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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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異界戦①

 雲行きが怪しくなってきた。一雨来そうな天気となって来た。神様が何かを悟っているかのようだ。これから起きることは天気のように穏やかな晴れから突然の嵐になるように、俺が今置かれている状況はその嵐の前。町中のビルの屋上に座って町の風景を見渡す。霧也はアキのことが心配だと言って組織の本部の方に行ってしまった。ここで待っていろと言われたのでこうしてひとり高いところから町を眺めている。

 空はオレンジ色から紫色に変わり夜になろうとしている。町の街灯に明かりがともる。その明かりはどこか便りげない。街灯の中はランタンのように油と紐が入っていてそれに火をつけるだけの安易な構造をしていた。その火を付けるのに火属性魔術を使っているのを見た。そんな小さな作業にも魔術が使われているところを見ると和む。本当に魔術が生活に密接にかかわっているんだなと。負の力はない方がいいと思ったがこうして生活の一部として使っている人たちも多くいるということを俺は把握するべきなのだ。

 俺は目をつぶる。こうして意識を遠くすればあの無の部屋に行けるかもしれない。ゴミクズが住んでいる俺の心の中だ。でも、俺の意思では入ることができない。非魔術師(アウター)たちの一件以来、俺はその無の空間を一度も訪れていない。ゴミクズは俺の力の源。つまり、シンのことだ。最初はそんなことを知らずに適当にゴミクズと呼んでいた。そんなゴミクズはこれから俺の身に起きることをまるで神様のように知っていた。今回もきっとこれからどうなるのか知っているはずだ。俺がこの世界から元の世界に戻れるのかどうかも、美嶋がちゃんと帰って来るかどうかも、全部知っているかもしれない。

 目を開けるとそこはすっかり夜になった町の風景だった。無の部屋には行けなかった。

「俺はどうすればいいんだよ・・・・・」

 目線を落とす。

 美嶋は俺には力がないと言った。確かに俺はフレイナに全く歯が立たなかった。規格外の力を持つ相手に俺はどうすればいいのか。この力で火を消すことが出来ても熱を消すことはできない。だからと言って破壊と同時に熱を冷ますための水を集めることはできない。破壊の時は破壊、創造の時は創造しか俺にはできない。この破壊と創造を同時に使うことが出来たらフレイナの攻撃にも耐えることができるかもしれない。

 でも、できない。

「いや・・・・・できないんじゃない!やってやるんだよ!」

 俺は立ち上がる。俺は両手に力を入れて教術を発動させる。両腕を中心にして五芒星の陣が浮かび上がり黒い靄が両腕を覆う。このままではただの破壊しかすることができない。片腕はそのままに残ったもう片腕に力を集中させて靄の触れる範囲に存在する水を集めていく。水は集めることが出来たが、そのままにしていた方の腕には破壊の力の証明となる黒い靄がなくなっていた。今度は黒い靄を作ろうと思うと集めた水が俺の支配下から外れて俺の足元に思いっきりかかる。

「・・・・・最悪」

 こんな感じにふたつの力を俺は同時に使えない。創造の時もそうだ。雷を作っている時は別の創造をすることが出来ない。きっと、することが出来たのかもしれないが俺には同時に別のことをするだけの器用さがない。

「くっそ!」

 雷を作りながら風を起こそうとしたがどっちも作ることが出来ずにその場に寝転がる。

「本当に俺は世界に影響力を与えるだけの力を持ってるのかよ」

 MMの言う言葉が本当なのかどうか分からなくなってきた。最初はそうだと思ったのだが力がないというだけで俺の周りからどんどん人がいなくなっている気がする。そもそも、俺には大した力はない。この力も本来の半分程度しか力が使えていないと言われている。破壊速度が遅いだの創造のバラエティーが少ないだのいろいろ言われている。他にも俺自身の力が未だに覚醒していないということだ。美嶋のように魔術が使えるんじゃないかと魔術を何度も発動させようとしたが無駄に終わった。ひょっとしたら教術が眠っているんじゃないかと言われているかどうと言われても返す言葉がない。

