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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
人の領域
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亀裂③

光属性魔術とは

無属性魔術のひとつ。

特に波長による使用制限はない。

主に結界や回復魔術などの攻撃力を持たないものが分類される。

使用方法によっては攻撃力を持つ場合がある。

 秋奈さんと私は同一人物だ。

 世界の情勢や過去が違っても私たちの先祖は別の世界で運命の人と出会い子供を産んで、その子供がまた魔術や戦争の影響されずに同じ運命の人に出会ってまた子供を産んでその人がまた―――という感じで続いて行って私と秋奈さんの代まで同じ人物がふたつの世界で存在し続けた。

 もしも、私が秋奈さんとは逆で魔術のない世界にいて同じようにこちらの世界にやってきて起きている状況を知ったらどうだろう。

「きっと、私も同じですよ」

 今までは全然気にしていなかったけど、普通に考えれば人間兵器が突然目の前に現れて私たちの命を奪っていくようなことを想像したら普通にいられるわけがない。この世界の人たちはそれでもなんともないような顔をしているのはきっと慣れてしまったから。仮に時空間魔術でフレイナさんのような規格外の魔術師、教術師が突然襲ってきた場合、他の二つの組織が摘発する。そんないつ崩れてもおかしくない緊張感のおかげで世界のバランスは保たれている。

「でも、いつまでもつかな・・・・・」

 気絶した秋奈さんに膝枕をする形でツクヨさんを探しに行った教太さんと風也さんの帰りを待つ。この薄暗い地下の部屋で。するとこつんこつんと入口の方から声が聞こえた。教太さんでも風也さんでもない。この地価の部屋はコンクリートで固められている。そんな固い地面とぶつかる音はどこか心地よい音だ。木がぶつかる音だ。

 この地下の部屋は結界で守られている。組織の関係者と中央局の関係者以外は入れないように結界を張っている。だから、ここに入って来れるのは組織の人か中央局の人。中央局の人はない。たぶん、総動員でツクヨさんを探しているだろうから。だから、たぶん組織の人。そして、木が擦れてコンクリートの地面とぶつかる音。聞き覚えのある音だ。

 ゆっくりと迫る音。私は慌てない。

 姿が見えると現れたのは花魁のように華やかな着物を着ならしたMMだ。

 いつものように同じような着物を着させた銀髪の子を連れている。

「元気か?魔女?」

「その呼び方はもう正しくないですよ」

 私のことを魔女と呼ぶのは私のことをちゃんと知らない人たち。ただ、魔女としての私しか見たことのない人たちのだ。MMも魔女としての私しか知らない。

「そうだったなんし。もう、すでに魔女は魔女として力は持っておらなんだな」

「それでMMはわざわざこんなところに何か用事ですか?長距離移動は無理ですよ。ツクヨさんとはちょっと連絡取れないんですよ」

「知っておる。こちらにも中央局から連絡が来ておる」

「なら、何の用事でこんなところに?」

 すると連れてきた銀髪の子を下がるように言うと一礼してこの部屋の出口の方に行ってしまった。静まり返った地下の部屋には私と秋奈さんとMMだけになった。

「ツクヨの所在ならわっちが知っておる」

「な!」

「じゃが、あやつはここには戻ってこない」

「何でですか?あの人はあなたにとっても最重要人物ですよ。それにあの人の籍は中央局であって組織ではない」

「なに。彼女は彼女の意思で姿をくらませているだけじゃ」

 ツクヨさんの意思?

「わっちはただ、組織の別荘を貸してやるから少し羽を伸ばしてはどうだと提案しただけじゃ。ツクヨは嬉しそうに承諾して娘と一緒にハワイ島でバカンス中じゃ」

「それは本当なんですか?」

「本当じゃ。わっちが中央局にツクヨのことを伝えようとしたら、うちのバカがそこで寝ている美嶋秋奈に悪さをして言いそびれてしまったなんし」

 MMの表情からしてフレイナさんの暴走には手を焼いているようだ。

 するとワタシのひざ元で気絶していた秋奈さんはう~んとうなった後に目を覚まして体を起こした。

「大丈夫ですか?秋奈さん」

「・・・・・ア、アキ?」

 どうして自分が眠っていたのか現状の理解が出来ないようだった。その時に私の次に目の前に映ったのがあまりに神々しい姿をした、力を持った人物であることに驚愕したのか大きく目を見開く。

「MM・・・・・だ」

「どうしてこんなところで寝ておったのじゃ?」

 どうして寝ていたのか?気絶してしまっていたのか?

