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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
天の領域
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垣間見る関係②

 薄暗い廊下をコツリコツリと大理石の床を木の下駄で音を奏でながら進む。そのペースゆっくりと気品あふれる。さっさと歩けよとフレイナが急かすがMMもその部下であろう花魁風の銀髪の女の人もフレイナのペースには載せられすゆっくり廊下を歩く。あたしからすれば慣れない着物のせいで素早く歩けないのでありがたいことをこの上ないのだ。

 それよりもなんか張り詰めたこの空気は何なんだろう。黒の騎士団という組織のせいだろうか。聞こうか聞くまいか悩んだ。なぜならあたしはこの世界の住民ではない。知ったところで無駄な知識だ。でも、なんかこの人についていくために聞いておくべきだと思う聞く。

「あのMM、黒の騎士団ってなんですか?」

 しばらく沈黙の後にMMは答える。

「わっちら組織と同じ巨大魔術組織じゃ。イギリス魔術結社ほどの歴史はないがそれでも深い歴史を持つ巨大魔術組織には変わりないなんし」

 組織と同じ巨大組織。しかも、MMの口調からしてきっと対立している。声のトーンが低くてあたしとフレイナと茶室で話していた時とはどこか柔らかに感じがしたけど今は表情も口調も棘がある。

「主には抱えきれない大きな問題じゃ」

「そうじゃん。勝手にあたしゃらを悪者扱いして腹立つじゃん!ここは一発熱いものでもくらわせて」

「黙れバカ」

 一瞬、ぬっとか言って言い返そうとしたけどさっきの勝負でフレイナはMMよりもバカであるとされてしまったので言い返せない様子。その辺を守るところを見ると意外とかわいい一面もあるんだな。

「美嶋秋奈よ」

「は、はい」

「主の力ではどうすることもできない問題をこの組織は抱えておる。相手の力は常に強大でこのわっちですら恐ろしい」

「え?」

 あのフレイナを押さえるだけの力を持っているMMですらも恐れる力があるの?

「じゃが、恐れるということは相手の力を認めておる証拠じゃ。わっちは黒の騎士団の力を認めておる。強く影響力の強いものが多く集う組織じゃ。わっちの組織とは比べ物にならないほど質が圧倒的に違うなんし」

 質が違うということは強い奴がいっぱいいるってことだ。その中に何人規格外がいるか分からない。その規格外がいつ時空間魔術を使ってやって来るか分からない。そんな恐ろしい奴のひとりがこの建物の中にいる。

「不安か?」

「え?い、いや・・・・・その」

「安心せい」

「え?」

 その安心せいという言葉にはさっきまであった棘と言うものはなく茶室で着付けをしてあたしのことの・・・・・む、胸がなくて似合っていると言ってからかった時と同じ柔らかい声だ。

「主にはわっちがいる。フレイナがいる。わっちの隣にいる銀髪の女、名はムラサキというがこやつもなかなかの実力者じゃ。他にも多くの手練れがこの建物にはおる。その手練れがきっと主を守ってくれるじゃろう。主の思う恐怖や不安をきっと取り除き救うじゃろう」

「ほ、本当ですか?MM?」

 MMはうっすらと笑顔を向ける。フレイナもニッと笑う。銀髪のムラサキさんも笑みを浮かべてあたしの方を見る。

「皆が主の味方じゃ。じゃから、そんなビクビクするな。せっかくの着物美人がもったいないなんし」

 なんかすごく安心する。アキの言うような悪い人にはあたしは感じない。このMMって人は強いが故に力だけが表の顔として出過ぎてしまっているせいでこの人情が隠れてしまっている。きっと、この人は誰よりも人を思う。使い捨てにするような人じゃない。絶対にそうだ。そうに違いない。魔女のアキにも間違いはあるんだ。

「じゃが、せめてそのMMという呼び名はやめてほしいなんし」

「何でですか?」

「MMという名はわっちの母と名が被って変わりずらいということからそういう愛称になった。正直嫌いじゃ。じゃから、名で呼んでほしいなんし。代わりと言ってなんじゃが主も名で呼ばせてもらおう」

 そう言ってあたしの目の前にいる神々しい女性は手を差し伸べてくる。

「分かりました。ありがとうございます、ミレイユさん」

「これからよろしく頼むぞ、秋奈よ」

「はい」

 差し伸べる手を手に取って握手を交わす。

「よろしく頼むじゃん!秋奈!」

 本当に久々に秋奈って名前で呼ばれた気がする。教太にそう呼んでって言っても恥ずかしがって呼んでくれなかった。秋奈って呼んでくれるだけでうれしい。このうれしさはきっとこの世界に来なかったら感じられなかったものだろう。初めてこの世界に来てよかったと思えた瞬間だった。

「さて、使者を待たせておる。ゆくぞ」

「おう!どんな奴だろうとあたしゃがぶっ飛ばしてやるじゃん」

「フレイナさん、バカですか?」

「秋奈にまで言われるの!」

 笑いが起こる。父が失踪して地獄のような日々から脱したようなこんな日常が毎日続けばいいなとあたしは心から願う。それがまったく次元の違う異世界であってもだ。

「ここです」

 ムラサキが扉を開けるとそこは教会に似合った大理石の洋間で暖炉があって絵画があって花瓶が置いてあって中央にはソファーとテーブルが置いてある。そのソファーにあたしたちとは背を向ける形で座っている。銀髪のツンテールに少し背丈の低い少女がそこにいた。振り返ると碧眼の瞳に異国感が伝わる。黒に赤のラインの入った軍服のような服を着て胸には馬に乗った重装兵が剣を掲げたエンブレムのワッペンが塗り貼られている。それよりもあたしたちの目を引くのが彼女の背中にある。それはまるで天使のような純白の羽が4枚。大きな羽が2枚に小さなが羽が2枚。まるで黒の騎士団からではなく天から使者が来たように思えてしまったがそれは彼女の発せられる言葉で掻き消される。華奢な体をしているのにそんな体からは発せられたとは思えない力強い声で気を付けをして名乗る。

「わたくしは黒の騎士団、第2分隊所属、アテナ・マルメルと申しますのよ」

「ミレイユ・ミレーじゃ。皆はMMと呼ぶな」

「・・・・・あなたがMM。単刀直入に申し上げますのよ。国分教太を拘束させていただきますの」

 そのアテナという少女から送られるミレイユさんに注がれる視線は明らかに敵意だった。

 これから何が起こるのか不穏な空気があたしの心を不安にさせる。

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