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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
悪の領域
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剛炎対青炎①

 デニロは強い。

 初めて戦いというものを見たけど、デニロはどれだけあの3人が攻撃しようとも難なく耐え抜いた。そして、刃を向ければあっという間に3人を叩きのめしてしまった。殺すことをしないのはただ人を探しに来ているだけだということと他にも理由があるみたいだけど私が知るはずもない。私は何も知らされていない。だから、今何が起きているのか全然分からない。

 そんな中、デニロが隙を見て私に話しかけた。青炎(せいえん)をいつでも使える状態にして待機しておけと。何が起こるか分からない敵地だということとデニロが目の前の3人以外に何か気にしているような素振りをその時一瞬だけ見せたのを私は見た。そこに自分の命の危機を感じて不安になってすぐに青炎(せいえん)が収納されているカードと十字架を取り出してずっと待機していた。今の日本庭園みたいな部屋に入ってからずっとそのふたつを握っているけど戦局はデニロが有利のまま進んでいた。

 だけど、その戦況も変わろうとしていた。

 デニロがチェーンでつながれた刀を二本使う男の人を拘束している時だった。薄暗い部屋の天井が少し明るみを帯びているのに気付いて見上げるとまるで夜空に浮かぶ太陽のように天井がどんどんオレンジ色に染まって行った。それが何なのか大して気に留めていなかったけど、眺めているとオレンジ色に染まっていた天井に穴が空いて小さな炎が噴き出してからそれがおかしい、普通じゃないと気付いた。デニロは上の存在に気付いていなかった。だから、咄嗟に叫んだ。

「デニロ!う、上!」

 私の声に素早く反応したデニロが上を見上げるとすぐさま抑え込んでいた男の人を投げ飛ばしてから自分も私のところまで飛び退いた瞬間、天井を突き破って火柱がデニロ立ち退いたところを襲う。強い炎から発せられる熱が庭園の草木を枯れさせて肌が焼けるように熱かった。

 そして、その火柱の中に人がいた。見間違いだと思ったけど違った。火柱の中の人はゆっくりと炎の中から歩いて出てきた。

「何か楽しそうなことやってんじゃん。あたしゃも混ぜろよ」

 ライオンみたいな赤髪に肌の露出の多い女の人が白い歯を見せて笑顔でそう言ってきた。いろんな疑問。どうして炎の中にいて平気なのか熱くないのか、そして、どうして笑っているのか?その笑顔が私を不安にさせた。

「出てきた出てきた」

 デニロはそう呟いた。

 知っている感じだったら聞こうとする前にデニロが言った。

「香波。あいつを相手にする時はお前も戦え」

「え?」

 あれが誰なのかどうして炎の中にいても平気なのかという私の疑問よりもはるかに超える問題が発生した。戦えと?

「いやいや、なんで!」

「あの女はやばい」

 目元口元はいつもと同じにしか見えないけど少しだけ汗をかいているところを見て、初めて見せる不安そうな言動。でも、呼吸をするのも苦しいほどの熱を発する炎の中にいる女の姿を見て不安にならない方がおかしい。

 私も息を飲む。ここからは本当の殺し合いをするところ。

「わ、分かった。で、でも、私は」

「できる範囲でいい。あの女から出てくる炎を押さえてくれればそれでいい。後は後は俺がやる」

 すると血で出来た大刀を頭上に掲げると柄の蛇たちがデニロの腕にかみつくと大刀全体が真っ赤な血に染まって行った。

形態(モード)大剣」

 すると血で刃とみねの部分が血の濃さではっきりと分かれた巨大な剣が生成されて、頭上で出来たその剣を左手ででもしっかりと受け止めて握り炎の女に向ける。血で出来た刃はデニロの身長ほどあって柄も長いけど、柄にほぼ近い刃にも持ち手があって左手で刃の柄を握っている。素人の私から言ってすごく強そうな剣だ。

