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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
悪の領域
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目の前のことを②

 フレイナの頭上に浮遊する炎の鳥から発せられる炎はフレイナ自身も包む。どうしてあの炎の中にいて平気なのか疑問になる。そのフレイナは顔には汗が滴り垂れていた。熱いからというわけではなく左腕がなくなっていてその傷口が真っ黒に焼けていた。痛みをこらえているその辛い表情だったがそこには怒りもいっしょに混ざっていた。

「どけ。国分教太。そいつはあたしゃの獲物だ」

 同時に炎の鳥が咆哮すると俺に強い熱風に襲われるが動じない。慣れたわけじゃない。だが、ここで俺が弱腰になればフレイナは香波を襲いかねない。特にこの戦闘中を邪魔するような状況になればなおさらだ。

「どかない。これ以上の戦闘は意味がない」

「うるさい!あたしゃにとって意味のない戦闘なんてない!ようやく、手ごたえのある奴と出会えたんだ!邪魔するならミレイユの許可なくてもあたしゃはあんたを焼き殺す!」

 フレイナの感情に合わせるように炎の鳥の熱が強くなり教会の窓ガラスをその熱で破壊して行く。近く瓦礫もその熱でどろりと溶ける。その形相はまさに威嚇だった。近づいただけで焼け死にそうだ。俺には炎をどうにかすることはできても熱をどうにかすることはできない。勝ち目は正直ない。それでも俺は一歩も下がらない。その様子を見たフレイナの怒りが最骨頂となる。

「そうかそうか。なら、国分教太!あんたも焼き殺す!あたしゃの炎を消す青色の炎とあたしゃの腕を斬り飛ばしたその悪魔術使いといっしょにまとめて焼き殺す!」

 炎の鳥が口に炎を集めて凝縮させ始めた。

「きょ、キョウ君」

 恐怖で震える声で俺のズボンの襟を掴んで引っ張る。香波はあの炎がどれだけ強い者で怖いものなのか知っているということだ。

「大丈夫だ。俺を信じろ」

 MMは俺を殺したくないはずだ。ならば、どこかでフレイナを止めるべく出てくるはずだ。アテナが言うようにイギリス魔術結社が発動させようとしている古代魔術兵器をMMも発動させようとしているのなら、俺の持つシンの力の重要性を知るMMなら、俺を殺すようなことは絶対にしないはずだ。

「あなた!それ以上わたくしたちの仲間に手を出すな!」

 最初の一撃で炎の鳥の攻撃を不発に終わらせた槍が瓦礫の中から飛び出して上空のアテナの手の中に戻って行って再び白い羽をまとわせて槍投げのごとくアテナは槍をフレイナの炎の鳥に向かって投げる。ミサイルのように飛んでいく槍には筋雲を作りながら炎の鳥に襲い掛かる。

「邪魔をするな!」

 炎の鳥が翼を使って槍を受け止めた。ドンと地鳴りにも似た音が響く。白い羽を帯びた槍と炎の鳥の炎の翼との鍔迫り合いが数秒だけ続いたが、炎の鳥が翼を広げるとそのまま槍をはじいて教会の塔の一部に直撃し、その衝撃で塔が崩れて壊れた。その崩れた塔がフレイナの頭上から落下してくるが炎の鳥に触れた瞬間、豆腐みたいに崩れて溶け落ちる。

「おいおい、嘘だろ」

 少なくとも今のフレイナは以前やりやった時とは比べ物にならないくらい強力な炎を出していることになる。あんな炎の攻撃を少なくとも香波は1回は受けているということになる。それなのに香波の肌にやけどの跡はない。後ろに倒れている男は全身に真っ赤なやけどの跡があることから察するとその身をかばって香波を守ったことになる。

 それについては感謝だ。怪我からしてあまり放置しては置けない。

「次は国分教太!貴様だ!」

 貯めていた炎の塊を放出しようとする。

「キョウ君」

 恐怖に怯えた香波が俺の脚にしがみついて助けを求める。

 まだ、MMは出てこない。もしかして、出てくる気がないのか?組織本部の教会がこんなにボロボロになっているにもかかわらず気付いていないなんてあるはずがない。わざと見逃しているのか?

