出立③
属性魔術とは
属性魔術には火、水、雷、風、氷、土、龍の7種類存在する。
それぞれに弱点となりうる属性がある。
魔術師は自ら持つ魔力の波長によって使える属性が限られてくる。
例外を除いて使える属性の数は最大で2つが限界である。
やって来たのは市街地から少し外れたとある企業の資材置き場だ。使われていることに使われているのだが、建物の奥に行けばいくほど人が通った形跡がどんどんなくなっていく不気味な建物だ。埃をかぶった資材の隙間を塗って建物の奥に進む。
「勝手に入っていいの?」
美嶋の素朴な疑問だ。
「大丈夫ですよ。現に風也さんはここを4カ月近く通っていたんですから」
「まぁ、報告とかしないといろいろ面倒だからな」
それ以外にも面倒なことがあるだろ。例えば、恋人の氷華の嫉妬とか。でも、最近はその霧也の恋人の氷華もこちらの世界で仕事をこなしている。俺たちが魔術世界に行っている間は俺たちの世界に入り混んできた魔術師の撃退は氷華たちに任せることになっている。俺は俺の問題を解決するべきだ。
「着きました」
アキがそういって足を止めたのは作業用のエレベーターだった。出入り口は金網で仕切られていてエレベーターの外壁は存在しておらず、建物の壁がむき出しの状態になっている。錆びついたエレベーターは長らく使われている形跡はなく中には資材がゴミのように散乱していた。
「ここが出入り口なのか?」
「そうですよ」
錆びついてしまった金網の扉はアキひとりの力であけることが出来ずに途中で霧也が手伝いに入る。さびれた金属同士がこすれ合って身震いするような金属音が響く。思わず、耳を塞いでしまう。
「本当にここが出入り口なのかよ。前に見た物とは全然違うぞ」
俺は前に異世界への出入り口を見ている。突如、現れた先の見えない真っ黒い穴の境目では空間が歪みすべてをねじり破壊してしまう。そんな不安定な感じがして、この先に別の世界があるんだって言うと納得してしまう感じだった。とにかく、今までの俺の経験からして時空間魔術の移動手段は先の見えない穴であることだ。このエレベーターにそんな穴は存在しないし、異世界の雰囲気もない。
「まぁ、教太が見てきたものとはかなり違うだろうな」
「そうですね。これはいわばカモフラージュなんですよ」
「カモフラージュ?」
「教太さんが魔術をこれ以上関係ない人に関わらせないようにしたいという考えは私たち組織側にもあります。実際の穴がこちらの人の目に入ってしまったらそれはもう大騒ぎになって、探索のために軍隊なんかが入ってきたら大変ですよ」
そういう心配かよ。
でも、そういう面で言ったらこのエレベーターどこからどう見てエレベーターにしか見えない。
「どっちにしろこの埃っぽいこのエレベーターでちゃんと異世界にまで行けるわけ?」
中に入った美嶋は散らばっている資材をひっくり返そうとするが埃舞うので途中でやめる。
「ちゃんと行けますよ」
それに続くようにアキも乗り込み霧也も後追う。俺も乗ろうとするがその前に振り返る。自分の世界を。しばしの別れと言うことになりそうだ。この世界には家族もいる、蒼井や香波のような俺の帰りを待つ者もいる。一応、そこに家族と・・・・・友人のオカマも入れておくこととしよう。家族とは関係が治りかけている気がしている。本当に治っていいのだろうかという恐怖感もあるが同時にうれしさもある。だから、これで二度目になるが忘れないように思うことにしよう。
絶対にこの世界に戻ってくる。
エレベーターに乗り込んで霧也とふたりで金網の扉を閉める。
「で、これからどうするのよ?」
「これを使います」
それはエレベーターのリモコンだ。
「それでどうやって異世界に行くんだよ」
「これは要するにただの信号です」
アキはリモコンを1階のボタンを強く押す。
だが、エレベーターは1階にあるので下に行くはずもない。
しばらくしても何も起きる気配がない。
「・・・・・・何も起こらないぞ」
「そろそろですね。ふたりともどこかに掴まっていてくださいよ」
「何も起きるような気配がないのに?」
美嶋はアキの言うことをスルーして腕を組む。対してアキと霧也は近くの取っ手を掴む。それを見るとなんかやばそうなのは美嶋にも分かったようで近くのパイプに捕まる。俺も同じように適当なところに掴まる。
「最初はたぶん酔うと思うので覚悟していてください」
「酔うのか?」
「あまりしゃべるな。舌をかむぞ」
あのさ、なんでふたりとも何も具体的に話してくれないんだ?つかさ、アキも若干震えてるのは気のせいか?
「わ、私もまだ慣れないんですよ。異世界の移動は」
「は?」
「ちょっと何が起きるのか教えなさいよ」
「そろそろだ」
そういうと霧也は身構える。
「何がそろそろなんだよ?」
その瞬間、俺たちの足元に六芒星の陣が発生して突然光り輝いてくらい資材置き場を照らす。
「な、なんだ!」
これが時空間魔術だなんて分かり切っている。
その瞬間、足元にあの先の見えない真っ暗な穴が発生するとまるであたりの空気を吸い込むように暴風が吹き荒れる。
「何よ!どうすればいいのよ!」
美嶋は掴んだパイプを掴んだまま俺の手を握ってくる。汗ばんでいて震えていた。
「掴まっている物から手を離せ!行くぞ!」
霧也が取っ手から手を離すと穴の中に吸い込まれて行った。穴の中に入った霧也は消えることなくすごい勢いでどんどん小さくなっていく。俺の経験した時空間魔術による移動は先の見えない穴に入るとすぐに目的の場所に繋がっているというものだった。だが、これは先の見えない暗闇の中を彷徨うような感じになっている。
「教太!大丈夫なの!これ!大丈夫なの!」
「俺が知るか!」
吸い込む力はどんどん強くなって行って掴まっていたパイプから手が離れそうになる。
「い、行きますよ!」
アキがパイプを握る俺の手を握る。それは俺にすがるような感じだった。怖いのはアキも同じようだ。結局、最後には俺を頼りにするのだ。魔術師との戦いではいつも。
「ええい!ここにいても何も始まらない!行くぞ!美嶋!」
「待って!心の準備が!」
「行くぞ!」
手を握る美嶋の手を引っ張って3人手をつないで穴の中に飛び込む。中は本当に真っ暗で俺の言ったことのある無の部屋とは真逆だ。そして、俺たちの入った穴はどんどん遠ざかっていく。吸い込む力は体ごと空間を捻じ込むように引っ張っていく。体が不自然に揺れて、見れば俺たち体がぐにゃりと歪んでいた。その感覚は内臓が体が捻じ曲げられているような感覚で気持ち悪かった。早く終われとそう願うと目の前に光が見えて入って来た時と同じ穴を見つけた。