 それを思い出すように目を落とした秋奈さんはどうして気絶したのか思い出したのか急に体を小刻みに震えあがらせて私にせがみように抱きついてくる。

「大丈夫ですよ。秋奈さんには私がついていますから」

「何が大丈夫よ。結局、都合のいいところであたしの口止めしただけじゃない。あんたたちにはどうしようもないことだってわざわざ証明してくれたのと同じじゃない」

 いつどこでどんなふうに規格外の魔術師が襲ってくるか分からない状況に私にはどうにかする力はない。MMのいう魔女のだったら話は別だけど。

「何をそんなに怖がっているなんし?」

「怖いわよ。常に日常生活においてもあたしには手が負えないような魔術師が襲い掛かってきたらどうするのよ。教太の言う誰も殺させない目的も果たせなくなる。あたしには力がない。それが不安で・・・・・不安で」

「なんじゃ。その程度のことか」

「その程度って突然時空間魔術でフレイナみたいな規格外の奴が襲い掛かってきたらどうすればいいのよ!力のあたしがどうすれば死なないで済むのよ!」

「秋奈さん!落ち着いてください!」

「うるさい!力のないあんたは黙ってなさい!」

 それを言った途端、秋奈さんもまずいことを言ったとハッとした顔になった。

 本当に心にグサッと刺さる言葉だ。私は2度生命転生魔術を使ったせいで全盛期にはランクAまであった魔力は今やランクFに近いくらいまで落ち込んでいる。そういえば、秋奈さんには私が力がなくなってしまったのかを教えていない気がする。彼女が魔術を使えるようになった頃には私は魔女ではなくてただの異世界からやって来た三月アキになっていた。

 弱い私しか知らない秋奈さんでも昔は魔女と呼ばれるだけの力があったことだけは知っているはずだ。どういう理由で力を失ったにせよ私が気にしていないわけがない。なぜなら、秋奈さんと私は全く同じ人間なんだ。力がないことをどう思っているか。今の秋奈さんと同じだ。

 そんな弱い私たちにとどめを刺すかのようにMMが言い放つ。

「あちらの美嶋秋奈は怖いのか?予想をはるかに超えるフレイナのような規格外の時空間魔術で襲ってくることが怖いのか?」

 秋奈さんは何も言い返さない。それは認めているととってもいい。

「わっちはそんな規格外の急襲から主らを守る手段を持っておる」

「え?」

 ダメですよ。秋奈さん。それ以上MMの話を鵜呑みにしてダメだ。でも、MMから発せられるオーラは私の発言権を奪う。

「それはなんなの?あたしや教太やアキたちを規格外の魔術師たちから守る手段ってなんなのよ!」

「簡単じゃ」

 MMは膝をついたまま立ち上がっていない秋奈さんに手を差し伸べる。

「わっちのところにこればよいのじゃ。わっちにはフレイナをコントロールするだけの力があるなんし」

 秋奈さんはその言葉を疑わない。だって、秋奈さんはその眼でMMがフレイナさんを止めているところを見ているからだ。私のような昔は力があったという過去の話よりも現在、しかも目の前で見せられた力には誰だって頼りにしてしまう。教太さんもそうだった。でも、秋奈さんの目の前には教太さんよりも頼りになる強大な力の持ち主が現れた。

 秋奈さんはその差し伸べるMMの手を取ろうとした。

「ダメです!」

 私が咄嗟に秋奈さんの伸ばす手を掴んで止める。

「ア、アキ?」

「ダメですよ、秋奈さん。MMの口車に乗っちゃ」

 MMは恐ろしいんですよ。何を考えている変わらない女狐みたいな恐ろしさがある。

 彼女に利用されていい思いをしたのは教太さんのような強大な力があっていつまででも利用価値のある力だけ。秋奈さんのようにその見えるような力では途中で捨てられるのが目に見えている。私もそうだったように。

 私の敵意ある目にMMは差し伸べた手を引っ込める。そして、冷めたよう眼で私を見る。

 それからうっすら笑って秋奈さんの方を向き直る。

「もし、自らの力に自信がないのならばわっちのところに気軽に訪れるがよい。歓迎する」

 そう言うとMMは着物を翻して地下の部屋の出口に向かう。すると途中で足を止める。

「魔女」

「だから、その名前で私を」

「もしも、自分に力が戻るならばと考えているのならば主もわっちの元に訪れるとよい。主の力を戻す手伝いをしてやろう」

 その声は私の耳の中にこだまするかのように鮮明に聞こえた。

 私の力を戻す方法。

 とっくの昔に諦めかけていた力を取り戻す方法。秋奈さんにMMには口車に乗るなって言っておきながら私はMMの言う言葉に耳を貸して期待してしまった。

 結局、私は力を失ったことが惜しいと思っているんだ。

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