混乱戦③
なんだ?あの魔武というのか?あの武器はなんだ?
両刃の直剣。銀色の刃は俺が持つ魔武と何ら変わらない。だが、鞘にある包帯に巻かれた丸い者から孵化するように出てきた目も鼻もない丸みを帯びた顔を持つ真っ黒な蛇。剣の鞘から生えるように伸びる蛇たちには邪気のような怪しげな不気味な雰囲気を醸し出してその蛇は暗い男の腕に刃に巻きついたり唾液を垂らしながら威嚇したりと自由奔放に動き回る。まるで生き物のように。
相手は黒の騎士団だ。アテナ・マルメルも魔術、教術には欠かせない陣を見せずにあの羽の力を使ってきた。もはや、目の前の例外を受け入れてやるしかない。相手の暗い男はクマのある目でじっとこちらを睨んでいる。それは敵意で話し合いをしようと数秒前に言っていたのが嘘のようだ。
そして、剣から生えるように気味悪く動き回る蛇たちから放たれる邪気は普通じゃない。
「アテナのことを知っていて話さないということはアテナは君たちに殺されたのか捕まったのか」
「こ、殺してなんかない!」
リンが反論するがそれは逆効果だ。
「ではでは、どこにいる?」
「そ、それは」
「いい、いい」
答えを聞く前に暗い男はリンの答えを望まなかった。
「自分で聞き出す」
すると鞘の蛇たちが何かを悟ったように一斉に動き出すと同時に暗い男は剣を掲げる。
「黒の騎士団、副団長。デニロ・マルチェ。規則だし名乗る。でもでも、きっと俺の名前は広まらない。なぜなら―――」
その時、鞘の蛇たちが一斉に黒の騎士団副団長のデニロの腕にかみついた。血が噴き出てその血が暗い顔のデニロの顔にかかって不気味さが増す。蛇たちのその噛み付き方は容赦なく肉を削ぐように噛み付いた。ゴリゴリと言う音が書く蛇たちの口元とから聞こえてその度に血が噴き出る。
「な、なにをしてるの!」
リンが青ざめた表情で尋ねる。それはあまりにも痛々しい光景だからだ。
あの蛇たちはデニロの腕にかみついている目的は何か。真っ黒な蛇たちの体に管のようなものが浮かび上がった。その管はうっすらと赤い色をしていて何かが流れている。蛇たちの口元から剣の鞘に向かって。
「血を吸っている」
目のいいリュウガが呟く。
「なかなかいいことに気付く」
剣の刃を俺たちに向けると蛇たちは噛み付くのを止めた。
「形態大刀」
そう呟いて剣の刃を寝かすようにして下すと銀色の刃が真っ赤に染まって行き刀身が長くなり柄も長くなりそれはデニロが言ったような両手で持たなければならないくらい大きな刀、大刀へと姿を変えた。血が濁った赤黒い色と純粋な赤い血の色で出来た刃。
「吸った血で作ったんか」
俺が今まで見て来た剣系の魔武による刀身の拡大はいくつも見て来た。梨華の持つ左氷刀も氷で刃を大きくする。だが、その血で行うというのは聞いたことがない。
「アテナの居場所答える気がないのなら強引にでも吐かせる。では――――行く」
廊下の大理石を蹴って俺たちに向かってきた。後ろの少女はわなわなしているだけで何もしてくる気配はゼロだ。3対1でもリュウガとリンは接近戦を苦手としている。そうなると自然と俺が前衛で2人が後衛ということになる。
「まかせろ!」
「了解や!」
「任せるよ!風也ちゃん!」
チェーンでつながった両手剣を構えて大刀の斬撃を受け止める。その瞬間、異常なまでの重さを感じた。
「な!」
その斬撃の重さに思わず声が上がる。その重撃は剣を握る手が重さで痺れるくらいだ。
おかしい。確かにあの刀身は普通に比べたら大きいがそれだけでこの重撃はおかしい全身の力が今の一撃を受け止めただけですべて削がれてしまいそうだ。デニロという男が特別筋肉質というわけじゃない。なら、この攻撃の重さはどこからきている。
