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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
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――進め①

 山道の上り坂をゆっくりと登っていく。ブレイさんがどこに向かおうとしているのかは知らないけど、ぬかるんだ道に足をとられないように用心しながら進む。

「これから私はどうするんですか?」

「イギリスへ行きたいのですよね?」

「はい」

 イギリスは魔術発祥の地である。今私の持っている魔術の知識ではこれ以上強くはなれないことを私はこの身で実感した。MMから魔女の力に戻ることのできる手段を手渡しされて教太さんと対等な力を得て秋奈さんに私の強さを認めて欲しかった。でも、それは周りの多くの人たちを悲しませるだけの悲惨な結末しか生まない。だから、私は今の私のスタイルに合う魔術を身につけるべきなのだ。そのためには知識が足りない。今の組織の中にある魔術の資料だけでは足りない。だから、イギリスへ向かうのだ。

「でも、私たちはイギリス魔術結社から追われている身です。陸路で目指すにしても」

 戦闘は避けられない。

 ブレイさんは武器商人だ。魔武という最新武器を取り扱うけど、使えるわけじゃない。私も以前よりかはランクも高い状態ではあるけど、平均以下だ。そんなふたりで何千キロ、何万キロという西の果てのイギリスにたどり着くなんて命がいくつあっても足りない。

「そうですね。今の僕たちにはイギリスへ安全に向かうことは困難です。予定では中国に入った後でイギリスへ直接飛ぶことのできる時空間魔術を使うつもりでしたが、簡単にはいかなくなりました」

 元々、MMにはばれないで国外に出る予定だった。ブレイ商会一向にまぎれることで成功すると思っていた。だが、時空間魔術による出国と入国は予想以上に厳重であることをそこで始めて知った。だから、風也さんに頼るしかなかった。その結果があんな結末に・・・・・。

「ブレイさんは私を見捨ててもらって構いません。こうなってしまった以上、あなたに迷惑をかけるわけにもいきません。ここで私を置いてもらっても」

「そういうわけにはいきません」

 と私の気遣いをきっぱり切り捨てた。

「僕の役目は君を安全にイギリスへ送り届けることです。それが死んでしまった風也くんが僕へ頼んだ最後のお願いなのです」

 ブレイさんと風也さんは機関にいたころからの友人だ。その友人の死は私以上に悔しくて悲しいはずだ。そんな風也さんが命を張って国外へ逃がした私をどんな手を使ってでもイギリスへ送りたいと考えているはずだ。しかし、中国は組織の管轄内であるからその中国を抜け出すのが非常に難しい。魔術組織間で時空間魔術による急襲を禁止することを条約で定められている。そのため、その魔術組織も時空間魔術の取り扱いには細心の注意を払っている。その細心の注意を払っているものを使っての移動は難しい。長距離移動において時空間魔術以上に最適な魔術は存在しない。使わない移動方法ではイギリスに着くのはいつになるか分からない。

「僕には君を安全に確実にイギリスへ送る考えがあります」

「・・・・・・考え?」

「君はイギリス魔術高学校という魔術学校を知っていますか?」

 その魔術学校の名前にピンと来なくて首をかしげる。

 魔術師官学校みたいなものだろが聞いたことがない。

「その反応では知らないみたいですね。イギリス魔術結社が未来の七賢人候補を育成するために世界中の若い魔術師を集めて魔術を学び、魔術の技術を磨く学び舎です。僕はそのイギリス魔術高学校の中等部のインターンシップをブレイ商会として受け入れています。ここ、漓江は鉱山資源が豊富なところです。ブレイ商会として支部がこの先にあります」

 坂道の向こう側にその支部というものがあるのだろう。

「インターンシップに来ている学生に紛れてイギリス入りするという方法です」

 つまり、私と同じ年の子達に紛れればイギリス入りすることができるという算段のようだ。

「ちなみにですけど、僕は君といっしょにイギリスへ向かいません」

「・・・・・・・そうですか」

「え?あっさり」

 組織は私とブレイさんが共に国外に出たということなら、共に行動していると考えているはずだ。ならば、別々に行動した方が安全にイギリスへ向かうことができる可能性が高まる。

「何人受け入れているんですか?」

「ふたりです。どちらも女子生徒です」

 と笑みを浮かべながら告げる。

「・・・・・・・・ロリコンめ」

「ロリコンではありません。少女は大好きですけど」

 それをロリコンって言うんじゃないの?

