一声
『主はなかなか面白なんし』
あたしゃの目の前に現れたのは金髪碧眼でその当時はまだ今ほどのスタイルの良さもなく幼さ残り白に金色の刺繍が施された修道服姿のローマ教皇の一人娘のMMという愛称の娘だ。その女はイタリア、ローマの市街地の中心に位置する闘技場で無敵の強さを誇った火属性の教術師だったあたしゃに興味本位で近づいてきた。その当時からおかしな話し方をした。
『属性魔術は重複して発動できないなんし。他属性と同時に発動できないのはもちろんじゃが、属性魔術はひとつだけしか発動できない。それが教術だった場合も同じなんし。属性魔術の場合はほぼすべての火属性魔術を使えるらしいが、そのたったひとつしか発動できない火属性魔術で主は他者を圧倒するその力にはほれぼれするなんし』
最初はあたしゃとは身分も生活も周りの扱われ方も全然違う。あたしゃが泥だらけの家畜ならば、目の前の娘は鳥かごに代われたインコだ。扱いは天と地の差。そんなあたしゃをミレイユが拾い上げた。
あの日、反乱の日。世界中を戦火に巻き込んだMM率いる魔術師、教術師の逃亡軍とミレイユの独立を許さないとするイギリス魔術結社との戦争。ミレイユはあたしゃに手を差し伸べた。あたしゃをただの商売道具として扱っていた男どもを何の躊躇もなく殺してあたしゃの枷を壊した。あたしゃに自由をくれた。
『主がここに居続けていては勿体ない。主がやりたいことはこんな狭い世界では何もわからないなんし』
枷を外されて外に出ればそこにいたのは闘技場にいた時よりも感じた生きるという実感。闘技場の外には今まで戦った奴よりも強い奴がたくさんいた。ミレイユにシンだ。あのふたりには敵わなかった。それまではあたしゃが世界で最強だと思っていた。それが間違いだった。もっと、世界を知りたい。そうしてミレイユに言われるがままについていき生まれ育ったイタリアをヨーロッパを離れてユーラシア大陸を横断して日本までやって来た。
これまでの生活は充実だったが、日本に来てから肩身の狭い思いをしてきた。ミレイユに力の出し方に制限をかけられて問題あるごとにペナルティーを掛けられる。派手に暴れたことは最近ない。戦うのは自分の腕試しだった。自分の力を証明するための自分の存在を示すためのあたしゃの唯一の手段だった。
その思いをミレイユに一度だけ流れで話したことがある。ミレイユが言った答えはこうだ。
『それでいいと思うなんし』
それは肯定だった。
『主の存在意義を示す行為が破壊にしかならないとわっちは否定はしない。それで守れるものがあると思っているなんし。主の炎にわっちたちを何度助けられた分からないなんし。主は主の意思を貫くなんし。決して自分を負けていけないなんし。じゃが、その行為がもしも主が思う目的とずれてしまったらわっちが正してやろう。じゃから、主は何も考えずに自分の意思に従えばいい。本能のままに』
自分の意思。戦うこと。自分の炎が消えるまで。本能のままに。
戦え―――戦え――――戦え!




