龍の意志⑥
突如、橋を突き破って攻撃を仕掛けてきた天使のような少女。自らを黒の騎士団のものであると名乗るアテナ・マルメルという少女。大きな翼と小さな翼がそれぞれ2枚ずつあり銀髪のツンテールに碧眼の容姿を持つ少女はもはや天使以外にたとえようのない魅力を持っていた。だが、その手には生々しい槍が握られていた。金属性の棒には何か装飾が施されているようで無数の文字が描かれている。そして、剣の刃のような槍の針には小さな天使のような絵が彫られている。まるでその槍は天使に持つべきものだと相手に悟らせるように。
「黒の騎士団ってまさか!」
チェーンのついた日本の刀を構える霧也。
「なんでもうこんなところのおるんや!」
銃を構えるリュウ。
「教太ちゃんを見つけたの?こんな広い街の中で!」
スカートの紐をちぎるリンさん。
「とにかく、一時停戦だ!一旦、こいつを追う払うぞ!」
拳を構えて身構える拳吉。
「ちょっと待て!相手がまだ敵意があるかどうかは」
「教太。見れば分かるだろ」
霧也に言われて上空のアテナという少女を見る黒を基調とした服装に赤色のラインの入った軍服のような服装。下に履いているのはスカートだ。もう少し近づけばあのアテナってこのパンツが見えそうだ。
「教太。見ているところが違うぞ」
「べ、別に俺があの子のパンツが気になるとか!」
「教太サイテー」
「教太ちゃんサイテー」
「ハハハ!そのくらいの余裕があるのはいいぞ!」
最後の拳吉の発言は意味分からん。
その俺たちのアテナは頬を赤くしてスカートの裾を押さえる。
「あなたたち!人として最低ですのよ!」
「最低なのは教太限定だ」
「霧也の場合、あれが氷華だったら?」
「全力で見に行く」
「風上サイテー」
「風也ちゃんサイテー」
「ハハハ!風上にもガールフレンドがいるのか!羨ましいぞ!」
「あなたたち!敵を目の前にして何を変な会話しているのですか!」
確かにいきなり襲いかかって来た相手に向かっての発言じゃないよな。
でも、何だろうな。自然とあの子は敵じゃない気がするのは気のせいだろうか。
「国分教太!」
槍を俺の方に向けてくる。
「あなたを拘束しますのよ!」
「ん?待ってどうして俺たちの中に俺がいるって分かったんだ?」
「顔はわたくしたちの方で調査済みですのよ!」
その言い方だとまるで俺の住んでいる世界にやって来たような言い方だ。まだ、こっちに来て1週間しかたっていない。そんな短期間で俺の顔を調べ上げたのか?
「確かに妙やな」
リュウも疑問に思ったようだ。
「まるで教太ちゃんがこっちの世界に来ることが分かっていたみたいね」
「シン・エルズーランの力を伝承したという噂はかなり前からありましたのよ。それもこちらとは次元の違う異世界で。団長がMMのことだから一度直接会う機会を設けるだろうと。そして、ある計画が静かに進んでいる中で国分教太!あなたがこの世界に来ることはこの世界の安泰を大きく脅かしますのよ!」
「お、俺が?」
俺が世界の安泰を大きく脅かすってどういうことだ?このシンの力のせいか?確かにこの力で多くの者が殺された。でも、それはこの力を完全に使いこなしていたシン・エルズーランの話だ。俺はこの力を最大限に使えていない。そんな俺がどうして世界の安泰を脅かすんだ?
