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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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亀裂⑤

契約系魔術とは

魔術と術者の間で魔力の登録をすることで特定の術者しか発動できない魔術の事である。

 MM。あたしが最初に出会った時はとても遠くて手の届かないような高見の感じの存在だった。初めてあたしに対して話してくれた。まだ、どんな人なのか全然知らないけど、底知れぬ力を感じた。それはまるで女神さまのようだ。

 差し伸べる手を取ればあたしはどこまでも行ける気がした。でも、それをアキが拒んだ。

 もし、自らの力に自信がないのならばわっちのところに気軽に訪れるがよいっという言葉がずっと頭の中で引っかかっている。MMの言うとおりあたしは自分の力に自信がない。フレイナとの一戦で自分の力の無さをさらに痛感した。これでは誰も守れない。自分の力では教太もアキも自分も守れないのなら他の力に頼るしかない。それを選択だとあたしは思った。

「アキ」

「何ですか?」

「MMってどれくらい強いの?」

 強いことは知っているでも具体的にはどれだけ強いのか知りたかった。

 アキはすぐに答えてくれた。

「MMはフレイナさんと同格の教術師です。教術のふるさとともいうべきイタリアのローマ生まれで、しかも、教術の生みの親ともいうべき教皇の娘です」

「え?」

 教皇ってローマ教の最高指導者じゃない。そんな人の娘がどうしてこんな東の果ての国に?いや、この際そんなのはどうでもいい。

「そのローマ教皇の娘とMMの強さってどういう関係があるのよ?」

「教皇が陣と十字架をなしに魔術を使ったことから教術と呼ばれているのは知っていますよね?」

 あたしが魔術を使うようになって教術の名の由来をアキから教わった・・・気がする。

「教皇の血筋はそのほとんどが強力な教術師です。ほとんどの人が規格外に当たり古代ローマ帝国の影の支えともなっていたと言われています」

「それってつまり!」

「秋奈さんの持っている通りですよ。MMもフレイナさんと同じ規格外の教術師です」

 規格外ってそんなポンポンいていいものなの?

「MMはフレイナさんとは全く逆のタイプの教術を使います?」

「まったく逆?」

「フレイナさんと戦って感じたことは何ですか?」

 今でも思い出すと恐怖で震えが止まらない。あの圧倒的な火力には敵う気がしない。そうフレイナと戦って一番強く感じたのは強すぎる炎の攻撃。つまり、攻撃力。

「すべて燃やし尽くす火力。高攻撃力」

「そうです。フレイナさんはいわば最強の矛です。彼女の攻撃力と同格かそれ以上の魔術師、教術師は存在しないと言われているほどです」

「MMがそんなフレイナの逆ってことはMMって相当の防御力の持ち主ってこと?」

「はい。フレイナさんが矛ならMMは盾です。彼女の防御力は破格です。どんな攻撃にも涼しい顔で耐える。最終的には攻撃する側が魔力切れで降伏せざるをおえなくなる事態になる。MMは何もせずに防御しているだけで勝敗は勝ちしかありません」

 防御しているだけで相手を根負けさせる。

「この組織って最強の矛と鉄壁の盾があるっていうの?」

「はい。あのふたりがいるおかげでこの組織は創設数年でここまで勢力を大きくすることが出来ました。強さの象徴ですよ。あのふたりは」

 強大な二つの力が組織を強く支えている。

「ですが、MMには防ぐことのできない攻撃がひとつあります」

「鉄壁の盾なのに?」

「MMはフレイナさんの攻撃は防ぐことはできてもその攻撃だけは防げません」

 MMは最強の攻撃力を誇るフレイナのどんなものでもその高熱の炎で消し炭にしてしまう攻撃すらも耐えることができるのか。そんなMMでも防ぐことのできない攻撃ってなんだろう。

