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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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異界にて①

無属性魔術とは

光と闇の2種類が存在する。

それぞれ特徴があり光属性は攻撃力ほぼ持たないものが多く、闇属性は攻撃力も持つものがほとんどだ。

属性魔術のような波長による使用制限はほとんどない。

 その穴から吐き出されるように飛び出すと目の前には壁があって俺たちはそれに激突する。アキはそれを分かっていたかのように咄嗟に手を離して回避していた。

「大丈夫か?」

「あ、ああ、なんとか」

 擦れた額を押さえながら手を伸ばす霧也の手を借りて立ち上がる。立ち上がると発光色の明かりで黄色に染まる空間。周りはコンクリートの壁に囲まれていて床は埃っぽいと言うよりは湿っぽい感じだ。小さな3畳ほどの部屋のくぼみに俺たちはいる。

「アキナも大丈夫か?二回目なんだからそろそろ慣れた方がいいぞ」

「うう」

 うずくまったままもアキに声を掛ける霧也。

「美嶋も大丈夫か?」

 美嶋もアキ全く同じ態勢でうずくまったまま動く気配がない。

「どうしたんだ?」

「・・・・・・ぎも・・・・・気持ち悪い」

「はぁ?」

「うっぷ」

「待て待て!ちょっと、待て!」

 何か袋!袋を!

「これ使いな」

 そう声がすると折りたたまれた紙袋が飛んできて俺はそれを咄嗟にキャッチする。すぐに広げて美嶋に渡すとそのまま吐き出す。匂いを嗅ぐと貰われそうなのでそのまま離れる。本当は介抱してやりたいんだけどな。

「教太は大丈夫なのか?」

「お、俺か?俺は特になんともない」

 アキも顔を真っ青にして霧也の隣にいる。

「アキも一回吐いた方がよくないか?」

「大丈夫ですよ。このくらいうっぷ!」

「こっち向くな!」

「使いな」

 紙袋が当たり前のように飛んできてそれをキャッチして広げてはアキに渡すとそのまま吐き出す。貰われそうだから美嶋から逃げてきたのに意味なくね。

「というかさ、紙袋を渡したくれたのは誰?」

 紙袋が飛んできた方を見るとひとりの中年のおばちゃんがパイプ椅子に腰かけて古ぼけた雑誌を読んでいた。

「もしかして、あなたが?」

 俺の問いかけには応じてくれない。代わりに霧也が答える。

「たぶんそうだろ。ああ見えてあの人はきれい好きだからな」

 そうも見えない。着ている服装はヨレヨレのトラ柄の織物に下は裾の汚れたジャージだ。それにパイプ椅子も錆びているし、そもそもこの空間自体がきれいだとは思わない。コンクリートの壁に固められた湿った空間にきれい好きがいるはずがなくないか。

「ツクヨ」

 まるで石みたいに固まっていたおばさんが急に口を開いた。

「彼女の名前だ。ツクヨ。俺たちの組織において異世界の移動するための時空間魔術をするただ一人の人物だ。他にも大人数の同時長距離移動等は彼女の仕事だ」

 そんなすごい魔術師がなんでこんなところにひとりでいるんだよ?

「そもそも、異世界に通じる大切な出入り口なんだろ」

 俺は周囲を見渡す。

「どう考えても俺たちが入って来た資材置き場と雰囲気が変わらないんだが」

 俺はこう大理石に埋め尽くされた講堂とかに神々しい感じをイメージしていたんだが、もしかして異世界を行き来するのって。

「そんな簡単に行き来できるようなものじゃないわよ」

「へ?」

 ツクヨは急に話したと思ったらまた黙り込んでしまった。ただ、ページをめくったので石像ではないということは分かったことだけは安心だ。

「どうして、簡単に行き来できないんだ?」

 ツクヨは聞いても答える気配がない。

「なんともないような顔をしているが彼女のランクはあまり高くない。それに異世界の移動にはかなりの魔力を消費する。何度も、連続では使えないんだ。だから、簡単には行き来できない」