「冗談だろ」

 これはマジでやばい。

 足にしがみついている香波を抱える。

「死ね!国分教太ごと!」

 炎の鳥が貯めていた炎を一気に放出させるとまるでマシンガンのごとく炎と飛んできた。

「香波!掴まれ!」

 香波を抱えてひそかに右手に集めていた元素を一気に解放させて頭上に飛び上がる。

「待って!デニロ!」

 倒れている男のことだ。だが、あの男を救っている余裕は全くなかった。炎が迫っていた。素早く飛び上がって俺たちは炎から逃れる。だが、それもつかの間でそれを見てから炎の鳥は残りの炎を撃ち出して上空の俺たちを襲う。

「マジかよ!」

 熱を受ける覚悟で炎を消すしかない。右手の近くの元素をすべて取り除いて作った盾。真空の空間ヴァキュアー・フィールドを展開して炎の攻撃に備える。炎は盾にぶつかると消えるが俺の右腕に焼けるような熱が襲い、腕が白い蒸気をあげて真っ赤に焼ける。しかも、それがまだかなりの量が連続で襲い掛かってくる。

「キョウ君!」

 心配して声をあげる香波。だが、耐える以外に香波を守る手段はない。歯を食縛ってフレイナの攻撃に備える。そんな俺の目の前に無数の白い羽がひらりひらりと舞っている。その羽が一斉に集まって俺の目の前で白い羽が花の形を作るように集まってきて俺たちを炎から守ってくれるが、二発受けただけで白い羽は無残に散ってしまった。拳吉の攻撃をもある程度しのいだアテナの羽の盾をいとも簡単に破壊するフレイナの炎の鳥の攻撃。その熱に耐えられる気がしなかった。

 無残に散った羽を燃やしながら飛んでくる炎を受け止めようとした時だった。

「国分さん!」

 まるで風のようだった。アテナが上空から一気に降下してきて俺たちを掴むとその勢いのまま地上に降下する。その勢いのおかげでフレイの炎の攻撃から免れることが出来た。

「国分さん!逆噴射!」

「はぁ!俺がやるのか!」

「早く!」

 見れば右手で俺の腕を掴み。反対側の上でで香波の背後で倒れていた男を抱えていて自由が利くような状態じゃなかった。

「チクショー!」

 俺自身も香波を抱えているせいで片手の自由が利かない。それでもやるしかない。助けてくれたんだから今度は俺が助ける番だ。香波を抱える左手首に陣が浮かび上がり赤黒い風が発生する。竜巻のように発生させた風を落下の勢いとは逆に噴射させて落下速度を緩和しようとする。だが、勢いはなかなか落ちない。アテナも精一杯翼を広げる。

「止まれー!」

 本当に落下してしまいそうな時だった。俺たちを地面から空に吹き飛ばすように風が吹きあがって来た。そのおかげで落下の速度が一気に落ちて地上に落下した。落下の衝撃でアテナは俺たちを手放してしまって地面に転がって止まるが途中に入り込んだ風のおかげで何とか怪我をしない程度に済んだ。

 でも、誰が?

「何ゆっくり休んでいるんだ!」

 フレイナの炎の鳥が再び炎を集め始めた。

「休んでいたわけではありませんのよ!」

 アテナがフレイナに向けて手をかざすと破壊した塔から何かがフレイナに向かって飛んできた。それはアテナの槍だ。撃ち出すだけではなく自分で戻ってくる効力も持っている。その戻ってくる勢いを使ってフレイナを背後から襲うが、それに気づいたフレイナが炎の鳥が翼ではじくと簡単に弾き飛ばされてしまい近くのレンガ作りの建物に激突してその建物を崩壊させてしまった。それだけの勢いのある攻撃をフレイナはいとも簡単に弾き飛ばしたということだ。

「化物だろ」

「そんなことを言っている場合ではありませんのよ!」

 アテナはフレイナに向けて両手をかざすと白い羽が集まってきて塊を生成してフレイナに向けて放ったが、フレイナに纏っている炎の熱が羽の塊が到達する前に燃やし尽くしてしまい、到達したころには灰になりフレイナにぶつかっても無残に粉々になってしまう。

「頭おかしいですのよ」

 それが規格外だ。

「その天使はつまらない!どけ!邪魔をするな!」

 炎の鳥が集めていた炎を解放してマシンガンのように連射して飛ばしてくる。アテナは今ここにいる全員を抱えてから飛んで攻撃を避けるのは無理だと判断して羽を花のように再び集める。だが、それではフレイナの攻撃は防げない。どこに逃げる。横は無理だ、上も無理だ。なら残ったのは逃げ場所は――――下だ!