「秋奈さんもよく知っている攻撃ですよ」

「あたしもよく知る攻撃?」

 しばらく、間をおいてからアキは語る。

「無敵の槍です」

 聞いたことのある単語だった。

 それは教太が使う防御不可能の攻撃だ。黒い靄のようなものが教太の腕を追って円錐状の槍の形をする。それはすべてのものを破壊する名前の通りの無敵の攻撃だ。確かに防御不可能の攻撃を防ぐというのは無理だ。神の法則で守られていた教太の力は鉄壁と言われるMMの盾を貫くだけの力がある。

「じゃあ、教太とMMが戦ったら教太が勝てるって言うの!」

 少し希望が見えた瞬間だった。教太も規格外の相手とやりあえるだけの力を持っている。フレイナ相手にはただ相性が悪かっただけだと説明をつけることができる。でも、あたしの描いた希望はすぐに絶たれた。

「勝てる保証はどこにもありません」

「なんで?だって、相手は攻撃してこないんでしょ?」

「それは相手によりますよ。教太さんのように防御が出来ないような相手にはちゃんと攻撃もします。実際に最強の攻撃力を持つフレイナさんであっても防御する手段を持っています」

 あたしの脳裏に浮かんだのは炎の大蛇がフレイナの体を覆っている光景だ。その大蛇のせいであたしの攻撃はフレイナに届かなかった。それはまさに鉄壁の盾だった。

「鉄壁の盾にはそれに見合った矛も持っているって言うの?」

「正直言って教太さんはあのふたりの足元にも及びないと思います。それだけ規格外とは次元が違うんですよ。本当にチートみたいな力なんです」

 力。あのふたりには力がある。それを使えば教太やアキを守れる。危険から助けてくれる。あたしの頭の中で再生されるのはMMの言葉だ。力が信用ならないのなら自分のところに来ると言い。それは力のないあたしを助けてくれるってことだ。

 今、この時突然敵が襲ってこないという保証のない緊張感の中ではあたしの心臓が緊張と恐怖で潰れてしまいそうだ。これから抜け出す方法はひとつだけだ。

 あたしは立ち上がる。

「秋奈さん?」

「あたしは行く」

「どこにですか?」

 アキは口車に乗るなって言った。でも、あたしにはもう頼る相手がいない。今まであたしたちの希望の光だった教太すらも手も足も出ない相手がいるこの世界においては頼るべきはさらに力のある人たちだ。

「MMのところに行く」

「ダメですよ!行っちゃダメです!」

 アキが必死に止める。

「あの女の人は本当に何を考えているか分からない人なんですよ!ツクヨさんがこの国から離れるのだっておかしなことなんですよ!MMのもとはダメです!断じて私が許しません!」

 あたしの前に立ちふさがるアキ。

「どいて。もう、無理なの。これ以上こんなところにいると気が変になりそうなの。でも、MMのところなら同じ規格外の人の近くだったら安全なのよ。だったら、ツクヨって人が戻って来るまでそこで身を隠しても」

「いいわけないでしょ!」

 アキは必死だった。どうしてそこまでするのか理解できなかった。どうして、いつとんでもない強い相手に襲われておかしくないのに平然といられるのか分からない。

「どいて。教太を連れてMMのところに行く」

「嫌です!どきません!」

 意地悪くあたしの前に立ちふさがる。

「だったら」

 あたしは十字架を打ち付けて魔術を発動させる。するとあたしの右横数メートルしたところに陣が発生してその中心からコンクリートと同じ色をした土人形が現れる。

「力づくでもどいてもらう!」

 あたしの意思によって土人形がアキに向かって攻撃していく。アキはカードに十字架を打ち付けると青い閃光を放つカードから魔術を発動させるのに使っている杖が出てきて土人形の殴る攻撃を杖で防ぐ。でも、その華奢な腕では岩の重さを持つ土人形の攻撃を完全に受け止めることはできず飛ばされる。コンクリートの地面に体を強く叩きつけられる。でも、立ち上がる。

