異界戦③
俺ことグレイ・アイズンは幼少のころからこの黒い粒子を操る教術と共に生きていた。きっと、無属性に属される教術だろうが、光なのか闇なのかはわからない。分かっていることは黒い粒子の正体は鉄だ。鉄の加工には高火力の火属性魔術とその火属性の火力を維持するための風属性、それと型となる土属性。他に高温になった鉄を冷やすための水属性と多くの魔術や人の手を借りて剣や銃や建物の鉄骨になったりする。
だが、俺の教術はその多くの加工過程をすべて無視して鉄の粒子を加工して武器を生成することができる。大剣に双剣に太刀にカギ爪に拳銃、弾丸そのものを作り出すことだってできる。
そんな俺はほんの数年前にイギリス魔術結社の誘いがあり俺は自分の力がどれほどのものなのか試すために誘いを承諾した。仕事は主に反イギリス魔術結社の魔術師の鎮圧だ。場所はスイスの山岳部。結社に反抗する勢力はどれも弱くて小さくてやりがいのないものだった。ただ、無駄なあがきをする魔術師どもをいろんな方法で殺すのをただやっていただけだった。
ちなみにその鎮圧部隊を仕切っていた人物のひとりがすでに幹部の七賢人となっていたフローラだった。
そんなある日。
フローラの上司に当たる七賢人が手足を失う重傷を負って運ばれてきた。七賢人は第六と幹部間では決して強いわけではないが弱いわけでもない。その人がやられた理由にひとりの人物の名前が浮かび上がって来た。
シン・エルズーラン。
魔術師ならば誰もが知っている完全無欠の教術師だ。属性魔術らしきものを同時に使ってくる。さらに防御不可能の攻撃を繰り出してくる。まさに手の打ち所のない人物だ。シンは日本のMMと共に行動をしているというのが世間として認知している情報だった。だから、そんな奴がこんなところにいるはずがないと誰もが疑った。
だが、幹部の傷の状況を見れば嘘とは思えない。フローラも同じ考えだった。
俺たちは幹部が襲撃を受けた現場に行くことにした。シン・エルズーランは特に組織に所属していない。だが、イギリス魔術結社との関係でいいという話は聞いたことがない。どちらかと言えば敵対していると言ってもいい。ならば、そのシンを殺すことも俺の仕事の内に入るということになる。
腕がなった。
初めて自分の力がどれだけこの世界に通用するのかを試す時が来たからだ。
ひとりでシンのもとに行こうとする俺をフローラは止めもせずにともについてきた。
そして、俺は激闘の末にシンを殺したのだ。
ただ、必死だったことは覚えているがどんな戦いが繰り広げられたのか細かいところは覚えていない。だが、勝ったのだ。俺は世界中に名を轟かせる教術師に勝ったのだ。その名誉もあってか空いたばかりの七賢人の椅子を勝ち取ることが出来た。しかも、いきなり第六としてだ。俺は一気にフローラよりも上司になった。
そんな俺はイギリス魔術結社を支える土台として今まで多くの敵と戦ってきた。
だが、シンのような戦いの高揚感には程遠かった。
どうせならば、誰もが知っているような魔術師、教術師と戦ってみたい。その戦いたいという本能でシンを呼び寄せたのだとしたら今回もきっとその時と同じ現象が起きているに違いない。
シンの力を受け継いだ国分教太。だが、力はシンの三分の一程度。そして、全盛期の四分の一程度の力しかない魔女。最初は気が抜けるような感じだったがそれも魔女が現れて変わった。
国分教太に留めでも刺そうと思っていたら黒髪ポニーテールの女から火の玉の攻撃を防ぎ鉄の粒子で迫撃砲を作り女に攻撃する。だが、攻撃は当たらず女は一瞬のうちに国分教太の背後に移動していた。その一瞬の移動は目に見ることはできなかった。
国分教太がどうやって移動したのかを聞いたとき、女は答えた。
「時空間魔術ですけど?」
それは誰でも使えるわけじゃない魔術のひとつ。
その後に言った女の一言に俺のやる気ががぜん上がる。
「見ていてください。これが魔女の力ですよ」
自信満々にそう告げる。確信した。
魔女の力が弱くなった?それは違う。きっと、ただの風の噂に過ぎなかった。実際に目の前の女は魔女でしかも時空間魔術を使った。魔力の総量からして弱くなった魔女が使えるはずがない。
「いいゼ!いいゼ!その意気ダ!」
俺の前に今はいないはずの魔女が現れた。こんな興奮するようなこと二度もあってたまるか!
何も考えずに両手に剣を作って魔女に向かって突っ込んでいく。
「アキ!あの剣は受け止めるだけじゃダメだ!傷を負うぞ!」
そんな助言今更だろうが!国分教太!