「ぬああぁぁぁぁぁぁぁ!」
両剣を振りあげてその思い攻撃をはじいてすぐさま攻撃に転ずる。両魔武に風を宿して突っ込む。あれだけの重い攻撃を筋力のあまり高くないあの体で行いということは結論から言ってあの剣が異常に重いということ以外に理由はない。ならば、あまり振り回すのは難しいはずだ。そうなれば機動戦だ。
狭い廊下だが俺の剣術があれば素早い攻撃から隙を作るのは容易だ。
「はぁぁぁぁ!」
右の初撃は大刀で受け止める。その攻撃をわざと受け流されるように風の勢いを使ってデニロの頭上に飛び上がって身をひるがえして背後に着く。
「背中取った!」
背中に向かって両剣で斬りかかる。デニロは反応するがその重い刀では背後の攻撃を防ぐことは難しいはずだ。と思ったのだがいとも簡単に大刀で斬撃を防いだ。それどころか大刀を切り上げて俺の攻撃をはじいた。その重い攻撃に俺の体が宙に浮いて天井に向かって突き上げられて天井に背中を強打する。痛みで自由が利かずそのまま落下するところをデニロは大刀を構えて狙うところをリュウガの銃撃が妨害する。銃弾が刃に当たって赤黒い炎をあげて爆発する。その隙に痛みをこらえて、風を起こしてリュウガの前に戻る。
「風也!大丈夫か!」
「このくらいは」
なんともないと言いたいが一撃一撃が重すぎてそれを受け止めるたびに腕がしびれて感覚がなくなってくる。握力の低下で剣を握るのも苦労してしまうくらいだ。そんな重い攻撃をあの男は連続で繰り出す。あの剣に何かその斬撃を生む秘密がある。
「風也。俺らがけん制するから隙を狙うんや」
「了解」
銃を構える。リュウガを見てデニロが後ろの少女に何か話しかけて目線がそれた。その隙を俺たちが逃すわけがない。
「行くぞ!」
風を起こして再びデニロの懐に飛び込む。
「リン!」
「分かってるよ!リュウちゃん!」
スカートの紐をちぎって魔力を流すことで伸びて鞭のように自由に動かすことができ、その先で時空間魔術を使うことができる。どうも、ちぎる紐スカートの位置で時空間魔術の種類が違うらしい。どう仕分けているのか知らないがその紐スカートがリュウガの足元に刺さると時空間の穴が出来上がる。リュウガは目を閉じて集中してカッと目を見開いてリンの作った時空間の穴に銃弾を撃ち込むとデニロの背後に時空間の穴が出来上がり、リュウガが撃ち放った銃弾がデニロの背後から襲い掛かる。その銃弾を察知したのか振り返って銃弾が飛んでくる前の何もないところを大刀で斬った。その瞬間、銃弾が着弾する前に龍属性の火属性の炎が上がってしまった。
「な、なんでや!」
「考えている場合じゃない!」
背中を見せている今がチャンスだ。
「見え見え」
振り返る勢いを使って大刀で俺を斬りこんでくる。その攻撃を受けることはせず小規模に爆発的に風を起こして体を少しだけ宙に浮かせて大刀の斬撃を棒高跳びのごとく躱す。そして、そのままひねった勢いを使ってデニロに斬り込む。
普通の剣でも目の前で斬撃が躱された動揺から防ぐことはできない。
振りかざした斬撃はガキンと金属同士がぶつかる音と共に剣に伝わる衝撃が放った斬撃が金属の何かで途中で止められたことを教えてくれる。
「は?」
デニロの大刀の刀身は俺の握る剣とぶつかっていなかった。俺の剣の刃がデニロを切る前にあるものが妨害した。それはデニロの握る大刀の鞘から生える蛇が刀身に噛み付いて攻撃を受け止めた。