「止めますよ。出ないと私みたいにただ人を殺すだけの魔女のなってしまいます!それだけは何としても止めます!私の命にかけて!」

 アキは杖で地面に置いたカードを打ち付けると打ち付けたカードを中心に青白三角形の陣が現れると常に紫色の閃光が宿る。雷属性の魔術だ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 杖を構えて突っ込んでくる。

「無駄なのにバカじゃないの?」

 振りかぶる杖の攻撃を受け止める土人形。属性的には雷と土では圧倒的に土の方が有利。それは魔女であるアキも知っているはずだ。土人形はなんともないように受け止めた杖をはじいて空いた手で空きの体を叩き飛ばす。アキはコンクリートの壁に強く体を打ち付けられる。それでも動くのを止めない。今度は火の弾を作る火属性魔術を発動させてきた。でも、火属性も土属性には相性最悪だ。撃ち放たれた火を土人形は受け止める。なんともないように立っている土人形に向かって魔術が何も発動していない杖で殴りかかろうとしている。

 属性魔術は人それぞれが持っている魔力の波長によって使える属性が変わってくる。アキの場合は雷がメイトとして使える。属性魔術は全部で7つある。魔術の法則上、波長によるメインの属性の不利でもない有利でもない属性魔術を重複して使うことができる。雷の不利は風と土。有利は水と氷。つまり、アキが使える属性はメインの雷と火属性だけなのだ。それをあたしは知っている。だから、どちらも不利である土属性の魔術を発動させた。アキがそれだけ攻撃のために属性魔術の攻撃をしてきても属性的に不利な土人形を倒すことはできない。

 それはアキも知っているはず。それでも向かって来るなんて。

「バカじゃない」

 杖で叩きに来るけどそれを土人形は受け止めてそのままがら空きになったアキのお腹めがけて岩の拳をお見舞いする。そのまま拳の衝撃の元叩き飛ばされてまたコンクリートの壁に激突しそうになる。今度は少し力を入れたから気絶するだろうっと思っていた。

「アキ!」

 アキを助けるために飛び込んできたのは教太だった。いつもタイミングのいいこと。

素早く動き叩き飛ばされるアキを受け止めて守るように抱きかかえてそのまま自分がコンクリートの壁に強く叩きつけられる。強く壁に背をぶつけた教太はげほげほと苦しそうにせき込んで呼吸を整える。アキも同じようにせき込んで息を整えようとする。でも、それと同時にあたしの攻撃が強すぎたのか吐血する。

「誰だ!こんなところまで入り込みやがって!」

 教太が叫び。その間に入るように柄をチェーンでつながれた二本の剣を構える風上さんが敵意ある目線であたしを睨む。でも、あたしだって分かると敵意ある目線が緩んで剣を下す。

「なんで?美嶋さんが?」

 教太も目の前のアキしか見えていなかったようでアキを攻撃したのがあたしだってことは分かっていなかったようで驚いていた。

「どういうことだよ?美嶋?なんでアキを攻撃したんだ?」

 なぜ、攻撃したのかあたしにもよく分からない。今のあたしにはそんな疑問や目の前の教太よりも優先すべきことがある。

「そこをどいて風上さん。あたしはいかないといけないの」

「え?あ、ああ」

「ダメです・・・・・秋奈さん。・・・・・MMのところに行ったらダメ」

「MMのところだと!」

 風上さんの横を素通りしようとするあたしの腕を風上さんが掴む。

「邪魔するな!」

 あたしの意思に合わせて土人形が風上さんに襲い掛かる。身の危険を感じた風上さんはあたしの手を離して攻撃をかわしてすぐさま風を宿らせた剣で土人形を砕き倒す。属性的に不利だから仕方ない。

「待つんだ!美嶋!」

 今度は教太があたしの目の前を塞ぐ。

「どうしてMMのところなんかに!あいつは俺たちのこの世界に閉じ込めた張本人かもしれないんだぞ。どんなことを考えているか分からない相手のところに行くのは危険すぎる!」

