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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
天の領域
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天の意志②

 わたくしが案内された部屋は大理石で来た応接間。日本に来てまず最初に訪れた組織本部。スペインのサグラダ・ファミリアに似せた教会の中は神々しい大理石に包まれている。それに似合わない着物を着た者ばかりがこの建物の中で歩き回っている。すべてMMの手下であろう。わたくしはひとり敵地に来ているのだ。どんな予想外の出来事が起きても臨機応変に対応していかなければならない。

 ひとり応接間に待たされる。

「遅いですのよ」

 かれこれ20分くらいここで待っている。すぐにお呼びしますとか言っていたくせに来ないではないか。応接間の中央にあるテーブルに置いてある茶菓子には手を付けていない。何が入っているか分からない物に手を付けることはできない。飾られている花瓶や絵画にも何か罠が仕掛けてあるのではないかと警戒を怠れない。

 ピリピリとした空気を保つのもかなり疲れる。ここまで厳重に警戒しているとMMとの話し合いの前に疲れで倒れてしまいそうだ。大陸を横断して太平洋を横断してここまで来ているのだ。疲れは溜まっている。早く国分教太を拘束して本国に帰還してシャワーでも浴びてベッド寝たい気分だ。

「いけないけない!」

 頬と軽く数回たたいて気合を入れる。落ち着くためにソファーに座る。

「し、しまった!」

 ソファーに何か仕込んでいたかもしれない!

 黒色に継ぎ目に合わせるようにして赤色のラインの入った制服。軍服にも見える黒の騎士団の制服。スカートはひざ下までの長さはあるが戦闘になるとそれもあまり気にならなくなる。そのスカートに何かついていないかを確認する。

「ふぅ~。何もないか」

 安心して胸をなでおろす。その胸には馬に乗った重装兵が剣を掲げたエンブレムが縫い付けられている。このエンブレムは黒の騎士団の証。今時、こんな制服を着て戦い人は所属する黒の騎士団の中にもあまり多くない。でも、必ず黒の騎士団はこのエンブレムを携帯している。今回わたくしは黒の騎士団の使者としてここにきているからこうして正装をしてきている。

MMに対して交渉が出来るのだろうか。たぶん、無理だ。決裂するのは目に見えている。ならば、わたくしがこの余った時間を有してやることと言えば・・・・・。

 重い扉がゆっくりと開いた。その扉の向こうにいたのは赤に金箔の装飾を施して着物に桜の簪で結った金髪に碧眼の一瞬見とれてしまいそうな美女。その右隣にいる燃えるような赤い髪に赤い瞳を持った肩まで大胆に出した白のキャミソールにホットパンツの服装をした女。そして、MMの左隣にいるのはあまり派手ではない青を基調としたアジサイの柄の入った着物を着た茶髪セミロングの少女。その顔にはどこかで見た覚えがある。おそらく、中央にいるのがMMであろう。まずは名乗る。

「わたくしは黒の騎士団、第2分隊所属、アテナ・マルメルと申しますのよ」

「ミレイユ・ミレーじゃ。皆はMMと呼ぶな」

「・・・・・・あなたがMM」

 ミレイユ・ミレー。MMの本名は初めて耳にする気がする。

 さて、無駄な立ち話は後回しだ。先手必勝。

「単刀直入に申し上げますのよ。国分教太を拘束させていただきますの」

 MMは顔色を全く変えない。対して右隣の赤髪の女はガン付けてくる。左隣の少女は驚いている。邪魔なふたりだ。

「すみません。わたくしは組織の長のMMと話があるのですのよ。そちらのおふた方には席を外させてほしいですのよ」

 そんなわたくしのは発言を無視してずかずかと応接間に入り込んでくる無礼者の赤髪の女。

「そんな固いこと言わなくていいじゃん」

 そう言いつつテーブルの上に置いてあるわたくし用に運ばれてきた茶菓子をつまみ食いする。どうやら毒物等は入っていないようだ。入っていないのなら普通に食べてみたかった。だって、おいしそうだったし。って今はそんな茶菓子のことはどうでもいい!

「フレイナ。それは客用に出したものじゃ。勝手に食べていいと誰が言ったなんし?」

 フレイナってあの4大教術師のフレイナ。使う教術は火属性であるのにもかかわらずその高すぎる火力から弱点属性であるはずの水や土をものともしない規格外。こんな失礼な女がフレイナなんて。でも、フレイナは例えるなら暴れ馬。戦うことを専門とするこの女をこの場に連れてきたということは交渉をする気があるかどうかも怪しい。

「無礼なところをお見せした。後できつく罰しておくなんし」

「はい」

 連れてきたふたりのうちひとりがフレイナ。では、もうひとりもきっと名高い魔術師か教術師。どちらにせよフレイナと同格であることは間違いない。

「そちらの彼女は?」

 わたくしの質問に肩をびくつかせてMMの背を陰にしてわたくしの視線から姿を隠す。

「彼女の名は美嶋秋奈じゃ」

 美嶋秋奈って魔女のことじゃないか!

