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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
力の領域
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思い出⑥

 お父さんの会社の倒産とあたしたち家族が抱えた巨大な負債の話しは瞬く間に学校中に広まった。華やかな生活が一転どん底の生活になったあたしにしばらく誰も声を掛けなかった。かける言葉が見つからないんだろう。テレビでよく人の転落人生を送っている人の特集とかされているけど、人は他人の不幸を見ることで自分が幸福に感じるからつい見入ってしまう。だから、こうなってしまって最初に声を掛けた名前も覚えていないとある男子が異常だったわけじゃない。

「なぁ、美嶋」

 名前も顔も出てこないその男子と話すのはたぶん初めてだった。それでも、こうなってしまっても話しかけてもらえたことがその瞬間はうれしかった。その瞬間だけは。

「お前ん家って借金まみれなんだろ?」

 それはもはや誰もが知っている事実だった。

「そ、そうよ。だから?」

 それがあたしにとっての後悔。その言葉がみんなの中であたしが借金を抱えるかわいそうな女だってことを認識させてしまった。

「まじかよ。なんで借金まみれなったんだ?何か悪いことでもしたのか?」

「お父さんがそんなことするわけないでしょ!」

 するとひとりの女子がぼそりと呟いた。それは中学生になってから仲良くなった子だ。

「でも、秋奈ちゃんってすごいお金の使い方荒かったし」

 その言葉が起爆剤となった。

「確かに言えばなんでも買ってくれたし」

「なんでも持ってたし」

「お金で友達とかも買ってる感じだったし」

「いつもおしゃれで高そうな服ばっかり身につけてたし」

 教室中にあたしの悪い噂が流れる。

「ちょっと待ってよ!あたしはみんなのためにやってきたのよ!みんなが欲しいって言うから買ってもらったし、あげたのよ!なんで否定するのよ!おかしいでしょ!あたしを否定するなら今まであげたものを全部返しなさいよ!物もお金も全部!」

 もはや、冷静ではないあたしはただ油を注いだだけだった。

「返せって別にねだってなんかないし」

 ひとりの女子が言い返した。その子も中学生になってから仲良くなった子だ。

「ちょっとあれが欲しいって呟いただけで次の日にはそれを持ってきてくれたじゃない。頼んでもないし、ねだってもない。物で釣って作るような友達を私は友達だと思わないわ。あなたは私のことを友達だと思っているだろうけど、私は友達じゃない。勝手に物を与えて、お金がなくなれば与えたものを返せって意味わからないんだけど」

 すると別の女子も加勢する。

「確かに自分が借金まみれになったから、今まで自分がやってきたみたいにお金をくれって自分勝手すぎない?まぁ、十分自分勝手だったけど」

「お金で作る友達って本当に友達だと思ってるの?」

「美嶋さんといれば、欲しいものが何でも手に入るから引っ付いていただけの子もたくさんいたし」

「そう言われてみれば、物をあげるから友達になれって強要された気がする」

「なんか代償が取られそう」

「そうだよね。お金ないからお金取られそう」

 これは普通に考えてやばい。

「ちょっと待って!別にあたしはみんなからお金を取るようなことは絶対にしないから」

「で、でも」

 ついに口を開いた人物が小学生の頃からあたしといっしょに遊んでいた田中さんだ。

「さ、さっき、今まであげたものを全部返せって言いましたよね?」

 怯えながら震えながら泣きそうになりながら勇気を振り絞って放った言葉に誰もが寄り添った。

「違う。さっきのはその、口が滑って」

「ってことはそう思ってるってことですよね」

「違う!違うから!」

「私は美嶋さんにたくさん物を貰いすぎました。・・・・・・どうしよう。絶対に返せませんよ」

「大丈夫だから!あたしはみんなに頼ったりなんか」

 すると目の前に女子が数人現れて田中さんの間に入る。

「それ以上、しゃべるのやめたら?貧乏人が」

「今までえらそうにしてきたけど、もう味方がいると思うの?この教室に。学校に」

「え?」

 それからあたしは校舎裏で女子たちに暴力を受けた。その子たちは普段からあたしに物をねだっている子だった。でも、あまりもねだってくる子が多すぎてあげることができていなかった。いつかはくれると信じてたまっていた怒りを閉じ込めていたけど、それが開放されてあたしは生まれて初めていじめを受けた。

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