このままではダメだと斬撃をくわえていない方の魔武で風を起こして一旦デニロの頭上を通過して背後に着地する。その隙を狙ってデニロが大刀を振りかぶるがそこに時空間の穴が出来上がる。リンの時空間魔術とリュウガの龍属性のコンビネーション攻撃だ。しかし、その攻撃はデニロの鞘から生える蛇たちによって銃弾を丸呑みにされた。
「何!」
驚きの声はリュウガだ。
俺は驚いている暇もなくただデニロの大刀からの斬撃を受け止めるしかなかった。両剣でその斬撃を受け止める。斜め切りの攻撃を受け止めるがその重さに踏ん張りが利かずにそのまま体ごと吹き飛ばされて近くの隣の部屋の扉を突き破って数メートルバウンドしながら飛んで部屋の中にあった物にぶつかってようやく止まる。
「風也ちゃん!大丈夫!」
答えられなかった。
息を整えるのがやっとだったからだ。
リンとリュウガは時空間魔術を使って俺のもとに飛んできた。リュウガは銃を構えて部屋に入ってくるデニロを警戒する。
「意外と頑丈」
俺が吹き飛ばされて入って来たのは大きな部屋だ。月明かりが灯る夜をイメージした日本庭園のような部屋。確かMMの趣味で作られた応接間か何かのひとつだったはずだ。広くなった分、風属性の機動性がいかせる。
リンに回復魔術を施してもらってから剣を握って立ち上がる。回復魔術を施してもらっても手のしびれが完全にとれたわけじゃない。
「もう一度聞く。アテナはどこなのか?」
この状況で吹き飛ばして行方不明になったと答えれば報復で俺たちが殺されかねない。正直に言って今まで少しタイプの違う強さで勝てる気がしない。フレイナや拳吉のような特別強い力を持っているわけでもない。どちらかと言えばリュウガやリンのような持てる力を無駄なく最大限に使っている感じがする。自分の弱さも強さも分かったうえでの戦い方。あの大刀の不利な点を分かっていたから俺の動きが見えていた。そうなれば、俺が対応すべきことは自分の持てる力を最大限には使った戦いをすることだ。
「残念だが答えられない」
「・・・・残念残念」
大刀を倒して切り上げて攻撃できるように身を低くしていつでも俺たちに間合いを詰める態勢を立てている。あの斬撃を防ぐことはできない。なら、俺の魔武を最大限に生かすしかあいつに勝つ方法はない。
「リュウガ。龍炎弾をあいつの足元に当ててくれ」
リュウガは疑問を投げつけることなく新しいマガジンを銃に装填して答える。
「分かった」
と告げた瞬間、リュウガは銃を発砲する。その早撃ちにデニロは対応できている感じはしなかったが柄の蛇たちは音だけでうねうねと武器の持ち主であるデニロを守るためか盾になるかのように広がるが、その蛇たちの口の中に銃弾が入る前に地面にぶつかった銃弾は赤黒い龍属性色の炎をあげて爆発した。
それを確認してから俺は左の魔武をデニロに向かって投げつける。風属性を帯びた投げた剣はチェーンで持っている方の剣とつながっているからある程度コントロールが出来る。だが、今はそんな細かい操作は必要ない。飛んで行った剣は龍属性の炎によって上がった黒煙の中を突き刺すように入って行って中にいるデニロを襲う。この黒煙を利用して背後から攻めてくるのではないかと判断していたデニロは正面から飛んできた刃に驚いた表情をしていたがしっかり斬撃を大刀で防いでいた。しかし、剣の勢いを殺すほどはいかず受け流されるように剣は大刀を滑ってデニロの頭上を通過して行く。その飛んできた剣に対応している隙を狙って横っ腹を狙う。
