垣間見る関係①
「うっぐ!」
「大丈夫ですか?」
「ちょ、ちょっと苦しいです」
「では、少し緩めに着付けしますね」
「お、お願いします」
お腹が締め付けられるような感覚で胃袋の中身が一気に飛び出てくるかと思った。まさか、初めて着物を着ることになったのがこんな異世界なんて思いもしなかった。異世界が存在してその世界で魔術が存在するなんて知るはずもなかった。しかも、それをあたし自身が使っているなんて予想もしなかった。
本当に予想外のことばかりが起きすぎて頭がどうかしそうだ。
あたしは今、組織本部の教会内にある畳の部屋にいる。小さな部屋にはあたしの他にMMとその手下の銀髪の女の人にフレイナがいる。
「似合うではないか。やはり、着物を着るのは日本人に限るな」
「そ、それはどうも」
似合うと直球で言われると照れてしまってどう返していいか分からない。
「違和感がないのは変に胸の無いがないからじゃな」
「ケンカ売ってるんですか?」
自分はあるからってその言い方はさすがにカチンとくる。
「できました。どうですか?」
MMの手下と思われる同じように花魁風の着物を着た銀髪の人があたしの髪も結ってくれて鏡で着物を含めた全身をようやく見ることが出来た。あまり髪も長くないからMMみたいな派手な感じにはならなかったけど、これはこれで落ち着いていていい。ある程度長い後ろ髪を結ってもらって少し持った感じに仕上がっている。桜の簪があってこれは結構お気に入りだ。
教太にこの姿を見たらどんな反応をするだろうか・・・・・・。
「どうしたのじゃ?」
「い、いや、なんでもないです」
教太とケンカ別れのような別れ方をして1週間がたとうとしている。1週間前に起きたイギリス魔術結社による奇襲によってアキと風上さんが怪我を負った。風上さんの怪我はそのうち治るとしてもアキは甚大らしい。今後魔術を使えないかもしれない。魔術を使うということは魔術世界において最重要項目だ。使えなければアキのこの世界にあるアキの立場が消える。MMから聞いた。アキがある方法を使って自分の魔力を4倍以上膨れあげさせて戦ったことを。そのせいでアキが魔術を使えなくなるかもしれない状況に陥ってしまったことも。そして、その力を与えたのがMMであるということも知っている。
MMのせいでアキが魔術を使えなくなる。怒りが湧き上がる。でも、MMはアキが自分の意思でその力を使ったと言った。あたしがアキには力がないことを言ってしまったせいでアキは無理をしてしまった。あたしが教太のもとに帰ってきてほしいから自分に力があることを証明しようとした。
あたし自身に力があればこんなことにはならなかった。
「・・・・・あのMM、あたしには力がないのですか?」
「ないな」
その速い回答にあたしの力には希望はないのだろうか。
そんな落ち込んでいるあたしなんか気にせずにMMは続ける。
「根本的パワーという面では主の右に出るものは・・・・・・いることにいるがそうそういないじゃろう」
一瞬詰まったのはあたしよりも圧巻のパワーを持つ人が部屋の隅っこで座布団を枕にして横になりだらしなく寝ているフレイナのことだろう。あの人のパワーには正直敵わない。
確かにあたしはすべての属性魔術を同時に使える離れ業をするような常識外れはいないとアキから聞いている。でも、結局は属性魔術だ。それ以上でもそれ以下でもない。教太のような意外性はない。
「規格外とはどのようなものか主は聞いておるか?」
「確か、魔術の法則に外れた強大な力ってイメージがあります」
フレイナとかは火属性の教術を使うが弱点である水属性も土属性も全く苦としていなかった。
「そうじゃな。わっちもあのバカもそして、主も同じ規格外がいなんし」
「え?」
「魔術の法則から外れた巨大な力だけならば主もそうではないか?」
確かにそうかもしれない。
「主に力がないのは自信があまりにもなさすぎるせいなんし」
