龍の意志②
「教太さんには属性魔術の龍属性について詳しいことをお教えておきますね」
「お願いします」
病院のベッドの上でアキが魔女の知識力を使って俺に魔術のレクチャーをしてくれる。知識をアキで手に入れて実践を霧也のもとで磨くというのがいつもの流れだ。だが、今の状況それも簡単ではない。アキはベッドの上から動くことはできず、霧也も退院はしているものの怪我の影響で戦闘するだけの激しい動きを制限されている。とりあえず、アキから情報だけはいつものように聞く。
「龍属性は属性魔術に属されますが、他の属性とは大きく違います。それはなぜか教太さんはすでに知ってしますよね?」
「ああ。確か龍属性魔術は他の属性魔術と同じ属性を使うことができるんだよな」
「はい。すべて龍属性の赤黒い色になってしまいますが、他の属性と同じものを使うことが出来ます。私たちの組織で龍属性を使うのはリュウガさんだけですね」
「結構、希少な属性魔術なんだな」
「そうですね。前に言ったと思いますが、龍属性の教術と言うものも私は初めて聞きます。居そうで今まで居なかったんですよね」
そもそも、龍属性を使う魔術師というのもリュウだけという時点でかなり希少な属性のようだ。
「話を戻しますと、龍属性は他の属性魔術のように波長にとって他の属性魔術に使用制限が存在しません」
確かにリュウも火と氷の龍属性攻撃をしていた。普通の火と氷属性ならば同じ魔術師ではどちらか一方しか使うことはできない。そういう法則が出来ている。
「教太さんの龍属性の形状は土属性でした。通常土属性を使うことのできる魔術師は他の属性魔術を使うことが出来ませんが、龍属性の場合は他に属性を使うことができるかもしれません」
「かもしれないってどういうことなんだ?」
「使えない場合をあるんですよ。私が魔女だったころ、味方に龍属性魔術を使える魔術師がいたんですけど、使えるのが雷だけでした。単にランクが低かったというのも原因だったかもしれないですけど」
そういう場合もあるのか。俺も土属性しか使えない可能性もあるのか。
「他の属性を発生させる方法として手っ取り早い方法があります」
「マジか!」
「はい。簡単な話です。同じ龍属性の人の話を聞けばいいんですよ」
同じ龍属性の人ってもうひとりしかいないだろ。
「よー!教太!久しぶりやな!」
突然、背後から現れたのは真夏なのに前と同じ学ランのようなコートにオールバックに龍の目つきをした男。こいつがリュウ。リュウというのは愛称で本名はリュウガ・フォーロン。組織側の人間で組織唯一の龍属性魔術の使い手だ。
「どうやって突然背後に!」
「それは私の魔術だよ、教太ちゃん」
「リンさん!お久しぶりです」
金と茶色の色の入った長い髪をした幼さが残る女性。この人がリンさん。リン・エイリー。リュウと同じ組織側の人間で時空間魔術の使い手。何より目を引くのがその服装。ほぼ見せブラのキャソールに紐だけで出来たスカートがまるでラテンダンサーのようだ。ちなみにスカートの紐はそれぞれが魔武なっているらしく簡易の時空間魔術を発動するらしいのだ。非魔術師との戦いのときに使ったところを美嶋が見ていて教えてくれたのだ。その現場にいればリンさんのパンツが見れたなんて考えないでおこう。
それで俺の背後に突然、リュウが現れたのもリンさんの時空間魔術による移動だろう。A点からB点まで時空間の通り道を作り一瞬で移動できるというものだ。
「なんや。その反応はリンと俺の反応が違いすぎるぞ」
「リュウみたいなむさい男よりもリンさんのような人に出迎えられるのとどっちがいいかは明白だろ?」
「リン一択だな」
話が分かる奴だ。
「それでふたりはどうしてここに?」
つか、今までどこにいたんだよ。
大変だったんだぞ。
