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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
力の領域
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黒い悪寒③

「なぜだ!なぜなんだ!」

 民を守れなかった悔しさが込み上げる。体中から湧き出る魔力と同じくらい怒りが込み上げる。

「拳吉様!落ち着いてください!」

 後からやってきた左京がなだめる。

「落ち着いていられるか!ここは世界3大魔術組織の中枢だぞ!そんなところにまんまと敵の侵入を許して守ってもらいたいと願う民が誘拐されたんだぞ!これだけ派手に暴れているが、なぜ組織の人間が誰一人この場にいない!」

「そ、それは」

 左京もそれに関して不自然に感じている。組織本部の教会は半壊状態になっている。ほぼ、ワシのせいなんだが、ここまでやって異常に誰も気付いていないのか?

「MM!出て来い!」

 ありったけの声を張ってこの本部に住んでいる最高責任者を呼び出す。すると壊れたベランダの戸がゆっくりと開く。

「なんじゃ。騒がしいなんし」

 如何にも眠そうな顔をしてMMが現れた。いつもの派手な着物に髪型ではなく、長い金髪をひとつにまとめて白い地味目の着物を着ている。完全に寝巻きだ。

「貴様!なぜそんなにのんきなことをしている!」

 殴りかかろうとすると目の前に半透明の結晶が行く手を阻んだ。絶対防盾パーフェクト・スコードは大陸をも砕くほどの威力を誇るワシの日本国パンチを持ってしても砕くことのできない鉄壁の教術だ。

「なんじゃ?以前の戦闘の続きでもするか?」

 背後にオレンジ色の明かりが灯る。フレイナの姿があった。服装はいつも通りのタンクトップにホットパンツの格好だ。いつ自分の炎を全力でワシにぶつけることができるかうずうずしているようだ。

「以前の戦闘は和解しただろ!」

 和解といっても国分教太が時空間魔術を使ってどこかに飛んだ時点でMMは戦闘をやめた。ワシが邪魔したことへの抗議もあったが、それは今後組織の問題に中央局が介入しないことを約束して今回の衝突をなかったことにした。だから、風上風也を助けるために戦闘に介入できなかった。彼はこの国の民ではないが、ワシの国の民の大切な友人だった。守るべき対象だった。MMの組織と交わした約束が邪魔をした。もう、二度とそんなことがように国のピンチならば約束などぶち壊してやろうと思っていた。だが、今回も国の民を守ることは出来なった。将軍として失格だ。

「今回ばかりはわっちらも気付くことができなかったことへの責任はあるなんし」

「はぁ?」

 やけに素直だった。

「美嶋秋奈はわっちらにとっても良き友人じゃ。力を持っているのにその使い方がわからず、迷い苦しんでいた。じゃから、わっちらが支えてやろうと思っていたなんし。守ってやろうと思っていたなんし」

「だが、実際には彼女は誘拐された!時空間魔術を使ってだ!」

「冷静になるんじゃ。徳川拳吉」

「これが落ち着いていられるか!」

 力がついた状態で地団駄を踏むとベランダが大きく波を打つように床が盛り上がって壊れる。MMは絶対防盾パーフェクト・スコードで足場を作って免れる。

「落ち着け。敵は時空間魔術を使って侵入してきた。ひとりだったとはいえ、これは立派な急襲じゃ。これがどういう意味を示すか主にはわかるか?」

 意味だと?

「組織、イギリス魔術結社、黒の騎士団の3大魔術組織間で結んだ条約じゃ。時空間魔術を使った急襲の禁止。奴らはその条約を破ったことになるなんし。つまり、黒の騎士団にこのことを伝えれば彼らを巻き込んで美嶋秋奈を救出することができるなんし。そうすれば、救出は容易なんし」

 そこで俺はMMの真意を理解した。

「貴様!まさか!」

「紫」

 その名を呼ぶとMMの影から突如音もなく銀髪碧眼の着物を来た女が現れる。

「時は達したぞ。この日のために準備してきたものの準備をし、行くぞ」

「わかりました」

 と言って紫は闇の中に消える。

「貴様!狙いはイギリス魔術結社との戦争の再開か!しかも、自分に有利になるように仕掛けて!」

「それがどうしたんじゃ?」

「まさか、そのためだけに美嶋秋奈をそばにおいて誘拐させやすいようにしていたのか!」

「別にそんなことをしていないなんし。そもそも、なぜ美嶋秋奈が誘拐されることが主にはわかるなんし?」

「わかるさ!彼女はすべての属性魔術を、法則性を無視して同時に発動できる!これは普通じゃない。魔術の発展を目的としている結社にとってうってつけの研究材料じゃないか!それに彼女はイギリス魔術結社が発動しようとしている古代魔術兵器カントリーディコンプセイションキャノンの素材候補になりうるだろ!」

