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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
悪の領域
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混乱戦①

 ひらひらと白い羽が舞う。

 だだ、呆然と起きたことを見ているしかできなかった。俺こと風上風也みたいな凡人がとどまっている領域とは違う。次元の違う戦いが俺の目の前で繰り広げられていた。白い羽が剣に纏って来た瞬間、突き刺すような痛みのせいで魔術を発動させることが出来なかった。魔術の発動妨害の魔術は聞いたことがなかった。そもそも、あのアテナという少女の使う力が魔術なのか教術なのか分からずじまいだ。きっと、拳吉と同じ魔術のくくりから外れた力なのかもしれない。それならば俺たちの考えを超える力なんだろう。そんな力と力が激突し凄まじい衝撃波で砂埃が舞い上がりその砂埃が晴れると白い羽がひらひらと舞っていた。

 その中心にいたはずのあいつの姿はどこにもなかった。そこにいたのは全身傷だらけの拳吉の姿だけだった。

「拳吉様!」

 その傷に慌てて拳吉の家来の左京が掛け寄る。

 ジャージには切り傷のようなに敗れてその部分の肌が真っ赤に晴れている。やけどに似た傷だった。しばらく立っていた拳吉も痛みのせいでひざから崩れる。

「大丈夫ですか!」

「大丈夫だ、右京」

 ああ、右京だったか。

「ちょっと!教太ちゃんは!」

 リンが姿の見えない教太のことを尋ねる。

 そうだ。確か教太があのアテナという少女の羽が全身を覆われてしまっていた。その羽ごとをどこかに連れ去ろうとするところを魔術の発動を妨害する羽に纏わりつかれながらも強引に攻撃を繰り出した。拳吉の力は強大で加減を間違えればひとつの国を潰しかねない。そんな力の余波のせいでアテナに向けて撃った攻撃が教太にも影響を受けたのではないかと心配になる。

 美嶋さんがMMの元に行ってしまった中、教太まで消息不明で最悪の場合になってしまったらアキナの精神状態が正常で保てるはずがない。しかも、今のアキナは魔術が二度と使えないかもしれないという絶望的な状況下に立たされている。そんな精神的に弱っているアキナにとどめを刺すようなことだけは避けなければならない。一度、命を救ってくれた者として。

 俺は拳吉に駆け寄る。

「おい!拳吉!教太はどこだ!まさかアテナごと殺したって言うのはないだろうな!」

 剣を突きつけて脅すように尋ねる。

「風上様!おやめください!」

 上京が邪魔をするように刀を構える。

「止めろ、左京」

 あ、お前が左京だったのかよ。

 ぼろぼろの拳吉は右京に回復魔術を施されて少しずつ傷が癒えているがそれでも全身の痛々しい傷は見るに堪えない。

「教太は死んでいない。たぶん、あの天使も死んでいない」

「なんでそんなことが言える」

「ワシが吹き飛ばした」

「吹き飛ばしたってなんだ!」

「いや、ワシの力の発動を押さえようとする羽の妨害を退けるために解放段階を4まで上げたんだが、妨害が予想以上で加減が出来なかった。それでワシは機転を利かせて直撃を避けて教太の足元にパンチを繰り出し教太自身に被害が出ないようにした」

「何が機転を利かせただ!結局、教太ごと吹き飛ばしてどうするんだ!」

 今、教太は黒の騎士団のアテナといっしょだ。しかも、あのアテナは教太の拘束を目的としている。しかも、MMの力が及びにくい組織本部と拳吉のいる中央局から離れることが出来たというのは都合がいい気がする。

「なに相手に都合のいいことをしているんだ!」

「いやいや、すまん」

 すまんで済まないだろ!

「リュウちゃん。MMに連絡を」

「分かってるで」

 リュウガとリンがMMへと連絡を入れようと話し合っている。拳吉は教太に被害はないと言っているものの信憑性は薄い。もしかしたら、教太は拳吉の攻撃によって粉々になってしまっている可能性だってある。誰もがこの状況に困惑をする。

「上京!」

 拳吉が再び家来を呼んだ。

「教太の捜索隊を編成してすぐに探しに行け。MMよりも先に見つけるんだぞ」

「分かりました」

 それを聞いたリュウガが中央局に向かおうとする上京に銃を向けた。

「動くな。何勝手に動いとるんや」

「教太の捜索は優先事項だぞ。それを妨害するということは我が国民を見捨てろと脅していると判断してワシが直々に主を制裁を下すぞ!」

 拳吉の全身から威圧を感じる。これが全身から噴き出るという魔力によるものなのか拳吉が持つ威圧からきているものなのかは判断が出来ないが、対してリュウガはひるむことなく構える銃を拳吉に向ける。

「待て!今は身内同士で争っている場合じゃないぞ!この瞬間も教太が黒の騎士団に連れ去れているかもしれないんだぞ!」

 俺の仲介によってリュウガは銃を下して拳吉の威圧も消える。

「教太はワシらが保護する。邪魔をするな」

 拳吉はその捨て台詞をして足を引きずりながら中央局に行ってしまった。

「リュウちゃん!MMから連絡がついたよ。どうやら、捜索隊を組んですでに捜索に向かわせているらしいよ。私たちは一旦本部に戻って黒の騎士団の団員の情報を開示してほしいって」

 黒の騎士団は3大魔術組織で世界の警察を名乗り世界の秩序を保とうとするのを目的とした組織だ。そのため、重大な理由がない限り戦闘に加入することはほとんどない。だから、黒の騎士団に属する魔術師、教術師の情報は多くない。俺が知る限り知っているのはツクヨの夫で時空間魔術師のヤシマと団長のドジャー・マクレーンくらいしか知る名はない。

「風也はどうする?俺たちと本部に戻るか?」

 俺個人で教太を探しに行くという手もあるが中央局も組織もシンの力に龍属性の教術を使う国分教太という人物の力の欲している。この魔術世界に二つとない存在だからだ。捜索にはきっと多くの人を送り込んでくる。そう考えると俺だけで中央局よりも組織よりも先に教太を見つけることは難しい。

 力的に考えると中央局よりも組織の方がある。中央局にも教太獲得の意図があるように思える。だが、どちらかと言えば組織の方が力もあり教太を見つけるのはおそらく組織の方が早い。しかも、MMの元に教太がゆくというのは教太自身も望んでいないはずだ。一度、MMのそばについてしまえばそこから離れることは容易ではない。そうなれば、アキナはひとりになってしまう。

 それだけは避けなければならない。今の彼女は俺が出会った中で最も弱い。そんな彼女の支えをこれ以上奪わせるわけにはいかない。ならば、俺がやるべきことはひとつだ。

「俺も一旦本部に戻ろう」

 俺は組織に加担しているが、俺は組織のためには動かない。それは教太も同じだ。

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