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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
力の領域
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黒い悪寒②

 人って言うもんは弱い生き物だ。感情なんてもんを心なんてもんを持ってしまったが故に心境によって環境によって強くもなり弱くもなる。だから、俺のこんな程度の攻撃で心を壊して自分を見失う。

 俺ことデューク・リドリーの足元に転がっている着物を着た茶髪の東洋人の女。年は16と聞いている。16歳なんて女としてはまだ青臭い。だが、その味を好む変態も少なくはない。俺はこんなおっぱいの小さい女よりもおっぱいがでかくてかぶりつきがいのある美尻の女のほうが断然いい。こんなガキの心はうまかったが、こいつで性欲を満たせない。いつもならこのまま放置するんだが、今回ばかりはそうも行かない。

「面倒だが持って帰るかぁ」

 女を担いでポケットから一枚のカードを取り出す。

 通信魔術が発動状態のカードに向かって話し掛ける。

「俺だぁ。目的のものは回収したぁ。予定通り例のポイントにいるから回収してくれぇ」

 とだけ言ってカードを破り捨てる。

 味方が時空間魔術を使って回収してくれるが、そんなすぐにはできないだろう。しばらくの間、肩に女を抱えながらベランダの手すりに座り込んで上っている月を見上げる。

 不意に思ったんだが、この国の月に映る模様を餅をつくウサギだというらしい。俺の国では本読むババアに見えるといわれている。ウサギだといわれても俺にはババアにしか見えない。臼の部分は俺からすればどうがんばってもババアのスカート裾にしか見えん。ババアのスカートの裾にしか・・・・・。

 その月のババアのスカートの裾にぽつんと小さな豆のような影が浮かぶ。その影に目を凝らしてその豆の正体を知る。

「まじかぁ。一番見つかりたくない奴に見つかったかぁ」

 女を担ぐのに使っていない遊んでいる手首を中心に八芒星の青白い陣が浮かび上がると俺の手がひじから手先まで真っ黒に染まり怪獣のようなごつごつとした腕と爪が出来上がる。これに触れたもの、傷を入れたもの心を食える。ちなみに心のないものを触れて切りつけたらぼろぼろに崩れる。この真っ黒なものがなんなのか俺にもわからないが、食べ物の味がわからず食欲という欲がない俺にはなくてならない教術だ。

 両足も同じように真っ黒なごつごつとした足と爪ができると同時にまるで隕石でも落ちてきたかのような衝撃波がベランダを襲う。

 この女は強力な魔術を意図も簡単にぽんぽんと連発してきた。正直、こいつに魔術の技量と知識があれば俺でも手に負えなかった。そんなこの女の魔術でも大理石でできたベランダの床は表面を破壊する程度だったが、この上空から突如落ちてきたものの衝撃でベランダ全体が大きく歪んで崩れる。一部は下の階に瓦礫が落下している。

「おいおい。化け物かよぉ」

 瓦礫から発生した砂煙が晴れるとひとりの男が立ち上がる。黒いジャージに白いマフラーのようなものを首に巻いたまるで寝巻きのような格好をした男。どう見ても庶民にしか見えないがそうではない。

 月明かりに照らされる男の圧に俺も後ずさりする。

「組織本部のほうで爆発音が何度も確認され、一向に収まらないと見にきてみれば・・・・・ワシの国で何をしている!」

 徳川拳吉。MMやフレイナに見つかったほうがまだましだった。この男は・・・・強すぎる。魔術って言うものは魔力が十字架を流れて魔方陣を通ってようやく魔術という形になる。教術は十字架を使用するという工程を無視しただけで基本原理は同じだ。だが、目の前の徳川拳吉は魔術に必要な全工程を無視する。十字架を通さずとも溢れ出る大量の魔力。それを魔方陣を必要とせずに形にして操るセンス。

「正面から戦って勝てるわけがないなぁ」

「貴様は誰だ?美嶋秋奈はたとえ違う異世界の住民でも、ワシの国の民に違いはない!」

 一歩踏み出ると組織本部の教会全体が揺れる。

「解放段階3!」

 まるで台風の目のように吹き荒れる風はすべて徳川拳吉からあふれ出した魔力が生み出したものだ。風属性ではない。魔力というエネルギーが行き場を失って飛び散っているだけ。