組織と敵対関係にあるイギリス魔術結社の土台とも言えるルーキーのグレイとフローラが突然、襲撃してきて大変だった。
「いや、アキナが魔術を発動できるかどうか危うい体になったということを聞いてなシンガポールからすっ飛んで戻って来たんや」
ああ、別件で日本にいなかったんだ。
「そうよ。戻ろうにもツクヨちゃんの長距離移動ができなくなってて焦ったんだよ」
リンさんの特徴としてはどんな人でもちゃん付けして呼ぶところだ。圧倒的に年上のツクヨにもちゃん付けするとは恐ろしい。
「そういえば、リンさんもツクヨと同じ時空間魔術の使い手ですよね。なら、俺たちを元の世界につなぐための穴を作ったりできないんですか?」
「無理ね」
おお、即答とは。
「私のランクはDよ。レベル3の五芒星の陣の魔術ですら発動させるのにいっぱいいっぱいなのよ」
つまり、ランクが低すぎて大量の魔力を消費する異世界移動の魔術を発動することができないということなのか。
「それに時空間魔術の発動にはいろいろとコツがいるのよ」
「コツ?」
「そうよ。・・・・・・例えばね・・・・・・そう・・・・・・いろいろよ」
説明できないのかよ。
「時空間魔術は陣への魔力の送り方が少し特殊な感じなんですよ」
「そう!それよ!アキナちゃん!」
そういえば、アキも魔女モードになっていた時に時空間魔術を使っていた。なぜか使える人物と使えない人物がいるのか詳しいことが分かっていない無属性魔術の内のひとつだなんて前に言っていた。
「どう特殊なんだ?」
「魔術師じゃない教太さんに説明するのは非常に難しいんですが、通常魔術を発動させるときは魔力を術者が陣に送る感じで発動させているんですよ。ですが、時空間魔術の場合は魔力を送っている感覚がほぼ存在しないんですよ」
「はぁ?それだと魔術は」
「発動しないのが普通です。ですが、発動するんですよ。時空間魔術は。それに魔力も陣のレベルと相応に減っているんですよ」
発動感覚がまったくないのと同じだ。これは教術にも言える話だが力を発動させる感覚は必ず存在する。俺の持つ破壊の力を司る黒い靄も発動する時に両手に力を込める。その力がきっと魔力だ。その感覚がないとなるとそれが本当に魔術なのか教術なのか怪しくなる。
「魔力を流す感覚がない魔術なのでどう発動していいのかが魔術師たちを混乱させます。なので発動できる人がかなり限定されてしまいます」
それで使える奴と使えない奴が出てくるのか。
「じゃあ、なんでリンさんは時空間魔術を使えるんだ?」
「さぁ~。知らない」
えー。
「確かに魔力を流す感覚はいつもないけど、発動するからいいかな~っていつも思ってるよ」
そんな簡単に割り切っていいのかよ。
「あのね、教太ちゃん。いくら考えても分からないことは分からないんだよ。神の法則と同じように分からないなら分からないって割り切らないとつらいよ。それでも分かろうと必死に頑張って考える人は本当にすごい人。私たちとはいる領域が違うんだよ。だから、今は分かることから分かって行った方がいいと私は思うよ」
分からないことは分からないって割り切って分かることから分かって行った方がいい。
今の俺が分かっていることはひとつだ。
「アキが最近俺が発動させた龍属性の性質についての話をして、龍属性魔術を使うことのできるリュウがいるということはもうやることは分かる」
左手に軽く力を込めると手首に五芒星の陣が発生して左の肘から指先に赤黒い龍属性の岩が覆う。
「これのコントロールと別の龍属性の模索だ。そのためにいろいろとレクチャー頼むぞ、リュウ」
「任せておけ」
俺は強くならなければならない。これから戦うことのできないアキのためにも。力がないことに失望してしまった美嶋の希望になるためにも。俺は強くなる。




