龍の意志①
この惨状を知れば美嶋はどう思うだろう。アキを治療するために空飛ぶバスで中央局が緊急で設置した仮設の治療施設には多くの負傷者がいた。その中に霧也の姿もあった。俺自身も全身にグレイによって負わされた無数の切り傷がありそれを回復魔術によって完治しつつある。
俺はその惨状をただ見ているしかなかった。
「国分様」
治療施設でただ防戦としているだけの俺に声をかける拳吉の部下。たぶん・・・・・下京だろう。
「中京です」
全然違った。
「アキナ様の容体が安定しました。様子を見に行かれますか?」
「行く」
即答して中京の後についていく。アキは仮設の施設ではなくちゃんとした医療施設に収容されていた。ある病室に入ると清潔なベッドに眠っているのはアキだった。ぐっすりと寝ていた。
「あ、アキ」
だが、近寄ってみるとまだ顔色が悪く呼吸も苦しそうだ。
「今は外部から生命維持のための魔力を得てそこまで回復しました。完全に回復させるためには長期間の魔力の注入が必要です」
「・・・・・そう、なのか」
「アキナ様が一体何をしたか聞いておりませんが、魔力の根源がズタボロになっているらしく魔力が蓄えられない状況らしいです。ただでさえ、二度の転生魔術で魔力の総量を限界まで削っています。お医者様は場合によってはもう彼女が魔術を使うことは」
「もういい」
それ以上聞かなくても分かる。
「ありがとう」
俺が礼を言うと中京は一礼して病室から出て行った。俺は近くにあった丸椅子に腰かける。俺が弱かったせいで美嶋がMMのところに行ってしまった。そして、美嶋を連れ戻すには俺たちが規格外とやれるだけの強さを証明する必要があった。アキはそれを証明するために無理をして美嶋にそれを証明しようとした。俺に力がなかったばっかりに。
「すみません。教太さん」
声がして慌てて立ち上がってしまって丸椅子が倒れる。ベッドで眠っていたアキが目を覚ましていた。
「大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまでだいぶ」
そう言っている割には今にも消えてしまいそうな弱々しい声をしている。
「どうしてあんな無理をしたんだ。いくら力を美嶋に証明するためにしてはリスクが大きすぎる」
中京が言いかけていたことはすでに何となく予想がついていた。アキが魔術を使えなくなってしまうのではないかと普通に思っていた。それは俺じゃなくともアキ自身が分かっていたはずだ。
「どうしてだよ?」
「・・・・・私も強いんですよって見せつけたかっただけです。ただそれだけです」
布団に顔を隠してアキは何かをごまかす。
本当にただそれだけの安易な考えだったのだろう。
次はするなよと言いたいところだが、アキはもう魔術を使えないかもしれないと思うと声をかけずらい。
「そ、そうだ!アキ!俺にもついに自分自身の教術を使えるようになった」
「ほ、本当ですか!」
布団から出てきたアキは本当にうれしそうだ。
「見てろよ!」
左手を構えてゆっくり呼吸をして内側から力を左手に込めると左手首に青白い五芒星の陣が発生すると左手を覆うように赤黒いものが発生する。その赤黒いものを初めてじっくり見る。それには熱はなく表面は滑らかなそうに見えるが触れてみるとごつごつ岩のようだ。
「それは龍属性ですね」
アキは驚いていた。
「しかも、教術となりますとかなり珍しいですね。魔女として戦っていた時期に龍属性の教術を使ってくる敵はいませんでしたよ。もちろん、味方にもです。形状からして土属性でしょうね」
アキが教えてくれた。これが俺の持つ力。龍属性の教術。あまりに見ることのない珍しい教術。
「すごいですね。世界的に見てもふたつの教術を使う教術師はいませんよ」
確かそんなことを前に説明された気がする。転生によって宿ったもうひとつの教術を使うのはかなり困難だとか。俺は無意識だったがこの龍属性の攻撃も元々あった破壊の力も同時に使えていた。魔術の法則上、属性魔術と無属性魔術の同時発動は可能だが教術の場合はどうなんだろう。俺も美嶋と同じような規格外の力なのだろうか?
それは分からない。でも、俺はこの力を使いこなす必要がある。そして、美嶋が認めるような強い力を手に入れて見せる。
「待ってろよ。アキ」
力を解いてアキの方を振り向く。
「絶対に美嶋といっしょに元の世界に・・・・・いつものに平和な日常に帰ろう!」
アキはただ笑顔で答えた。
「はい。待ってます」
誰も知らない神の領域の第1部はこれにて終了です。
最後まで読んでくださった方ありがとうございます。
法則から半年以上たってからの続編の更新に正直読んでくれる人は多くないだろうと私は思っています。ですが、ここまで読んでくださった方は本当に感謝です。
2部のほうも早めに更新したいと思いますので、今後とも応援よろしくお願いいたします。