「聞こう!貴様の名はなんだ!」

 たぶん、そろそろだ。ゆっくり自己紹介でもしてたら迎えが来る。せっかくだ。

「教えてやろうじゃないかぁ」

 徳川拳吉は相変わらず拳を構えたままだ。いつその拳が飛んでくるかわからないが、俺には攻撃されない自信がある。

「俺の名前はデューク・リドリーだぁ」

 その瞬間、徳川拳吉が固まる。

「デューク・・・・・・リドリーだと」

 驚くのも無理ないか。この女が驚かないほうがおかしかったからな。

「イギリス魔術結社の七賢人は第1。そして、MMとフレイナ、シン・エルズーランと並ぶ4大教術師のひとり、デューク。リドリーか!」

「いろいろ肩書きがあってめんどくさいなぁ」

 どれも俺が欲しくて貰った肩書きじゃないが。

「なぜ、イギリス魔術結社の実質トップの男がここにいる!」

 なぜここにきたってか?肩に担いでいる女に目をやる。

「ただ、飯を食いに来ただけだぁ」

「そうか、そうか。ワシの国の飯はうまかったか?」

「最高だったよぉ。特にこの女の心はぁ」

「そうか。貴様は人の心を攻撃する教術師だったな」

 さすがに知ってるか。

「美嶋秋奈を返してもらおう!ワシの国の民を!」

 地面を蹴り飛ばして突っ込んでくる。それはもう目で追えたもんじゃない。

「日本国!パンチ!」

 振りかぶって振り下ろされた大陸を叩き割るんじゃないかっていう威力で組織本部のベランダを木っ端微塵に破壊する。その衝撃でベランダが傾いて本部の教会の塔の一部が傾く。

「今のをかわすか?」

「俺が抱えているものを見れば、お前も本気で当てにかかっていないことくらいわかるぞぉ」

 背中から生えた俺の腕を追う爪と同じ真っ黒な翼を広げて空中に留まる。

「天使の力か。4大教術師で唯一貴様だけ持っている神の領域へ少しだけ近づくことを許された力。だが、その姿はもはや天使ではない。悪魔だ」

「だろうなぁ」

 徳川拳吉は飛び上がってまるで空中に足場でもあるかのように空中を蹴って俺に向かってくる。

「日本国!キック!」

 そこまでのスピードじゃない。俺は翼を器用に羽ばたかせてかすかに上昇して徳川拳吉の蹴りの攻撃をすれすれでかわしてがら空きの腹にかかと落としお見舞いする。自分で作った勢いそのままに徳川拳吉はベランダに墜落して消える。完全に大理石のベランダが陥没している。その陥没したベランダの大理石をぶち破って徳川拳吉は再び近くまだ無事なベランダに着地する。俺が蹴った腹は黒くなっていない。

「やっぱり利かないかぁ」

 俺の教術は直接触れないと効力を発揮しない。徳川拳吉は全身に魔力を鎧みたいに纏っている。そのせいで奴にこの手と足で触れられない。あれが魔術、教術に分類されれば確実に4大教術師が5大教術師になっているところだ。

「美嶋秋奈を返してもらおう!」

 飛び上がると再び空中を蹴る。その瞬間、俺は奴を見失った。

「マジかぁ!早いなぁ!」

 空中を蹴る音だけが聞こえる。そして、次の瞬間目に入ったのは拳を俺に向けて振りぬこうとしている徳川拳吉の姿だ。

「でもよぉ。早いだけじゃ勝てないぜぇ」

 俺は肩に担いでいた女を盾にする。すると徳川拳吉はおもしろいくらい驚いた表情を見せた。そして、振り抜こうしていた拳を俺の目の前で空振りした。させたのだ。一度打とうと思ったものは止められないのだ。その隙は格好の的だ。

 再び蹴り飛ばして教会の窓を突き破って消える。

「そろそろかぁ」

 ベランダがさっきまであった場所に五芒星の青白い光が灯る。

「来たかぁ」

「逃がさんぞ」

 窓枠から姿を現した徳川拳吉は無傷だ。

「化け物だなぁ」

 五芒星の中央が真っ黒な穴になった。準備は完了だ。近くまで降り立った俺は中をくぐろうとした瞬間、まるで砲弾みたいに徳川拳吉が飛んできた。

「日本国!キック!」

「何度やっても結果は同じだぁ」

 女で俺の姿を隠すと徳川拳吉は時空魔術の穴の真横を素通りして地面にとんでもない衝撃をもたらして地面にめり込むと同時に傾いていた塔がゆっくりとこっちに崩れてくる。

「さて、帰るかぁ」

 時空間の穴を通って俺はイギリス魔術結社の本部があるイギリスへと飛ぶ。

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