 再び両手の力を発動させて黒い靄を見つめる。

 最初は本当に驚いた。触れたものをなんでも破壊することができる。初めて破壊したのは弾丸だった。その後は鉄筋コンクリートでできた建物の壁だった。今でもちゃんと覚えている。死にかけのアキを背負って銃弾の雨から逃げた記憶。今考えればよく逃げれたよな。その後に霧也に出会って機関という悪魔の組織と魔術世界の事情を知ってシンの友人の教術師イサークと戦い、美嶋が魔術を使うようになり、旧友の香波に再会して過去の悔いを払しょくして非魔術師(アウター)たちの希望となった。この力を手に入れていろんなことがあった。そのほとんどが苦しいことばかりだった。でも、仕方ない。

「この力を手に入れた時点でそれが俺の運命だったんだ」

 逆らうことのできない絶対の道だ。

「だったら、俺たちに襲われても運命だっていい訳ができるナ」

 突然、声が聞こえて飛び起きるとそこには全身真っ黒な服装をした男が立っていた。その手には真っ黒な剣が握られていた。そして、俺に向かって斬撃をお見舞いしてくる。咄嗟に避けるために大きく後方に飛び退いたが、その先は建物4階分の高さだ。そのまま俺は落下した。

「なんだよ!」

 俺は両手付近の元素を集めて地面に向かって解放すると衝撃波が落下の衝撃を和らげるがそのまま道沿いで営業していたかき氷の屋台の上に落下する。大きな音を立てて崩れる屋台。

「お前!何してんだ!」

 店のオッチャンは突然落ちてきた俺に驚きもしないで壊れた店に腹を立てていた。この魔術の世界において空から人が落ちてくるのは当たり前なのか。いや、そんなことよりもだ!地上に落下した俺が立ち上がり上を見上げれば真っ黒な男が自分の体ほどある巨大な剣を構えてこっちに向かって落下してくる。

「みんな逃げろ!」

 俺はそう声をかけて近くにいた屋台のオッチャンを突き飛ばして真っ黒の男の剣の斬撃を交わす。真っ黒な男はその落下の勢いのまま剣を地面に叩きつけると大きな落下音と共に屋台は粉々に砕け散って高々と砂埃が上がる。さらに落ちた衝撃で破損した屋台の一部もあたり一帯に吹き飛び悲鳴が上がり人が一斉に逃げ出す。

「いいヨ、いいヨ。逃げろ、逃げろ。その方がやりやすい」

 巨大な剣を軽々しく振り回して砂埃を振り払う。その黒い剣は屋台の鉄でできた骨組みに当たるとカンと金属同士がぶつかる甲高い音を鳴らす。あの真っ黒な剣は金属でできた武器。それはかなりの重量があるはずだ。それをあんなにも軽々しく。でも、物体を持つということは俺の力で破壊が可能だ。

「ひとつ質問いいカ?」

 真っ黒な男は俺に尋ねる。

「お前は国分教太カ?」

「そうだが、それがどうした!」

 こいつどこかで見たぞ。

「そうカ、そうカ。あの本屋で会った組織の少年くんが国分教太なんてナ」

「あ!」

 ツクヨを探している時に本屋で出会った真っ黒な男。確か名前は、

「グレイ・アイズン。国分教太、お前を殺したに来たものだヨ」

「お、俺を?なんで?」

「簡単な話だヨ。それはお前がシン・エルズーランの力を持っているからに決まっている」

 グレイは大剣を両手で重々しく構えて俺に斬りかかってくる。さっきの大剣の破壊力は凄まじかった。鉄骨で出来た屋台を粉々にした。その影響はあたり一帯に広がる。周りにはまだ逃げ切っていない人たちがたくさんいる。

 だが、相手の攻撃は物体を持つ武器。それを破壊するのは容易い。

 両手の力を発動してグレイの真っ黒な大剣を受け止める。その勢いは凄まじく受け止めたが後方にずり下がるがけがはない。剣の刃を破壊して剣を受け止めたが重量による衝撃は消すことが出来ずに両手が痛みでしびれる。でも、剣を受け止めた。触れた。黒い靄の中に入っている。

「壊れろ!」

 俺が力を入れて大剣をねじるように力を入れると真っ黒な大剣にひびが入り粉々に砕けて消える。消えたわけではなく見えない大きさまで破壊されただけだ。フレイナと比べたら大した力を持っていない。そもそも、こいつが誰なのか分からないが俺に対する敵意だけは分かる。