「あたしからすれば規格外の敵が突然襲い掛かってきた方がよっぽど危険よ!」

 思わず怒鳴って言い返してしまった。

「あたしたちの力が通用しないのよ?今まではと全然次元が違う。今まで見たいに教太の言う誰も殺さない執念が貫けるとはあたしは思わない。それでもあたしは教太の願いを叶えてあげたい。そのためには力が必要なの。規格外には同じ規格外よ、教太」

 MMと同じように教太の手を引こうとする。

「早くMMのいる組織の本部行こ。そうすれば、こんな危険な世界から安全なところに行ける」

 あたしは教太の手を引くけど教太はそれを拒んで振りほどく。

「きょ、教太?」

 教太はこっちを見ない。

「俺にはダメだ。MMの言うことが100%正しいとは思わない。あいつは俺たちに多くのことを隠し過ぎだ。信用ならない」

「信用はないけど力はある。力があればどんなだって乗り越えられる。今までの教太だってその力を使ってどんな困難でも乗り越えてきたじゃない」

 魔力を吸って糧にする魔力喰い(マジック・イータ)にもどんなものでも燃やす青い炎にも魔術を無効化にする非魔術師(アウター)にもその力で乗り越えてきた。力がすべてなのよ、教太。

「俺は信用のない力を頼る気はない」

「なんでよ?」

「力というのは使いどころを間違えれば自分に返って来る。それが大きければ大きいほど自分に返って来る痛手は大きい。信用性ゼロのMMと俺たちをいきなり襲ったフレイナのいるところに俺は行こうとは思わない。だから、美嶋も」

「信じられないのはあんたたちよ!」

 あたしは思わず魔術を発動させてしまった。それは風属性魔術で強い竜巻を発生させるだけの魔術だ。それで教太の体を吹き飛ばした。それを受け止めるアキも同じように吹き飛ばされる。

「美嶋!」

「あたしは自分の力が信用できないのよ。すべての属性魔術が同時に使えてもその程度。あたしには力がない。あたしは弱い」

「そんなことない!美嶋は強い!俺はお前に助けられたことだって!」

「あんたを助けるより圧倒的にあたしはあんたに助けられっぱなしなのよ。嫌なのよ。自分の力がないことに!MMのところに行けば何か変わる気がするのよ。弱い自分を変えることが出来そうなのよ」

「そんな高望みはMMのところにはないぞ!騙されるな!美嶋さん!」

「騙されてなんかいない!これはMMの指示じゃない!あたしの意思なの!教太を守るためにあたしは力を手に入れる!だから、あたしの邪魔をするな!」

 あたしは氷属性の魔術を発動させる。左手を追うように生える氷はボウガンのように槍が教太たちの方に向けられる。そして、撃ち出される。風上さんは手に握る剣から雷を発生させて氷の攻撃をはじき壊す。それを見たあたしは教太を吹き飛ばしたのに使った風属性の竜巻を風上さんに向けてぶつける。勢いに負けた風上さんは吹き飛ばされる。

「風也さん!」

「待つんだ!美嶋!」

 教太にはあたしの気持ちが分からない。分かってあたしが規格外並みの力を手に入れるしかない。

「じゃあね、教太」

 あたしは氷の槍を自分の足元に打ちこんで地下の部屋の出入り口を氷漬けにして塞いだ。

 教太の声が聞こえるけど聞き取れない。きっと、行くなって言いたいんだろう。でも、もう教太にはどうしようもない。この世界の力は強靭だ。そんな強靭な力に対峙するためには同じく強靭な力を持つ物のところに行くのが手っ取り早い。信用性はないかもしれないけど、力はきっと本物だ。

「そのうち教太にも分かる時が来る。その時まであたしはずっと待ってるから」

 あたしは竜巻の勢いを使って飛び上ってMMのいる教会に向かって飛んだ。

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