魔女に向かって斬りかかる。だが、魔女は慌てずに手に持つ杖でカードをうつけて魔術を発動させる。杖の先に火の玉が現れてそれが俺に向かって飛んでくる。
「そんなものデ!」
手に持つ剣で火の玉を相殺して勢いを殺さずに斬りかかる。魔女は避けることなくそのまま斬られる。だが、手ごたえは全くなく剣は魔女の体をすり抜けた。違う。距離感を誤った。魔女はまだ一歩程度遠かった。
「なぜ!」
「ただの火属性魔術の陽炎ですよ」
距離感覚を狂わせる火属性魔術のことだ。
やられたことが一度だけあった。だから、その後に何が来るか予想が出来る。攻撃が空ぶった俺には隙が出来ている。つまり、追撃。
火の玉が飛んでくる。それを攻撃をしていない剣で防ぐが爆風で体がきしむ。同時に黒煙が上がって魔女が見えなくなった。
そして、黒煙の動きから背後から何かが接近していることに気付いた。すぐに反転して剣を構えるとそこには雷を宿した杖で殴りかかろうとしている魔女だった。
「そんな程度デ!」
双剣の解除して巨大なギロチンを殴りかかろうとしてくる魔女に向ける。魔女はそのまま俺の作った巨大なギロチンで真っ二つに・・・・・ならなかった。また、魔女の体が刃物をすり抜ける。
「はぁ?」
「それは幻影魔術で作った私の幻影ですよ」
魔女の声は俺のすぐ背後にあった。手には魔女の言う幻影と同じ雷を宿して杖。
バチンという破裂音と共に突き飛ばされて全身が切れるような痺れる痛みに襲われて体が思うように動かなくなる。
「それでモ!」
大砲を同時に3つ作り魔女に向けて発砲する。魔女は新たにカードを杖で打ち付けると杖の先に現れたのは円状の鏡。その鏡の大きさは魔女の体を覆う隠すほどの大きさになり砲弾はその鏡の中に消える。
「え?」
「反鏡魔術と言うものですよ。攻撃を吸収して跳ね返す結界の一種です」
そう説明してくれると当時に俺の撃ち放った砲弾が戻ってくる。だが、元々俺の作った砲弾。咄嗟に砲弾を粒子状態に戻す。自分の攻撃でダメージは受ける気はさらさらない。
だが、どうしたもんか。
今の魔女は杖の十字架のついていない方にはその反鏡魔術という攻撃を跳ね返す結界が常に展開している。さらに十字架のある方で雷や火属性の攻撃をできる。他にも幻影魔術のような無属性魔術も重複して使ってくる。無属性魔術は同時に発動できる魔術の性質を最大限に活用した戦い方だ。
「まったく厄介ダ。・・・・・だが!待っていタ!こんなぎりぎりの苦しい戦いヲ!俺は、待っていタ!全力で行かせてもらうゾ!」
しびれる体に鞭を打って立ち上がる。そして、鉄の粒子で大剣を作り上げる。俺が作れる武器の上限は基本ひとつだ。だが、ある条件を満たすその条件が2つにも3つにもすることができる。大量の魔力を捧げることで発動できるこの力を人は神の領域と呼ぶ。
俺は鉄の粒子を集める。金属の錆から地面に埋まっている砂鉄から人の血液の中にある鉄まですべて集める。
「何をする気ですか?」
俺が何をやっているのか予想できないのか、雷の魔術を発動させた杖を俺に構える。
「まぁ、見てろ!これがあのシン・エルズーランを殺した力ダ!」
周りにある俺の力の源を集めに集める。力の源。それは鉄。その鉄から俺は力をもらえる。そして、集めた力を俺の内に集める。集めまくる。
眉間にしわを寄せた魔女は俺のやろうとしていることに気付いた。
「まさか!それだけはやらせない!」
杖に宿る雷を解いて火の玉で俺に向かって攻撃してくる。
「その程度デ!」
俺に集まってきている鉄の粒子が俺の身を守ってくれる。爆散した鉄は再び俺に集まってくる。そして、俺の体中を追って鉄の粒子がまるで卵のように集まってくる。
「お前らよく見ておけ!これが人の領域を飛び出した誰も知らない神の領域ダ!」
粒子の隙間から見れる唖然とする国分教太と厄介なことになった歯を食いしばる魔女が見えた。
いい気味だ!心地いい!
これが戦いの高揚感!
俺はこれが好きなんだ!
「行くゾ!お前ら!」
鉄の粒子の卵から突き破るように力を解放すると鉄の粒子はあたり一帯巻き散って砂嵐のようになる。建物を削り生き物のように動き回る鉄の粒子を俺の背中に集まっていく。そして、それは俺の自由に操ることのできると羽となった。
見た目からは俺の背中から黒い羽が生えているように見える。この羽のおかげで出来ることは二つある。ひとつは鉄で作れる武器の上限のアップ。もう一つは完全に浮遊することができる。つまり、空を飛べるようになったことだ。
「天使の力」
魔女がそう呟くように俺の力はその名の通り神が人の領域を外れた俺にくれた力。
「ここからダ!お楽しみはここからダ!」
鉄の粒子で出来た羽を大きく広げて宙を飛ぶ。




