法則と領域④
別に考えが合致するわけじゃない。力のあり方についても考えが同じというわけじゃない。
でも、わたくしと彼は同じ境遇に立っている。同じ神の力を有しているからこそ受けてきた絶望は互いに大きい。それでわたくしと彼は互いに二度と同じ絶望を繰り返すまいとゴールのない戦いに挑み続けている。
わたくしは負の力の根絶。正直、これは魔術による人の戦いがなくならない限り根絶するのはかなり難しい。一方で彼の誰も殺さない信念も難しい。味方を守りながら敵も殺さない。果たしてそんな方法が存在するのだろうか。
互いに神に選ばれた力を持ち、半ばそれを否定しながら神の力を使い戦い続ける。
そこで少しわたくしと彼の間には親近感でも沸いたのだろう。何よりもわたくしの望む平和と言うものの形を彼は―――国分教太は目指そうとしている。なら、それに協力して損はない。
茂みの影から飛び出してきたのは銀髪の着物を着た女。
「MMのところの!」
彼は見覚えがありしかもそれがMMのと来た。
「これはいよいよ怪しいですのよ」
手には小太刀が握られている。それをわたくしが前に出て槍で受け止めようとするが銀髪着物の女は槍をすり抜けた。
「え?」
「幻影魔術だ!」
国分教太が飛びでして時間差で攻撃してきた銀髪着物の女の斬撃を赤黒い剣で受け止めた。すぐに押し返して銀髪の女はわたくしたちと距離を置いた。
「なるほど、今の幻影魔術と言うものですのね」
「初めて見たのか?」
「まぁ。でも、相手を騙さないと効力を発揮しない魔術。この天使の瞳の前では二度は無力ですのよ。出てきたらどうですのよ?周りに隠れていらっしゃるMMの手下さんたち」
わたくしの声に茂みから複数の着物を着た女たちが姿を現した。全員が着物にに似につかない金髪や茶髪をし、碧眼を持つ者ばかりだ。
「MMの息のかかった奴らだ」
拳吉よりも先にわたくしたちを見つけた。さらにこの好戦的な態度。
「国分教太・・・・・いえ、国分さん。これはもうMMがカントリーデゥコンプセイションキャノンを狙っている現れですのよ」
「MMは力を理解し振るうことが大切だとか言っていた」
「それはもう確信犯じゃない」
「その通りかもしれない」
力を理解し振るえ。それを分かったうえでMMは組織を立ち上げてここまで大きくなった。自分の力の及ぶ範囲を知っているからだ。彼女の目的が何にせよカントリーデゥコンプセイションキャノンをこの世界に召喚することだけは避けるべきだ。それはきっと彼だって分かっている。
「アテナ飛べるか?もし、飛べないのなら俺が抱えて」
「なめないでほしいですのよ。特に翼の怪我の修復は普通の人体と比べたら困りますのよ」
すでに血は止まり空いた穴に新しい羽が生えてきている。若干の痛みが残るものの大丈夫。飛べる。
「じゃあ、行くぞ」
「ええ。わたくしもあなたを拘束するためのこれ以上の戦闘が必要とは思いませんのよ」
足元に違和感を感じた。それはわたくしも国分さんも即座に気付いた。わたくしは翼を羽ばたかせて国分さんは右手で衝撃波を発生させて上空に逃げる。その瞬間、わたくしたちの足元に土で出来た棘が生えた。それはわたくしのところに集中して発生した。
「国分さん!」
わたくしは手を伸ばすと国分さんもそれに反応して手を伸ばして掴んだ。上空にいるわたくしたちを火属性魔術や氷属性魔術で攻撃してくる。それを左右に避けながら交わしたり槍ではじきながら凌ぐ。
「このまま上空まで逃げますのよ!」
「させない」
背後に銀髪着物の女がいた。手には小太刀。
「いつの間に!」
「姿を消す透明化魔術。別に難しい魔術じゃない」
完全に背後をとられて対応が出来ない。
「うらぁ!」
国分さんが掴んでいた手を離して赤黒い岩の剣を女に向かって投げる。それを女は弾くしかない。そこにできた隙に向かって国分さんは右腕で生成した衝撃波をぶつけて吹き飛ばした。しかし、銀髪着物の女は風属性魔術の使い手らしく上空で留まる。
「国分さん!」
そのまま落下する国分さんをフォローしに行こうとするが地上にいる魔術師による火の玉や氷の刃が飛んできてそれを妨害する。手の届きそうな距離でわたくしの手は空振りに終わる。
国分さんは衝撃波を発生させて落下速度を抑制しようとするがそれをも妨害するように別の金髪の着物を着た女が棍棒を構えて襲い掛かる。左腕で赤黒い剣を生成しようとしているが間に合わない。
「国分さん!」
「大丈夫」
国分さんの表情はいたって冷静だった。
「俺は絶対に死なない。死ぬわけにはいかない!」
その瞬間、国分さんの左腕に五芒星の陣が発生して赤黒い何かが左腕全体を覆った。竜巻のように帯びたそれは国分さんの体を押して金髪着物の女の棍棒の攻撃をかわす。そして、そのまま上空に停滞した。
あの赤黒い岩の剣が龍属性の土属性であることは分かる。教術の龍属性はあまり聞かないがそれでもその特性は熟知している。土属性以外にも他の属性の龍属性が使えてもおかしくない。
「龍属性の風属性」
その赤黒い竜巻と彼を上空で停滞させる要因。
「さぁ、行くぞ!人を守るための戦いするために!」
わたくしにあって彼にはない天の領域に入るための翼。視認できなくともわたくしには見えた。彼は人の領域から一歩飛び出した天の領域の人なんだと。
これにて2部終了です!
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