 あんな危険な兵器を発動してはならない。発動したらワシでも止められるかどうか怪しい。

「そうさせないための準備じゃ」

 MMは着物をなびかせて建物の中に戻っていく。

「MM!どこに行く!」

「着替えじゃ。戦うための」

「戦うって」

「わっちらの友人、美嶋秋奈を救うための戦いじゃ」

 MMの目は本気だった。

「だが、時空間魔術はどうするんだ!大勢を移動させることができる時空間魔術を使うのはツクヨくらいだ」

 そのツクヨはいまだに連絡が取れない。ハワイに行っているという話をMMから聞いた直後に、人を向かわせてハワイ島に向かう船の中でツクヨを探したが、見つからなかった。問いただしてもハワイ島に送り出した以上のことは彼女は知らなかった。いや、彼女はそういう振りをしているだけなのかもしれない。

「ツクヨならいるなんし」

「なんだと!」

「この教会の地下にのんびりと暮らしておるが?」

 怒りが湧いた。MMの元に美嶋秋奈が駆け込んだのは彼女が自分の力の弱さに不安を覚えたからだ。早く自分の世界に帰りたい。ワシはその思いをかなえてやりたいと思った。世界は違えど同じ国の民なんだから。だから、全力でツクヨを探した。それがこんな近くに・・・・・。

「なぜだ?」

 ワシの体中から湧き出る魔力が小さな渦を作り出して砂をゆっくりと巻き上げる。

「なぜとは?」

「なぜ、ツクヨが国外にいると嘘をついたんだ!」

「嘘ではないなんし。最近、自分で戻ってきたんじゃが?時空間魔術師じゃぞ?それに秋奈は自分の世界に帰りたいと思っているが、それはひとりではなくみんなで帰りたいと思っていたなんし。国分教太に魔女、風上風也。風上がわっちが殺したが、国分教太と魔女は貴様が援助して国外に逃がしたんじゃろ?民のことを考えればふたりを国外に逃がす理由があるか?主は自分の満足のために力を振るっていうようにしかわっちには見えん」

「な・・・・ん!」

 言い返すことはできない。

 ツクヨは時空魔術だ。旅行も帰省も時間なんてものを使わない。素直に帰ってくることを待っていればよかったのかもしれない。それから、国分教太と美嶋秋奈を異世界に返せば結社が国内に侵入してくることも、古代魔術兵器の恐怖と戦うこともなかった。

 すべてがMMの手のひらの上で踊らされているように悔しい。自分の歯を砕いてしまうくらいに悔しい。

「その怒りをぶつける相手を間違えるでない」

「なんだと?」

「戦うべきはわっちではなく、秋奈を誘拐し、カントリーディコンプセイションキャノンを発動しようとしているイギリス魔術結社ではないか?この戦争状態もイギリス魔術結社が招いているものじゃ。やるべきことは力を理解し、振るうことじゃ」

 MMが手を差し伸べる。

「カントリーディコンプセイションキャノンが発動すれば主の国も安全ではない。どうじゃ?ここはひとつ手を組んで秋奈を助け出しカントリーディコンプセイションキャノンの発動阻止するために戦わないか?」

 それはワシらも組織と共に敵地に乗り込んで戦えということだ。MMはワシとの正面から戦うことを嫌っている。それはワシを完全に押さえ込むことが不可能だと踏んでいるからだ。だから、今まで味方でいた。だが、それはあくまでワシの考えだ。こうやって、ワシを巻き込んで無理やり味方につけるために今まで仕込んでいたのかもしれない。国分教太と三月アキを国外に逃がしたのも彼女の作戦の中なのかもしれない。それを知るほどワシには力がない。

「どうするんじゃ?民を見捨てるのか?」

 その言葉にほぼ反射的に言ってしまう。

「見捨てるわけないだろ!」

「なら、どうするんじゃ?心を壊されて苦しみの中にいる秋奈を民を国外に放置するのか?」

 MMの口車に乗せられるのは腹が立つが、ここは乗っかるしかない。民を助けるために、守るために行動をすることはこの国をまとめる将軍としてやるべき公務だ。

「行こうではないか」

「どこにじゃ?」

 不適に笑みを浮かべる。勝ち誇ったその表情を見ないようにワシは宣言する。

「イギリスに!ワシの国の民を助け出すために!組織の協力してやろうじゃないか!逃亡戦争ステージ2!開戦だ!」

 停戦中だった逃亡戦争は再び動き出す。

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