覚醒①
目の前で起きたことは一体なんだ。
俺の知るアキは魔術の知識量を利用して下級魔術を巧みに使い分けて戦う頭脳線というイメージが強かった。だが、今のアキは全然違った。圧倒的力と使用する魔術のバリエーション。それを巧みに使い分けてグレイを圧倒した。シンを殺したほどの男をアキは圧倒している。でも、アキは2度の生命転生という自らの魔力の総量の半分と寿命の半分を削って死人を生き返らせる魔術を使っている。そのせいで魔女と呼ばれて恐れられていたというころと比べると4分の1程度しか力が残っていない。そんなアキが見たことない魔術を使っている。それはたぶん魔女のアキだ。グレイはそれに対応しきれず倒された。
自ら生成して放った砲弾を浴びて地面に落下して動かなくなった。天使の力という大きな力を前にしても魔女の強さは圧巻だった。俺はただ開いた口がふさがらずその戦いを見ているしかなかった。
俺には力がないから。
「教太さん。終わりま」
グレイを倒して俺の方に振り返るアキが突然動きを止めた。小刻みに体が震えているのが分かった。そして、鼻からゆっくりと血が滴り垂れる。
「アキ?」
負傷した?いや、あの戦闘を見ている限りアキが攻撃を受けた風には見えなかった。
だが、血はそんな俺の疑問をさらに重ねるように口からも目からも流れ出した。
「え?」
アキは杖の先にできていた鏡を見て自分の現状を見て驚いている。
何かがおかしい変だ。
すると突然アキが咳き込んでその場に膝をついてしまう。咳といっしょに吐血する。どこから出てきたのか分からないほどの大量の血が咳き込むのと同時に噴き出してくる。
「あ、アキ!」
心配して近寄ってみるとアキが咳き込むと同時に何かを吐き出した。それと同時にアキの杖の先にあった鏡が割れてグレイをつないでいた鎖も砕け散る。何が起きたのか全然整理がつかない。そもそも、アキがどうして魔女の力を取り戻しているのかも分かっていない。
するとアキの吐き出した血の塊の中から鈍く青く輝く丸い石があった。アキが吐き出したのか。それ何なのか手に取ろうとする前にアキがさらに大量の血を吐きだした。
「アキ!」
苦しそうに呼吸をして開いている瞳もぼやけているようで何も見えていない感じがする。倒れそうになるアキの体を支えるとその体温の高さにアキの体を離しそうになってしまった。すごい高熱がアキの体から発せられていた。
「おい!どうした!アキ!しっかりしろ!」
半目の状態の瞳は俺を見ているのか見ていないのか分からない。
何が起きたのか分からないことだらけでもう整理が追いつかない。とにかく今俺がしなければいけないことはアキ早く治療しなければならないということだ。俺やアキやグレイがこれだけ暴れても誰も支援にやってこないところを見るとこの町で何かが起きている。
美嶋の思いが脳裏をよぎる。
MMやフレイナのような規格外が時空間魔術を使い急襲してくるかもしれない。
まさにそれが起きた。
「って!グレイはどこだ!」
アキにやられて動かなくなっていたはずのグレイがそこにいなかった。
「どこだ!」
「ここダ!」
声がしたのは頭上。ぼろぼろの体で黒い粒子の羽を広げたグレイはそこにいた。
「まとめてあの世に行けヨ!」
黒い粒子で砲弾を生成して飛ばしてくる。防ぐことはできない。だったら避けるしかない。アキを抱えて横に大きく跳ぶが地面に着弾した砲弾は大きな砂埃をあげて俺たちを吹き飛ばす。地面に強く叩きつけられた俺はその衝撃でアキを手放してしまう。アキは痛みを感じることもなくぐったりとしている。
「魔石を使って無理やり力を戻していたのカ」
上空にいたグレイが地面に着地して瓦礫の中からアキが吐き出した青い石を手に取った。
「魔石を使ってってどういうことだよ?」