 壊れた大剣を見てグレイは慌てずに笑顔を見せた。

「その程度カ!」

 破壊されて粒子状になった剣がグレイの両手に集まっていく。

「は?」

「お前にはパワーじゃなくてスピードだナ!」

 そう言うと真っ黒な粒子がグレイの両手に集まってさっきと同じ真っ黒な剣が生成された。今度は大剣ではなくて細くて軽そうな双剣が完成された。

「行くゾ!」

 真っ黒な双剣を構えて俺に斬りかかってくる。俺の中でこの攻撃を受けてはダメだと告げた。俺の破壊の力が及ぶ前に俺の手が斬り裂かれる気がした。それはもうほぼ野生の勘に等しかった。だが、運のいいことにそれが正解だった。

 双剣は俺の鼻先をかすってそのまま近くの街灯の支柱を斬り倒した。ランタンのように油の入っている街灯が地面に落下するとガラスが割れて中身の油に火が引火してグレイの周りに火が灯る。

「意外とすばしっこいナ!それはシンにはなかったゼ!」

 こいつはゴミクズと一戦したことがあるみたいだな。

 それよりもさっきと武器の威力と切れ味が変わった気がする。さっきの大剣は思い切り叩き斬るという感じだったが今度の双剣は完全に斬りこんできた。街灯の支柱は金属製で出来ている。それを何の抵抗もなく斬り倒した。普通の剣だと簡単に斬り倒せるようなものじゃない。

「まだまだ行くゾ!」

 グレイは真っ黒な双剣を構えて突っ込んでくる。

 その速い攻撃を俺の力で受け止めるのを拒んでいるせいかただ切り傷が増える一方で後ろに下がる。その際に街灯や苗木を盾にしたりしたがそれを関係なしに斬り倒していく。

「うねうね避けるナ!」

「うるさい!受け止めたら俺の手が斬れるだろ!」

 そんな異常な切れ味を持った双剣は受け止める自信がない。それは俺の野性の勘もあるがゴミクズがそう感じているのかもしれない。

「でも!俺がただ避けてるだけだと思うな!」

 俺は力が発動した状態で左手で右手首を掴む。

「無敵の槍カ!だが、この距離のだったら槍が来る前にお前を切り刻める!」

 グレイの言う無敵の槍というのは俺の体の倍はあるであろう円錐状のランスである。その槍はすべて破壊をつかさどる黒い靄で生成されている。物体を無条件で分子レベルまで破壊するこの槍は防御することは不可能だ。だから、無敵の槍だ。

 でも、この近い立ち回りでは発動の遅い無敵の槍ではただ隙を作ってしまうだけだ。そんな剣を交えた戦い方は毎日のように霧也とやった。

「俺の力はシンだけの物じゃねーよ!」

 右手に出来たのはグレイの持つ双剣ほどではないものの真っ黒な短刀だ。その短刀とグレイの握る双剣の一本と刃が交わる。その瞬間、刃が俺たちの頭上を回転して地面に突き刺さる。その刃はグレイの真っ黒な双剣の刃だ。

「へぇ~」

 グレイは初めて距離を置くために一歩後退した。

「それが情報にあった国分教太のオリジナルの力。無敵の槍を短く集合体にしたもの。射程が短くなった代わりに取り回しやすく発動速度も速くコントロールがしやすい。名は無敵と書いて破壊と読む剣、無敵の短刀(デストロイ・ダガー)

「よく知ってるな」

 俺の人を殺したくないという意思に力が答えてくれた形だ。無敵の槍は無条件ですべてのものを破壊してしまうがこれは一部だけを破壊することができる。俺の意思で。

 俺は無敵の短刀(デストロイ・ダガー)をグレイに向けて構える。

「どうして俺の力のことを知っている?誰から聞いた?」

「誰ってうちのボスからだゼ」

 グレイは折れた剣と無事な方の剣も手から離すとその瞬間に粒子状になってグレイの腕周りを覆う。それとほぼ同時に折れて地面に突き刺さったままの刃も粒子状になってグレイのもとに集まっていく。そして、新しい剣が生成された。今度は真っ黒な刀になった。

