思い出③
「おお~」
皆がぽかんと開いた口が閉まらない。それはそうだ。平凡な住宅地の真ん中にドカンと建っている家があたしの家だ。ひときわ目立つあたしの家は大きな庭があって小さいながらもプールもある。そのことに特に仲の良い田中さん、佐藤さん、高橋さんはもちろん、あたしが頼んでいた国分くんを含めた3人の男子も驚いていた。リアクションの大きさはなんとなく気に入らなかったけど。
その後、玄関が広いことに驚いて執事さんがいることに驚いて応接間が豪華すぎることに驚いた。正直、そんなに驚いて疲れないって思った。
執事さんがお菓子とジュースを用意してくれてとりあえず乾杯した。
「それにしても大きなお家です!いいなぁ~」
「いいでしょ」
田中さんに言われる。
「さすがだわ」
「ありがとう」
佐藤さんにほめられる。
「こら!男子!お菓子食いすぎ!」
「いいのよ。別に」
高橋さんは本当に面倒見がいいのね。
「さて、国分くん。あたしの家はどう思う?」
「え?俺?」
お菓子に夢中かい。
「まぁ、広いしでかいし」
「それ同じこと言ってるわよ」
ちょっと、高橋さん黙ってて。
「いいんじゃねーの」
・・・・・・・・・・・・それだけ?
「えっと!君は・・・・・なんだっけ?」
「お初お目にかかる!俺の名前は太田といいます!」
「太田くんはどう思う?あたしの家は!」
「でかく立派で国分に抱きつきたいです」
「死んで一生生き返るな」
「うれしい!国分に言われると!はぁはぁ」
クソみたいな変態だ。相手にならん。
「えっと、君は?」
「僕は尾崎です」
ぺこっと頭を下げる。背高いな・・・・・・。
「尾崎くんはあたしの家をどう思う?」
「・・・・・・お菓子おいしいな」
「いや、お前今美嶋の話聞いてた?」
「え?お菓子がどう思うって話でしょ」
「バカなのか?」
国分くんが確認するまでもない。バカだ。
え?何?この変な集団。あたしにまったく興味を示さない国分くんに、国分くんにべったりくっつこうとする太田くんに、まるで会話が成り立たない尾崎くん。あたしにとってはこいつらが異星人だ。まったく、住んでる世界が違うように感じた。
「どうしてこの3人を呼んだんですか?」
「あ、あたしに興味を示さないから」
佐藤さんはあたしの答えに納得した。基本的にあたしに声を掛けられると何かもらえたりとかいいことしか起きないことをみんな知っている。他の男子にやれば喜んでこの家にやってくるはずだ。誰だってこの大きな家に入りたいはずだ。にも関わらず、この3人はマイペースだ。あたしの家に来たのに何も変わらない。
「そうだ!新しくゲームを買ったのよ」
「え!なんですか!」
最初に食いついたのは田中さんだ。彼女はゲーム好きだ。
「わぁ!PS2ですよ!」
「わかってるわね」
「もう、買ったんですか?」
「お父さんが買ってきてくれたのよ」
「いいなぁ~」
さぁ、食いつきなさい。
「あそこにカマキリがいるよ」
「確かカマキリって腹をはさみとかで切るとハリガネムシが出てくるんだっけ」
「おお!さすが国分!博学!」
「死ね。太田」
見てすらいないって言うか、飽きてるし。
「あなたたち!」
高橋さんがベランダに身を乗り出す3人の下へ。
「せっかく、美嶋さんがいいもの持ってるのになんでそれで遊ばないの!何しにきたの!」
そうよ、そのとおりよ。
すると国分くんが言うのだ。
「別に俺はそれで遊びたいとは思わない」
初めてだった。あたしが拒否されたみたいだ。
「まぁ、美嶋の家に来れただけで自慢になるから別に嫌ってわけじゃないんだけど」
それだけで少しほっとはしたけど。
「俺は新しいものよりもこいつらと遊ぶだけで十分だし」
言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
「国分!カマキリが逃げる!」
「ぼ、僕虫触れないんだよね」
「わかった!今行く!じゃあ!お邪魔しました!」
そういって3人は飛び出していってしまった。
「な、なんて奴らなの!せっかく美嶋さんが誘ってくれたのに!いろいろ用意してくれたのに!」
と激怒する佐藤さんをあたしは止める。
「別にいいのよ。今までにああいう子は何人もいたし。もう、二度と関わらないから」
あたしの表情を見て女の子3人は震え上がった。きっと、怖い顔でもしていたんだろう。今までに何回かあった。仲良くしようとして拒否される子は国分くんたちが始めてじゃなかった。
「あいつらが欲しいものがあっても、助けを求められても絶対に助けない。そう、他の子たちにも伝えなさい。わかったわね?」
「は、はい!」
田中さんが元気よく返事をする。
「なら、早速ゲームをしましょう」
少しだけ漂っていた重い空気は新しいゲームと3人の友達のおかげで晴れた。あんな奴らあたしにはいらない。あたしには他にもたくさん友達がいるもの。
それからあの3人はあたしのいないところでいじめとか受けていたと思うけど、けろっとした表情で受け流されたという。いつしかあたしはあの3人に興味を湧かなくなったし、相手にもしなくなった。
これが小学校時代の教太との思い出だ。