 その使用する魔術のレパートリーの多さと容赦のない攻撃を仕掛ける悪魔のような魔術師、魔女。確かに魔女はこの組織に所属している。でも、こんな人見知りしているような女が本当に魔女なのか。

 そんな疑問を抱えつつもとりあえず再び同じ質問をぶつける。

「あのMM、わたくしはあなたとふたりだけで話がしたいのですのよ。そこのフレイナと美嶋秋奈を退出させてほしいですのよ」

「別に良いではないか。話の内容はわっちがこの部屋に入った瞬間、主が言ったではないか?それ以上の何を主は語るというのじゃ?」

 確かにそうかもしれない。でも、この場において戦闘が起こった場合この3人を同時に相手するのは不可能だ。いくらわたくしの力が他とは性質が違えど―――、無理だ。

「何を警戒しておるのじゃ?」

 ゆっくりとMMは歩いてソファーに腰かけると着物の袖に手を入れる。何か武器を取り出すのかと警戒すると出したのは煙管というタバコの一種だ。テーブルの中央にはガラス製の灰皿が置いてある。MMはマッチを使って自分で火をつけて煙を吸う。

「まぁ、ゆっくりするなんし。この場ではそんな魔術や教術なんぞを使って戦闘したりはせん。わっちが許さん。なぁ?フレイナ?」

「な、なんであたしゃに向かって言うんだよ」

「この場に置いて無礼講に大暴れしそうなのは主以外に誰がおるんじゃ?」

 その刺さるような言葉にフレイナは下向いて近くの椅子に座る。美嶋秋奈はそのフレイナの横に立ってこちらを見守る。

「突然の戦闘状況に陥るということはないわけですのね?」

「こちらからは仕掛けるつもりはなんじてない。じゃが、状況次第では・・・・・そうもいかない場合もあるなんし」

 わたくしが攻撃を仕掛けた瞬間っと言うのが状況次第の線状況に陥る状況ということ。

「わたくし自身その気はさらさらないですのよ」

 灰皿に向かって着せる二回ほど叩きつけると中の灰が出てきた。それと同時に銀髪の着物の女性が二人分の茶菓子を持って部屋に入って来た。一瞬、MMと眼があった気がしたが今は変に刺激しない方がいい。

 銀髪の着物の女性が出て行ったのを確認してからわたくしもソファーに座る。茶菓子には手を付けない。

「それでなぜ国分教太を拘束するのじゃ?そもそも、なぜこの国にいると知っておるのじゃ?」

 わたくしは息を飲む。

 国分教太がこの国にいるということを隠す気はさらさないらしい。どうしてだ?国分教太にはあのシン・エルズーランの教術が伝承されている。神の法則に守られたこの世界にふたつもない教術だ。その存在は隠したいはずなのにどうしてこうも公にするのかが分からない。そのせいでイギリス魔術結社に狙われる始末だ。

「情報の入手先について非公開とさせていただいて国分教太の拘束の理由として」

 ここが重要なのだ。

「正しくは国分教太のシンの力の確保についてはある組織のとある強大な陰謀が発覚したのが原因でありますのよ」

「その強大な陰謀とは?」

 しらを切るように聞いてくる。本当はすでに知っているのではないかと思ってしまう。でも、教えておいて損はない。大きな魔術組織が3つもあるのだ。世界の平和のバランスのためにも。

「カントリーディコンプセイションキャノンのことをご存知で?」

「・・・・・名だけなら聞いたことあるなんし」

「どのような効力と威力を持つ武器か知っていますので?」

「・・・・・多少は知っておる」

 多少の訳がない。カントリーデゥコンプセイションキャノンは一度だけ公の場に現れたことのある古代魔術兵器だ。しかもその公の場というのがヨーロッパだ。MMの出身地はイタリア。知らないはずがない。

「その武器と国分教太と、シンの力とどう関係があるなんし?」

 4大教術師であるあなたが何も知らないはずがない。あの古代魔術兵器の威力と効力を知っているはずだ。その兵器を動かす手段も知っているはずだ。教皇の娘として一度は耳にしているはずだ。そして、何より力の存在を第一と考えるあなたならあの兵器がどんな効果をもたらすかも知っているはずだ。

