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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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異界戦④

 黒い粒子の翼を大きく広げて飛翔する黒い粒子を操る男、グレイ・アイズン。

 彼の操る黒い粒子は金属か何か。シンさんと同じで無属性に分類される教術。だたし、それが光属性になるのか闇属性になるのかは判断が難しい。攻撃的であるので闇属性になるのかもしれない。でも、光属性でも攻撃力を持つ魔術も教術もあるこの魔術世界において分類は学者さんにお任せ状態だ。魔女だった私にとってもその魔術のことを知るためにはまず、分類から始まるのだ。

 でも、魔術の世界にはまだまだ謎なことが多く存在する。そのひとつが今、私と教太さんの目の前に再び現れた。

「天使の力ってなんだよ?なんでいきなり空を飛べるようになったんだよ?」

 困惑する教太さん。

「天使の力は未だにその力の現れ作用に謎が多い力のひとつです」

「はぁ?」

 分からないのも無理はない。魔女である私ですら理解してるかと言われた完全には理解できていない。ただ、分かることはいくつかある。その前にだ。

「教太さんはあの天使の力を見るのは2度目だと思いますよ」

「・・・・・2度目って」

「天使の力の能力は大きく分けて二つ。ひとつは魔術、教術の能力の強化です」

 天使の力は魔術師にも教術師にも表れる力。魔術師の場合は教術見たく魔術を使えるようになる者もいる。教術師の場合は持っている力そのものが強力になる者やランクの上限のせいで使えなかった教術を使えるようになったりする。

「ふたつはあの翼による浮遊能力の取得です」

 従来、空を飛ぶことのできる魔術は風属性魔術が主流だった。あの鉄の粒子はそんな風属性の要素を全く含んでいない。なぜ、浮遊することができるのかも解明されていない。

「つまり、あれは本物の羽といっしょってことなのか?」

「そうですね」

 おそらく、今まではひとつしかなかった黒い粒子で作っていた武器も同時にいくつか作れるようにもなっているはず。それにプラスして機動力も手に入れたとなるとかなり厄介だ。

「力の向上に・・・・・浮遊能力・・・・・・あ!」

 教太さんは気付いたみたいだ。

「俺が出会った天使の力の持ち主って・・・・・アゲハのことか?」

「覚えていましたか」

 たぶん、忘れることもない。教太さんにとっては初めての魔術との戦闘だったんだ。そして、教太さんの友人の秋奈さんの死を目の当たりにしたあの戦いを忘れるわけがない。

「アキ。大丈夫なのか?羽を・・・・・天使の力をつけたアゲハはかなり強かったぞ」

「その点については心配ないです。下がっていてください」

 私は笑顔を向ける。笑顔を教太さんに送るだけの余裕が私には合った。今の私は魔石のおかげでゆるぎない力と自信がある。さらに魔術の知識もある。まさに100人力だ。

「随分と余裕だナ!」

「ただ、浮遊できるようになって力が少し上がっただけであなたの攻撃の根本が変わったわけじゃありません。対抗手段としては何も変わらない」

「その舐めた口を叩けないようにしてやるヨ!」

 黒粒子の羽をなびかせて私に向かって来る。その手には黒い粒子が集まって生成された円錐状の黒い槍。突進する攻撃に対して突き攻撃が有効だということをグレイは経験で分かっている。魔術防壁という物理結界とは真逆の魔術のみを防御する結界すらも貫く攻撃だ。私が魔女だということを分かったうえで攻撃だ。

 でも、私がそんな魔術防壁には頼らない。

 丸環で束ねていたカードの束から一枚のカードをむしり取って落としてカードに向かって杖を打ちつけると三角形の陣が浮かび上がる。力を失ってから私は低級魔術の中でも使える魔術を多く見つけた。この魔術はそのひとつ。

 陣を中心に爆発するように黒煙が広がる。

「目くらましの煙幕なんか意味もないゾ!」

 煙幕を吹き飛ばしながら勢いのままに突っ込んできてその矛先は私の体を突き破る。

「アキ!」

 青ざめる教太さんが私の名前を叫ぶ。でも、それはほんの一瞬の心配。

「はぁ?手ごたえがない?」

「それはそうですよ。なぜなら私は・・・・・幻影なんですから」

 槍の突き刺さった私が揺れるように消える。

 幻影魔術は相手を騙す魔術であるために発動タイミングはかなり難しい。相手に見られないように発動しなければならないし、さらに相手が幻影を本物だと思ってくれないと効力を発揮しない。そのためには煙幕という低級魔術は非常に相性がいい。