「厄介な剣だな。何度壊しても直るのかよ」

 でも、破壊できることは分かった。それに破壊された武器は一度粒子状に戻さないといないみたいだ。連続で破壊の攻撃をすればあの剣を突破することは容易い。しかも、今度はさっきと違って一本だ。すると背後で街頭から漏れた油が苗木と共に燃える。その日の明かりのおかげで見えた真っ黒な刀の刃の周りに黒の粒子が高速で舞っていた。それは目に見えない小さな粒子で拘束で砂嵐のように舞っていた。

「何だよ?その黒い粒子は?」

 俺の質問にグレイは答えなかった。

 きっと、あの黒い粒子が街灯の支柱を斬り倒したのに関係がある可能性がある。

「いいのカ?無敵の双剣デストロイ・ディアルダガーを使わなくても」

 確かになんかやばそうだから考えた。無敵の短刀(デストロイ・ダガー)を二本同時に発動させるものだ。手数が増えて強力だが魔力の消費が激しいからあまり手軽には使えない。そんなことよりもだ。

「どうしてそんなことまで知ってんだよ」

「うちのボスはなんでも知ってるゼ。なんせ、国分教太の力を欲しがってる」

 俺の力を欲しがるのは分かる。誰も知らない神の法則に守られたチート級の力を使いこなせるようになりたいと思うものは多くいる。事実、この力を狙って多くの魔術師が俺の世界にやって来た。どこかのボスが欲しがってもおかしくない。

「どこのボスだが知らないがこの力をあげるわけにはいかないな」

「分かってる。だから、無理矢理でも最初から奪うつもりだったゼ!」

 グレイは真っ黒な刀を構える。突っ込んでくる。

 あの黒い粒子が拘束で舞っている。あの剣と同じ素材ならばきっとそれは金属だ。あの街灯を金属粒子がぶつかり削り斬り倒したのならば説明がつく。でも、この無敵の短刀(デストロイ・ダガー)は力の塊であって物体を持たない。人以外の物なら俺は抵抗なく破壊する。

 グレイは飛び上がって俺に向かって斬りこんでくる。俺はそれを無敵の短刀(デストロイ・ダガー)で受け止める。そうすれば、刃同士が触れて結果触れたものを破壊する俺の剣がグレイの剣を破壊する。

「この剣がただの剣だと思ったら大間違いだゼ」

 勝ち誇った顔をしていた。

 刀の刀身は無敵の短刀(デストロイ・ダガー)によって原子レベルまで破壊したが、俺の肩から腕にかけて無数に切り傷が入り血が噴き出る。

「え?」

 突然負った傷のせいで何が起きたのか分からずキョトンとしてしまう。そんな俺の事情なんか知ったことじゃないグレイは再び黒い粒子を集めて刀を生成して俺に斬りかかってくる。

 受け止めるのはダメだと判断した俺は無敵の短刀(デストロイ・ダガー)を解いて急いで両手に原子を集めて一気に解放して衝撃波を放つ原子の衝撃波(アトミック・ショック)を地面に向かって放って空中でグレイの真っ黒な刀の斬撃を避ける。

 だが、刀身の斬撃を避けたはずなのに足にも斬り傷が入る。

「何でだよ!」

 傷はどれも深いわけじゃない。じゃあ、どうして傷を負うんだ?

 そんなのは決まっている。魔術だ。あの魔術がどんな魔術か分かれば対処法が分かる。火属性だったらこの力で火が燃えるための空気を絶てばいい。岩や氷だったら物体を持っているから破壊すればいい。

あの黒い粒子はなんだ?

「空中に逃げれば安全だと思ったのかカ!」

 そうグレイが叫ぶと真っ黒な刀が粒子に戻って形を変える。そして、グレイの手に集まった黒い粒子は拳銃に変わった。

「嘘だろ!」

 グレイは発砲すると実際に銃弾が飛んできた。俺は黒い靄を銃弾が飛んでくる方に向ける。銃弾は黒い靄の中に入るとぼろぼろと崩れて消える。だが、また俺の腕に頬にも切り傷が入る。

「どうなってんだよ」

 俺は空中で再び原子の衝撃波(アトミック・ショック)を使って建物の屋上に退避する。

 何かに切られた感触があった。小さな無数の刃が俺の肌を切る感触があった。だが、それを俺は見ていない。じゃあ、あいつは何で俺を切ったんだ?

