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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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亀裂④

闇属性魔術とは

無属性魔術のひとつ。

特に波長による使用制限はない。

主に攻撃力をもつ無属性魔術が分類される。

相手を騙す幻影魔術も闇属性にあたる。

「教太」

「なんだ?」

 今度はツクヨが毎日のように通っているという銭湯にやってきている。もちろん、俺たちが中に入れる訳ないのだが、店番をする番台のおばちゃんにツクヨが来ていないかだけを聞いて来ていないということを聞いてから次にどこを探せばいいのか、通信系の魔術を使って霧也が連絡をしている最中だった。

 連絡を受けた霧也が話した内容に俺は困惑する。

「はぁ?探す必要はないってどういうことだよ?見つかったのか?」

「見つかったわけじゃないがどこにいるか分かった」

「どこだよ?」

 何か言いにくそうに言葉を濁そうとしたがすぐにため息をついて諦めたように答える。

「・・・・・ハワイ島」

「はぁ?」

 ハワイだ?

「なんで?」

「バカンスだそうだ」

 思わず崩れ倒れそうになる。

「バカンスだ~?ふざけてるのかよ!」

「俺もそう思う」

 そんなこの国の組織の最重要事項をほぼツクヨだけでまかなっていると言っても過言じゃない。そんな重要な人物が重要な仕事を放棄してバカンスにハワイ島に行っているとか信じられない。今すぐ連れ戻して引っぱたきたい。

「ツクヨのバカンスは彼女の意思もあるが半分はそうじゃない」

「どういうことだ?」

「MMがバカンスに行くように言ったらしい。船も別荘もチャーターしたらしい」

 何を考えてるんだよ。ツクヨがいないと困るのはMMだって同じはずだ。

「中央局が通信系の魔術を使って連絡は取れている。もう、太平洋沖の小笠原諸島の父島付近らしい。リンの時空間魔術を使ってツクヨをすぐに連れ戻すことはできない」

 マジかよ。早く元の世界に帰らないと美嶋が狂っておかしくなりかねない。

「ツクヨはいつ戻ってくるんだ?」

「分からないそうだ。帰国についての打ち合わせをしていないとMMは言っているらしい。今は空を飛べる魔術師が必死に船を追っているらしいが、バカンスに向かっている最中のツクヨをすぐに連れ戻せるかどうか分からない。・・・・・いや、すまない。たぶん無理だ」

 それは俺だって嫌だよな。バカンスに行ってらっしゃいって言われて向かっている最中に仕事だから戻れって言われたら絶対に戻らない。バカンスを最大限に楽しんでからの方がいい。

「でも、なんでMMは自分たちにも重要で必要不可欠な長距離移動のできる時空間魔術師をわざわざ手元から離すようなことをしたんだ?」

「分からん。あの女狐は何を考えているかいつも分からない」

 拳吉も同じようなことを言っていた。

「だが、MMはただの休息の為だけにツクヨをバカンスに送ったとは思えない。移動の手段を欠いてまでツクヨをこの国から出す必要があった。それは移動手段よりも優先すべき何かがあった」

「それってなんだよ?」

「分からないが、妙だと思わないか?」

「何が?」

「教太たちのもとの世界に帰るタイミングを狙っているような気がする」

 確かにそうかもしれないがたまたまという可能性もある。だが、霧也の言うように俺たちを元の世界に帰さないための配慮だとしたら一体MMは何を考えているんだ?

「ただの推測だが教太や美嶋さんを何か利用するために元の世界には帰さなかった」

「何か利用する必要性が俺や美嶋のどこにあるんだよ?力の大きさからすればフレイナやMMの方が圧倒的に強いし、美嶋に関してはMMは美嶋の力を言うほど重視している感じじゃなかった」

 実際に影響力のない力だと言っていたし。

「やっぱり、教太の内にあるシンの力が目的か?」

「この力がほしいんだったら力づくで奪えばいいじゃないか?向こうは力も戦力を圧倒的に上じゃないか?」

「・・・・・使えることに意味があるとか?」

 それだったら納得がいく。実際にこの力は誰も知らない神の法則によって使用制限がかけられた力だ。その神の法則を理解しなければ使うことはできない。この魔術の世界の住民には神の法則の理解はかなり難しい。逆にどうしてシンは力を使うことが出来たのか、どこで神の法則の存在を知ったのか、あいつにはいろいろ疑問が多い。