だが、その攻撃も通らなかった。再び金属同時がぶつかって斬撃の手ごたえが皆無になる。俺の斬撃を柄の蛇たちが身を挺して主であるデニロを守った。鱗もなくミミズみたいな体をしているのに刃が通らずしかも金属にぶつかるような音がする。
「一体どんな体してるんだ!」
蛇たちが稼いだ時間を無駄にしないデニロはすぐさまその斬撃で襲う。
「くそ!」
大きく後ろに飛び退いて斬撃の届かないところまで退避する。その間、剣を引いてチェーンでつながって飛んでいる方の剣でデニロの背後を襲うがまるで分かっているかのように今度は剣の勢いを完全に殺す斬撃ではじく。
「ぬるいぬるい」
そんなデニロに向かってリュウガ発砲する。表情ひとつ変えずに大刀を振ると銃弾は着弾する前に赤黒い炎をあげて爆発した。
「なんでや!なんで着弾する前に魔術が発動するんや!」
リュウガの銃弾は着弾と同時に銃弾に組み込まれた魔術が発動するという仕組みになっている。その銃弾が着弾する前に爆発してしまうというのは何かおかしい。
「ただの県から発せられる風圧に何を驚いているのか?」
風圧が銃弾の着弾を誤認させたというのか?それだけの風圧を生み出しているあの剣の重さはいったいどこから来ているんだ?
疑問を投げかける間もなく戦いは進む。
「攻守交代。次はこっちが攻める番」
今度は何の前触れもなく突然地面を蹴って間合いを詰めてきた。何か嫌な予感がした。リュウガも同じことを思ったのか接近してくるデニロに向かって銃を撃つが大刀を振って着弾する前に赤黒い炎をあげて爆発する。その炎を切り抜けてさらに勢いを増して近づき大刀の間合いに急接近し振りかざしてくる。大きく踏み込んで回転するようにして銃を構えるリュウガに斬撃をお見舞いしてくる。あの距離では龍炎弾が装填されている銃弾では自分に被害が被るから下手に撃てない。躱せばその躱したすきを狙われる。リュウガとリンにはあの間合いから攻撃を防ぐことはできないし、咄嗟の回避をあれだけの剣豪が見逃すわけもない。となれば俺があの攻撃をどうにかするしかない。
剣を握る両手の力は抜けかかっている。あの勢いから来る斬撃を完全に防ぐことはできないだろう。それでも教太だったらその斬撃で誰かが死ぬというのだったら身を挺して守るだろう。誰も殺さない自分も死なないというほぼ無理難題の約束を守るために。今いる領域で約束を守ることができないのならば次の高い領域に足を延ばす。そうやって行くうちに俺とは違う領域にあいつはいる。最初は右も左も分からないひよっこで俺の方が高い領域にいたんだ。あいつにできて俺にできないわけがない。
飛び込んできた勢いと回転の勢いにあの大刀が持つ重撃を考えれば今までの斬撃と比にならないくらいの威力があの剣にはある。普通に考えれば受け止められない。受け止めてやる。俺のすべての力を前面に押し出して。
「来い!」
両剣を強く握りしめて容赦のない斬撃を真正面から受け止める。
その瞬間、予想以上の思う攻撃が俺の全身を潰してしまうかのようにのしかかる。デニロの表情は余裕そうだ。今までの普通の攻撃ですら一度受け止めるごとにふらついていてはこの攻撃は防げないだろうと思っているに違いない。俺もそうだ。この斬撃の重さは普通の剣の斬撃に領域をとうに超えている。俺のいる領域では防ぐことはできない。
その考えが甘えだ!
防げないというから防げない!できないと言ってしまえばできるはずがないという前提が頭の片隅から離れずできるものもでき失くしてしまう。可能なことを不可能にしてしまう負の言葉。
だから、俺はこう言おう!このまま耐えて見せる!いや、このままはじきてばしてやる!
