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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
天の領域
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天使の記憶②

 驚愕とそして恐怖がわたくしの心を支配する。この研究所に来てわたくしが見て来たのは人の死ばかり。妙な薬剤を投与されて肉片になり人の死、首を斬り落とされて噴水のように血を吹き出して死んでしまった人、そして自らの手で殺した人の死。

 死、死、死、死、死。

 頭がおかしくなりそうだった。そんな中、わたくしの心の支えとなってくれた少年がこの目の前のものを殺せという命令されている場においてわたくしの目の前にいた。言葉が出なかった。手足が強張って動かなかった。それはきっと向こうも同じはずだ。

 はずだった。

 突然、爆発と共にわたくしの目の前に槍を構えた少年がいた。

「なんで?」

 最初に浮かんだ疑問と同時に彼の掴む槍がわたくしを襲う。体が生きようと反応してぎりぎりでその攻撃をかわす。翼を羽ばたかせて物陰に潜む。だが、少年の持つ天使の瞳(エンジェル・アイ)は物陰に潜むわたくしを見つけだすのは容易で物陰事少年はわたくしを斬り殺そうとしてきた。

「どうして!」

 その問いかけに少年は答えた。

 死にたくないから。

 この施設に強制的にいれられて常に命の危機との生活が目の前の相手を殺せば解放されると言われた。でも、それは嘘かもしれない。4年もこんなところに縛っておいて今更解放してくれるはずもない。それでも、少年は少ない可能性にすべてをかけて自分はここから出る。そのためだったらなんだってする。

 少年はわたくしの問いかけに答えられるような状況ではなかった。必死だった。生きるのが。

「約束した。あなたと一緒にここから出てふたりで静かに暮らそうってあなたといっしょに」

 少年は答えた。そんなものは知らない。

 瞬間、少年の槍がわたくしの翼に突き刺さり部屋の壁に突き刺さる。身動きの取れない状況になった。少年は手を掲げるとそこに羽が集まってきて光で出来た疑似的な剣が生成される。柄が羽で覆われている。あれはきっとわたくしと同じように同じ境遇の仲間を殺して得た力だ。その剣をわたくしに向ける。そして、一言「死ね」と言った。

 その少年はわたくしの知る少年ではなかった。わたくしを支えたのはこういう場面を予想していたからではないかと思ってしまった。だから、こういう場面が来たときにわたくしが手を出しにくいように仕込んでいた。

「違うよね?」

 少年は否定しなかった。目の前のわたくしを殺そうとする。その表情は恐怖ではなくて楽しそうに笑っていた。殺しをすることを楽しむ表情だった。

「違う。わたくしの知っているあなたはそんなんじゃない!」

 激怒と共にわたくしの操る羽が少年を包み込んでいく。全身が羽に包まれてバチンという音と共に手に握る光の剣が消えて翼の制御も利かなくなってそのまま落下する。翼に突き刺さる槍を羽の衝撃波で強引に破壊して槍を抜き取る。そして、ゆっくりと羽だらけで身動きのできない少年の前に降り立つ。手にはわたくしが最初から持っていた槍と少年が持っていた折れた槍。

 わたくしが降り立ったのに気付いたらしく体をびくつかせて怯える。死にたくない。そう訴えた。

「それはわたくしもいっしょ。だから、いっしょに逃げ出そうって言った。なのにあなたは・・・・・」

 少年は言った。それは無駄だ。研究員の言うことを聞くことが生き残る最善の手段だ。そのためだったら少年は約束なんか優先している場合じゃない。生きて生き延びる。そうすれば、いつか自由になれる。そのためだったら少年はわたくしを殺すと言った。

 瓦礫の一部を掴んでわたくしに殴りかかって来た。もはや、この少年はダメだ。生き死の境目を彷徨いすぎたせいで精神が崩壊しきっていた。こんな状況で冷静でいられるわたくしも十分異常だった。だから、少年を殺すときも抵抗はなかった。

 少年の体が真っ二つになってその返り血によって服が赤く染まる。

 見下ろす少年の死体を見てなぜか涙が出てこなかった。

 研究員がご苦労だった。これで君は晴れて外に出ることができる。今後は買い取り主の言うことを聞き兵器として活躍することを期待していると言われた。ここではまだ年端もいかない少年、少女たちに薬剤を投与するだけして、どんな後遺症や力を得るか実験して最後の最後には売り飛ばされて死ぬまで戦わされる人形になれと。

「ふざけるな!」

 そこで意識が飛んで気付けば周りは更地になっていて足元には人の死骸が転がっていた。それを見ても何も思わなくなった。外に出ることが出来た。でも、全くうれしくなかった。いっしょに出ようと約束した少年の姿はなくただ絶望だけがわたくしの周りに広がっていた。

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