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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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亀裂⑦

 空を飛ぶバスに揺られて町の上空を飛ぶ。中央局のある天守閣を見下ろしてながらMMのいる組織の本部へと向かう。火は沈みかけていて空はオレンジ色に染まっている。この空飛ぶバスが普及したのはここ数年。MMがこの国にやってきて組織の本部が出来て拳吉さんが魔石の配給を魔術師だろうが非魔術師(アウター)だろうが平等にした。そのおかげでこの国はかなり豊かになった。

 MMという人物の影響力というのはかなり大きい。でも、そのMMの力ばかり頼り切っていると足元をすくわれてしまう。拳吉さんはそのことを分かっていたかのようにMMには政治に関わらせないようにした。その結果、MMという強者のおかげで日本という国は敵から襲われる可能性が低くなり世界で最も治安のよい平和な国になった。

 でも、あのMMという女は大人しくしているように見えて実は何かをしている。それは何か分からない。私たちが目に見えるようなところでは何もしていない。何をしているのかと言われたら分からない。そんなMMのたくらみが今回初めて公になった気がした。

 それはツクヨさんを国から出したことだ。この国にも利点はないし組織側にも利点はない。

「何を考えているの?MM」

 思わず口に出してしまい本部前のバス停で降りる。

 私がバスから降りたのを確認してから空飛ぶバスは次の目的地に向けて飛んで行ってしまった。バスが建物の影で見えなくなるまで見送ってから組織本部へ向かう。長い階段を昇ると巨大な扉がひとりでに開く。真っ暗な教会に似せた本部の中に入ると一斉に明かりがともって眼をしかめるような眩しさにはもう慣れた。

「来ると思っておったぞ」

 そこにはすでにMMが待ち構えていた。椅子に座り煙管でたばこをふかしていた。神々しいような金色の髪に整った顔立ち。この人も魔術という呪縛がなければ普通の教皇の娘として安泰な将来が待っていたはずだった。それが世界を混乱させるような組織の長をやっている。

「秋奈さんはどこですか?」

「奥でこれからどうするか彼女自身の意思で決めてもらっているとこじゃ。本当はわっちもその場にいたかったのじゃが、誰かが彼女を止めに来るじゃろうと思っていたなんし。まさか、それが魔女がひとりで来るのは予想外じゃったがな」

 煙管の煙を吸って吐きだす。

 この人が私を魔女として戦場に出した。この人のせいで私は敵が恐れる魔女となった。でも、それは半分以上わたし自身の意思だった。今回のツクヨさんも秋奈さんも彼女が直接手を下しているわけじゃない。間接的に手を加えてから相手の意思で思った通りに行動させている。

「それでここには何をしに来たなんし?」

「決まっています。秋奈さんを返してください。彼女は元々この世界の住民じゃありません。長期間の滞在はこの世界の安定には繋がらないと思います」

「それはない」

 MMはすぐに否定した。

「あの者に世界の安定を崩すほどの力はない。あるとすれば、国分教太の方じゃな」

 それは元シンさんの力だからだ。そうじゃなかったらあの人もただの高校生だ。

「それにじゃ、彼女は恐怖しておる。自分に周りに力がないことに。それを解消するためにはここが一番最適じゃと思った彼女の判断は正しかったとわっちは思うぞ」

 そうかもしれない。MMにフレイナさんのいるここを直接襲撃しようなんて考える人はたぶんいない。

「でも、その一番安全なここが私にとっては一番危険な気がします。特にMM」

「なんじゃ?」

「あなたは何を考えているんですか?」

 煙管の中身をカンと金属製の箱に強く叩いて取り出す。

「何も考えておらん。ただ、わっちがほしいのは力じゃ。あの者は世界のバランスに影響するほどの力を持っていないが大幅な戦力の増量にはなるなんし」

「それだけが目的ですか?」

 私は強く問いただす。

 するとMMはジト目で私を睨む。

「力ないものには分からないと思うぞ」

「な!」

「主はバカじゃ。魔女と呼ばれ恐れられていたほどの力を無駄にした。それも大して能力のない風上にだ。彼女に使ったのは正解だったかもしれないが、それでも彼女よりも魔女だった主の方が正直よかった」

