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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
天の領域
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天の意志①

夏休みは最高だぜ!

「きらきらひかる~ おそらのほしよ~ まばたきしては みんなをみてる きらきらひかる~ おそらのほしよ~」

 満天に広がる星空を眺めていたら急に童話を口ばさみたくなった。そんな見とれてしまうような星空をわたくしは見つめながら目的地へと飛ぶ。わたくしの背中から生えている翼が風をいっぱいに受け取って一定の高度、速度を保ったまま目的の場所を目指す。夜空を見ながら飛んでいるのでわたくしは雲を背にして飛んでいる。星の光によって雲にわたくしの影が出来る。目的地には丸1日かかる。一向に変わらない景色の中で星空はそんなわたくしの心を癒してくれる。

 魔力は持ち主個人の物。でも、この星空は世界共通平等だ。誰でも見ることが出来てどれだけ見たって誰も怒らない。誰も止めない。この夜空だけは変わらない。だから、好きだ。

『景気よく歌を歌ってるところ悪いな~』

 不愉快な男の声でわたくしの癒されていた心が一気に現実へと引き戻される。

「なによ?」

『そう、不愉快な声を出すな~。あんたが膨れっ面してる顔が容易に想像できるで~』

 ウエストポーチから取り出した1枚のカード。

 通信用の魔術が常に発動状態のものだ。これで遠くいる仲間と会話することができる。目的地へ向けて出発してもうすぐ半日が経とうとしている。最初は暇でこの魔術を使って仲間と他愛のない会話していたけど、この男との会話は正直嫌いだ。

「そう思うなら連絡してほしくないですのよ」

『いやいや、わいにとっては女の子と会話できるだけで幸せなんやって~』

「うざ~い。きも~い」

『いい!それを待ってたんや!もっとや!もっとわいをいじめてくれ~』

 本当に気持ち悪い。こんな奴との会話は精神が削られる。せっかく、遠出の仕事でしばらく顔を合わせる必要も無いと思っていたのに・・・・・。

「それでわたくしに何か用があったのでは?」

『おお、さっしがええな~』

「押しつけがましいですわよ。いつものように仕事を押し付けるようなことだったらお断りですのよ」

『き、君はエスパーかいな!わいの言おうとしていたことが簡単に見抜かれるなんて~』

「いつものことでしょ!毎度毎度、他人に仕事押しつけて!そのうち団長に叱られますのよ!」

『大丈夫。大丈夫』

 どこが大丈夫なのかさっぱり分からない。

『今回ばかりはわいではちょいと難しいと団長様からの御用達で君に連絡を入れたんや~』

「あなたじゃなくて団長が?わたくしに?」

『そうや。君は今どの辺にいるか分かるか?』

「どの辺って言われても・・・・・」

 翼を羽ばたかせて宙返りをして雲の中を突っ切って雲の下に出る。そこに広がるのはどこを見渡しても広がる海。波立つ海は穏やかでどこまで続く。こんな海のど真ん中で今どの辺って言われても分かるわけないじゃない。

『星の位置から座標とか分からないんか?』

「わたくしにはそんな知識はないですのよ。この通信魔術から位置の特定とかはできないのですか?」

『・・・・・ワンチャン出来るかも』

 そう言うと通信が途切れる。

 きっと、この通信魔術を施した魔術師のところにでも行ったのだろう。

 さざ波の音しか聞こえない静かな海上においてはこのいつ戦争が起きてもおかしくない魔の情勢が嘘に思えてくるくらい静かだ。わたくしたち人間の戦いの部隊のほとんどは地上。この海上においての戦いは魔術の相性が大きく偏ってしまうために好まれた環境ではないために戦場にはなりにくい。だから、海の上はこうしているも平和なのだ。

『あ~あ~!もしも~!もしも~し!』

「うるさいですのよ。あなた以外にこの通信できる人はいないのですか?」

『残念ながら全員出払ってるんや~』

 まぁ、うちの組織は基本的に本部留まっている人はほとんどいない。基本的にみんな仕事上世界中を飛び回っているのだ。わたくしもそのうちのひとり。

「それで用事は何でしたのよ?」

『君がいる座標から大体南西に100キロくらい進んだところで海賊による襲撃があったらしいんや~』

「海賊?」

『そや。どうも貿易船だったらしく運んでいた商品が全部パーらしい。まぁ、そこはどうでもええんや~。問題はその海賊行為が1度や2度というわけやないことや』

「つまり、常習犯ってことね」

『そや』

 この神聖なる海の上でそんな悪事を繰り返すことが許されてたまるものか。

「南西か・・・・・目的地へのルートから少し外れることになりますわね」

『その辺のずれに関しては団長に伝えておくから安心せい』

「ちなみにこの海賊退治は一体誰のお仕事なんですのよ?」

 返信がなく波の音だけが広がる。

『海賊は魔力探知を常にしてるみたいや。何かしらの魔術大砲や対空砲弾なんかも船に装備しているらしい。十分、気を付けるんやで~』

「ちょっと無視?」

『ほな、気を付けて!』

「ちょっと!待ちなさい!」

 わたくしの呼び掛けにはすでに応じなくなっていた。

 対応にも分かるようにこの海賊退治の仕事はさっきまで通信をしていた男の仕事だ。仕事を他人に押し付けて自分はのんびり自室でサボるというのがそいつの手口だ。何度も団長に怒られているのに懲りない男だ。この海賊退治の報告をするのはどうせわたくしだ。悪事もその時にばれる。

