからかもしれないがアテナから黒の騎士団の上着を借りている。紺色の上着はフード付きでしっかりフードをかぶって顔を隠す。逆にそれが目立つ。

 ようやくサイトーが立ち上がってくれた。

「こっちや」

 足取りはふらふらとしている。本当に大丈夫なのだろうか?

 向かっている先は俺たちが騒ぎを起こした港だ。

「アテナは予定通り港に停泊している第2分隊の船で海賊の残党狩りに行ってくれや。城野さんはデニロの回復を待ってから本部の方に戻ってくれや。国分はワイと共に現地の時空間魔術師の手を借りてオーストラリアに飛ぶで」

 声のトーンは絶えず低く元気のない様子だったが指示はしっかりと出してくれた。

「あ、あの、そのことなんですけど」

 香波が小さく手を挙げる。

「なんや?」

「あ、あの私はそのアメリカには戻りません」

「え?」

 思わず俺が先に声が出てしまった。

「どうしてや?城野さんにはこれから元の世界に戻ってやってもらうことが」

「それは分かっています」

 香波が元の世界、つもり俺たちが済む世界で行う仕事は魔術師の拘束だ。追われにくい異世界に逃げた魔術師を捕まえて魔術世界に送り返すというのが香波の仕事。そのために不安でいっぱいなこの世界にやってきて自らの力をつけてきた。そんな香波には元の世界に帰ってもらいたいのは俺の意見でもある。

「私はキョウ君の力になりたい」

「・・・・というと?」

 さっきまで手持ち資金がごっそり持って行かれた精神的ショックによる声の低さではなく真剣に香波の発言を問う眼差しと声になって香波も切り替える。

「私は向こうの世界でもキョウ君に助けられてばかりでした」

 俺を見ながらそう言った。助けたと言ってもいいのだろうか?2年前の先輩の事件で俺は確かに香波を助けたかもしれないが精神的には助けるどころか追い込んでしまっていた。それが香波に悪魔の力と接触させてしまう根本の原因になってしまったのかもしれない。だから、俺は香波を助けてはいない。だが、香波はそう思っていない。

「こっちの世界に来てもキョウ君は私を助けてくれました」

 確かにフレイナから香波を救ったかもしれない。でも、あのままフレイナが攻撃を続けていたら香波どころか俺自身も危険だった。助けたと言えるかどうか分からない状況だった。

「私は助けられてばかりが嫌であなたたちに手を借りてこの悪魔の力を手にしました。今がその力を発揮するべき時だと思うんです。キョウ君が危険な目にあっているなら今度は私がキョウ君の助けになりたい」

 それは俺のことを思う一途な願いだった。彼女は2年前と同じ俺のことを好きで待っていてくれという俺の言葉を信じてずっと待っている。待っているだけでは何も変わらない。足踏みしていていては前には進めない。香波も現状から抜け出すために動き出した。俺よりも自分の信念に忠実で行動的だ。

「ワイはいいんやけど、元の世界に帰るのがいつになるか分からんへんで」

「いいです。それはキョウ君も同じだから」

 アテナと目が合った。香波を者の世界に帰してほしいと頼んだのは俺自身だ。その俺に意見はどうなんだと目線だけで訴えかけられていた。俺としては香波にはこれ以上危険な目にあわせたくない。元の世界に帰って氷華たちと共に魔術師の撃退に当たってほしいと思っていた。

 しかし、香波は俺の腕を掴んで離さない。

「今度は私もいっしょに傷つく。ひとりで何もかも背負い込まない。キョウ君の隣には私がいるから」

 はっとした。その香波の顔とアキの顔が俺の頭の中で一致した。きっとアキにも同じことを俺に言っただろう。教太さんばかりが抱える問題じゃありませんよ。もっと私たちを頼ってくださいって言いそうだ。俺として周りに頼ってばかりだったがためにフレイナのような規格外と戦うだけの力がつけられていないと俺は思っていた。

「彼女が力になりたいと申し出ている以上、ワイらは彼女の意見を尊重する。国分はイギリス魔術結社が発動を目論んでいる古代魔術兵器の素材なんや。護衛はワイだけでは不安があった。どうや、彼女の意見を尊重してもいいんやないか?」

 アテナがどうせ仕事を押し付けるだけですのよとくぎを刺して一瞬冷汗が見えたが香波は真剣だ。俺のためにこの世界にひとりでやってきて未知の力に手を出してまで俺の力になろうとしてくれている。そんな一途な女の子の想いを棒に振るほど俺は悪い人間じゃない。

「分かった。俺を守ってくれるか?香波」

 初めて想いが通じた。2年越しの想いだ。それが叶った香波の表情はもはや直視できないくらい明るく綺麗な物だった。本当に反則だ。そんな涙目で眩しい笑顔を見せられたら俺は冷静ではいられない。

 香波は俺を守るためにやって来るが、もちろん俺は香波を殺させないためにすべての行動を優先させる。それは今までに例外はない。

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