異界にて②
魔武とは
魔武は魔術武器のことである。
通常魔術に陣と十字架が必要である。
対して魔武はその十字架と同じ素材でできた武器に陣を彫り刻むことで魔術発動の一連の操作を省略して魔術を武器に宿して使うことができる。
刻める陣はひとつである。
ペットショップにて、まるで魔女の館に飼われている生き物のようにゲージが宙をふわふわと浮いていた。水生生物に関して以前に俺が閉じ込められた球体の水の檻の中に飼われており、それを他のゲージと同様で浮いているのだ。それを俺と美嶋は物珍しくて開いた口がふさがらずにそのゲージから目を離すことが出来なかった。
建設現場にて、資材は俺たちの世界とあまり変わらない。が、例えばコンクリートを固める際に使う火炎は火属性魔術、資材を高いところに移動させるのにも風属性魔術、人の力ではできないことはすべて魔術が行っていた。
屋台にて、俺たちはかき氷を食べようと注文した。その氷は魔術で作られたものだった。一口食べると確かにそれはかき氷で今日みたいな暑い日にはとってもいい。魔術で出来た氷は魔力も中に含まれており、魔力の回復にもなるらしくて、涼はとれるし魔力の回復にはなると一石二鳥の食べ物と万能になったかき氷を見て感動する異世界人である俺たちであった。
他にも魔術によって生み出された食べ物があり、それも同様に口に含むことで魔力を回復することが出来るらしい。風邪を引いたときは薬よりもまずは水属性魔術で作った水を飲むのが一番の治療法になるらしいのだ。生命活動の維持に魔力を使用していると分かっているからこその治療法だそうだ。
長距離の移動手段に使われた乗り物があった。それは俺たちの世界にもあるただのバスなのだが乗り込むとそれはふわりとゆっくり浮いて空を飛んだ。それに思わず声を上げてしまった俺たちは周りの人たちにくすくすと笑われて赤っ恥をかいた。空飛ぶバスから見た町の風景は何とも言い難いものだった。
俺たちのいた小さなビル群は町の中心部から少し外れたところで中央に近づけば近づくほど地上の小さく見える行き交い人の量は増えていく。その年の中央には立派な天守閣が存在していた。周りを石垣に囲まれて林に囲まれたそれは一国の主が君臨していそうな風貌を未だに残している。そして、バスの向かう先に巨大な教会のようなもの見えた。その建物のデザインには見覚えがあった。スペインのバルセロナにあるサグラダ・ファミリアという教会にそのデザインは似ていた。アキはそこで降りますよと言ってブザーを鳴らすとバスはゆっくり降下して行った。
アキがまとめて賃金を運転手の中年の男に払ってから俺たち4人はバスから降りる。バスの運転手は笑顔で会釈してから扉を閉めて再び空に飛んで行った。
バス停の名前は組織本部前と書かれていた。
「到着です。ここが私たち組織の本部ですね」
いや、バス停を見れば分かるけど。
周りは地面も煉瓦で敷き詰められていて家も煉瓦造りの3階建ての家が並んでいる。ここだけ国が違うみたいだ。
「なんかここだけなんか日本って感じがしないわね。それに・・・・・」
美嶋があたりを見渡す。
「この建物の付近だけ圧倒的に人の数が少なくない?」
「まぁ、あまり人は寄り付かないよなところですしね」
「なんでだよ?」
と聞いたものの実際近くに行ってみるとその大きさとスケールに圧倒されてしまう。見えないオーラというかこれ以上近付くなって建物が語らずに居座っているようなそんな感覚だ。でも、アキが答えた答えは俺の考えとは違っていた。
「私たち組織は嫌われていますからね」
「はぁ?なんで?」
「以前に起きていた戦争の火種がこの国にも入って来たんですよ。その原因となったのが組織のせいなんですよ。そのせいでこの国は多くの死者を出しました。今でもこの国の人たちは組織の存在をよくない物だと思っているんですよ。でも、組織はここに存在します」
「MMのせいだな」
「はい。彼女の力は底を知りません。私たちが4人一斉にかかったとしても勝てるかどうか・・・・・怪しいですね」
「だな、教太のシンの力でも美嶋さんの全属性攻撃を一斉に行ったとしてもおそらく、MMは無傷だ」
おいおい、それは冗談だろ。
俺の力は物質を何でもかんでも無条件で破壊してしまうんだぞ。それに美嶋の混合属性攻撃を防ぐのは簡単なことじゃないぞ。それを無傷で耐え抜くなんて考えただけでぞっとしてしまう。
「さて、こんなところで立ち話もなんですし、中に入りましょう」
アキがひとりで行ってしまうのを美嶋が慌てて追いかける。俺と霧也は後をゆっくりと追う。
「なぁ、霧也」
「なんだ?」
「バスで移動している最中に見えたあの天守閣はなんだ?」
ただの観光地には見えなかったからだ。
「中央局だ。言わば、この国の政府の機能がすべてあそこにある」
政府の中枢機関があの天守閣ってことは目の前の教会とは・・・・・。
「政府と組織って別なのか?」
「この魔術の世界では世界の均衡を保つ3つの巨大な組織があると聞いているよな?」
確かひとつはイギリスにあって、もうひとつはアメリカにあるんだったよな。名前までは覚えてないけど。
「それらの組織はどこも国としての力は持っていない。だが、その組織に国は加盟国として力を貸している。要するにただの国同士の同盟関係と何も変わらない。だが、魔術に対する知識とそれを総べる力は政府組織よりも魔術組織の方が圧倒的だ。特にその力は破壊知れない。結論を言ってしまえばこうだ」
霧也が小声ながらも力強く言った。それは簡単であるが最も納得のいく言葉だ。
「力がすべてなんだ。そのことをよく覚えておけ、教太」
そういうと駆け足で距離のあいてしまったアキたちの方に行ってしまう。
力がすべて。俺の持っている力もその総べる力と同格の力なんだと霧也は言いたいのだろう。全開ではないとはいえ、この力は4大教術師のひとりの者だ。それに美嶋と同じように魔力の影響によって内に存在する力もまだ眠ったままだ。美嶋のように魔術の常識から大きく外れた力だったらそれは・・・・・。
「力がすべて・・・・・か」
「教太さん!早く!」
「置いてくわよ」
二人の少女が笑顔でこちらに手を振る。
こんな風に考えるのはやめよう。頭がおかしくなりそうだ。今は蒼井たちのことだ。
アキたちに呼ばれて俺も走る。長い階段を昇って教会の巨大な扉の向こう側にその世界を震え上がらせる力がいる。俺はそいつに会って話さないといけない。
「何が何でも助けない人がいるんだよ、俺には」