「でも、俺の力が必要な理由ってなんだ?」

「分からないな」

 だろうな。そんな簡単に分かるんだったら苦労はしない。

「とにかく、今の現状をアキナや美嶋さんに使えに戻るとしよう。風を使うから掴まれ」

「分かった。・・・・・前みたいに投げ捨てるなよ」

「・・・大丈夫だ」

「今の間なんだよ!」

 そんな俺の主張を無視してカードに十字架を打ち付けると柄に鎖でつながれた剣が現れた。霧也専用に作られた魔武だ。十字架とカードを使わずに魔術を発動できる武器だ。しかも、通常ならば一つの魔武にはひとつの属性魔術しか使うことが出来ないが霧也の魔武は特注でひとつの魔武で2種類の属性魔術を使うことができるらしいのだ。仕組みとしては鎖でつながれているというのが重要らしい。右の魔武には風属性の陣が刻まれており、左の魔武には雷属性の陣が刻まれている。右の魔武だけに魔力を流せば風属性魔術が発動して鎖を通してもう片方の魔武にも風が宿るという仕組みらしいのだ。逆もまた同じ。

「行くぞ。しっかり掴まれよ」

「落とすなよ!絶対落とすなよ!」

「それって振りか?」

「そんなわけないだろ!」

 霧也は冗談交じりに笑ってから霧也にしがみつく俺を抱きかかえてから剣の風属性魔術を発動させてロケットのように上空に飛び上がって地下の部屋があったところに戻る。飛び上がり眼を開けると同じように上空を飛んでいる魔術師がたくさんいる。中にはほうきにまたがって魔法使いのように飛んでいる子供たちもいる。霧也はその光景を見てなんとも思わないようだ。見慣れた光景のように。

 下を見れば町のクモの巣のように張り巡らされた道を行き交う人たちの姿が小さく見える。前にこの移動をした時はこんな余裕はなかった。でも、こうしてみると景色は素晴らしいものだ。

「本当に魔術って負だけ出来た力なのかって言いきれない」

「・・・・・それは俺も同感だ」

「霧也まで?」

 こいつは風上風也という名前をとある施設でつけられた。風に縛られた剣士。他にも属性魔法の名前で魔術師を俺は何人も見ている。それらすべて機関という施設で育てられた戦争に使うために教育された者たちのことだ。孤児たちを買ったり、拾ったり、誘拐したりして大人たちが魔術の徹底的に鍛えて他国に優秀な兵士として金にするという私利私欲の塊が生んだ属性戦士だ。

 機関のせいで普通の生活がまったくできなかった霧也が魔術を全く恨んでいないわけがない。

「機関でひどい目に合ってきたんじゃないのか?」

「確かにそうかもしれない。狭く暗い部屋に閉じ込められ、明日死ぬかもしれないという恐怖におびえる日々。魔術がなければあんな目に合うこともなかったかもしれない。でも、教太を見て思った。お前を見ていると魔術が案外悪影響を与えるものではない気がしてならない」

「どうして?」

「教術を使うお前はどこか生き生きとしている気がする。それを見ていると魔術や教術を使うことが本当に悪いことなのかとも思えてきてしまう」

 それはほぼ無でいるかいないか分からない状態だった俺を有にしてくれたこの力には感謝している。

「それに機関に行かなければ梨華にも出会えなかったわけだし」

「リア充爆発しろよ」

「落とそうか?」

「嘘です。落とさないで」

 笑顔で冗談を言われた。いつもならここでいじり倒すのだが状況が圧倒的に不利すぎる。

「降りるぞ」

 霧也はそういうと一気に降下していって逆方向に風を噴射して勢いを緩めて華麗に着地しようとした瞬間に俺を手放す。

「え?」

 突然のことに俺はそのまま顔面から地面に落下する。運よく軽傷で済んだ。

「何すんだよ!落とすなって言っただろ!」

「今の高さは落としたとは俺は言わない」

「この皮肉れ者め」

 と文句を言うが笑って流される。魔術の世界も案外平和な物じゃないかと思う。俺の想像とは違って明るくて力のないものでも自由に過ごしているようにも見えた。だが、そう思えたのもここまでだった。地下の部屋で待っているアキと美嶋に大きな起きた変化を俺はまだ知らない。

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