「アテナ!そのまま2発は耐えろよ!」

 その言葉に一瞬だけ後ろに目をやったアテナが覚悟を決めたように叫ぶ。

「3発は耐える!」

 その覚悟を俺は受け止めて右手に力を込めると手首に陣が浮かび上がって右手が黒い靄に覆われる。まだだ。これだと足りない。もっと。もっと強い破壊の力を!

 その意思に答えるように黒い靄が俺の右拳に収縮されるように真っ黒になって破壊の力が凝縮される。それは普段とは違う使い方だが今は好都合だ。それは普段なら空中で重力による落下の威力を上乗せさせて人以外の物を壊すときに全力で使う破壊の力。

無敵の拳(デストロイ・ナックル)!」

 その破壊の拳で俺たちの足元の地面を思い切り殴る。拳が割れんばかりの勢いでレンガ作りの地面を殴ると拳の破壊の力が俺たちの足元に一気に広がって行って破壊した。足元の大きく深い穴が出来、それと同時に俺たちはその穴の中に落ちていく。その落下のタイミングにフレイナの炎が襲い掛かるがアテナが宣言通り2発は耐えたが3発目を食らうと羽は散ってしまうがその時にはすでに俺たちは穴の中に入っていた。俺たちの頭上を保のが通過して行って爆発した瞬間、炎が俺たちの頭上に広がる。

「いやあああ!」

 香波が恐怖に悲鳴を上げて頭を抱える。そんな香波を落ち着かせるために炎の熱から守るように覆いかぶさる。

「大丈夫だ!火は上に登る!」

 俺の言うとおりになって火は穴の中に入ってこなかった。フレイナの攻撃を止んだのを確認してからアテナは男を抱えて翼を広げる。攻撃を免れたと安心しないところを見るとこのアテナのという少女はこう言う場面に場馴れしている感がある。

「助かりましたのよ。国分さん。ただ、出る時が一番危険ですのよ」

 狙い撃ちされる。だからといって籠城していてはいずれ穴までフレイナがやってこればそこで俺たちは穴の中で焼き殺される。

「わたくしたちが先に出ますのよ。国分さんはその後に城野さんを連れて出てください。何もされないことを祈りますのよ!」

 翼を広げて一気に上昇して行くが何も起きなかった。フレイナが出てくるところを狙ってこなかった。俺たちも遅れて穴をよじ登って外に出るとフレイナの体からは白い蒸気が立ち込めているだけで炎の鳥の姿が消えていた。

「な、なんで?」

 香波は疑問に思っているが俺には分かる。あれだけ暴走していたフレイナの炎を沈めさせる人物はひとりしかいない。フレイナの発する熱の影響で視界が揺らぐが、その揺らぐ視界の中から金色の女が姿を現した。

「出てくるのが遅いぞ、MM」

 花魁風の着物を着て金髪を派手な髪飾りを施して結ってある組織のボス。青い碧眼の瞳でまずはフレイナの様子を見た。

「ひどくやられたもんじゃな。主がそこまでの怪我を負うところを見るのは初めてじゃぞ。それ以上動けば主が死ぬ。すぐに治療に入れ」

「っち。邪魔するんじゃない。せっかく楽しい時間だったのに」

 息を切らしながら大量の汗をかいて今に倒れそうなフレイナはそうMMに反抗したが、すぐに態勢を崩して倒れそうになるところをMMの配下の同じように花魁風の着物を着た銀髪だったり茶髪だったり日本人じゃない女に支えられて運ばれていく。

 それを尻目に見送ってから俺たちの方を向く。

 上空に飛んでいたアテナがゆっくりと降りてきて俺の斜め後ろに着陸する。ピリピリとした空気が立ち込める。

「よくもわっちの家を破壊してくれたなと言いたいところじゃが、この様を見ればほとんどわっちのところのフレイナがやったことみたいじゃ。じゃから、わっちは主ら黒の騎士団がここで暴れたことを大目に見てやる」

