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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
真の領域
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黒の騎士団③

 という感じで俺たちは拘束されてこうして目的地のインドネシアの港にやって来たという感じだ。

「当初の方法ではないですのよ」

「そこ!こそこそ話すな!」

 銃を突き付けられたので黙る。

 あの女はくすくすとおもしろそうに俺たちの姿を見ている。

 話によるとアテナは数日前に太平洋沖でコンテナ船を何度も襲い積み荷を強奪する海賊船を沈めたそうだ。船員はひとりも死んでおらず太平洋を遭難しているところを黒の騎士団によって保護されてそのまま拘束されたらしい。あの女たちはその海賊の仲間らしいのだ。海賊の目的は自分たちの仲間を拘束させる原因となったアテナの復讐と仲間の救出らしい。

 俺たちから目的地がインドネシアの港であることを聞きだしてこうしてここまでやって来た。港で落ち合う約束だったが一向に落ち合う相手が現れないことに腹を立てた海賊のひとりが香波を人質におびき出そうとしているのが今の現状だ。

「さっさと出て来い!」

 上空に向かって銃を発砲する。その音に香波は怯える。少しでも足を滑らせれば溺れ死ぬかもしれない状況に置かれた香波を俺は助けたい。だが、アテナは身動きが取れず俺たちも監視されている状態で下手に動けば香波が海に落とされる。縄程度は破壊の力でどうにだってできる。問題は縄を解いた後にある。アテナを含めてここにいる黒の騎士団の奴ら全員を救いつつも香波を救う方法があるのだろうか?

 船ごと一気に破壊するか?

 いや、龍属性の力を使えるようになってから両手でゴミクズの力を使えなくなってしまっている。それは破壊の力での破壊の効率が半分に落ち込んでいることを意味する。なら、最初にアテナを救うか?俺は運よくアテナの拘束されている柱の近くにいる。ばれないように少しずつ移動して柱に触れることが出来たのなら拘束具ごと柱を破壊することができる。後はアテナに任せるしかない。

「国分さん」

 アテナが小声で俺に声をかける。

「あなたは何も心配する必要はありませんのよ」

「なんでだ?こんな状況で何も心配するなって方が無理があるだろ」

「大丈夫ですのよ」

 アテナのその妙な自信は何か策があるように見える。

「この絶望的な状況を打開できるって言うのか?」

「できますのよ。予定通りならこの港にはあの男がいるはずですのよ」

 あの男って誰だ?

 確かにこの港では黒の騎士団の奴らと合流する予定になっていた。アテナは他の団員を引き連れて海賊退治に向かって香波はアメリカに戻り元の世界に帰って俺は別の案内人のもとでイム・ハンナのもとに向かう。その中にアテナを安心させるだけの強い団員がいるということになる。その団員は一体・・・・・。

「お~お~。そんなに騒がんでもええやないか」

 聞き覚えのある声だった。辛うじてその声の主を見ることが出来た。茶髪にキツネのような糸目をしてとんがったような顔をしていて藍色のはんてんを着ていて下はあしにぴったりとした半ズボンに下駄をはいていた。一見日本人のようなその姿に皆が目を向ける。

「お前はなんだ!」

 香波を怯えさせている男が銃を向ける。

「待ってや!せっかく呼ばれて出てきたやぞ!そんな態度はないで」

「・・・・・そうか。貴様が黒の騎士団の幹部か!名の名乗れ!」

 キツネ目の男は素直に答えた。

「ワイはトモヤ・サイトー。黒の騎士団第2分隊長や」

 あの通信魔術で話していた人物の名前だ。

 見た目からして魔術を使うようには見えないし、黒の騎士団のメンバーにも見えない。俺があってきた黒の騎士団は皆同じ軍服を着てあわせていた。対してあのサイトーという男は軍服を着ていない。誰の目にも疑惑が浮かぶ。