「自信がない?」
「強大な規格外にも匹敵する力を有しておきながら主は国分教太という強大な力を目の前に自らの力を過少し過ぎておったのではないか?」
あたしの着物の着付けが終わったらしく銀髪の女の人は部屋を出ると同時に別の金髪の女の人がお茶と茶菓子を3人分持って入って来た。静かに茶菓子を置いていくとそのまま部屋から出て行った。甘い匂いに誘われたのかフレイナも目を覚ました。
「お!うまそうじゃん!」
フレイナは作法とか関係なしにそのまま茶菓子を一口で平らげてお茶を一気飲みした。
「・・・・・作法は気にせんでもよいぞ。あのバカを見ていると他人に注意するのもバカバカしくなって仕方ないなんし」
「ミレイユ!また、あたしゃをバカにして!」
「事実じゃから仕方ないじゃろ。暑苦しい」
「そんな格好してるから暑苦しいんじゃん。もっと、あたしゃみたいに涼しい格好をすればいいじゃん」
「そんなバカみたいな格好をしていたらバカみたいじゃろ」
「バカみたいな格好はないじゃん!現に・・・・・・そこの美嶋秋奈もあたしゃと同じような格好してここに来たじゃん!」
一瞬、あたしの名前が出てこなかったのはアキと名前が被るからだ。こっちの世界の人はアキのことを下の名前でアキナって呼んあたしのことは美嶋さんって区別して呼んでくる。分かりやすくていいんだけど、なんか負けている気がして気分が悪い。
「じゃが、現に美嶋秋奈はわっちと同じ着物を着ておるではないか。どうじゃ?似合っておろう。きれいであろう」
MMがあたしのことを人形を抱くように密着してくる。本当に普通の女の人のように。
「きれいかもしれないけど!暑苦しいじゃん!こんな真夏にわざわざ自分から厚着するとか我慢大会でもしてるつもりなの?バカじゃないの?」
「主にバカと言われると無性に腹が立つなんし」
「あたしゃは毎日のように言われてるじゃんよ!」
「主はバカじゃからな」
「バカバカ言って!ならどっちが本当にバカか力比べでもするじゃん?」
バカの力比べてって何?
「望むところじゃ」
え?受けて立つの!
「燃えるじゃん!」
その瞬間、フレイナから感じたのは肌が焼けるような熱。その熱のせいで床の間に飾ってあった生け花の水分が飛んでしまい枯れてしまった。そのうち、畳から出火してもおかしくない。
「待つんじゃ、バカ」
「止めるなよ、バカ」
MMってあんまり頭とか良くないのかなって思ってしまう。こうフレイナと言い争っている姿を見ると。
「主が力を押してしまえばこの建物が崩壊しかねん」
「別にいいじゃん!また作り直せば!」
「そんな面倒なことをやってもらう職人の身にもなってみるなんし」
「知るかそんなもの!どうせ作業する職人は雑魚ばっかりじゃん!」
強いものにしか興味のないフレイナ。MMと本気で戦ってみたいと言っていた。きっと、それは今この状況でも戦いと思っているんだ。だから、ケンカを吹っ掛けた。
「主の力押しでは建物が崩壊し、わっちの気に入りの間が壊されてたまったものじゃないなんし。じゃから、別の方法で決着をつけようぞ」
そう言って襖の方に目線を送ると意図していたかのように銀髪の花魁の女の人が襖を開けてやってきた。
「何か用でしょうか?」
「前にそろえた物を持ってきてくれんか?」
「少々お待ちを」
そう言って静かに襖を閉めて数秒後。再び銀髪の女の人がやってきてお盆にピコピコハンマーとヘルメットが置いてあった。
「え?」
驚きの声はフレイナからもだ。
「そ、それで何をするわけ?」
「日本の座敷遊びのひとつ、たたいてかぶってジャンケンポンじゃ」
「・・・・・何それ?」
いや、どうしてそんなものを突然出てくるのか謎なんだけど。
「ルールは簡単じゃ。じゃんけんをして勝った者がピコピコハンマーを使い相手の頭を叩く。負けた方がヘルメットをかぶってピコピコハンマーから守る。勝ち負けはじゃんけんで勝った者がヘルメットをかぶる前に相手の頭をピコピコハンマーで叩いた方が勝者じゃ」