「どういうことだ?教太の・・・・・シンの力は世界の安泰を大きく脅かすとはどういうことだ?」
確かにこの力を巡った戦いに俺は巻き込まれている。そのほとんどが神の法則に守られたこの力の強さを欲するものや危険な力だと判断して奪いに来る者もいた。
「あなたたちには知る由もないことですのよ。大人しくわたくしたち黒の騎士団にその力を渡しなさい。そうすれば、国分教太。あなたの身の保証は団として責任を持って守りますのよ。あなたのいた元の世界にも帰しますのよ」
元の世界に帰してくれるだと。
「教太。何を考えているか分からない。簡単に口車には乗るなよ」
霧也にくぎを刺される。
「残念ながら教太は渡せない。突然、現れて拘束しますって言われて素直に引き渡すバカがどこにおるんや?」
「そうよ!」
「残念ですのね。わたくしは争いがあまり好きではないですのよ。この負の力を使うのは嫌いですのよ」
負の力。
「人の欲望が生み出したこの負の力!」
翼を大きく広げると羽が舞う。その姿には負の要素はどこにもない。
「長時間使うのは嫌なのですぐに終わらせますのよ。先手必勝!」
そう言って翼を羽ばたかせて一気に俺に向かって来る。その間に霧也が立ちふさがる。
「邪魔だー!」
アテナの持つ槍に白い羽が集まってくる。
「何だ!?」
そして、羽を纏った槍を振りかざすとものすごい衝撃波によって俺たちにいた橋の一部が崩壊する。そして、踏ん張る足場を壊された霧也は吹き飛ばされる。
「霧也!」
まだ、無事な橋に原子の衝撃波で移動して着地する。
「風上!」
「風也ちゃん!」
「よくも!ワシの国の民に手を下したな!」
拳吉の周りに見えない覇気が体中を覆う。その覇気の正体は魔力。魔力が全身から勢いよく吹き出して橋をえぐる。
「解放段階2!行くぞ!」
踏み込んで上空のアテナに向かって飛んでいく。するとアテナは無数の白い羽を集めて槍の先に集めて花びらのような盾が出来上がり拳吉の拳の攻撃を受け止める。だが、その衝撃波凄まじく花のような盾は花弁が散るように白い羽が次々と吹き飛ばされていく。これ以上受け止めるのは困難だと思ったのか羽の盾を傾けて拳吉の攻撃をしのいだ。空振りに終わった拳吉は上空で宙返りして反対側の橋の上に華麗に着地する。
「あの男!厄介!先に黙らせる!」
アテナが槍を天高く構えるとそこに無数の白い羽が集まってゆくそして槍に白い翼が生えてやり全体を白い羽毛が覆う。その槍をアテナは槍投げをするようにして拳吉に向かって投げる。まるでミサイルのように飛んでいくその槍は普通じゃない。
「避けろ!拳吉!」
「それはできない!」
「なんで!」
と問いかけたがすぐに答えは分かった。拳吉の背後には中央局のある天守閣がある。拳吉が良ければあの凄まじい槍の攻撃が天守閣に直撃するかもしれない。拳吉はそれを見越していた。
「ワシはこの国を守る将軍だ!」
そう言って槍の攻撃を受け止める。だが、その衝撃に橋が耐え切れず崩壊して拳吉とアテナの投げた槍はそのまま天守閣の石垣に激突する。その衝撃によって石垣が崩壊して静かな堀の水に大きな波が立つ。アテナはそこに追い打ちをかけるようにして両手に再び羽を集める。
「やめろ!」
俺の声は届かず羽の塊は拳吉の沈んだ石垣の方に飛んでいき爆発的な衝撃波によって石垣の上にあった天守閣を囲む松の木までもが堀の水の中に落下する。
「さて、これで心置きなく国分教太を拘束できますのね」
そう言って手を出すと拳吉の沈んだ石垣の瓦礫の中からアテナの投げた槍が飛んで戻って来てそれを華麗に掴んで俺たちに向き構える。
「まだ、俺たちがいるで!」
