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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
悪の領域
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青色の意志③

 デニロ・マルチェ。年は30代中盤くらい。結婚しているらしくすでに息子と娘がいるらしい。奥さんは元黒の騎士団の幹部らしいけど、デニロは団の副団長なので上司と部下の中による仲らしい。今でもちょっとした上下関係が家庭内でもあるらしい。というのをすべて斉藤さんから聞いた。

 私は彼から悪魔術を使う術を教わった。それ以外の物は教わっていない。悪魔術は魔術とは違う。魔力を糧とせずに力を使うことができるらしい。私の使う青炎(せいえん)は私の不安が糧になっている。それを考慮してなのかデニロは私に中途半端なことしか教えてくれなかったのだ。本当に魔術のすべてを教わらなくてもいいのだろうかという不安を私に持たせるためだ。

 そして、今私は魔術の世界にいる。アメリカの某所にある黒の騎士団の本部にいる。ここでもデニロは魔術世界にいると元の世界に帰れなくなるかもしれないという脅しをかけて私を不安にさせる。それが私の強さに直結するからだ。

「うええええぇぇぇ」

「大丈夫か?」

 斉藤さんに背中をゆすられる。共同の水飲み場の流しで私は嘔吐する。デニロの不安増強によって最近食欲も無くて少しやせた気がする。うれしいけど、げっそりとした感じがするのは見た目的に嫌だった。

「だ、大丈夫です」

 異世界という私の住む世界とは全く違う世界でたったひとり。ちゃんと元のキョウ君のいる世界に帰れるかどうかも分からない。デニロに仕込まれた青炎(せいえん)を強くするための教育の影響で毎日が不安でいっぱいで精神的にも私は不安定な状態だった。そのせいかこうして稀に嘔吐してしまう。その度に斉藤さんが介抱してくれるのだ。

「まったく。デニロも冷たいな」

「それがあの人の方針なんで仕方ないです」

 と割り切っているもののいつかは仕返ししてやろうとか考えている。たぶん、一生かかっても無理だと思う。こういう無理だという考えを持ってしまうのもデニロの思い通りのことならば私は一生敵わない。

 魔術世界に来たのは夏休みに入ってすぐでもうじき3週間たとうとしている。この慣れない生活によるストレスと不安が私の強さとなることが少し不満だ。もう少し気軽に私の使えるだけの力を十分に使えるだけの訓練をさせて帰してくれればいいもののそうさせてはくれない。

 一抹の不安と常に戦いながら私はこの世界で右も左も分からないで生きている。

「そや、ここは気晴らしに謎に包まれた黒の騎士団副団長のデニロの私生活にワイが密告してやるわ」

 密告と言っているが結構いろんな人に言いふらしているイメージがある。それで照れ隠しなのだろうかデニロに斬りつけられている姿を何度か見たことがある。ちなみに黒の騎士団は黒と赤色のラインの入った軍服なのに斉藤さんの服装は会った時のまんま。私もその団服の女性用を着ている。ズボンがスカートになっただけだけど。他に出会った女の人はそのスカートで空を飛ぶというのだから中が見えそうでないかと気にならないのかと思った。ちなみに話したことはない。負の力と言うものを強く嫌っていて悪魔術という負のイメージの強い力を私が使うからだ。別に好きでこの力を手にしているわけじゃない。

「実はデニロと今の奥さんはできちゃった結婚やったんやで」

「え!あんな堅守で真面目そうなイメージなのに!」

「そや!意外とあいつ遊び人で何度か愛人とかできて奥さんとその度に大喧嘩しているんやで」

 そのケンカの光景はデニロが正座して奥さんががみがみ上から文句と不満を言いぶつけている気がする。家庭内では弱そうなイメージだ。

「あいつって結構女癖が悪くてな。団のほとんどの女に手を出そうとしてるんやで。今度、女の団員に会ったら訊いてみ。絶対に一回は飯をおごられていると思うで。城野さんもきっと狙われてるで」