あたしも小学生の時にちょっとだけやったことがある。あたしの時は新聞紙を丸めた奴を棒にした。棒で負けた相手を叩きすぎて棒が悲鳴を上げて結局それ以上やらなかったことを覚えている。その時はまだ、あたしに普通のコミュニケーション力があった。懐かしい思い出だ。
「この勝負で負けた方がバカじゃ」
「なるほど。この勝負に負けたらミレイユは潔く自分はバカですってあたしゃの前で宣言してもらうからな!」
「望むところじゃ」
あれ?そういえば、あたしって確か自分の力の話をMMにしていた気がするんだけど。その話は一体どこに行ってしまったの?そんな疑問を問いかける空気でもなく座布団に座った二人の間にはヘルメットとピコピコハンマーが置かれている。
「では行くぞ」
「いつでも来い!」
このふたりって本当に誰もが恐れるMMとフレイナのか疑ってしまうくらい平凡な空気がこの部屋中に流れている。
「「叩いてかぶって!ジャンケンポン!」」
MM、パー。フレイナ、チョキ。
「勝ったー!」
という雄叫びと共にフレイナはピコピコハンマーを手に取る。でも、MMの方が動きが早くヘルメットをすでに頭に装着済みだった。これではフレイナの勝ちではない。のだけど、フレイナの持つハンマーを覆うようにして炎の渦が纏う。
「え?」
あたしの驚きの声と共にフレイナは炎を帯びたハンマーを振り下ろす。
「炎のピコピコハンマー!」
MMの頭部に直撃すると炎が爆発的に部屋中に飛び散る。その炎は無防備なあたしの方に飛んでくる。防ぐ手段もなくただ眼をつぶるしかできなかった。でも、熱くなかった。ゆっくりを目を開けると目の前には半透明の長細い六角形の宝石のようなものがあたしの目の前で炎をせき止めていた。あたしだけじゃない部屋中にフレイナの炎から部屋を守るように宝石が無数に存在した。
「いつ、誰が教術を使ってよいと言った?」
MMの声にドスが利いている。
「い、いや、だってルールには教術は使ったらだめって言うのはなかったじゃん・・・・ね、ね!美嶋秋奈!」
「え?な、なんであたし?」
急に振らないで!
「なら、よい続けよう」
「え?いいの?」
「フレイナそう来るのならばわっちもそれ相応の受け答えをしよう」
フレイナが宝石のように輝く剣がフレイナの手に作られた。
「ちょっと待って!なんて物騒なものを手にしての!」
「主の炎と比べたらかわいいものなんし」
「いやいや、そうじゃなくて!」
フレイナの言うことは分かる。どう考えても殺傷能力の高そうな剣だ。
「叩いてかぶって」
「わ、わ、わ待って!」
「ジャンケン」
MM、パー。フレイナ、グー。
「わっちの勝ちじゃ」
剣を振りかざす。
「ちょっと待って!」
ゴンと言う音共にフレイナがバタンと倒れた。眼をまわして星をまわしていた。
「何事ですか?」
異変に気付いた銀髪の女の人が部屋の入って来た。
「そこのゴミを捨ててきてほしいなんし」
「・・・・・はい。分かりました」
え?分かったの!
「いつものように水の中でも漬して置きます」
「頼んだぞ」
そう言ってMMにお辞儀をするとフレイナを引きづって部屋から出て行った。
「騒がしくてすまなかったな。わっちとフレイナはいつもこんな感じなんじゃ」
「な、仲いいんですね」
「腐れ縁じゃ。この組織を立ち上げる時も奴の力なしではここまで大きくはならなかった。感謝は一応しておるのじゃ」
MMにとってフレイナは数少ない自分をさらけ出せる相手なのかもしれない。だって、楽しいそうだったもん。遊んでいた時のMM。垣間見れた二人だけの関係。
「ミレイユ様」
「どうした?」
別の白髪の女の人が入って来た。
「黒の騎士団のアテナ・マルメルという女がミレイユ様と話がしたいと言ってきております」
「黒の騎士団じゃと?」
不穏な空気が再びあたしたちを襲う。




