異界戦⑤
「はぁ、はぁ」
洗い呼吸を整えながら地面に向かって原子の衝撃波を放って安全に地面に着地した。グレイは頭から血を流しているが息はある。左腕を覆うように宿った赤黒い何か。岩のように固いそれはきっと教術の類だ。美嶋にはあって俺にはなかったもの。俺自身の力。
グレイによって吹き飛ばされたアキは俺自身の中にあった力の覚醒によって発生した濃く赤黒い岩に保護されるようにして地面に安全に着地した。この赤黒いものには見覚えがある。どんな力なのか解明するのは後回しだ。
「アキを治療しないと」
瓦礫の隙間に寝かせているアキは洗い呼吸をして苦しそうだ。熱のせいか頬を真っ赤にして変な汗もかいている。頬に手を触れると熱は下がるどころか悪化しているようにも思える。
どこに行けばいい?MMのいる組織本部か徳川拳吉のいる中央局か、どちらもどこにあるのか正確には分かっていない。アキを早急に治療するためにはそのどちらかの場所を正確に認識する必要がある。一度、上空に飛び上がって組織本部か中央局のどちらかを見つける必要がある。
「待ってろ、アキ。すぐに治してやるからな」
少し離れたところで原子の衝撃波を使って飛び上った瞬間だった。砲弾が俺に向かって飛んできていた。咄嗟にいつもの破壊の力で防ぐが勢いは殺せずそのまま弾き飛ばされて地面に叩きつけられるが少し高いところにいたおかげか受け身をとれてすぐに立ち上がれる状態に持っていけた。
「何だ!って考えれば分かるか」
あの砲弾の攻撃はもう腐るほど見ていて見飽きるくらいだ。
予想通り砲弾の飛んできた方には黒い粒子で出来た羽をはやした肌黒い男グレイの姿があった。頭から血を流して全身ぼろぼろだ。開いている目も半分白眼をむいている。
「絶対に勝つ。戦って絶対に勝つ」
「どういう神経してるんだよ。訳分からん」
どうしてそこまでして戦うんだよ。これ以上やればあいつを殺しかねない。だが、あいつは俺の左腕に発生した力の正体を分かっていないようだった。今のあいつに俺を攻略して倒す手段はどこにもない。
確かにグレイには俺を倒す手段はなかった。でも、戦いの亡者となっていたグレイは俺ではなく瓦礫の隙間で寝かせているアキの方を見た。そして、黒い粒子を集めて砲弾を生成する。その目標は明らかだ。
「まずい!」
原子の衝撃波を使ってアキのところに戻る。グレイに攻撃をして行動不能にする手もある。そんなことまで頭は回らなかった。アキが危ない。それだけで咄嗟にアキところまで戻った瞬間、グレイは砲弾を放ってくる。左手に強固な赤黒いもの右手に破壊の黒い靄。この二種類の力で受け止めるほかない。
「やってやるよ!」
両手で受け止めた砲弾は右手の破壊によって崩壊し始めた砲弾は左腕にぶつかることによって砕け散る。もはや、グレイは俺の敵じゃない。
「下がれ!お前はもう戦える状態じゃないだろ!」
そう声を掛けるがグレイは黒い粒子を集めて太刀を作り上げて飛び込んでくる。もはや、俺の声が届いていない。このまま長引けばアキも危険だし俺の魔力の残量も怪しくなってくる。
「でも、やる以外にない!」
両拳を構える。
「あああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!」
グレイが雄叫びをあげながら太刀で斬りかかってくる。
その時であった。
「ウルトラキック!」
雄叫びをあげて太刀を振りかざすグレイに向かってミサイルのように何かが飛んできてグレイを蹴り飛ばし建物に激突させる。一瞬のことで何が起きたのか分からなかった。が、グレイの攻撃から俺たちの身を守ってくれた人物が瓦礫の上に着地する。
「大丈夫だったか?教太」
「と、徳川拳吉!」
俺たちを助けたのはぼろぼろになった黒いジャージとマフラーを従えた徳川拳吉。
「すまないな。ちょっと面倒な奴が中央局の周りで暴れていたもんだから助けに来るのに時間がかかった」