 下手な組織間での戦闘は避けろという強い重圧を感じた。それは俺にも向けられたものだった。

「それはそうと国分教太。主はどうしてそちら側に立ってわっちを睨むでいるのじゃ?主は組織の人間じゃろう?」

「ああ、その通りだ。でも、少しこっちの奴と話がしたい」

「なぜじゃ?」

「今、俺の足にしがみついている女の子は向こうの世界の友人だ」

 香波が小声で友人と呟いた。俺と香波の関係はまだ恋人にまで到達できていない。いつもこうやって途切れて途切れてくっつきそうなところで離れてしまう。今もそんな状況だ。俺にとって香波はこの世界にいてほしくない。

「だから、こいつらに彼女を元の世界に送り返すように話し合いたい。10分時間をくれ」

 疑う目線。透き通るような青色の瞳をしているMMが俺の考えをその瞳の透明度みたいに見通している気がした。だが、その瞳を閉じると俺たちに背を向ける。

「主たちがその話し合いに同席するなんし。後でわっちに報告するなんし」

 主たちというのは全身真っ黒な灰だらけになった見覚えのある人物がそこにいた。

「教太!」

「教太ちゃん!」

 霧也とリンさんだ。ふたりは俺のもとに駆け寄ってくる。その霧也の手には魔武が握られていた。俺たちが落下する時に間に風を入れてくれたのはきっとあいつのおかげだ。どうして灰で真っ黒なのか分からないが拳吉に吹き飛ばされて数時間余り音信不通だった俺のことを心配してくれていた。MMに一声で瓦礫の合間を縫ってやってきたふたりを見た香波が怯えたように俺の背中に隠れる。

「大丈夫だったか?」

「ああ。そこのアテナが勢いを殺してくれたおかげで」

 ふたりがアテナを見るとアテナは一礼して俺のくっ付いている香波に声をかける。回復魔術を施してほしいとつぶやいた。それは全身やけどを負った男にだろう。すぐに這いずって男に回復魔術を施した。

「それよりもふたりはどうしてそんな灰だらけに?」

 特にリンさんはその露出した肌に張り付いた灰がコーティングされたようで妙にエロい。というかスカートの紐の数が少ないおかげで白いパンツが灰色になっている部分となっていない部分が・・・・。

「おい、教太。どこ見とるんや?」

 拳銃を突きつけられた。

「お、おお、リュウもいたのか」

 そのリュウも同じように灰だらけだが、いつものコートを着ておらずその右腕と腹部には包帯に巻かれていて痛々しい姿だった。

「なんでそんな怪我を?」

「そいつにやられたんや」

 その付きつける拳銃を俺から香波に治療されている男に向け直された。

「はぁ?」

「やめろ、リュウガ」

 霧也がリュウの拳銃を下させる。

「確かに俺たちはそいつにやられたが、今はその仕返しをするタイミングじゃない。銃を下ろせ」

 唇をかみしめて悔しそうな表情を浮かべる。

「悪魔術を使うこいつからリンを守りきれなかった」

 悔しさをにじませながら引き金にかけていた指を話して銃を完全に下す。

 会話から察するに3人はこの男と戦って無残にも敗北したということになる。そんな3人を助けるためか単純に戦いためだろうか分からないがフレイナが乱入して来たということだろう。だが、そのフレイナも傷を負っていた。霧也は機関で磨いた剣の腕と風属性の機動力の技術力はランクという数値にとらわれない強さを持っているし、時空間魔術を使うリンさんと龍属性を使い常人離れした銃の腕を持つリュウのコンビと規格外のフレイナともやりあえるだけの強さをこの男は持っていたということになる。悪魔術を使うらしいが果たしてそれだけがフレイナをも上回ることはできない。

 何者なんだ?

「それよりもこれからどうする気ですのよ?」

 男の容体を気にしつつもアテナが俺に尋ねる。

「とりあえず、アテナは香波を元の世界に帰してほしい。それで今後一切魔術と関わらせるな」

 強く言いつける。

「あなたわたくしの話を聞いていましたの?彼女には異世界に逃げた魔術師の拘束を」

「それは別の奴がもうやっている。俺が異世界に変えればシン・エルズーランの力を持っているような奴がいるような世界に逃げようと思うか?」

「現にあなたの力を欲して何人かの魔術師が異世界に向かったのを確認していますのよ!あなたが異世界に帰りたいのならばその力を剥奪して破壊させた方がこの世界の危機を脱することもでき、異世界に魔術師が行くひとつのリスクを減らすことができますのよ!」