「吹き荒れろ!風よ!」
魔武に魔力を流し込んで両剣から一斉に強い風を吹き出させる。デニロの軍服が髪が俺の衣服が斬撃による勢いではなく魔武が起こした風によって揺れる。それがどういう意味を示しているか。それは斬撃の勢いよりも風の勢いの方が増しているということだ。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
ぎしぎしと俺の剣が折れるのではないかという鍔迫り合いの中で押し込まれていた俺は風を力を借りてどんどん押し返し始めた。デニロは急に押し返されたことに驚いたがそれもほんの一瞬だけで再び大刀に体重を乗せて俺がまた押し返される。
まだだ。まだ、こんなものじゃない。俺は死ぬわけにはいかない。アキナや教太の約束もそうだが、俺の帰り待っているたった一人の思い人のために、俺は・・・俺は―――。
「こんな程度じゃ終わらない!」
さらに風が強く吹き荒れて部屋に設置されている木々がまるで嵐がやってきたように激しく揺れる。そして、鍔迫り合いで負けていた俺はついにデニロの斬撃を完全に撃ち返し弾き飛ばした。両剣をクロスするようにデニロの斬撃を弾き飛ばした瞬間、重撃を受け止めたことで無理をした手には力が入らず剣は俺の手から離れて後方に滑って行ってしまった。
しかし、攻撃を弾き飛ばされたデニロは動揺したまま押し上げられた大刀はそのままに態勢を完全に崩している。そこに大きな隙が今までない絶好ともいえるチャンスがそこにあった。斬撃を防いで喜んではいられない。俺はただデニロの攻撃を防いだだけなんだから。
「リュウガ!」
俺は名を叫ぶと斬撃から免れたことが嘘のように現実の状況から抜けていたリュウガに一気にスイッチが入りデニロに向かって容赦なく銃弾を撃ち放つ。と同時にリンが紐を伸ばして俺の胴体に巻きつけて一気に引き上げて後退させる。それはリュウガの炎の被害から俺を救うためだ。俺の後退と入り替わるようにリュウガの銃弾がデニロを襲う。撃ち放った銃弾は4発。デニロは先ほどのように大刀を振って銃弾を途中で爆発させるような態勢ではない。が、彼を守るかのように動く柄から生えている不気味な蛇たちが銃弾を丸呑みにする態勢に入っている。
「まさか、俺が何度も同じ手に引っかかると思ったんか?」
その言葉を発した瞬間、4発中最初の2発の銃弾同士がデニロの正面でぶつかって赤黒い炎をあげて爆発した。リュウガの常人を越えた眼と銃を扱う技術を持っている。その眼と技術が最初の二発をデニロの目の前で爆発させた。その理由はひとつだ。後に撃った残りの2発を生かすためだ。
黒煙の上がったところに残りの二発が突っ込んで行って一発はデニロの頬をかすめてはるか後方で赤黒い爆炎をあげたが残り一発は大刀の鞘から生える蛇に当たって同じく赤黒い爆炎をあげて爆発した。爆発の勢いでデニロはそのまま吹き飛ばされるが、大刀を手放さないところを見るとさすがだ。
「デニロ!」
ずっと、見ているだけの少女がデニロを心配するような声をあげて不安そうに見ている。彼女がどうして手を出してこないのかは謎だ。黒の騎士団だから手練れであるということは間違いない。でも、手を出してこないことに越したことはない。今はデニロだ。
リュウガの攻撃をもろに受けてデニロはゆっくりと立ち上がる。炎による熱で体からは白い蒸気が上がり軍服も左半分が焼け焦げてインナーの白のワイシャツが見えている。左腕の衣服は完全に焼け落ちていて生々しく血も流れている。それを柄の蛇たちが舐めるように飲んでいく。立ち上がることが出来ず大刀を床に刺して体を支えているという状況だ。
「少し少し君たちを過小評価していた。だから、少しは気合を入れる」
少し気合いを入れるってどういうことだ?