 吹き飛ばされていない煙幕の影から炎の弾をグレイに向けて放つ。グレイは黒い粒子の羽でそれを吹き飛ばして防ぐ。

「そこにいるのカー!」

 黒い粒子で生成された槍を手に持った状態で黒い粒子で迫撃砲を作り上げた。放たれた砲弾は煙幕を切って炎の弾が飛んできた方角へ。しかし、煙幕を抜けた先には何もなく建物に当たって轟音をあげて爆発する。

「どこダ!どこにいる!」

「ここです」

 煙幕を抜けて四方から現れたのは私だ。

「すべて幻影ダ!見ればわかる!」

 そう言って回避もせずその場にとどまるグレイ。

「それを狙っていたんですよ」

 杖には雷が宿っている。

 四方から襲い掛かるすべての私が雷を帯びた杖を構えてグレイに向かって振りかざす。それを見たグレイは異変に気付いた。

「幻影じゃない!」

「もう遅いですよ」

 幻影ではないと気付いたグレイは咄嗟に黒い粒子の羽で私を吹き飛ばそうとしても雷音を立てて爆散する。バリバリと稲妻が走る雷が爆散して上がった粉じんからグレイが飛び出してくる。空中で止まって周りを見渡す。そして、煙幕を張る前にいた場所から数メートル後方に私はいる。

「全然移動してないのカ」

「そうですよ。私の目の前でぶんぶん武器を振り回している姿を見るのは面白かったですよ。笑いをこらえるのに必死でした」

「なめてるのカ?」

「なめてないですよ。むしろあなたの強さに敬意を賞して有幻影魔術まで使ったんですよ」

「ゆ、有幻影魔術?」

 ああ、知らないんだ。そうかもしれない。魔術の中でもかなりマイナーな魔術だ。あまりにも魔術レベルの高い上級魔術過ぎて誰も使わない埋もれてしまった魔術。

「有幻影魔術。その名の通り実態を持つ幻影魔術です。発動条件としては相手に幻影だと思わせることです」

「はぁ?」

 つまり、幻影は幻影では思わせないと効力を発揮しない。途中で消えてしまう。

 逆に有幻影は幻影だと思わせないと効力を発揮しない。途中で消えてしまう。

「発動タイミングが難しい魔術なんですよけど、相手がバカだと使いやすいですね」

「ふざけるナ!」

 グレイは空中に無数の砲弾を生成すると一斉に私に向かって飛ばしてくる。

「反鏡魔術!」

 すでに発動させて杖に宿らせていた攻撃を跳ね返す鏡の結界で砲弾を受け止めて跳ね返す。

「くそ!」

 グレイは砲弾が自分に着弾する前に黒い粒子に戻す。

 私は無数の火の弾を生成してグレイに向かって放つ。グレイは浮遊の能力を使って避けて無理なものは黒い粒子で作った剣で相殺していく。そして、建物の壁際に追い込む。それを確認してから私は新たなカードを束から取り出して発動させる。六芒星の陣のから怪しげな黒い霧が立ち込める。

「なんダ?」

「何でしょうね」

 グレイに向けて笑顔を向けた瞬間、黒い霧の中から黒いものが凄まじい勢いで飛び出して伸びていく。グレイはそれを避けようとしても壁際だったせいで少し遅れた。予想通りだ。

「そんな攻撃!砲弾で吹き飛ばしてやる!」

 宣言通り黒い粒子で砲弾を生成して伸びる黒いものに当てようとするが、その黒いものはまるで生き物のように砲弾を避けてグレイに襲い掛かる。

「くそ!」

 黒い粒子で出来た羽から無数の針が飛び出していく。針は黒い粒子で出来た区内のような形をしていて伸びてくる黒いものにザクザクと突き刺さっていく。だけど、黒いものの勢いは止まらずに先端が蛇のような顔をしてグレイに足噛みつく。

