混乱戦②
真っ黒な空間の向こう側に光が見えてその光がどんどん大きくなってきてその光の中に飛び込むと今まで時空の穴の中で浮いていた私の足が地に着く。急に地面に足が触れたせいで足がそれにすぐになれずに一度足をふらつかせえその場で尻餅をついた。
「こ、ここは?」
顔をあげるとそこは薄暗い部屋だった。ひとつの窓から光が差し込んでいるけどその光は強くない。それでも外の様子から昼間何だろうなって言うのは分かる。書庫のようで本が埃をかぶって保存されている。埃っぽい部屋を見渡すデニロ。
「なるほどなるほど。ヤシマはなかなか精度の高いことをするのか」
「どういうこと?」
「ここはMM率いる組織の本部の一室。わざわざ人のいないところに時空間魔術で送ってくれた。優秀な時空間魔術師だ」
デニロはカードを取り出して十字架を打ち付けるとカードを中心に手のひらサイズの三角の陣が浮かび上がってそのから剣を取り出す。両刃の直剣で鞘辺りには丸いものがあって包帯でぐるぐる巻きにまかれている。あれがデニロの使う武器。初めて会った時に言っていた、確か吸血の血刀とかいう剣だ。悪魔術の剣だとか。ちなみに私の青色の炎も同じ悪魔術だ。魔力を使う魔術に対して悪魔術は魔力を使わなくても発動できる魔術。青炎の場合は不安だったけど、吸血の血刀の場合は何なのかは聞いていない。でも、名前から大体察しがつく。
その武器を取り出したということは戦闘態勢ということだ。私も震える手でカードを取り出す。私の不安を糧に発動させる青色の炎を発動させるためのカードだ。十字架を汗ばむ手で握る。
「行く。君は無理せずに待機。状況によったら戦闘に参加」
「わ、分かった」
これから私が向かおうとしているのは殺し合いをする場所。そこに足を踏み入れようとするだけで不安になって足がすくむ。これでもしキョウ君がこの魔術の世界にいなかったら私は黒の騎士団をこの青色の炎で燃やしてしまおうと思う。
「君の力は不安。ここで声をかければ君は弱くなる」
声をかけるということは私を安心させるということ。不安の逆のことだ。今までデニロが徹底していたことだ。
「でも、これ以上は君が壊れる。だから、最初で最後の言葉。大丈夫。君にはその炎と俺がいる」
私を救う励ましの声だった。暗く気味の悪い男だったデニロが少しばかりかっこいいと思ってしまった。大丈夫だって言う言葉がこんなにも暖かくて安心する言葉なんだって不安の海にいた私は初めて感じた。
「好感度アップ」
その言葉がなければ完璧だったのに・・・・。
何嬉しそうにしてるの!何私を狙ってるの!私には思い人がいるからデニロみたいなおっさんには興味なしだから!
しかし、斉藤さんの狙っているという言葉と最後のデニロの言葉が一致することが私を不安にさせる。これから長い間いっしょに過ごすことになったら私はどうなるのだろうと。安心させておいて大きな不安を抱かせるとはやはりデニロという男は徹底的な男だ。
扉を開けるとそこは今いる部屋よりも薄暗い空間だった。警戒するように扉から顔を出すと廊下にぼっと明かりが灯る。それを確認するとデニロは部屋から出た。安全が確認できたのか手招きして来たので私も部屋から出るとそこは大理石でできた廊下だった。廊下の先はゆったりと曲がっているのでその先は見えないようになっている。見えたとしても窓ひとつないこの暗さできっと何も見渡せなかっただろう。
無言でデニロが歩き出した。私はただついていくしかなかった。冷たい大理石の廊下を歩いていくと私たちに合わせて取り付けられた証明が点灯しては私たちが離れると消える。同じつくりの廊下をひたすら歩いていると急にデニロが歩く足を止めた。
「どうしたの?」
「前々」
デニロが前を指差すとその先が淡く光っている。その光がゆっくりと強くなっているということは誰かが前から歩いてきているということだ。ここは敵対組織の本部ということは歩いてきている誰かは敵ということになる。
「ど、どうするの?」
「ちょうどいい」
「何が!」
「アテナがどこにいるか聞く」
そのまま歩いてきている誰かの方に向かって歩き出した。本気で聞くつもりらしい。けど、今の私たちは黒の騎士団の軍服を着ているから組織の人から見れば敵だって丸分かりだ。
「ま、不味いって!」
「大丈夫大丈夫」
その大丈夫は私を全然安心させない大丈夫!