「あえてしらばっくれるというわけですのね」

 わたくしの敵意ある視線にMMは反応せずただ見下す。

「あの兵器の総称を知っていますのか?」

「・・・・・・カントリーディコンプセイションキャノン。直訳すれば、国分解大砲じゃ。その頭文字をとって国分」

「やっぱり知っているのですのね」

「・・・・・多少は知っておると言ったはずじゃが?」

「・・・・・妙だと思わないですのね?」

「何がじゃ?」

「シンの力を伝承した者の名前は国分。その兵器の総称は国分。偶然にしては出来過ぎていると思いますのよ」

「たまたまじゃろ」

 たまたまと行ってしまえば、そうかもしれない。でも、意図があったと考えられる。国分には他組織を圧倒的に押さえつけることのできる絶対的力になる。

「それでそのカントリーディコンプセイションキャノンと国分教の拘束とどういう関係があるのじゃ?」

「最近、わたくしたち黒の騎士団はイギリス魔術結社である巨大な陰謀があるという情報を掴みましたのよ」

「その陰謀とは?」

「カントリーディコンプセイションキャノンの発動計画。通称、国分計画。イギリス魔術結社は国分を使いわたくしたち他組織を押さえつけてこのにらみ合いによる平和を崩そうとしていますのよ」

 イギリス魔術結社は戦争の火種を何度も放っている危険な組織。わたくしの背中にできた羽もその火種の内のひとつだ。

「あの組織が世界の実権を握ればまさに世は独裁となりますのよ。そうなってしまえば、どうなるか。自由も人権もすべて力と権力によってねじ伏せられてしまう。地獄ですのよ」

 脳裏に浮かぶ。わたくしの過去の闇。今はそんなことを考えている場合じゃない。いや、あの闇と同等なことが起ころうとしている。

「カントリーディコンプセイションキャノンの発動に国分教太のシンの力が必要不可欠ですのよ!国分教太のシンの力さえなくせばカントリーディコンプセイションキャノンは発動できない!つまり、イギリス魔術結社の陰謀を阻止することが出来ますのよ!」

「そのために国分教太の身を渡せと・・・・いいたのじゃな?」

 わたくしは頷く。

「できんな」

「なぜ?」

「そのカントリーディコンプセイションキャノンを主が使うかもしれないという可能性が残っておるではないか?そんなリスクを負ってまで国分教太を渡すわけにはいかないなんし」

「大量虐殺を行う魔術兵器の使用は原則禁止と組織間で条約を結んでいるはずですのよ。わたくしたち黒の騎士団はその条約をどの組織よりも忠実に守っていますのよ」

 その条約違反をしないために時空間魔術を使わずにわざわざ大陸と太平洋を飛んではるばるやって来たのだ。

「それですのよ。先日、イギリス魔術結社が国分教太を奪いに襲撃してきた!向こうは本気ですのよ!拘束を拒否するというのならばこの場で国分教太を招集して、彼の中にあるシンの力を破壊してほしいですのよ。そうすれば、わたくしも何もせずにこの国から出ていますのよ!」

 言えることは言うだけ言った。これは憶測だがMMもカントリーディコンプセイションキャノンの発動をする準備をしているのではないかと。そのためにわざわざ異世界にまで行ってシンの力を伝承できるものを探しに行った。そして、この世界に連れてきた。となれば、帰ってくる答えはひとつ。

「残念じゃが、国分教太は渡せないなんし」

 やっぱり。

「シンの力は貴重じゃ。今後の魔術、教術の発展のためにも神の法則で守られた奴の力は重要な遺産となりうるなんし。そう簡単に破壊はできんし、そう簡単に渡すわけにもいかない。苦労して伝承できる人物を見つけたのじゃぞ」

 そう来ると団長は予想していた。シンの力は貴重で強力な者だ。力の所持にこだわるMMがそう簡単に手放すはずがない。だから、こうなってしまった以上方法はひとつだ。戦争のない平和な世界を保つために。

「交渉決裂ですのよ。実力行使させていただきますのよ!」

 背中の翼を大きく広げる。

「逃がすと訳ないじゃん!」

 フレイナの方から火の玉が飛んでくる。爆発と共にわたくしのいたソファーが燃え消し炭になり大理石のような無機質のもの以外はとんでもない熱を放って燃える。でも、わたくしはそれを背中の翼で守る。

「何?」

「天使の力なんしか」

 感心するMMを余所に窓から飛び出して上空に逃げる。

「待つじゃん!」

 フレイナの炎の攻撃を避けつつ遥か上空にやって来る。

 わたくしはあることがきっかけで羽を得た。そして、もうひとつ得たことがある。それは視力だ。天使の瞳(エンジェル・アイ)。海上ではるか遠くにいた海賊たちの動きもこの天使の瞳(エンジェル・アイ)で見通すことが出来た。最も神に近い天の領域にいるわたくしにだけが与えられた力。

 国分教太は事前情報で顔は割れている。後は町のどこかにいる国分教太をこの目で見つければいい。

「どこだ?どこだ!」

 その時、天守閣へ続く橋の上。

 5人の人影。4人は男。ひとりは女。その男のひとりが・・・・・。

「見つけた!国分教太!」

 一気に降下してわたくしは天守閣に沿うようにして堀を進む。そして、橋の下から奇襲を仕掛ける。

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