 考えれば考えるほど謎が増える。アドバイスを聞こうにもこの場には俺以外に味方はいない。これまではアキという知識の塊がいて、霧也という戦闘のアドバイザーがいて、美嶋という高火力がいた。みんなは俺のおかげで助かったとか言っているが実際には俺はひとりでは今どうしていいか分からない。

 恵まれた環境にいたということを強く自覚した。

「逃げてんじゃねーヨ!」

 グレイが俺に向かって飛び込んできた。その両手には真っ黒なかぎ爪があった。どうやらそのかぎ爪を使って壁をよじ登ってきたようだ。そのかぎ爪で俺を攻撃を仕掛ける。その予測は容易で俺は大きく飛び退いて攻撃をかわす。

 小さな切り傷は負わなかった。どうやら、あの真っ黒な武器の周りに何か物を切り刻む何かがあるようだ。ならば、変に接近して攻撃するのは無駄だ。

「どうしタ?もう、終わりカ?」

「そんなわけないだろ!」

 両手に雷を発生させてグレイに向かって放つ。

自然の雷(ナチュル・サンダー)!」

 雷の攻撃をグレイはジグザグに動いてかわす。

「シンの雷はそんな程度じゃなかったゾ!」

「あいつと俺を比べるな!」

 雷を放ちきって無防備になった俺をグレイはかぎ爪で斬りかかって来るがそれを原子の衝撃波(アトミック・ショック)で吹き飛ばす。大したダメージにはならず空中で態勢を立て直される。

 俺はグレイのその着地地点の足場を破壊の力では破壊した。

「な!」

 そのまま建物の最上階の部屋の中に落下したのを確認してから俺は左手で右手首を掴む。

「さっきの騒ぎでみんな逃げだしてくれよ」

 そんな望みにかけて俺の右腕を中心に五芒星の陣が発生して右腕を覆うように黒い靄の円錐状の槍が発生する。すべてを無条件で破壊する防御不可能の槍。

「無敵の槍!」

 槍を建物に刺すと抵抗もなく建物全部が音を立てて崩れていくすべてを原子レベルになる前に無敵の槍を解いて原子の衝撃波(アトミック・ショック)を使って崩れゆく建物から逃れるために上空に逃れる。轟音と砂埃をあげて建物は大通りに向かってなだれるように崩壊した。

「さすがにあの崩壊の中で無傷じゃ済まないだろ」

 少し離れた通りの中央に着地する。

 これだけ暴れたんだ。きっと、誰か異変に気付いてやってくるだろう。俺自身もやけどの怪我や精神状況から倒れる気がしない。きっと、この力を手に入れたばかりの頃の俺だったら難なく戦っていただろう。でも、今の俺にはびこる不安。力の無さ。その不安が邪魔をする。

 するとボンという音と共に瓦礫の一部が宙を舞う。その小規模な爆発の中から出てきたのは両手に真っ黒なカギ爪をしたグレイだった。黒い服には砂埃がついて汚れている。その程度で傷を負っている様子はない。

「この程度の攻撃カ?つまらない奴だナ。国分教太。シンはもっとやりがいがあった。命を懸けているというプレッシャーがひしひしと感じられたゼ。だが、今の貴様にはシンとはそこが決定的に違う!」

 また、シンという名前に俺は踊らされる。俺はただ、シンの力を伝承しただけ国分教太個人に過ぎない。そんな俺にシンと同じものを求められても困る。

「もっと俺を殺す気でかかってこい!さもないとお前が死ぬゾ!」

「俺は・・・・・俺はシンじゃねーよ!」

 思わず怒鳴る。

「あいつがどんな奴だったか俺が知ったことじゃねーよ!シンでもない俺にシンを求められても困るんだよ!」

「お前はシンダ!その力を持っているということはシン以外には存在しない!お前は国分教太という皮をかぶったシン・エルズーラン!俺が殺したシンに決まっている!」

 最後に言った言葉が俺の脳内で鮮明に再生される。

 俺が殺したシン。

 俺は何度も強い強いと言われていたシンを殺した奴がどんな奴なのか知らない。きっと、フレイナのような規格外のような奴とぎりぎりの戦いの中で負けたのではないだろうかと予想していた。だが、そんな俺の考えは異なった。