 アテナの言う通りかもしれない。俺がこの力を手放すことが今起きている国を破壊する古代魔術兵器の発動を食い止めることが出来て、異世界にシンの力を欲してやって来る魔術師のリスクも減る。だが、今この力を手放せば不安に襲われてMMのもとにいる美嶋を安心させることはできない。

「今は無理だ」

「そう言うのならば、わたくしはこの瞬間国分さんの敵となりますのよ」

 その言葉とその殺気にいち早く反応した霧也が剣を突き付けようとするが、アテナは槍を吹き飛ばされたままで丸腰だ。だが、アテナには白い羽を使った衝撃波と同じく白い羽を使った魔術の発動を妨害する力が使える。しかし、どれも発動までタイムラグがありその隙に攻撃できてしまう。羽を使って逃げられるが逃げるだけでは何も解決しないのを知っているからアテナは逃げない。その意思をその小さな体で強い視線を感じる。本気でこの世界の秩序と平和を望んでいる証拠だ。俺はその意思に賛同したい。同じく無理無謀なことに立ち向かう彼女に。

「そ、それよりもデニロを治療しないと」

 香波が心配する男のことだ。香波が回復魔術を施したが完全に回復はできていない。

 それを見たアテナは俺の方とデニロの方を交互に見て悩む。

 ひとりの魔術師が回復魔術を施しても対して回復が見込めないというときはもっと強力な回復魔術と治癒魔術を施す必要がある。アキの時はそうだった。やけどの怪我ということになればやけどの部分を氷とかで冷やすと言った治療も行わないといけない。それを敵地であるこんな治療を受けられるはずもない。

「仕方ありませんのよ、国分さん。今回のところはわたくしたちが手を引かせてもらいますのよ。あなた自身もカントリーディコンプセイションキャノンの恐ろしさを理解していただいていると判断してのことですのよ」

 自らの目的よりも仲間の命を彼女は優先した選択だった。

「いいですか。あなたがやるべきことはひとつ。その力のあり方についてわたくしたちが納得するような答えを出すことですのよ。わたくしたちは仲間と連絡を取り合った後にこの国の領土を出たのちに時空間魔術を用いて母国に帰りますのよ。その手筈を行うので仲間を時空間魔術で呼び寄せてもよいですか?」

 敵対組織同士での時空間魔術を使った人の移動は条約で原則禁止とされている。原則という言葉が使われているということはこう言う場面では使ってもいいという条件が盛り込まれているということになる。

 霧也がリンさんとリュウに視線を送るとふたりはMMのいる組織本部の方に向かい、どうするべきか聞きに行った。

「おそらく、許可は下りますのよ」

 確信したようにアテナは呟いて倒れたまま苦しそうに呼吸をするデニロという男の容体を気にする。うやむやになってそのままになりそうな話題を俺は掘り上げる。

「香波はどうするんだ?」

 それに対してアテナは答える。

「判断は団長がしますのよ。ですが、あなたの言うとおり彼女は元の世界に帰しますのよ。フレイナという規格外と戦い生き延びた悪魔術使いという名だけでも魔術師はリスクを恐れて異世界に逃げたりはしないはずですのよ」

 その結論に俺は違和感を覚えた。

「待て。名を売るために香波を異世界に連れて来たのか?それも一番危険な奴と戦わせて。死んでいたらどうするつもりだったんだ!」

「マルチェが体を張って守ったと思いますのよ。現に彼女は大した怪我をしていない。デニロ・マルチェという男は黒の騎士団の副団長ですのよ。そのくらいのことはできますのよ」

 そうとも言い切れない。なぜなら、俺が香波を助けに入った時は男はすでに倒れて動けない状態だった。そんな状態で香波はひとりでフレイナの前にいた。それがはたして香波を守ったと言えるのか。

 言い返す前に香波が間に入る。

「デニロは私を守ってくれんだよ。体を張ってこんなにボロボロになるまで。だから、デニロをあまり責めないで。私が弱かったせいだから」

 デニロをかばっての言葉だった。自分の弱さを責めて自分を追いつめる様は何も変わっていない。きっと、そんな弱い自分をどうにかしたいとか思って魔術という力に手を伸ばしてしまった。いや、伸ばさせられた。弱みに付け込んで力を与えているとなればそんなことをやるのは悪魔だ。だから、香波を責めてはいられない。それにこんな不安におぼれている香波を責められない。