 私はあの日のことを何も後悔していない。今まで奪う側だった私が命を与えたのだ。そのことに後悔はない。結果的に力を失うことになってしまったとしても私は何も後悔していない。

 でも、MMにこうやって改めて言われると腹立たしい。

「MMは何も知らないんですよ。私が一体どんな思い魔女をしていたのか」

「そんなもの知ったことか。その時のことはその時じゃ。重要なのは今じゃ。今現在の主は力のない堕ちこぼれじゃ。そんな主は何もできない。彼女も魔女の力が主に残っていたのならば考えを改めたかもしれないなんし」

 確かにそうかもしれない。魔女だった私はこの身で何度も戦場に出て命の取り合いをしてきた。規格外の相手だって何度もしたことがある。そんな中で私は生き残って来たんだ。でも、そんな魔女美嶋秋奈はいない。いるのは魔力を失った女子高生三月アキだ。

「じゃが、まだチャンスがあるなんし」

「・・・・・去り際に言っていた奴ですね」

 自分に力が戻るならばと考えているのならば。

 力が戻るんだったらどんなことだって、どんな困難だって乗り越えられる自信が私にある。でも、一度失ってしまった力を取り戻すのは難しい。現状を破壊するのは簡単だけど直すほど難しいことはない。正直、もうあきらめていた。

 でも、力が戻るんだったら。秋奈さんを教太さんの元に帰すことができる。

「あなたの力を借りるのは不本意でありますが、それでも私は秋奈さんを連れ戻すために規格外とやれるだけの力がほしいです。いや、規格外とやるために魔女の力を取り戻したと思っています。MM。あなたは何か方法を知っているんですね?」

 MMは私に見えないように笑みを浮かべた。

「知っておる」

 そう言うとMMと同じ花魁のような着物を着た銀髪の人が柱の壁から小さな木箱をお盆にのせて大切そうに持ってきてMMのそばで膝をついて掲げるように渡すと一礼して柱の陰に消える。

 MMは木箱を開けると中にはライトブルーの真珠より一回りくらい大きい宝石が入っていた。私はそれが何か知っている。

「魔石ですか?」

「そうじゃ。しかも、贅沢にも原石を加工して作った物じゃ」

 天然の魔石は今ではかなり希少な資源となりつつあり、その取引にはかなりの高額な金額が動く。この日本という国においてはこの魔石はあまりとることが出来ないために国力の象徴である電力はすべて魔力剥奪制度で回収した魔力で作った人工魔石に頼っている。

 そんな希少な原石をさらに加工したものをMMは持っていた。

「この魔石には増強効果と破損部復元が出来るように加工してあるなんし」

「なんのためにそんなことを?」

 魔石は加工することによって多彩な力を発揮することができる。例えば、空飛ぶバスには空を飛ぶための風属性魔術が使えるような加工をしてある。電力を得るためには電力を作るためのタービンを回す力の魔術が施されたりと用途によって様々な魔石が存在する。でも、MMのいう増強効果と破損部復元の魔石の用途が分からない。増強効果は魔術で作った建物の補強に使われる。破損部復元は怪我の治療などの医療系の道具に使われる魔石だ。この二つを組み合わせるのは意味が分か・・・・・・。

「気付いたようじゃな」

 そう言うとMMは魔石を私に向かって投げ渡す。私はそれを慌ててキャッチする。

「おまけじゃ」

 さらにMMはカードを私に投げ渡す。収納魔術のみ刻まれたカード中身は察しがつく。私に魔石とカードが渡ったことを確認すると立ち上がる。

「今の主では彼女は自分の意思ではそちらには戻らない。戻ってほしいのならば力で証明して見せろ」

 そう言うと暗くて奥が見せない廊下に行ってしまった。

「力で証明しろ・・・・・か。MMらしいですね」

 私はもらった魔石を強く握りしめる。

「帰ろう。準備しないと」

 正直怖い。私自身もMMにいいように利用されているような気がして。でも、力のない私に残された選択はこれしかなかった。大丈夫ですよ。教太さん。私は大丈夫。

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