 その大剣を炎の女に向ける。だけど、炎の女は部屋の様子を見て呟いた。

「あ~あ。ミレイユのお気に入りの部屋がこんなにめちゃくちゃにして。でも、これだったらあたしゃがどれだけ暴れてもあんたらのせいだって言えばいい訳になるじゃん。こっちは出禁になってるせいで鬱憤が溜まってんじゃんよ!」

 炎の女の背後の炎が感情に動かされるように炎が大きく揺れ暴れる。

「せめて少しくらいあたしゃを楽しませろ!」

 背中の炎が渦を帯びるようにして生き物のように動きまわって女の周りを囲う。そして、炎の渦が蛇の形を成してきて私たちに大きく口を開けて威嚇する。同時に熱風が私たちを襲う。デニロの柄の蛇と立違う鱗も目も鼻もあって文字通り牙もあるリアルな蛇だ。その炎の蛇の頭が女の背後から無数に表れた。全部で8つあるその炎の蛇たちが一斉に口を開けて威嚇すると庭園の木々がその熱で枯れる。

 普通じゃない。まだ、あの女と距離があるから熱いと感じるだけで済んでいるだけで間近に近づけば体が焼けてしまう。焼け死んでしまう。あの女が平気な顔で笑っているのが不安で怖い。笑みを浮かべる炎の音が手をゆっくりあげると炎の蛇たちがゆっくりと身を乗り出すように私たちを睨む。

「行け!熱暴の大蛇(オロチ)!」

 女が手を勢いよくおろすと一斉に8体の炎の蛇たちが私たちに向かって来る。どうしていいか分からない。炎の蛇たちが通るとそこにあったものがすべて焼け落ちてしまう。あんな炎をまともに受ければ私はどうなるのか考えるだけで体が強張って動かない。

 そんな炎の蛇たちとの間に大剣を構えたデニロが後退するようにして割って入ってくる。

「呼吸を止めろ。のどが焼ける」

「え?」

「来る!」

 大剣を地面に刺して盾にするようにして大剣にもたれるように身を任せて同時に私を抱きかかえる。普段見せている変態行為ではない私を守るための行為だった。言われるがままに私は呼吸を止めると同時に炎が大剣にぶつかるようにして襲いかかる。炎が大剣にぶつかって軌道が変わる轟音と空気を燃やすようなちりちりという音が合わさる。炎の勢いは足元にあった砂利を吹き飛ばして焼いて炭となってしまう。考えられないような炎の熱が肌を焼くようで怖かった。炎は私たちが入って来た部屋の扉を壁ごと爆発するようにして吹き飛ばして消えた。その爆風も私たちを襲い、その時も強い熱を感じた。

 震える私の体を優しくポンポンと叩いたいつも暗い表情しかしないデニロが口元だけで笑みを浮かべた。

「大丈夫大丈夫」

 見渡せば大剣の背後以外は真っ黒に焼かれて白い蒸気が上がっている。一歩でも踏み出せばそこに残っている熱で焼けてしまいそうだ。地面からじりじりと出ている熱によって蜃気楼のようにもやもやとしている。そんな私たちを守ってくれた大剣をデニロは地面から抜き取ると、炎を受け止めた面は真っ黒に焦げていたが中心からゆっくりと元の血の色に戻っている。

「あの剣士から血を吸って置いて正解だった」

「え?」

「香波。青炎(せいえん)を発動させろ」

 デニロの睨む目線の先にはゆっくりと私たちに歩み寄る炎の女がいた。そのまわりにはすでに8体の炎の蛇たちが蜷局を巻いていた。

「いいじゃん!いいじゃん!あの一撃に耐えるとかやりがいあるじゃん!」

 なんか、さらにやる気を出しているように見えた。

「え。あ、は、はい」

 すぐにその不安を十字架に込めてカードにぶつけるとカードを中心に青白い丸い陣が浮かび上がってその中心から飛び出してくる青い炎は紐みたいで細い。その細い青色の炎が私の周りを囲むようにして展開する。

「・・・・なんだ、なんだ?その弱々しい炎は?」

「え?だ、ダメなの?」

「いやいや、別にいい」

 どっちなの!私の発動させた炎が弱すぎるってどういうことなの!不安だって言いうの?ってもしかして今の発言も私を不安にさせる言葉だったらもはやその徹底ぶりは変態級!

