思い出②
それから4年経った新学期。あたしは小学5年生になった。
「美嶋さん。おはようございます」
「おはよう」
あたしがランドセルを下ろそうとするとそれを手伝ってくれる女の子がいる。田中さんという女の子。小学1年生からの付き合いだ。
「美嶋さん。おはようございます。今日もかわいいです」
「ありがとう、佐藤さん」
彼女は4年生の時に友達になった子だ。熱心にあたしについてくるかわいい子だ。
「おはようございます。美嶋さん、新学期ですね」
「そうね」
彼女は鈴木さん。2年生の時にお菓子をあげて仲良くなった子だ。
「こら!男子!美嶋さんに近づかないの!」
「別にいいのよ」
あたしのことを守ろうとしてくれるのは高橋さん。2年生のころに仲良くなった友達だ。
あたしに会釈する右斜め前にいるのが山本さん。教卓に集まっている子達があたしを見て手を振ってくる。右から上野さん、小野さん、吉田さん。みんなは前から仲良しであたしが入ってくる嫌な顔をせずに接してくれて友達になった。あたしに話したくして仕方ない男子たち。右から原くん、池上くん、平田くん、田口くん。みんなあたしの友達。この学校にいる子達はみんな友達。男子も女子もみんな。あたしを見るとみんな名前を知っててあたしに寄ってくる。そして、物を与えるともっと喜ぶの。だから、あたしもうれしいからもっと物をあげる。こうして築き上げたあたしの女王様生活は充実していた。
そんなときに不思議な奴にあたしは出会った。印象はほとんどない。今冷静に思えば、無というのはこういうことを言うんだなって思った。
新学期の新しいクラスになって数週間後に行われた席替え。みんなあたしの隣になりたくて仕方なさそうだったけど、くじだから仕方ない。そして、席替えで隣になった男の子が彼だった。
「君は初めてだったわね。あたしは」
「美嶋秋奈だろ。知らない奴はこの学校にいないよ」
「でも、一応挨拶するわ。美嶋秋奈よ。あなたは?」
「俺は国分教太だ。よろしく」
そう、彼との出会いはこれが初めてだった。
「仲良く。友達になりましょ」
と手を差し出すと。
「・・・・・・よろしく」
恥ずかしがり屋さんなのかなって思った。でも、彼と学校でまともにしゃべったのはそれが最初で最後だった。次の日、新しく国分教太くんを友達にしようと考えていたときにあたしの隣の席が佐藤さんになっていた。どうしてもあたしの隣がいいらしくて変わってもらったらしい。新しく友達になってもらおうと思っていた国分教太くんは教室の隅っことであたしの知らない男子たちと楽しそうにおしゃべりをしていた。輪に入って仲間にしたいと思ったけど、すぐにあたしの周りは人で囲まれてしまった。こんなにみんなあたしに興味を示すのに国分教太くんはあたしに見向きもしない。振り向かせたい。その欲求が強くなった。
トイレに行くタイミングでまるでメイドさんみたいにくっついてくる田中さんに告げる。
「ねぇ、田中さん」
「はい」
「今日、あたしの家に来ない?」
瞬間、田中さんの顔が真っ赤になった。
「ほ、本当にいいんですか!」
「声が大きいわ。その代わりにお願いがあるのよ。そうね・・・・・佐藤さんと高橋さんも呼んであげるから3人でやって欲しいことがあるの」
「なんですか!何でも言ってください」
「昨日まであたしの隣の席だった国分くんとその友達をあたしの家に招待して」
友達にするための最高のおもてなしをするために。