「さてと」

 背中に装備していた槍を取り出す。手元のスイッチを押すと持ち手の棒が伸びて収納されて短くなっていた刃が長くなる。

「正義を執行させてもらいますのよ!」

 羽を大きくはばたかせて海上をひたすら南西に進む。

 風を切って波を切って普通ならば人にはないものを羽ばたかせてわたくしは夜の海を飛ぶ。この背に従える翼は初めからわたくしの背中から生えていたものではない。人の欲望が生み出した欲の塊。わたくしが望んだものじゃない。この翼が魔術世界の闇だとしたらわたくしはその闇の象徴となってしまうかもしれない。それでもいい。世界中の多くの人にわたくしが背置くこととなったこの翼のことを知ってもらいたい。

 高速で移動することで静かな海の水が大きく水しぶきを舞い上げながら進んでいると遥水平線の向こうにぽつりとひとつの小さな光を見つけた。

 わたくしの目に映る船は大きな帆船で甲板には多くの大砲が装備されている。帆の上にあるやぐらの見張りがわたくしが船に向かっていることに気付いたらしく鐘を鳴らしている。

「いい眼を持った方がいるのですのね」

 すぐさま甲板に屈強な男たちが現れて大砲を手際よく準備する。そして、砲弾を放ってくる。それを翼を羽ばたかせて左右に上下に交わす。

「対応の速さと精確な攻撃は素晴らしいですのよ。おっと!」

 目の前で砲弾が突然、紫色の稲妻を走らせてスパークした。

 雷属性の砲弾。

 次に爆炎をあげる砲弾や着弾した砲弾が巨大な氷の柱が出来上がりわたくしを突き刺そうとする。発見が早かったおかげで魔術を絡ませた砲撃をできるまでに態勢を立ててきている。その対応の速さは見習わなければならないところかもしれない。

 世界の警察と呼ばれるわたくしたちの組織は悪事を見つけ速やかに排除しなければならない。あの海賊だってそうだ。放置し続けければその悪事が飛び火してこの平和な海が無法地帯となってしまう。

「貴様らのような負の塊!わたくしの負の力を持って消し炭にしてくれるわ!」

 飛んできた砲弾を手持つ槍で打ち返す。撃ち飛ばした砲弾が火属性の砲弾だったらしく船体に直撃すると爆音と共に大きな炎が上がる。

 さらに手に持つ槍に力を収束させる。青白く光る鳥の羽のようなものがやり集まっていく。それがこの槍に力が集まっている証拠。

「砕け散れ!」

 力が収束した槍を船に向かって投げる。振りかぶって投げた瞬間、槍にたまったエネルギーの影響で海面の水を巻き上げながら船体に直撃と共に爆音と共に大きな帆船は真っ二つに割れて沈没を始める。船内にあった荷物がどんどん海底に沈んでいく。それを必死に阻止しようとする船員も力むなしく手を離し命を優先してボートに乗り移っていく。沈没を始める帆船の上空にやって来る。海賊の乗った帆船は真っ暗な夜の海に炎上してオレンジ色の光を発している。

 ボート上の魔術師が何か魔術を発動してわたくしに攻撃を仕掛ける。でも、それは砲弾ほどの威力もスピードもなく簡単にかわす。

「戻っておいで」

 そう呟いて手を差し伸べると沈没を始める船を突き破って槍が私の手元に戻ってくる。そして、再び槍に青白い羽が集まってくる。

「二度と悪事が出来ないようにその記憶に深く刻み込んでやる」

 力が集まった槍を水面に向かって投げ込むと同時に爆発によって巨大な渦巻きが発生して燃え盛る帆船はあっという間に海の底に姿を消した。そんな海面から槍だけが飛び出て来て上空のわたくしの手元に戻ってくる。

 ボートに避難した船員は無事だが、全員が青ざめようにわたくしを見上げて魔術師はすでに戦意を失っていた。この圧倒的な力を目にしたが故に敵わないと分かったようだ。賢い選択だ。

 すぐさま通信用のカードを取り出す。

「終わりましたのよ。海賊どもが漂流している場所は今の通信している座標なので回収をよろしくですのよ」

『は、はやいな~。さすが、わいら黒の騎士団の天の領域に近い少女、アテナ・マルメルやな』

 炎上する炎を明かり海賊たちが見たわたくしの容姿。黒と赤を基調とした軍服のような制服に長い銀髪をツンテールに束ねた碧眼の天使の少女の姿を拝むよう見上げている。

「あとは頼みましたのよ。わたくしは向かう場所があるので・・・・・そう、日本に行かなければならないのですから」

 そう言って通信を切って翼を羽ばたかせて元のルートに戻る。

 わたくしの任務はこうだ。国分教太という男の拘束だ。

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