動揺する様子も見せないで普通に歩いてゆく。そして、見えてきた人影は3つ。ひとりは学ランのような黒いコートのような服装をした黒髪の男でひとりはキャソールにおへそを出して紐スカートの茶髪っぽい女で最後のひとりはワイシャツに黒ズボンの同じく黒髪の男だった。黒の騎士団のように服装を合わせているけど、この組織はそうでもないようだ。私は隠れるようにデニロの背後に立って歩く速さに合わせて歩く。
「ちょっとちょっと」
自分から声をかけた!
「ん?お前誰や?」
思いっきり警戒されている。
互いの周りを明るくする明かりが集結した途端、前から歩いてきた3人のうちのひとりが収納魔術から武器を取り出した。二本の日本刀が柄からチェーンでつながっている剣を私たちに向ける。
「そのエンブレムは黒の騎士団だな?」
剣を向ける男が言うと後のふたりも警戒する。残りの男が懐から拳銃を取りだし女の方はスカートの紐をちぎった。女の行動に反応したのはデニロ。
「いいねいいね」
いいねじゃない!武器を向けられるのよ!
と言えるだけの心境じゃない。
「どうしてこんなところにおるんや!組織の本部の中やぞ!」
「まぁまぁ、落ち着け」
「この状況で落ち着けると思っているのか!」
「ここは平和的に話し合いで」
「平和的ってどうして突然組織本部中にいるの?」
「考えれば分かる」
「時空間魔術か」
魔術の世界では長距離の移動には時空間魔術が用いられるらしいから、ほとんどの魔術師は時空間魔術のことを知っているらしい。
「確か条約で時空間魔術を使っての敵地の急襲は禁止されてるやろ!」
え!そうなの!
私って本当に何も知らされていないみたいだ。不安を募らせるためとはいえ徹底的すぎて逆に怖い。
「禁止されているのは知っているが原則だ」
「原則禁止でも世界の警察を語っているような組織が条約ひとつも守れないようじゃね」
ここに来る前にデニロとヤシマさんの話から条約で禁止されていることを今からするという時の空気はすごく軽かった。それは禁止されていることを平然とやっている感じだった。
「ここに来たのは連絡が取れなくなった仲間を探しに来た。アテナ・マルメルと言う女を知らないか?」
するとその3人は身に覚えがあるようで多かった口数が急に減った。
「知っているのか?」
「・・・・知ってるが」
「知ってるんやけど」
「知ってるんだけどな~」
あれ?急に言葉を濁してきた。
「うむうむ。分かった」
何が分かったのか分からないけど、デニロの握る剣の鞘の包帯で巻かれていた球体がもぞもぞと動き出した。その動きは気味が悪くて不穏な空気という嫌な感じがした。
私はこの青色の炎をどうやって扱うのかは最低限のことは学んでいる。最低限で実戦ではどうやって活用するかは全く知らない。これも私を不安にさせるためなんだけど私はいろんなことを知らな過ぎる。
それでも私はこの炎で自分の身だけは最低限守る必要がある。それだけは分かる。
「下がって下がって」
小声で私に告げる。
「君は後ろで見ているだけでいい。後はやる」
やるという言葉と同時に剣の鞘に包帯に巻かれていた丸いものが卵から孵化したように包帯を突き破って吹き出す。真っ黒な粒子を放出して無数の蛇のようにうねうねと動くそれは気味が悪かった。うねうねと動いているそれの表面は真っ黒で鱗みたいなものはなく光沢もない。そして、その先は丸いがぱっくりと割れて無数の歯をはやした化物が現れる。鱗もない目もない鼻もない。真っ黒なその蛇のような生物は剣の鞘から生えるように自由に動き回る。しかも、それが一匹二匹じゃない。うじゃうじゃとまるでメデゥーサの髪の毛の蛇のように目のない蛇のような生き物はデニロの腕や剣の刃に巻きついたり唾液を飛ばして威嚇したりしている。
「さぁさぁ、始めよう」
悪魔術の契約系魔武、吸血の血刀。それの強さを私も目の前の魔術師も知らない。