両手に力が完全に入らない状態の俺はその意味を悟っていながらも理解しようとしなかった。
気合を入れる。つまり、今まではただの余興だったということだ。
柄の蛇たちが一斉にデニロの腕に再び噛み付いて血を吸いあげると同時に赤い刃が鈍く輝きを取り戻した。やはり、あの蛇が吸い上げた血が刃になっている。しかも、それが大刀の切れ味に直結しているような感じだ。もしかしたら、今までの重撃もあの大刀からなるものだったとしたら―――。待てよ。そもそも、あの大刀は一見普通の両刃の直剣だったのが、蛇がデニロの血を吸うことで大刀へ姿を変えた。つまり、あの剣は魔力ではなく血を糧として力を得ているということだ。それはどういう意味を示すか。春先の5月に教太と初めて会ったあの日に梨華が嫉妬に狂って手を出した悪魔の力。
「デニロ。お前、その剣、悪魔術だな」
「・・・・今更か」
大刀を杖にゆっくりと立ち上がるとぎろりとリュウガを睨む。
俺に向けられたものでもないのにその殺気に思わず身が縮こまるがその殺気はリュウガ向けられている。
「リュウガ!」
俺が声を上げよりもコンマ数秒早くデニロが動いた。大刀を構えて高速でリュウガに接近する。銃を構えて早撃ちするが発砲音と同時に身を低くして弾道から外れた。そして、銃以外に武器を持たないリュウガは最初一発を外してしまったというのは致命的だった。
「君は銃がないと何もできない」
そう言って大刀を切り上げてリュウガの銃を弾き飛ばした。リュウガはなにくそと十字架とカードを取り出して対抗しようとするが、デニロは切り上げた大刀をそのまま切り下げてリュウガに斬りつける。左肩から腹にかけて斬りつけられて同時に血が噴き出る。
「りゅ、リュウちゃん!」
斬りつけられたリュウガは握っていたカードと十字架が手から零れ落ちてそのまま力なく倒れた。
「よくもリュウちゃんを!」
激怒したリンがスカートの紐をちぎるだけちぎって一斉にデニロに襲わせる。デニロに近づいた瞬間、時空間魔術を発動させて時空間の穴を生成する。穴とその隙間には空間がねじれてすべてのものを破壊してしまう。以前、その性質を使って非魔術師を打ちのめしたこともある。だが、今のリンは冷静ではない。デニロを直接狙って時空間の穴を作って攻撃するが軽快にバックステップをして躱して回転するように大刀を振るとその勢いに紐が負けて飛ばされてしまう。その隙を狙って一気にリンに接近する。負けじとリンは紐をデニロの剣に巻きついて妨害する。しかし、デニロは大刀を振りまわすとその重い大刀に紐がいとも簡単に千切れる。そして、地面を蹴って一気に近づく。
俺も何が妨害しないといけない。震えて力の入らない手で落ちた剣の内一本を宙に投げて地面に転がったチェーンでつながった剣を振れて魔力を流して風を利用してデニロに飛ばすが、無駄な抵抗だった。簡単に弾かれてしまった。
「女性を傷つけるのは性に合わない」
と言ってリンには斬りつけず腹部を蹴って飛ばした。地面を何度もバウンドして部屋の中にあった池の中に大きなしぶきをあげて落ちた。
「リン!」
「さてさて、次は君」
剣を握ることのできない俺はどうすることもできない。そんな俺にゆっくり近づいてくる。蛇たちが噛み付いた腕からはぼたぼたと血が滴り垂れる。痛みを感じないのか?俺と同じように腕に力が入らなくても不思議じゃない。これが実力という奴なのかと実感する。その力の差に愕然とする。
「君の剣術は見ものだった。これからも成長がみられる。殺すのは惜しい。だから、答えてほしい」
俺の元までやって来ると喉元に大刀の剣先を突きつける。
「アテナはどこなのか?」