「お、お前がシンを殺したのか?」

 問いにグレイはは鼻を高くして自慢げに答える。

「そうダ!俺がシン・エルズーランを殺した!」

 衝撃だった。グレイという男からはフレイナのような強さも殺気も感じない。見た目の重圧からあいつにシンがゴミクズが負けたとは考えにくい。

「どうしてお前みたいな奴に・・・・・」

「みんな口を揃えてそういうゼ」

 ちょっと不機嫌そうに答える。そして、続ける。

「だが、実際に陣はシンでこの世から姿を消した。4大教術師でもない知っている奴もごくわずかな普通の教術師にあいつは殺されたんダ!」

「きょ、教術師?」

 魔術じゃないのか。グレイが使っていたあの黒い粒子は魔術じゃなくて教術なのか。確かに魔術を発動させた形跡はない。

「お前は俺のことを知らないようだから教えてやる。俺の名前はグレイ・アイズン!イギリス魔術結社の七賢人は第六のグレイ・アイズンとは俺のことダ!」

 イギリス魔術結社でMMの組織と関係の良くないって言う魔術組織のことじゃないか。それがどうしてこんな敵地のど真ん中にいるんだよ。

 考えられることはひとつだ。

 時空間魔術。

 美嶋の言うとおりになった。敵は俺たちの生活圏内に突然現れた。そして、俺たちを襲ってきた。

「俺たちはある任務を従えてここにやって来た。その目的はただひとつダ!」

 グレイは俺を指差す。

「国分教太。貴様を捕らえて本国に連れ去ることダ!」

 そう言うとグレイの両手に真っ黒な双剣が再び生成されて俺との距離を一気に詰め寄る。

 考える間もなく俺は対応に追われる。雷を発生させて攻撃をするが全く当たる気がしない。ただ、俺はその攻撃を避けるしかなかった。だが、刃は避けているはずなのに腕に傷が無数に入る。

「一体どうなってんだよ!」

 原子の衝撃波(アトミック・ショック)を使って上空に逃げる。今度は銃弾を打たれる前に地上に向かって原子の衝撃波(アトミック・ショック)を放ちグレイに突進する。その際に右手のみ破壊の力を集中させる。落下の力を加わった低魔力で使える高攻撃。

無敵の拳(デストロイ・ナックル)!」

 その攻撃をグレイは大きく後ろに飛び退いて交わす。拳はかすりもせずにただ地面を破壊するだけ。グレイは再び双剣を構えて俺に突っ込んでくる。あの黒い刃は受け止めることができない。また、傷をつけられる。傷ひとつひとつは小さいが痺れて腕の感覚がなくなっていくのが分かる。このままでは勝ち目がない。

 何かあるはずだ。きっと、ゴミクズも俺と同じようにグレイの攻撃を防ごうとして無数に傷を負った。どうすることもできなかったのかもしれない。どうすればいい。このままだとシンの二の前だ。

 俺は死ねない。元の世界に帰るためにも。誰も殺さない目的のためにも。

「俺の力でお前を倒す!」

「やってみろヨ!」

 両手に力を込めると五芒星の陣が発生して靄が両腕を覆う。

 このまま正面から戦っても無駄だ。同じことを繰り返すだけだ。あの無数傷を負ってしまう。それを見極めるためには近づかないといけない。多少の傷を負うことを覚悟の上だ。

「行くぞー!」

 大きく踏み込んでグレイに接近する。その威勢が気に入ったのか笑顔を見せたグレイは双剣を構えて俺に斬りかかってくる。俺はそれを両手で白羽取りをして防ぐ。が、そのせいで両腕に無数の切り傷が入りその血が俺の顔にかかり片目に入って視界が半分遮られる。そのおかげか小さくなった視界に映ったのは真っ黒な剣の周りを高速で黒い粒子が舞っていた。それが俺の腕の表面を削っていた。

