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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
悪の領域
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目の前のことを⑤

 さざ波しか聞こえない港の倉庫の中は蒸し暑い夏の夜にしてはひんやりとしていて過ごしやすい。アテナにひかれた線の向こう側では香波が地面に体を丸くして眠っている。アテナもコンテナにもたれて腕を組んで目を閉じて寝息を立てている。俺の隣のデニロという男は目を覚ます気配はない。香波が治癒魔術の効力が切れれば発動できる限り治癒魔術を施している。人間の持つ治癒力を底上げする治癒魔術で自己回復を施すためだが、それでも男の怪我は完全には治らない。どこか設備のいいところで治療を受けないといけないのは見て分かる。

 すやすやと眠る二人の少女とひとりの男は目を覚ます気配はない。俺はゆっくりと立ち上がってコンテナの迷路を進む。

 こっちかな?こっちだろ。と心の中で自問自答しながらコンテナの迷路を進んでようやく外に出ることが出来た。海岸沿いには小さな街灯がぽつぽつとあるだけで真っ暗だ。防波堤の位置を伝える灯台の明かりが不気味に海の上で明かりを灯している。海風は冷たく薄着の俺の体を冷やす。

「霧也。居るか?」

 あまり声を張らずにその名を呼ぶ。

「遅かったな」

 倉庫の屋根から霧也が降りてきた。風を使って落下の勢いを抑制してゆったりと地面に着地する。

「向こうは俺を敵対関係にある組織の人間だということを認知しているかな。変に動けば疑われる」

「慎重だな」

 慎重にもなる。下手に逆らったりしたら無理やりシンの力を奪われかねない。

「それで教太はどこに行く?」

「オーストラリアのシドニーだ。そこにイム・ハンナって言う魔女がいるらしい」

「そうか」

「アキに伝えておいてくれ」

 後を追うと言っていた。だから、せめて俺がどこに向かおうとしているのかだけでも伝えておこうと思っての行動だ。霧也には何時間の間も倉庫の上で待っていてくれて本当に助かる。

「イム・ハンナ・・・・・か」

「知っているのか?」

「いや、知らない」

 じゃあ、なんで知っているような感じで呟いたんだよ。

「それよりもアキナの他にも魔女が存在していたとはな」

「知らなかったのか?」

「魔女と言ったらアキナだ。それ以外に魔女と言われる奴がいたなんて本当に知らなかった。どんな奴なのか聞いたか?アキナも知らないみたいだったし」

 自分とは違う魔術の知識を持つ魔女という存在を知っていてもどういう人物なのかはさすがのアキも分かっていないようだ。

「変な奴だって聞いてる。関わるのが嫌そうな感じだったな」

「どこに行っても魔女は嫌われる存在だ。アキナもそうだった」

 俺はアキが魔女だった事実は聞いた話で知っているがそれがどれほどまで壮絶だったのかを知らない。アキが話そうとしないのだから詮索する気はない。冷酷で残虐で容赦のない魔女。その知識から最適なバリエーションの魔術を使う。ランクが低い状態で俺たちと共に戦い抜いてきたのはその強さに要因がある。

「訊きそびれたけど、アキはどうなんだ?魔術は使えるのか?」

 霧也は答えにくそうに夜空の星を眺めるように答えてくれた。

「使えない。剥奪されたらしい」

「・・・・そうか」

「ランクが魔力剥奪制度の規定よりも低くなり、魔術を発動させることが今後の生命維持に支障をきたす恐れがあるという理由で剥奪された。査定は16歳になってからだが、特例で早めに剥奪だ」

 魔術の使えないアキはもう魔女じゃない。これからは魔術に関わらずに静かに暮らしてもらいたい。だが、アキは俺の後を追うと言っていた。何か策があるようだったのを俺は止めることはできなかった。彼女の希望を壊すわけにはいかなかった。

「さて。俺はもう行くとする。MMに気付かれる前にここを出れることを祈っているぞ、教太」

「ああ、アキには伝えておいてくれ」

「了解した」

 十字架でカードを打ち付けると四角形の陣が浮かび上がって霧也の体を浮かす。

「死ぬなよ。それはアキナのためでも美嶋さんのためでもある」

「お前もな、霧也。向こうで氷華が待っているんだからさ」

 ふっと笑ってからそうだなと答えると暗い夜の空に飛んで行った。

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