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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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黒の騎士団④

「はじめしてやな。ワイが黒の騎士団の第2分隊長のトモヤ・サイトーや。よろしゅう」

「よろしく」

 キツネ目の男、サイトーと握手を交わす。インドネシアの港町は赤茶色のレンガの屋根をした低い家々が所狭しと立ち並んでいる。その町中にあった喫茶店に俺と香波とアテナ、そしてサイトーと共に入店して席に座る。サイトーが適当にコーヒーを4人分注文して今に至る。サイトーは背が俺より少し高い感じで年もそんなに離れた感じのしない少し年上のお兄さんと言う感じの雰囲気だ。

「これから君をオーストラリアにいるイムはんのところまで案内役をする者や」

 この人がアテナの代わりの案内人か。

 さっきの戦い方を見ればサイトーの強さは安心できるものだ。

 すると隣に座っていた香波がびくびくと怯えながらサイトーの手首を掴んだ。

「ちゃ、ちゃんと脈打ってる」

 いや、生きているから普通だろ。でも、そうか。こいつは海賊に何度も銃弾で風穴をあけられて斬りつけられても平気な顔をして戦い抜いていた。その様子におびえた海賊たちが口にした不死身という言葉はどうなんだろうか?合っているのか違っているのか?

 お待たせしましたと言って店員がコーヒーを運んできた。それぞれ4つのコーヒーを俺たちの目の前に置く。サイトーは怯える香波を相手にせずにミルクをいっぱいに角砂糖を3つ入れた。一口飲んでさらに4つ入れた。

「どれだけ甘くするんですのよ」

「苦いのは苦手なんや」

 じゃあ、なんでコーヒーを頼んだんだよ。

「お待たせしました。イチゴスペシャルパフェです」

 とにかくでかいイチゴのパフェが運ばれてきた。

「え?注文してないで」

「わたくしが頼みましたのよ」

「おい!誰が金払うんや!」

「あなたでは?」

 何の躊躇もなくパフェに手を出す。

 若干、アテナを睨みながらコーヒーを一口飲んで角砂糖を再び4つ入れた。もはやコーヒーが砂糖水に変わりつつある気がする。

「城野さんも食べますの?」

 イチゴとアイスの乗ったスプーンを香波に差し出すと。

「い、いいんですか?」

「どうぞ」

 香波はそのままスプーンの上のパフェを食べる。

「お、おいしいです」

「もっと食べたい?」

「はい!」

 初めてアテナの女の子らしい風景を見た気がする。

「すみませんのよ!パフェ追加で!」

「おい!待て!ワイが払うんやぞ!」

 お構いなしのようだ。

「じゃあ、俺はパンケーキでも」

「いい加減にせぇよ」

 さすがに糸目で表情の変わらないサイトーに怒られた。表情は変わらないが声だけは威嚇するように低い声だった。不死身の男と戦っても勝ち目なんてあったものじゃない。

「すみませんのよ!パンケーキをお願いしますのよ!」

「勝手に頼むな!」

 アテナの胸ぐらをつかむがアテナ自身はなんとも思っていない。隣の香波はわなわなしてどうしていいか分からないみたいだ。

 しかし、アテナは冷静にサイトーに言い返す。

「わたくしたちは海賊に捕まったとはいえ港には定刻通りに到着しましたのよ。にもかかわらず、あなたが出てきたのは30分以上も後でしたのよ」

 そう言えば、最初は海賊たちも港に向かってサイトーたちを呼びかけているだけだったがいつまでたっても出てこないので香波を人質にしてサイトーをおびき出そうと試みた。結果的にそれでサイトーたちは姿を現したのだ。

「あなた、本当は定刻通りにインドネシアにいませんしたのね」

「え?いや」

「普段から他の団員に仕事を押し付けて本部でのんびりサボっていたしている普段の行いの悪さが城野さんを精神的に追い詰める原因になったんですのよ!」

「いや、遅刻したのはな・・・・・その、あれや。道で馬車に轢かれそうになった子猫を助けようとしていたら事故ってやな」

「時空間魔術を使ってここまで来るのにどこで馬車が通るですのよ?どこで子猫が出てくるんですのよ!」

 アテナは今まで関わった感じだと規律に厳しい感じがする。対してサイトーはその真逆で規律何てただの飾り程度にしか思っていないような感じだ。

「いいですか!あなたがもっと遅刻していたらこの場に城野さんはいなかったかもしれないんですのよ!その自覚がありますの!」

「そ、それはもちろんや」

 迫られているサイトーはアテナに目を合わせずに冷汗をどっぷりかいている。

「遅刻したことで城野さんには怖い目にあわせてしまったことは本当にすまないと思っとるで。本当に申し訳ない」

「なら、パフェやパンケーキのひとつやふたつくらいあなたのおごりでも問題ないですのよね」

「いや、ワイは基本的に金が・・・・」

「それは普段から仕事をしていない人にお金が入るわけありませんのよ!」

「いや、でもな。ワイには」

「いい訳しない!」

「いい訳位させてくれや!」

 そんな言い争うふたりを余所に店員がパフェを運んできた。それから遅れてパンケーキも運ばれてきた。香波は絡むのが面倒なのか目の前にパフェにがっつく。まぁ、こんな風に仲よく言い争うだけ余裕のある魔術組織のようだ。黒の騎士団というのは。

「いい訳させてくれないんならここでアテナの秘密を暴露させてやるで!」

「なんでそうなるんですのよ!元はと言えばあなたが遅刻なんてするから!」

「実はアテナはこう見えて18歳なんや」

「え!そうなんですか!」

「知ってる」

 香波は驚いていたが俺は日本で遭難した時にアテナの人工天使の力を得た時の話を聞いたので知っている。

「つまらんな」

 アテナが必死に妨害しようと抵抗するがサイトーは全く気にせずに続けた。

「でな、実際年齢が18歳やのにこいつな、ひと月前くらいに泣いてワイのところに来てな。なんや、おもら!」

 その瞬間、まるでリンゴみたいにアテナが赤面して手のひらに白い羽を集め始めては解放させた。羽の能力のひとつの衝撃波を作る力だ。小さな衝撃波だったがほぼゼロ距離にいたサイトーの体を吹き飛ばすには十分な威力だった。吹き飛ばされたサイトーは木製の木枠の窓を突き破って表の通りに吹き飛ばされて馬車に退かれてボールみたいに弾んで近くの露店の果物売り場に突っ込んで動かなくなった。

「いや、死ぬだろ」

「死なないから大丈夫ですのよ!」

 パフェを一口乱暴に食べる。

「ちなみにさっきおもら」

 アテナが槍を俺の首元に突きつける。

「それ以上しゃべったらあの男みたいになりますのよ」

 妙に殺気が立っていたのでそれ以上しゃべらないことにした。

 それにしてもおもらってなんだ?何をサイトーは言いかけたのか予想しよう。

 アテナに槍を突きつけられる。

「何も考えません」

「よし」

 それから俺は無心になってパンケーキを食べた。何も考えないようするというのは予想以上難しいことなんだと実感した。

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