出立②
教術とは
魔術に必須な魔方陣と十字架を必要とせずに魔術を使うことができる。
使える魔術は1種類に限られるが、どれも強力である。
「で、お前も行くのか?」
「行くに決まってるでしょ!」
集合場所は始まりの地と言ってもいい廃墟と化したショッピングセンターだ。俺はここで初めて教術を使いこなして魔術師と戦った建物だ。最初は普通の客の少ないショッピングセンターだったのだが魔術師との戦いによって建物が全焼してしまい営業できる状況ではなくなってしまったのだ。元々、客の少なさから営業再開する気配はほぼゼロのこの場所に俺たちは集まっている。
今いるのは俺と美嶋だけだ。美嶋とは小学校が同じで3年ぶりくらいに高校で再会した。それからは毎日のように仲良く過ごしている。整った顔立ちにセミロングの髪は校則違反の茶髪、若干未発達の胸だがほっそりしていてとスタイルはいい。それを生かした白のブラウスとホットパンツという服装だ。
「アキたち遅いわね。あたしたちはどこに異世界に行くための手段があるか知らないのに」
「まぁ、そう焦るな」
俺も美嶋も元はこの世界の住民で魔術なんてものを知ったのはここ最近の話だ。
俺は教術を使い、美嶋は魔術を使う。俺たちふたりは魔術の常識では異例とのことだ。俺は転生した教術しか使うことができず、美嶋の場合は魔術の法則を完全に無視した全属性魔術を同時に使うことが出来る。魔術師には使える属性魔術は例外を除いて多くて2つまでと決まっている。属性魔術は同時に発動することはできない。これに例外はないらしい。そんな美嶋は例外の塊らしいのだ。
「何をじろじろ見てるのよ」
「い、いや別に」
きれいな足だな~、なんて言った暁には殺されかねない。
「すみません。お待たせしました」
駆け足で廃墟のショッピングセンターに入って来たのは整った顔立ちに黒髪のポニーテール。若干未発達の胸だがほっそりとスタイルのいい少女が小走りでやって来た。彼女は三月アキ。俺が初めて出会った魔術師だ。特徴の表現が美嶋と髪以外同じなのは彼女らが同一人物であるからだ。三月アキというのはこの世界の名前であって本名は美嶋秋奈なのだ。
アキのいる異世界と俺のいる世界は途中まで同じ歴史を辿っていたパラレルワールド同士なのだ。ふたつの世界はそれぞれ情勢が違う。人の出会いや誕生の運命が大きく変わってしまう。だが、それぞれの世界で運命に左右されずに生まれ存在しているのがこのふたりなのだ。
若干の性格の違いがあれども、こうして親密にいっしょに過ごしているとこのふたりは同じで似ているなと感じる。
「遅れたのはアキナが準備に手間取っているからだぞ」
「風也さんにも迷惑かけました。本当にすみません」
「そんな謝ることでもない」
アキの後を追って入って来たぼさついた黒髪に鋭い目つきをした男。風上風也。アキと同じ魔術師だ。ちなみに風上風也という名前はとある強い魔術師を作り出す機関に付けられた名前だ。恋人同士で着けた名前が他にあり、霧也と俺も呼んでいる。ちなみに俺は霧也とできてなどいないからな。あいつにはちゃんと女の彼女が存在するのだ。妬ましい。
「何か言ったか?」
「何も」
さて、4人が揃いこれで全員集合というわけだ。
「あのリュウガって人とリンさんって人は?」
美嶋の言うリュウガとリンさんはアキたちと同じ魔術師だ。
「あのふたりは別件で呼び出しだそうなので先に向こうに戻っています」
「そう」
何をホッとしてんだよ。若干、人見知りなところが美嶋にある。それに対してアキにはほとんどない。これが同一人物であるふたりの違いかな。
「では、行くぞ」
「おう」
「忘れ物はない?」
「夏休みの宿題とか持ちました?こっちにはいつ戻るか分からないので持っていかないと大変ですよ」
「大丈夫だって。持ってきてるから。そういう美嶋とか下着とか忘れて慌てたりするなよ」
「・・・・・・・」
「頼むから反論しろ!顔を真っ青にするな!」
「う、うるさいわね!」
「秋奈さん。とりあえず、バックの中身の確認を」
「いや、そんなことしなくても大丈夫だって!教太!そういうのを口実にあたしの下着を」
「別にみたくねーし!」
「即答って!あたしにそんなに興味ないの!」
「なんで俺が怒られなきゃいけないんだよ!」
「・・・・・アキナはともかく教太と美嶋さんは異世界に行くんだぞ。そんな緊張感で後々持つのか?」
そんな霧也の心配事なんて言い合っている俺たちに入るわけがない。
魔術への関わりに慣れてきたせいか、緊張感も前ほどはない。
だが、これから行く世界は希望もあれば、絶望もある混沌とした世界だ。そんな世界を俺は予想していたわけだが、そんなものは浅はか物だ。実物を見るとそれはさらに混沌とした世界だった。