「え」

「やって、15歳やろ。食べごろやん」

「それ以上何も言わないでください」

 本気で寒気がして仕方ない。私の想い人はひとりと決めている。その人が私を認めてくれるまで私は待ち続けるつもりだ。こうして魔術の世界に足を踏み入れたのはそんな思い人が負担していることを少しでも軽くなればと思ったからだ。そんな心の支えがあるおかげで不安につぶれてしまいそうな私はつぶれないでいるのだ。

「香波香波」

 噂をするとデニロがやってきて思わず肩をびくつかせて驚いてしまう。ちなみにいつの間にか下の名前で呼ぶようになっているのも私を狙っていること?不安になる。

「な、何?」

「初任務」

 初任務って。

「あれ?こっちの世界に来たのは魔術に慣れさせるためやったんやないんか?」

 斉藤さんの疑問にデニロは答える。

「緊急事態。アテナと連絡が取れなくなった」

「マジか!」

 アテナというのは背中に天使のような翼をはやした不思議な女の子だ。なんか鋭い威圧みたいな嫌悪みたいなものを感じた。いっしょにいた別の女団員と楽しそうに話している姿を見たことがある。翼が生えているという点以外では普通の女の子だった。すぐに任務でどこかに飛んで行ってしまった。どこに行ったかは知らない。そんなアテナと連絡が取れなくなったというらしい。

「たまたま、連絡が出来ていないわけじゃないんですか?」

 その考えはすぐに否定された。

「いや。アテナに限ってそれはないで。あいつはまじめな奴や。定期連絡とかの細かいところはちゃんとこなすやつや」

 その後、ワイとは違うと付け加えた。

「アテナは日本にいる」

 日本。1週間ぶりに聞く私の故郷の国。と言ってもここは異世界なので故郷とは言い難い。それでも異世界の日本がどんな街になっているのか気になる。黒の騎士団の本部はニューヨークの小さなビルだ。そのニューヨークは私の世界と同じように高層ビルが建っている。街中は少し昭和くらいのニューヨークという感じだ。そう考えると日本はどんな感じになっているのか想像できない。第2次世界大戦のような大きな戦争の被害をあまり被っていないらしいからもしかしたら江戸時代みたいな古い家屋がまだ並んでいるかもしれない。いろんな想像が膨らむ。

 そんな想像をしているとデニロが私の手を掴む。

「え?」

「連れて行くんか?」

「少しでも少しでも実戦慣れした方がいい」

 実践慣れって何!

「ええんか?」

「団長からの許可はもらっている。大丈夫大丈夫」

 いや!大丈夫じゃないから!

「ちょっと待って!実戦って何!ただ、魔術になれるためにって無理やり連れてきておいていきなり実戦とかないでしょ!」

「大丈夫大丈夫」

「だから、大丈夫じゃないって!」

「大丈夫大丈夫」

「無理だって。だって、私は青色の炎でその・・・・人を攻撃するのか無理だって!」

「なら、大丈夫」

「何が大丈夫なの!」

「行く」

「嫌だ~!斉藤さん!」

「がんばれ~。ワイは仕事熱心な人を応援するで」

 ダメだ。アテナに自分の仕事を押し付けるような奴だ。私を助けたせいで自分の仕事が増えるようなことは絶対にしない。

「そもそも私は日本でどんなことをするのか知らない!」

「アテナの捜索」

 即答して引きずったまま階段を降りる。一段降りるたびにお尻が強く階段を叩く。

「分かった!いっしょに日本に行くから離して!」

 そう言うと突然デニロは手を離した。そのせいで危うく階段から落下しそうになる。

「いい光景」

 スカートがめくれあがっていることに気付いて慌てて裾を押さえる。斉藤さんの狙っているんじゃないか発言は脳裏をよぎると寒気がする。ただでさえ、暗くて不気味な雰囲気なのにそんな風に女の人を見るいやらしい目はその最低の印象をさらに最低にする。なんでこんな人が私の指導者なんだろう。まだ、斉藤さんの方がましなんだけど。

「行くぞ」

 わざとらしく手を振って階段を降りてきた。事故を装ってお尻を触る気だと直感で分かって先に階段を降りると上から舌打ちが聞こえた。聞かなかったことにしよう。

 私がいた階から3階降りた4階の廊下にデニロは入っていく。そのまま3階に下りようとする私は引き返してデニロの後を追う。そして、ある部屋に入る。そこには少しだけ白髪が見える中年のおじさん。ヨレヨレの茶色背広を着てニューヨークのファッション雑誌を読んでいるのはいつもの光景だ。私と斉藤さんと同じ日本の人らしい。