「バカメ!それだとまた傷を負うだけだゾ!」

「そんなこと分かってるよ!」

 白羽取りをしていた剣を押し出すようにして話して原子の衝撃波(アトミック・ショック)を使ってグレイを吹き飛ばすついで距離を置く。だが、グレイは対して吹き飛ばされず俺は地面に強く叩きつけられる。

「おいおい、大丈夫カ?」

 俺は顔に付いた血を袖で拭い取る。それでも片目の視界は良好とはいえない。まだ、ジーンと痛みが残って半分視界がぼやける。

「分かったぞ。刃に触れていないのに傷が入る原因が」

「ほー」

「その黒い粒子は金属だ。その金属が刃の周りを高速で舞っている。そのせいで金属の粒子のせいで俺の腕に切り傷が入ったということか」

 あいつの使う教術は金属の粒子の操作。無属性魔術に属されことだけは何となく分かるがそれ以上のことは分からない。無属性ということは法則上では弱点の魔術や属性は存在しない。

「よく分かったナ。シンも俺の教術には途中で気付いた。だが、それがどうした?」

「何?」

「結局、分かったところで大した対策を撃ち出すことはできないはずダ。なぜなら、シンの力は俺と相性が悪い」

 確かに破壊の力は物を分子レベルまで破壊するものだ。だが、あの粒子はすでに分子レベルであるとするならば破壊の攻撃は通用しない。だからと言って俺の攻撃手段で破壊系以外は主力の攻撃にはならない。

「さて、俺の力が分かったからこそお前をさらに恐怖させてやるゼ」

 グレイがそう言うと双剣が黒粒子に戻り、そして粒子はまるで生きているかのようにグレイの右手に集まっていくと剣を形成していく。しかし、今までの剣とは大きく違う。それは向こう側が透けている。粒子だけで出来た剣だ。

「これがどういうことカ、、、分かるよナ?」

 高速で剣の形から崩れまいと動き回る黒い粒子はチェーンソーのような金属音を立てている。地面に近づけると地面が削れてえぐられている。俺の破壊の力では防ぐことのできない粒子だけでコンクリートのような固い地面をえぐるということは柔らかい俺の肉なんかは簡単に粉砕できるということだ。

「マジかよ」

 防ぐことのできない近づくことのできない攻撃。そんなものをどうやって防ぐんだよ。

「シンも同じだったゼ。そんな風にどう対処していいか分からない攻撃を前にして焦っていた。その顔を見るのはシンじゃなくても興奮ゼ~。つーわけでもう一回死んで来い!シン・エルズーラン!」

 黒い粒子の剣を構えて俺に向かって来る。

 どうする?雷で攻撃するか?衝撃波で攻撃するか?でも、どちらもあいつを倒す決定的なダメージにはならない。だったら、無敵の槍であいつ事消し飛ばすか?でも、それだと俺の人を殺さない理念が崩れるし、この力と一度対峙しているグレイは俺の思考が先読みされている可能性が高い。

 どうする?

「迷いは弱さの象徴ダ!国分教太!」

 それは本当に突然だった。ほんの数秒前までは数メートルまでグレイと俺の間には距離が空いていたはずだった。しかし、グレイの足から黒い粒子がロケット噴射のようにグレイの体を押して一気に俺との距離を詰め寄ってきた。その手には黒い粒子の剣。咄嗟に力の発動している両手で防ごうとするが、無駄だということに気付く。

 今までの相手はこれで大半の攻撃を防ぐことが出来た。だが、こいつの攻撃は防げない。

 その時、頭の中で浮かんだビジョンは俺が腕を斬り落とされて斬り殺されるシーンだ。

 結局、俺の力って影響力も何もないただの小さな力だったんだ。

「やらせるかー!」

 そんな声がして火の玉がグレイに向かって飛んでくる。それを黒い粒子の剣で防ごうとするが爆散して吹き飛ばされる。グレイは大した怪我を負っているわけではなく態勢をすぐに立て直して火の玉が飛んできた方を睨む。

「誰ダ!邪魔した奴は!」

 その目線の先を俺も見る。そして、そこにいた。ワイシャツに赤のチャックのスカート。手には自分の身長よりかは一回りくらい小さい十字架のついた杖を持つ少女。黒髪のポニーテールの少女。

「アキ!」

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