「なんダ!これ!」

 黒い粒子で作った剣で黒いものを切り落とそうとする。

「させないですよ」

 私が火の玉を放つ。グレイはそちらの防御を優先して火の玉を相殺する。その隙はできれば十分だ。

「完了ですね」

「何が」

 私に尋ねる前にどういうことなのか理解したように黒いものが絡まった自分の足を見るとそこには黒い鎖のようなものが絡まっていて私が発動させた人に向かって伸びている。

「俺はこの魔術を知っている。黒蛇束縛だナ」

 黒蛇束縛。相手を拘束してある術者の思った通りに束縛者をある程度強制的に動かす魔術だ。鎖を使うことによって相手を痛めつけることも可能だ。主に強力で押さえつけるのが難しい魔術師や教術師を拘束して戦闘不能にするための魔術だ。でも、弱点としては束縛する前の蛇状態のときは魔術でも拳銃などの物理攻撃にも弱いことだ。ある程度は避けることができるが限界がある。後は拘束すればその鎖は術者である私を倒す以外に解放される手段はない魔術だ。

「よく知ってますね。この魔術を知っているということは以前どこかで奴隷でもやってました?」

「笑顔で尋ねることでもないだろうガ!」

 逆鱗にでも触れたのか起こったグレイが私に向かってくる。生成した砲弾を放って自分は双剣を構えている。

「てい」

 私は陣から足元の陣から延びる鎖を横の大きく引っ張るとそれに合わせて鎖がしなってグレイを振り飛ばして建物に激突する。

「えい」

 今度は鎖を自分の方に向けて引っ張るとしなった鎖がグレイを私の方に向けて振り飛ばしてくれる。私はカードを打ち付けて雷を杖に帯びさせる。そして、突き刺すようにして杖で攻撃をしようとする。でも、黒い粒子がグレイの体を覆って杖の攻撃を妨げる。その粒子の隙間から見えたグレイの表情は獣が茂みの中で鋭い眼で睨み獲物を目の前にして息を殺しているようだ。まるでこうされることを狙っているかのように、分かっているかのようだった。すぐに手に持つ鎖をしならせて距離を大きく離す。その際に地面に何度も叩きつけられる。グレイはそれでも立ち上がる。砲弾を生成しようとしているところで鎖を引っ張ってグレイを再び建物の壁にぶつかって突き破り部屋の中に入る。黒い粒子をクッションに使って衝撃によるダメージを何とか回避しようとしていた。

「なら」

 火の玉を建物に激突したグレイに向かって放つ、グレイはそれを背中の羽で防ぐ。その衝撃で粉じんが上がりあたりの視界が遮られる。そんなグレイの死角を狙って私が雷を帯びた杖を構えて殴りかかる。

「幻影じゃない!有幻影ダ!」

「正解です」

 幻影系は一度見破られると効力を失って消える。

 有幻影だった私は消える。

 消えた私を見てホッとしたグレイは背後から迫る熱量に気付いて振り向く。そこにはまるで太陽のような巨大な火の玉が迫っていた。

炎の流星(フレイム・メテオ)。火属性最上級魔術ですよ。どう防ぐのか、幻影を作ってみていますね」

「クソ野郎ガ!」

 逃げようと黒い粒子の羽を羽ばたかせる。

「ダメですよ」

 陣の近くにいる私が鎖を軽く引いてグレイを建物の床に這いつくばらせる。

「耐えてみてくださいよ。その自慢の天使の力で」

「この魔女ガ!」

 久々に聞いた。私と挑んでいった魔術師、教術師が死に際に放った捨て台詞。

 グレイは粒子の羽と粒子で生成した大きな盾を使って私の炎の流星(フレイム・メテオ)を耐えようとする。

「そんな貧層な盾で防げないですよ」

 轟音と熱風と爆炎をあげて炎の流星(フレイム・メテオ)がグレイのいる建物ものと吹き飛ばす。私は飛んでくる瓦礫を傘代わりに反鏡魔術で防ぎながらその様子を見届ける。大きな黒煙が空高々と立ち込める。