そう言ってリュウが銃弾を発砲するが、それをアテナは左右に移動して交わす。リュウの銃弾は着弾することで龍属性の火属性の爆炎が発生するが着弾しないと意味がない。アテナのいる上空には着弾させる障害物がない。一方的に不利だ。
「リン!」
「任せて!リュウちゃん!」
そう言うとリンさんはスカートの紐が伸びていき蛇のようにアテナに襲い掛かる。翼を羽ばたかせて紐の攻撃をかわすが紐は空中でアテナを捕まえようとついてくる。
「そんなもの斬りおとす!」
槍を使って紐を切り落とす。斬りおとされた瞬間、衝撃波が発生して紐が吹き飛ばされる。
「こんな貧相な紐でわたくしを捕まえられるとでも思っていますの?甘く見ないでほしいですのよ!」
「違うよ。君を捕まえるためじゃない。リュウちゃん!」
「分かってるで!」
リュウが銃を構えて数発発砲する。その銃の弾丸はまっすぐアテナに向かって飛んでいくもそれはアテナに当たらずかすりもしなかった。
「どこを狙って!」
「俺が狙ったのはそこの天使やない」
その瞬間、アテナの背後で赤黒い爆炎が発生する。リュウの撃ったすべての銃弾が何かに着弾して龍属性の火属性が発動したのだ。アテナは不意を突かれて爆発に巻き込まれて一瞬だけ態勢を崩して落下するも翼を羽ばたかせて態勢を立て直す。
「何!なぜ、銃弾が爆発した!」
「それは決まってるで。着弾したからや」
リュウは古いマガジンを投げ捨てて新しいマガジンに装填しながらそう言った。
「それは分かっていますのよ!銃弾は一体何に着弾したのですのよ!」
「これ」
それはリンさんの斬られたスカートの紐だ。
リンさんはリュウの攻撃が有効になるようにわざわざ紐を切られに言ったって言うのか。そもそも、そんな紐の切れ端に銃弾をあてるなんてどんな動体視力してるんだよ、リュウは。まぁ、非魔術師との戦闘の時も銃弾同士をぶつけて相手に攻撃するだけの動体視力をもってして魔術を使わずに相手に勝っている。
でも、それを話しあいも打ち合わせも無しに意思疎通できている時点でこのふたりは強い。
「私たちコンビは基本的にリュウちゃんが攻撃の軸になって私はそのサポートに回ることがほとんどなのよ。私は時空間魔術以外の魔術を使うのは下手で使いこなせない。だから、今みたいにリュウちゃんのサポートをしたの。他にもいろいろできるのよ」
そう言って足元にカードを置いてそこに向かって十字架を打ち付けると複数の五芒星の陣が発生すると真っ黒な穴が出来上がる。時空間の穴だ。
「リュウちゃん!」
眼を閉じて集中するリュウが目をかっと開くとリンさんの生成した複数の時空間の穴に向かって銃弾を乱射する。
「何をして」
そういうアテナの目の前に真っ黒な時空間の穴が出来上がった。瞬間、銃弾がアテナに向かって飛んでくる。さすがにそれは槍で防ぐ。今後は赤黒い爆炎は発生せず赤黒い氷の結晶がアテナの手と槍を覆う。龍属性の氷属性の攻撃だ。
他にも無数の時空間の穴がアテナの周りを囲むようにして発生する。銃弾が飛んでくると判断したアテナは穴から逃げようとするも銃弾が飛んでくる。初弾の攻撃は交わす、その初弾は時空間の穴を通して飛んできた次弾に当たり赤黒い氷の結晶となりアテナを襲う。翼の一部が凍ってしまうも羽ばたかせて振り払う。が、その隙を狙ったように銃弾の雨がアテナを襲う。防ぐための槍は凍っていて使えない。避けるための羽は凍ってしまって動かせない。バンとはじけるような音と共にアテナのいた上空に赤黒い氷の結晶が出来上がる。
「つ、強い」
リュウもリンさんも拳吉やフレイナのような規格外の力は存在しない。でも、ふたりは戦略と技術で規格外とも言える拳吉を沈めたアテナを倒すだけの力を持っている。それが俺の求める必要な強さなんだと強く思う。