やっぱり、グレイだけじゃなかったんだ。グレイ一人だったら今頃アキ以外にも助けが来てもおかしくなかった。
「教太はアキナを抱えて下がっていろ。こいつはワシが何とかする」
何とかするという言葉には熱というか何か強さを感じた。戸惑っていては邪魔になる。言われるままにアキを背負って拳吉から離れる。背負ったアキから感じられるのは高熱。早く熱を冷まさないと危険な気がしてならない。そんなことを気にしていると建物に蹴り飛ばされたグレイが建物を破壊して上空に姿を現した。
「天使の力か。だが、ワシには関係ない。よくもワシの国に土足で入り込み好きなだけ暴れてくれたな。ワシの国で行った罪は重いぞ!その罪の制裁はこの徳川拳吉自らが成敗してくれよう!」
拳吉は拳を構えて腰を低くする。
「解放段階2!」
それと同時に拳吉からすさまじい風が吹き荒れる。まるで力を象徴するかのようだ。
グレイは何ふり構わずに砲弾を生成して放ってくる。
「危ない!」
俺の警告に拳吉は反応せずそのまま砲弾を食らうが拳吉は無傷だった。
「そんな攻撃!ワシには利かない!行くぞ!」
地面を蹴ったと思ったら拳吉はすでに宙に浮くグレイの目の前にいた。
「日本国!パンチー!」
同時に拳吉の拳からとてつもない衝撃が発せられてグレイを直撃する。グレイは黒い粒子でそれを受け止めているがその衝撃波の衝撃を凄まじくどんどん削られていく。これ以上受け止められないと判断したグレイは衝撃波の軌道をずらして何とかかわす。上空に飛んでいた衝撃波は雲を斬り裂いて満天青空が浮かび上がる。
今の攻撃はなんだ?
俺の疑問にいつも答えてくれるアキは背中で荒い呼吸をしたまま眠っている。だから、何が起きたのか分からない。魔術か教術を使ったのか。でも、陣の発生を見ていない。じゃあ、あの力はなんだ。
「まだまだ!」
拳吉は空中においてまるで地面を蹴るようにして空中にいるグレイに向かっていく。そして、さっきと同じ衝撃波を伴いパンチが繰り出される。今度の攻撃をグレイは交わす。衝撃波はそのまま地面に向かっていきコンクリートで出来た建物2、3棟をいとも簡単に倒壊させた。
やけくそになったグレイが黒い粒子でナイフを生成して拳吉に斬りかかる。だが、ナイフは拳吉の肌に触れた瞬間はじけ飛んで砕ける。恐怖して後退りするようにして剣吉との間に距離を置く。
「なんだよヨ。お前。なんだヨ、その魔術は!教術は!」
正気を取り戻しつつあるグレイが息を切らせて顔色も悪く限界に近い状態で尋ねる。
「ワシの使う技は魔術でも!教術でもない!」
「はぁ?」
「魔力であることは間違いない。ワシは他の魔術師たちとは魔力を流す体質が大きく異なる!ワシは全身のあらゆるところから魔力を吹き出させることができる!」
魔力を吹きだすことができる。どういうことだよ。
「魔力を全身から吹き出すことによってワシは全身をつつむようにして魔力がワシを守り!ワシに強靭な身体能力を得ることができる!そして、全身にまとった魔力をコントロールし!撃ち出すこともできる!」
衝撃波のように剣吉の周りを覆う魔力が暴れ出して瓦礫を吹き飛ばしていく。その威力はまさに人間離れしている。
「ワシはこの国を守るたったひとりの守護神だ!ワシの名は徳川拳吉だ!」
再び拳吉を中心に爆風ともいうべき風が吹き荒れる。
「解放段階3!次は避けることも防ぐこともできない!これで最後だ!」
宙を蹴ってグレイに接近する。いや、接近した。その姿を肉眼で確認できず気付けば拳吉はグレイの目の前で拳を振りかぶっていた。グレイ自身も防ぐことも避けることもできず拳吉の拳をもろに食らう。グレイが地面に落下の衝撃で周りの建物が半壊する。上空にまで高々と砂埃が上がる。
俺があれだけ苦労した黒い粒子によって生成された武器は全く拳吉には通用しなかった。そして、圧倒的スピードとパワー。あれが規格外と言われる人物の力。
「まったく末恐ろしいよ」
味方でよかった。