「さぁナ。だが、以前のような強さは魔女にはないとの情報だったはずダ。考えられる原因としては魔石が一番説明しやすい、それに今の状態を見ればあの力は無理がたかったみたいダ。好都合!」
グレイは黒い粒子を集めてナイフを生成する。
あれだけアキの攻撃を食らっておきながらまだ戦い気力があるのかよ。
「先に!魔女!お前を殺して再び俺の名前を世界中に知り渡らせてやるヨ!そうすれば、また強い奴と戦えるってもんダ!」
倒れて動かないアキに向かってナイフを構えて飛んでいく。
アキが殺される。アキは殺させないという咄嗟の想いから何も考えずに無敵の短刀を構えてナイフを破壊するが同時に折れの腕が切り刻まれる。
「学習しないナ!」
空いた手で刀を生成して俺の斬りかかる。アキの服の裾を掴んで原子の衝撃波で引きずるようにしてグレイとの距離を保つ。だが、それを予測していたかのように羽を使って距離を詰めてくる。俺は無敵の双剣に切り替えて攻撃を防ぐ。無数の切り傷が入るがそんなことを気にしていられる場合じゃない。俺が後退すればアキが殺される。でも、このままでは傷を負い続けて俺が消耗してしまう。
「どうするんだヨ!このままだとどっちも死ぬゾ!国分教太!」
どっちも死ぬ。
どうすればいい。どう戦えばいい。グレイは俺の破壊の力ぼ及ばない粒子で俺を攻撃してくる。防ぐことはできない。だったら、腕の一本や二本斬りおとすか?いや、今のグレイには機動力がある。簡単にかわされてアキが危ない。じゃあ、どうすればいいんだよ。
「簡単だヨ。どっちも死ねばいい」
グレイは俺の無敵の双剣をはじいて上空に上がっていく。逃げたのかと思ったがそれは違った。グレイがさっきまでいた背後には巨大な黒い粒子で作られた大砲があった。グレイは避けただ。自分で生成した巨大な大砲の砲弾の余波を食らわないために。
「じゃあナ」
巨大な大砲は轟音を鳴り響かせて砲弾を発射する。その余波で周りの建物のガラス系をすべて割り破壊する。その砲塔から撃ち出された砲弾は俺とアキに向かって来る。アキを抱えて回避しようとするが間に合わず砲弾は俺たち近くに被弾して爆発する。
「アキ!」
吹き飛んでしまったアキに手を伸ばす。でも、届かない。どれだけ伸ばしてもアキには届かない。
突如、目の前が真っ白になった。そして、ある人物の声だけが鮮明に聞こえる。
『これが今のお前の限界だ。教太』
その声はゴミクズか?久々に聞いた。
『今のままではアキナは守れない。美嶋さんもお前のところには戻ってこない』
じゃあ、どうすればいいんだよ。今の俺にはこれが限界だ。すべてを尽くしたつもりだ。無敵系の攻撃も雷も衝撃波も使ってもグレイには通用しなかった。
『それは俺の力だったからだ』
そうだ。この力は元々俺のものじゃない。ゴミクズ。お前のものだ。俺は無だった。だから、俺自身には力はない。MMのいう影響力のある力は俺には存在しない。
『それは違う。MMのいう力はお前にはある』
それはゴミクズ、お前の力だろ。
『確かにそうかもしれない。俺の力を使いこなすには神の法則を知る必要がある』
たったそれだけのことだ。所詮お前の力で俺はいい夢気分を味わっていただけだ。
『違うな。神の法則は俺の世界からすれば科学だ。対して教太。お前の世界においての神の法則は魔術だ。お前は俺たち魔術師、教術師に会う以前に神の法則を魔術を知っていた』
はぁ?どういうことだよ?
『自覚がないだけだ。お前自身にも力がある。以前の使った直後に起きた辛い現状を見てお前が封印した力だ』
俺が封印した力?
『それがお前にとっての有だった。それを封印してしまったせいでお前は無になってしまった』
何が言いたいのか分からない。
『真っ白な無の空間でお前は見つけただろ。真っ黒な部屋に閉じ込められたもうひとりのお前を』
・・・・・キョウのことか?