「本当にあいつが黒の騎士団の幹部か!」

 アテナに銃を向けて尋ねる。

「そうですのよ」

 即答した。しばらく、両者睨みあっていたがすぐに向き直って香波の立つ板を踏み叩いて揺らす。

「ひゃ!」

 悲鳴を上げて怯える。

「おい!女!あいつは黒の騎士団の幹部か!」

 その問いに香波は怯えながらも目を開いてサイトーを見る。

「は、はい。そうです!間違いないです!」

 と泣きながら答えた。その香波の答えに対して誰も疑わなかった。

「おい!サイトー!今すぐ要求を飲め!我らの同胞を解放せよ!さもないとこの女は海に落とす!」

 板を再び強く踏み畳む。それに香波が怯える。屈もうとするが手足が拘束されていて自由が利かない。震える体から不安がいっぱい溢れ出ているのが分かる。せっかく俺と再会できて不安におぼれていた香波が安心できるようになったのにこれでは意味がない。今すぐ助けに飛び出したいがそうすれば他のみんなが殺される。

 誰も殺さない。それを貫いている俺にできることは隙を見つけることだ。隙を見つけて全員助けられるタイミングを見出すまでひたすら耐えることだ。あのサイトーがアテナの言うようにこの状況を打破できるほどの実力者であるならばどこかで隙が出来る。今は耐えるんだ。だから、香波も頑張ってくれ。

 そう心の声で呼びかける。

 銃を香波に向けながら男はサイトーに要求する。

「さっさと我らの同胞を解放しろ!」

「待ってや。ここは本部から遠く離れたインドネシアやぞ。あんたらのお仲間さんは本部の牢獄にいる。そう簡単に解放できるわけないやろ」

「絶対にできないわけではないはずだ!さっさと行動に移せ!」

「まぁ、落ち着いてや。そのままやと城野さんが怯えてそこから落ちてまうやろ」

「ならばその本部に連絡を入れて同胞を解放させろ!」

 同胞を解放しろの一点張りだ。彼らはそれ以外の要求はない。

「分かった。本部に今から連絡させるように命令するから城野さんを他の連中と同じように扱ってくれんか?」

「それはできん!余計なことは言わずに行動しろ!さもないとこの女を殺す!」

 そう言うとアテナたちと同じ軍服を着た男がキツネ目のサイトーから何か指示を受けてどこかに走り去って行った。

「少し時間かかるかもしれんな」

「どのくらいかかる!」

「さぁ~」

 ととぼけた。

「迅速にしろ!さもないと!」

「分かったって。銃を城野さんに向けるんやないって。向けるんやったらワイに向けろ」

「人質ではない貴様に向けて何の意味がある!」

「できないんか?まさか、その距離でワイに当てるだけの銃の腕がないんか。これは失敬失敬」

 それではまるで撃てと挑発しているようではないか。結界を張ってあるように見えない。声を張る男はじらされて頭に血が上っていた。だから、男は何の躊躇もなくいわれがままにサイトーに向かって銃を撃ち放った。その撃ち出された銃弾はへらへらしているサイトーの左胸に直撃して貫通した。

「え?」

「ふん!」

「なんや。当てるだけの技術あるんやないか」

 そのまま倒れてしまった。

「斉藤さん!」

 香波は目の前で自分の代わりに撃たれて倒れた人物の名前を涙を流しながら叫んだ。

 つか、普通に撃たれて倒れたぞ!左胸ってヤバくないか?普通に死んだのか?あれだけ挑発しておいて銃弾に対する対策なにも講じていなかったとかただのバカだぞ!まさか、本当に当たらないとでも思っていたのか!おいおい、一番人の死を見せちゃいけない奴に見られてしまったぞ!

 このままではらちが明かない。黒の騎士団の幹部を殺したことで浮かれているこのチャンスを狙って。

「大丈夫ですのよ、国分さん」

「大丈夫って仲間が撃たれたんだろ!」

 その冷静さは仲間意識がない証拠だ!だが、香波を除く全員がまったくサイトーが撃たれたことに動じていなかった。そう、撃たれることは想定内だったかのように。何か策がある。そう感じられた。

 そんな黒の騎士団の連中の様子を見ないで目の前の幹部を殺したことに喜ぶ海賊たち。

「これで我が同胞が解放されれば我らの勝利だ!」

 と勝利宣言した時であった。

 バーンというどこまでも広がる発砲音がその歓声を打ち消すように響いた。

「え?」

 男がゆっくりと目線を足元に向けると左足のひざ裏から大量の血が噴き出ていた。港の方に振り返ると撃たれたはずのサイトーが立っていてその手に拳銃が握られていた。その拳銃の銃口からは白い煙硝が立ち上っていた。