こいつが戦う理由。同じ団員を探しに来ただけだ。戦いを望んでいるわけではない。俺たちが真面目に答えていたらこいつはどう対応していただろうか。この状況下ではアテナの詳細は言うべきではない。そうなれば、組織と黒の騎士団の間で戦争になりかねない。それはMMですら望んでいないはずだ。だから、これはこうしか答えられない。
「分からない」
「・・・・そうか」
その答えに納得のいかない風に答えて俺に突きつけていた大刀を下した。どう思ったのか分からなかったが下した大刀の柄の目のない蛇たちがこちらをジッと見つめている気がした。
「どうしても教える気はないのか?」
「教えて俺たち組織側に利点は何もない」
「そうかそうか。真面目。それがあだとなるのか」
それは突然だった。棒立ちしていたデニロはその足で俺を蹴りあげた。棒立ちだったおかげかその初動を見極めることが出来て両手でその蹴りを防ぐが押し倒される。デニロはそんな俺の右腕を掴んでひねらせて背中に回されて鬱癖になるようにして抑え込まれた。抜け出そうとすると背中に回された腕を後頭部付近まで上げてきて痛みが増して抵抗が緩んでしまう。
「テメー!何を!」
「何もしない。ただただ、俺の力になってくれ」
そう言うと大刀の柄の蛇たちが一斉に俺の方を向いて一斉よだれを垂らしながら口を開いて一斉に俺の拘束されていない左腕にかみついてきた。
「ああああああ!」
えぐられるように噛み付かれた痛みと血が吸われている気味の悪い感覚が俺の左腕を襲う。この武器はこの蛇が吸った血がそのまま力に代わっている。その血は悪魔術の契約者ではないデニロでも行けるというのか。それはもはや正義を語る黒の騎士団の行う行動じゃない。
「この悪魔術使いめ!何が世界の警察だ!悪魔術を使う時点で正義を語れていない!」
俺の講義にデニロは冷静に返した。
「魔術も悪魔術も同じ魔の力で悪い力。どっちが悪でどっちが正義なのかは使う者次第。俺はこの悪の力でこの世界にゆがみを正す。争いを生むもの、争いに賛同するもの、争いを好むもの。すべての悪を悪で罰する。それが俺だけの悪の領域」
腕に食いついた蛇たちを振り払おうとすると深く食いついた蛇たちの牙によって腕の傷口が広がって強い痛みが走る。右腕が組まれてしまって動けない。重撃によって手がしびれて力が入らず血を吸われてどんどん左腕の感覚がなくなっていく。このままだと殺される。この吸血蛇に血を抜かれて殺される。
「もう一度、もう一度言う。俺は君を殺したくない。だから、答えろ。アテナはどこなのか?」
答えなければ死ぬ。言わなければいけない状況にどんどん追い込まれていく。リュウガもリンも姿が見えない。言うしかない。アテナは徳川拳吉が吹き飛ばして行方不明だ。死んでいるかもしれないと。
決心した時であった。
「デニロ!う、上!」
デニロの背後で何もしていなかった少女が叫びデニロが上を見上げると俺の腕にかみついていた蛇たちが血を吸うのを止めて大刀の柄部分に引き上げると俺の襟を掴んで投げ捨てると大きく後方に対した瞬間であった。空気を切るような轟音と共に天井を焼き溶かして突き破って俺たちのいたところが息をするのも辛い灼熱の炎に覆われる。
「何か楽しそうなことやってんじゃん」
灼熱の炎の中で立っているひとりの女。毛先が上に沿うような癖毛をしたシャツ根の炎と似た赤髪の女。肩を露出させたキャソールに太ももを大胆に露出させたホットパンツをはいた女は灼熱の炎の中から一歩出ると炎がデニロの大刀の蛇のようにまとわりつく。
そして、白い歯を見せて笑いながらデニロと少女に向けて言う。
「あたしゃも混ぜろよ」
それが戦いを好み、自らの力を試すことにその炎のすべて使う暴君。組織の2番目の権力を持ち4大教術師のひとり爆熱の教術師、フレイナという女だ。