『彼はお前の自身だ』
俺自身。
『お前はあいつを使いことを恐れている。だが、その抵抗の鎖はあの青い炎と共に朽ち果てたはずだ』
どういうことだよ?何がいいたのか全然わからない。
『お前自身にも存在したんだ。お前を無から有にすることのできる力が』
力・・・・・。
その時、真っ白だった視界が晴れてあの真っ白な無の空間にやって来た。そして、目の前にあるのは真っ白な立方体の頑丈そうな建物。目の前には鎖が中途半端に外れた扉があった。
「俺を無から有にすることのできる力。俺自身の力」
『行け教太』
俺の背後には黒髪の男、ゴミクズがいた。
最初に出会った時と同じ嫉妬したような顔をしていた。
『その先にあるのは俺よりも強靭な力だ。使い方は俺には分からない。すべてはお前次第だ。使い方を謝れば2年前の再現になるだけだ』
「2年前って」
『お前が人を殴り殺した時だ』
脳裏に浮かぶ思い出したくない記憶。
でも、それも魔術に出会うことで乗り越えて糧となった。あの事件は許されるものじゃない。俺が人を殺した事実は何も変わらない。
そんな記憶の奥底、人を殴っていた時の記憶、その記憶の中に俺は見覚えのある現象が浮かぶ。手の甲に浮かんだ岩のような黒いライン。あれはなんだったのか。俺はあの時、武器を使っていない。使ったのは己の拳のみ。その拳にあった俺の手を岩のように強度を与えて攻撃を与えた黒いライン。あれはきっと・・・・・・。
『その扉を解放すれば再びお前は力を有することができる。覚悟はあるか?』
俺はしばらくゴミクズの問いかけに答えることが出来なかった。
俺自身、あの時のことを今でも悔やんでいる。もう少しいい方法があったはずだと。この力はそんな俺の過ちの象徴とするものだ。これを前のめりに出せばきっとまた孤立する。修復しかかっていた家族の溝だってまた深いものになってしまう気がする。
『その程度の迷いはみんなを殺す』
「え?」
『現にアキナは死にかかっている』
「それは・・・・・」
俺には力のない。だから、どうすればいい。どうすれば、グレイを倒せるのか。ただ、ずっと考えていた。
『以前のお前だったらただ自分の力を信じて自分の意思を信じて戦っていた。だから、勝っていた。今のお前にはそれがなくなっている。余計なことを考えるな!ただ目の前の守りたい人のことだけを考えろ!守りたい人のためだったら自分を犠牲にする覚悟くらいお前にはあるだろ!』
ゴミクズに言われっぱなしで何も言い返せない。
「うるさいな。ゴミクズのくせに」
『それはお前が勝手に呼んでるだけだろ!』
「そんなに焦んなくてもいいよ」
振り返って慌てるゴミクズを見つめる。
ゴミクズ、シンは世界4大教術師のひとりでその力は規格外の強さだったはずだ。だが、こいつが強いのは神の法則で守られた教術を有しているからじゃない。シンには自分自身の身を削ってまで誰かを守ろうとする意志がある。それは神ではなく人の意思、人の領域。誰かを守りたいという気持ちによって得られる強さ。
俺にはそれがあったとゴミクズは言った。
「だったら!」
俺は扉の鎖に手を掛ける。
「削ってやる!身も心も削るだけ削ってやる!だから、俺にアキを助ける力!美嶋を連れ戻せるだけの力を俺によこせ!」
鎖を引きちぎり扉を全開にすると中に閉じ込められていた赤黒い靄が一斉に噴き出て無の空間に色がついていく。
「いくぞ。キョウ。人を殺すためじゃない!アキを助けるために!」
分かってるよ。
俺は俺自身の力でアキを助けたい。
目の前のアキには手が届かない。アキを助けようとする手を伸ばし続ける。
「キョウ!俺に力を貸せ!」
すると突然伸ばした手首を中心に五芒星の陣が発生すると赤黒い塊が手のようにアキの方に伸びていく。そして、アキの手を掴んだ。