「デニロと香波ちゃん!」

 私の名前を呼ぶ時だけ以上にテンションが高い。中年のおじさんには女子高生という人種は心くすぐるものがあるらしいと斉藤さんから聞いた。あの人は仕事もしないで団員の裏話ばかりを集めているイメージがある。

「ど、どうも、ヤシマさん」

 私のお父さんと同じくらいの年齢で加齢臭がきつくてあまり近付きたくないというのが本音だ。

「団長から訊いているのか?」

「ああ、聞いてる。日本か」

「何か思い入れとかあるんですか?」

 ちなみに斉藤さんはアメリカ系日本人らしい。日系人ということだ。ひいおじいさんの世代で日本からアメリカに移住したらしいのだ。

「いや、1年くらい前まで住んでいたんだ。妻と子供たちを残しているんだ」

「そうなんですか!」

 てっきり斉藤さんと同じように日系人だと思っていた。

「ある人物がやって来てから何か不穏な空気があの国を包んでいるんだ。何か危険な戦いの空気があった。特に俺のような長距離移動の時空間魔術を扱える俺の周りにはその空気が他よりも濃い気がした」

「時空間魔術師は貴重」

「デニロの言うとおりだ。各魔術組織は大量の人材を一瞬で長距離移動させることのできる時空間魔術師を所持していることが組織力に直結する。俺は元々日本の中央局の人間だったんだが妙にその人物が建てた組織に対する仕事が多かった」

 時空間魔術というのを異世界同士をつなぐ強い魔術。他にも移動の短縮とかにも用いられるらしい。今初めて聞いた話からの推測だ。それが結構重要らしい。私はそんな重い役回りはごめんだ。

「その人物のせいで日本は常に戦いをマジかに控えた感じだった」

「その人物って誰なの?」

「MMという愛称で呼ばれている。一度だけ会ったことがあるけど、そのどことない怪しさのある女だ。後、美人だ」

 最後の付け加えに敏感に反応する人物が私の左斜め前にいるけど無視しよう。

「早く行く」

「いや、美人って言葉に敏感すぎるでしょ!」

 無視するという私の決意はもろかった。

「てか!そのMMって怪しげのある美人ってことは分かったんだけど他に何か情報は!」

 私の問いにデニロが答える。

「めっちゃ強い」

「は?」

「確か絶対防壁とかいう教術使いでなんでも攻撃が絶対に通らない無敵の防御力を持つとか」

 ヤシマさんは話しながらもカードと十字架を取り出して着々と時空間魔術の準備に取り掛かっている。

「ちょっと待って!」

「何?そろそろ日本に飛ばすよ」

「頼んだ」

 いや、頼んだじゃない!

「私!知らないことがいくつかあるんだけど!」

 私の訴えを無視してヤシマさんはカードを十字架に打ち付けて魔術を発動させた。足元に青白い光が発生。その円は私とデニロを囲い五芒星の陣が浮かび上がると、その中心に真っ黒な穴が出来上がりゆっくりと広がっていく。私が逃げないようにデニロががっちりと腕をつかむ。ちゃっかり腕を私の胸に押し当てている。振り払う。

 足元の穴が時空の穴だってことは分かっている。この世界に来るときにこの穴に訳も分からず落ちてこの世界にやって来たのだから。そこにはもう驚かない。中に入ればよって吐くくらいの覚悟があれば大丈夫なんだ。それよりも私が気になるのはヤシマさんが言ったことだ。

 MMという美人が絶対防壁とか言って飛んでも防御力を持っているというのはその説明だけで何となく分かる。ありふれた単語だからだ。だけど、分からない単語が初耳の単語がひとつ存在する。

「教術ってなに!」

「え。知らないの?」

 そのヤシマさんの反応を最後に私たちは時空の穴に落下する。

 結局、私の不安が増幅した。デニロの不安増強は異常なまでの徹底ぶりにもはや不安しかなかった。

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