「なんだ?その小さい炎は?そんな弱い炎であたしゃの炎に立ち向かおうとか10000年早い!」

 蛇の炎がさらに強くなる。

「安心しろ」

 デニロが言い返す。

「彼女の炎は君の炎の何十倍も強い。なぜならなぜなら、彼女が炎は君にとって無知だ」

 そう、相手をおちょくるように自信満々に。私を置いてけぼりにして。

「そんな無知!あたしゃの炎で焼き尽くしてやる!」

 8体の炎の蛇たちが私に向けて威嚇をする。

「じゃあ、じゃあ、頑張って」

 そう言うとデニロは炎の女の攻撃の被害から免れるようにして横に走って行ってしまった。

「ちょっと!置いて行かないで!」

「無視している場合じゃないじゃん!」

 一匹の炎の蛇が女から飛び出してきて空中に天に昇るようにしてとぐろを巻いて私に向かって突進してくる。大きく口を開けて私を丸呑みにしようとばかりに。近づくにつれて炎の熱が頬を焼くと同時に大剣に守られていたいなかった木々の成り果てた姿と自分の姿を頭の中で合わせてしまった。そのせいで体が余計に強張って死の恐怖を感じ同時に私を見捨てたデニロへ怒りを覚える。

 私を勝手にこの世界に連れて来て不安にさせてまた別の不安を上乗せさせて精神的に壊れてしまいそうだった。こっちの世界に来ていいことなんて何もない。魔術とかいうものと関わっていいことなんて何もない。

 きっとすべて始まりは2年前のあの事件がきっかけだ。あの時に感じた不安と恐怖が2年という歳月を経て私を悪魔の道に足を踏み外させた。それから魔術という不安と出会って異世界という不安の世界にやってきて何も知らされていない不安な状況下で私は不安になる。

 何度不安と言って不安に思えばいいのか分からない。

 なら、どうして魔術という不安に出会った時に拒絶しなかったのか?

 それはキョウ君がこの魔術という不安に関わっているから。

 確信はあるのか?

 無かった。でも、あの時夜空に浮かぶ青色の炎を見ていたキョウ君の姿が脳裏に浮かぶ。キョウ君はこの青色の炎とまったく無関係ではなさそうだった。薄く遠い意識の中でキョウ君は私からこの青色の炎から救い出そうとした。その炎がどんなものか知っていたからだと私は思う。

 なら、私がやるべきことは何か?

 自らの問いに出した答えは――――生きることだ。

 またなっていうお別れは再会を誓ってお別れだ。私が死んでしまったら意味がない。

 私は生きなければならない。

「だから――――私を守って」

 細い青色の炎がひとつは光のように圧倒的に大きい炎の蛇に向かってゆく。だけど、炎の蛇は蚊にでも刺されたかのように気にせずに大きく開けた口の中に青色の炎を呑み込んだ。蛇の炎の体の中で細い青色の炎ははっきりと見えていた。

 私の不安を力にする炎はまるで神経のように網目状に炎の蛇の中で広がっていく。そのせいで私に向かって来ていた炎の蛇が動きが鈍り、そして、網目状に広がっていた青色の炎が炎の蛇の体から一気に噴射して完全に炎の蛇を食いつぶした。

「な!」

 目の前の現状が分かっていない炎の女。

 青炎(せいえん)とは悪魔の炎だ。すべても燃やすその炎は炎すら燃やし尽くす。私が生きるためにたった一人の思い人のために受け入れることにした不安を糧にする悪魔の力。きっと、この力は誰も知らない私の悪の領域。

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