「あ、アキ」

 震え声で私の名前を呼ぶ教太さん。

 振り返ってみるとそこには腰を抜かして怯える教太さんの姿だ。

始めているのだから仕方ない。教太さんが普段見ていた私は下級魔術しか使えないアキという魔術の使える少女。そして、今の私はかつて誰もが恐れた魔術師、魔女なのだから。

「大丈夫ですよ。さすがにグレイを殺すようなまねだけはしませんから」

 教太さんの約束事は常に頭の中に入っている。誰も死なせない殺させない。人の死を最も嫌う教太さんのため。そして、私が二度と生命転生魔術を使わせないための約束。

「アキ!」

 教太さんの声と共に向き直ると黒煙の中から大きな瓦礫が私に向かって飛んできた。それを反鏡魔術で防ぐと続いて黒煙を切り開くようにして飛び出してきたのは両腕に真っ赤なやけどの跡を負ったグレイが悲鳴に似た雄叫びをあげながらぼろぼろになった黒い粒子の羽を羽ばたかせながら太刀を構えて斬りかかろうとしてくる。

「元気ですね」

 私は反鏡魔術で吸収していた瓦礫をグレイに向かって放つ。その瓦礫にはきっとグレイが私に向かって飛ばしてきた大きな瓦礫も混ざっている。グレイはその飛んでくるその瓦礫を黒い粒子で作った砲弾で撃ち破壊しようとする。

「無駄なことですよ」

 鎖を引っ張るとグレイが羽でつけて勢いにさらに鎖に引っ張られる力が加わり凄まじい勢いで大きな瓦礫に激突する。その凄まじい勢いのせいで瓦礫は砕ける。白眼をむいたグレイは吐血しながらも生成した砲弾を放ってくる。反鏡魔術で吸収して落下するグレイに跳ね返す。グレイは自分で生成した砲弾を粒子に戻すことが出来ず羽で防ごうとしてする。砲弾が着弾と同時に爆発して地面に強く叩きつかれる。

「ふぅ~、さすがに焦りましたよ。まさか、あの攻撃に耐えきるなんて。あなたは天使の力やランクや教術の質よりも警戒するべきはどんな相手に対しても折れることのないその屈強な精神力ですね。すごいと思いますよ。秋奈さんにもあなたのような力よりも強さを優先するような考え方になればきっと・・・・・・」

 教太さんと秋奈さんが敵対するようなことは起きなかったはず。

「教太さん。終わりま」

 それ以上言葉を発せられなかった。

「アキ?」

 どうしたの?突然、私の体が自分の物じゃないみたいにいうことを利かない。

 そして、ぽたぽたと液体が流れて地面に垂れ落ちているのを見る。真っ赤な液体。たぶん、血。でも、どこから血が流れているのか。私は傷を負っていない。グレイの返り血を浴びたというわけじゃない。じゃあ、どこから出てきたのか。反鏡魔術の鏡で自分の顔を見ると私の目から鼻から口から血が出てきていた。

「え?」

 驚きと同時にがほがほと咳き込んでその場に膝をついてしまう。咳と同時に大量の血がこぼれる。

「あ、アキ!」

 心配した教太さんが近寄ってくれる。

 がほがほと何かを何か固いものが喉の奥から吐き出される。それと同時に杖に宿っていた反鏡魔術の鏡が割れ消えて陣から延びていた鎖も消えてしまった。

 血の塊の中から見えたのは赤い血の中に混ざって薄青く輝く魔石があった。この魔石のおかげで私は一時の間魔女だった。その時間も終わりのようだ。

 魔石を吐き出した瞬間、さらに大量の血を吐き出す。呼吸が苦しくなる。全身の力が抜けて崩れ落ちる。教太さんに支えられるのは分かるのに触れられている感触が分からない。音も聞こえない。視界はぼやけてうっすらと教太さんの心配そうに声を張っている様子だけが分かる。

 大丈夫ですって言おうとしても口が動かない。大量の血が流れ出てしまったせいで頭が正常に働かない。ボーっとしたまま何も考えられない。でも、グレイは倒したし教太さんはもう大丈夫。

 その時だった。突然の砂埃のせいで目の前にいたはずの教太さんがいなくなった。その後に映った視界が何なのか理解するのに時間がかかった。見えていたのは地面。どうして何か分からない。その後、視界が反転して満点とはいいがたい星空が広がる夜の空が見えてその視界に人が見えた。

 何が起きているのか全然わからなかった。

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