「う・・・・・うそだ。なんで・・・・・」

 撃たれた左足から崩れ落ちて海に落下して行く。それを見たサイトーは地面を蹴って走り出して港から飛び出して落下する男を踏み台にしてさらに飛び上がり船の甲板にまで上がって来た。

「どうも」

 そう表情を変えず糸目であいさつをすると呆然としていた海賊たちがサイトーに銃を向ける。

「撃て!」

 銃を発砲する左肩に命中がサイトーはものともせずに銃を発砲した男に急接近してその顔面を鷲掴みにして甲板の床に叩きつけた。男の頭は木製の床にめり込んで気絶した。

「テメー!」

「はい。黙る」

 持っていた銃を発砲して襲い掛かろうとしていた海賊の剣を弾き飛ばした。

「この野郎!」

 さらに海賊が一斉に銃を発砲する。全弾がサイトーに命中するが腹部と右肩、左足、左手、首元。普通の人間ならここで倒れて動けなくなるはずだがサイトーは倒れることなく銃を発砲した海賊たちに襲い掛かる。ひとりには同じように顔面を鷲掴みにして投げ飛ばして別の海賊にぶつける。その勢いで倒れた海賊の両足を手に持つ銃で撃ち抜いて戦闘不能にする。背後から襲う海賊の手に持つ剣は魔武らしく雷が宿っている。サイトーはそのまま背中を斬りつけられた。同時に雷がはじけ飛んでサイトーの体を襲う。普通ならこれで人は動けないがサイトーは動いた。剣を握る手首をつかみそのまま背負って投げつけた。そのまま首を絞めて失神させて剣を奪った。

「こいつ不死身か!」

「そうやで。ワイは不死身や」

 奪った剣と銃を構えて受け答える。その姿を見る目は人間ではなく化物だ。

「一斉にかかれ!人を不死身にする魔術なんて聞いたことがない!奴の言っていることはでまかせだ!」

 海賊が全員サイトーに武器を向ける。

 今がその時だと俺は感じた。右手の破壊の力を発動させて自分の縄を破壊する。同時に隣にいた黒の騎士団の奴らの縄も破壊する。最後にアテナが拘束されている柱事破壊すると串刺しになっていた翼も解放される。

「何!」

 振り返って対応しようとした海賊たちよりも早くアテナが動いた。甲板に着地してクラッチングスタートの態勢から飛び出してアテナの槍を握っていた海賊を蹴り飛ばして槍を奪い返す。蹴り飛ばされた海賊は俺たちを騙した女の真横をすれすれと飛んで壁にぶつかって気絶した。女は初めて青ざめた表情になった。

「さっきはよくもやってくれましたのね」

 香波は黒の騎士団の連中によって無事に甲板にまで戻されて保護された。俺も龍属性の岩の剣を生成する。黒の騎士団の中のひとりが教術師らしく両手に雷を宿らせた。残りは香波と負傷者のデニロを連れて後方に下がる。

「ま、まだ!これだけの人数がいるし~。仲間は他の船にもたくさんいるのにたった4人でどうこうでき訳ないし~」

 確かに船は他に二隻停泊していたその甲板上では海賊たちが武器を手にしてどんな状況にでも対応できるように身構えている。

「それがどうこうできるんやな。そうやろ?アテナ」

「その通りですのよ!」

 アテナの槍に白い羽が集まって来た。そして、その槍をハンマー投げのごとく一回転して投げ飛ばした。まるでミサイルのように飛んで行った槍の行き先は停泊している海賊船の一隻だった。槍が船を直撃すると大爆発に似た衝撃波が発生して木製の船を木端微塵に粉砕した。その粉砕した木片が俺たちのところまで降り注ぐ。海賊たちは次々に海に投げられる。

「さぁ、次はあんたらの番やで」

 アテナが手を掲げると海の中から槍が戻って来た。それをアテナは掴んで回転させて構える。

「あなたにはそっくりそのままの言葉で言い返しますのよ」

「え?」

 女は動揺する。

「あなたはわたくしたちを霧の中の結界の中に閉じ込めた時点であなたたちの負けは確定していたんですのよ」

 アテナがその言葉と同時に槍を振るう。俺の出る幕はなかった。

 これが黒の騎士団の実力なのかと目の前で見せ付けられた。

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