「とりあえず、香波は元の世界に帰してくれるんだな?」

「おそらくそうですのよ」

「それならいい」

 向こうには氷華たちがいる。俺が不在の間は異世界にやってきた魔術師をけん制してくれと頼んである。香波の手を使わせない。

「キョウ君はどうするの?」

「俺は・・・・一応ここに残る。残している人もいるから」

 脳裏に浮かぶのは病室にいるアキの姿と不安にとらわれてその不安から逃れるためにMMのそばにいる美嶋の姿だ。ふたりを置いて自分だけ異世界に帰るわけにはいかない。

 最後に香波の頭を撫でる。安心しろという想いを込めて。少しでもその不安が取り除かれるようにと。そして、ゆっくりとその手を離すと香波は俺の手を掴もうと伸ばすが俺はそれを避けるようにMMの方に進むと顔を下に向ける。

 劇的で運命的な再会と言ってもいいかもしれない。こんな誰も知らない異世界の日本という国で、敵対する組織間の所属していながらも再会するのはまさに運命的だ。そんな運命的な再会をしてもなお俺たちの関係が修復するほどではない。でも、こんな異世界でも再会できたんだ。きっと、また会える。再びそんな思いを込めた別れの挨拶をしようとする。

「またねは嫌だよ」

 手を途中まで上げて言おうとした言葉を拒否される。

「こんな世界にまでキョウ君を追いかけてきて会えたのにまたねって嫌だよ。私はキョウ君を追いかけるために同じ領域に踏み込んだんだよ。魔術とか訳分からない中二病みたいな力を手に入れて使うためには不安を使わないといけないからって毎日が不安不安で壊れちゃいそうだった。それでも私が私でいられたのはキョウ君がいるって聞いたからだよ。キョウ君と再会するために私からキョウ君の世界に踏み込んだんだよ。そこに黒の騎士団の意図なんてない!ここにいるのは私自身の意思だよ」

 そんな曖昧な理由で魔術に手を染めたのかよ。もしも、俺が魔術の世界に踏み込んでいなくて異世界に来ていなかったらただの無駄足で無駄な努力にもなりかねないのに。俺だからこそ重く受け止められるが別の関係の他人に言えばバカじゃないのかって言われる。香波はそんな小さな可能性にかけて全力を尽くした。俺が誰も殺さないという絶対にできないことを実行しようとしているのと似ている。できないことを、無駄なことを香波はひとりでやり遂げたのだ。その執念には驚く。

「スゲーよ」

 その言葉が自然と出てしまうくらいだ。香波はほれぼれするくらいスゲーよ。

 だが、俺は香波のもとに行くことはできない。MMがこっちを見ている。俺がMMに背向けて裏切ればアキに美嶋に何をするか分からない。最初から香波のもとに行くという選択肢はなかったんだ。これも俺の弱さが招いたものだ。それが悔しい。歯が砕けるくらいかみしめる自分の無力を責める。

 それを見たアテナがデニロを抱えてわざとらしく香波に向かって話した。

「どちらにしてもすぐにこの国から出られませんのよ。長距離の時空間魔術による移動にはかなりの準備が必要ですのよ。なので今日はどこかで明かすとしますのよ」

「え、えっと」

 リンが時空間魔術を使って俺たちのところに戻って来た。

「許可が出たので港の方に船の方に」

「城野さん。港の船ですのよ。行きますのよ」

 そう言って歩き出した。どういう意味なのか香波は分かっていない様子で言われるがままにアテナの後をついていく。数メートルだけ歩いてから振り返る。その不安のそうな瞳を見て俺は安心させる一声を掛ける。

「がんばって香波のところに行くからもう少し待っていてくれ」

 それは再会を誓ったものではなく待っていてほしいと言うものだった。会いに行くから待っていてくれという。それを察した香波は初めて笑顔を浮かべた。その表情を見た俺自身もほっとさせてくれた。

「分かった。待ってるから」

 それから小走りでアテナを追いかける。

「教太。これでいいのか?」

 霧也に尋ねられる。

「ああ」

 組織の不信感は強い。逆に黒の騎士団は信頼できる魔術組織だ。だが、俺を組織に縛る二人の少女がいる。ふたつあるはずの選択肢のひとつは潰されている。結局のところ、俺に課せられた問題は何も解決できずにいる。

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