 そういっている割にはこっちの世界を行ったり来たりしていた気がするのは気のせいか。

「ああ。だから、霧也はアキみたいに酔ったりしないのか」

 アキは未だに気持ち悪そうに美嶋と並んで紙袋に口を当てている。

「と言っても風上も最初はゲロを床にぶちまけたけどね」

「な!」

 やっぱりそうなんだ。前にも同じような会話をした記憶があるな。

 するとアキと美嶋がお互いの肩を借りながらこちらにやって来た。

「大丈夫かよ」

「大丈夫よ。このくらい」

「私も平気です。このくらい」

 おそらく異世界とか関係なしに世界中の人たちが同じことを思うだろう。全然大丈夫そうに見えない。

「というか、なんで教太は酔わないのよ。おかしいじゃない。不公平よ」

 そう言われても酔わないんだから仕方ないだろ。

「そうですよ。風也さんは普通に酔って」

「ぶちまけたんだろ。知ってる」

「な、なんで教太は酔わないんだ!何もない空間に放り込まれて前も後ろも下も上も分からない空間に入って酔わないのか!」

 ごまかされた。こういうちらりほらりと見える霧也の欠点をいじるのがおもしろい。

 なんで酔わないのかって言われても、それはたぶん経験がるからだと思う。前も後ろも下も上も真っ白な空間になら何度も言ったことがある。一度は気が狂いそうになったこともある。無の空間というところのことだ。俺の心の中のことでそこには俺の伝承した力の源である者が住んでいる。俺はそいつのことをゴミクズと呼んでいるが本当はシン・エルズーランという名前がある。この魔術の世界において大きな影響力を持っていた教術師で唯一神の法則を理解している者だった。その力を俺は伝承して元々の持ち主だったシンは俺の心の中に住み着いている。そのシンが住んでいる俺の心が無の空間だ。何も真っ白な空間。それは俺の心の状態を示している。

「なんでだろうな?体質じゃね?」

 無の空間のことは何となくだが誰にも言う気はない。

「風上。さっさとそのゲロ姉妹とシンモドキを連れてここから出て行きな。空気が悪くなる」

 そんなことしなくて十分ここは空気が悪いと思う。

 そう言われると霧也は素直に応じる。

「行くぞ。出口はこっちだ」

 発行色で黄色に染まるコンクリートの廊下の先に眩い光が差し込む出口が見えた。階段の先に広がるのは希望の明かりでも言っていいような光。この先に本当に絶望におぼれる魔術の世界があるのかと思うと信じがたい。

「どうした?出口はこの先だぞ」

「あ、ああ。分かった」

 さて、ここで俺の魔術の世界のイメージをおさらいしておこう。魔術の世界には機械というものが存在しない。人の力で行うことにも限界というものがある。それを俺たちの世界では機械に頼っている。建物を作るのにも遠くに行くための電車とかもそうだ。空を飛ぶのにも機械を使っている。それに対して魔術の世界ではそれをすべて魔術で行っている。だが、電力の供給率が悪かったりと効率が悪そうなのはアキたちの話を聞いてなんとなくだが予想できた。

 だから、レンガ造りのヨーロッパの雰囲気を予想していた。魔法を使う人たちの住む世界と言われるとどうもそういうイメージが尽きがちになってしまう。だが、魔術世界で俺が最初に降り立ったのが日本であるということを忘れていた。

 外に出るとそこに広がっていたのは、地面はアスファルトで舗装されてそれに沿うように植木が植えられており、背の低い鉄筋コンクリートの建物が所狭しと建て並べられている。行き交う人たちはどこからどう見て俺たちの私服とどこも変わらない。セーラー服を着た学生と思わしき人もいれば、作業服を着てタバコを吸いながら休憩している人もいれば、スーツ姿の仕事中の人もいる。

「・・・・・もしかして、間違えて俺たちの世界のどこかに移動した?」

「そんなわけないだろ。ここが教太たちから見れば魔術世界だ」

 いやいや、どう考えても俺たちの住んでる町と何も変わらないぞ。街並みも行き交う人たちもどこにも魔術要素なんですけど。ただ、違うことと言えば車道がなくてみんな広い舗装された道を好き勝手に歩いているということくらいだ。でも、それは歩行者天国とか言ってしまえば、納得してしまう。

「ほ、本当にここが異世界なわけ?」

 顔を未だに顔が青い美嶋が尋ねる。それをこれも同じく顔の青いアキが答える。

「元々、教太さんたちの世界と私たちの世界は同じ世界だったんですよ。需要性の高い資源とかはどの世界でも同じですよ。ただ、違いを言わせてもらえれば建築物の技術とかは私たちの世界は教太さんたちの世界よりも2,30年くらい遅れていますね」

 それであまり高い建物が目立たたないわけか。

 すると俺の上空を影が一瞬のうちに通り過ぎて空を見上げてしまう。

「鳥か?」

「いや、人だぞ」

「はぁ?」

 霧也に言われて再び空を見上げると小学生くらいの何人かの子供がビルの上空を飛んでいた。

「え?」

「風属性魔術の使える子供たちだな」

 あんな年ですでにあんなことまでできるのかよ。

「他にもいろいろ魔術要素がありますよ」

 あ、アキが復活した。

「どんなところに魔術要素があるのよ」

 美嶋も復活した。

「そうですね。ボスからはこちらにきたらすぐに来るようにって言われていたんですけど、少し観光してからにしますか?」

 そう笑顔で霧也に訴えかける。すると目を合わせずに答える。

「別にいいんじゃないか」

「やった。秋奈さん!こっちです!」

「ちょっとアキ!引っ張らないで!」

 なんか思ったよりも暗い世界という感じはない。俺たちの世界と何も変わらない。イメージよりはいいところじゃないかとこれから存分に思うことになる。だが、それはただのいいところを表面で見ただけだということを俺は知らない。

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