 坂を上り終えるとその先に小さな小屋のような建物が複数見えた。複数の小屋の中には石造りの煙突があって、その煙突からは煙が上がっている。その小屋の先には切り立った山が人工的に削られた後がある。鉱山が丸ごとブレイ商会の支店となっているようだ。

「あ。ブレイさんだ~」

 と声がしたのは煙突からその煙が出ている小屋から出てきたひとりの女の子だ。小柄の長い金髪ストレートに青色の瞳をした元気そうな女の子だ。白と紺の縦縞模様のネクタイに紺色のブレザーに灰色のチェックのスカートをはいた如何にも学生という感じだ。

「アンナではないですか」

「お久で~す」

 と笑顔で緩い感じで挨拶を交わすと私の方へ目が行く。

「・・・・・・愛人ですか~?」

「なわけないでしょ!」

 と全力で否定するも。

「実はそうなのです」

「堂々と嘘言わないでください!」

 しかし、アンナさんはブレイさんの言っていることがすべて嘘であることが分かっていたようで笑ってブレイさんの肩を叩く。

「そんなんだからいつまでたっても独り身なんだよ~」

「余計なお世話です!」

 けらけらと笑って楽しそうだ。

 そのアンナさんの視線が私のほうへと向く。

「誰~?」

 適当に自己紹介をしようと思っていた。追われている身で魔女と呼ばれている美嶋秋奈ですなんて言うのは自殺行為だ。ここは魔術のない教太さんたちの世界で使っている三月アキを名乗ろう。

「私は」

「彼女は魔女ですよ」

 速攻でばらした!

「ちょっと何言っているんですか!私たちは追われているんですよ!」

「ここはブレイ商会の支店であって組織もイギリス魔術結社も一切介入していません」

 目の前にイギリス魔術結社の魔術高学校の学生がいるんだけど、それって本当なの?

「ちなみに彼女たちは君がどういう立場の人間なのかを認識はしていませんよ」

「魔女ってあの逃亡戦争中に活躍したって言う女の子のこと!それがこの人なの!」

 本当に大丈夫?

 アンナさんは目をきらきらさせてどうしたらいいか分からず、とりあえず手をブレザーで拭いてから握手を求められてきたので握手すると興奮冷めあがらぬ感じでぴょんぴょんと飛び跳ねる。

「私ってそんなに憧れの存在なんですか?」

「当たり前だよ~。同年代の女の子はあなたみたいな強くかっこいい魔術師を目指してんだもん」

「凶悪で残虐であっても?」

 魔術の知識が高く、魔術のバリエーションと使いどころのうまさというきれいな部分しか知らないようなので事実を突きつける。

「それは自分次第だよ~。あくまで私たちはあなたの強さにほれているの~。冷酷で残虐なところを真似したいなんて誰も思っていない」

 笑みを浮かべているもののその事実を知った上で私を目指していることにほっとした。

 そうか。私はもう目指される立場になったのか。今までは誰かに追いつこうとがむしゃらだった。今もそうだけど。

「そうだ!ちょっと待って~。魔女に一番会いたがっている子がいるから~!」

 といって煙突から煙の上がる小屋にかけていった木の扉を勢いよく押し開けて中に入っていく。

「アンナさんたちは何をここで学んでいるんですか?」

 インターンシップということは学生が企業に赴いて社会に出て学ぶことを目的としている。いわゆる職場体験みたいなものだ。普通の職場体験と違うのは例えばブレイ商会の場合ならば実際の魔武の製造現場や販売営業に赴いて製造の技術や営業のノウハウといった実践で使えるようなことを学ぶのだ。

「こちらの支部は魔武の製造と開発をしています。ああ、見えてアンナさんは優秀なのですよ。発想が独特です。魔武に無属性魔術を搭載させたものを提案しています。実際に製品化もできそうなレベルです。若い人の発想には敵いませんよ」

 と腕を組みながらうれしそうに言う。

 武器商人として新しい秀才が自分の膝元からうれしいことなのだろう。それが利益に直結するから。

「でも、もうひとりの子はそのアンナさんを超える子です」

「超える?」

「ほら!こっちこっち!」

 とアンナさんが半ば強引に小屋の奥からひとりの少女を引っ張り出してきた。アンナさんと同じ白と紺の縦縞模様のネクタイに紺色のブレザーに灰色のチェックのスカート姿をした少女が現れた。長い黒髪を耳の下でふたつに束ねて低い鼻に右目には涙ホクロがあるかわいげのある少女。

「え?」

 私はその少女に見覚えがあった。

 その少女は私を見た途端、ボーっとしていた目をさんさんを輝かせて駆け寄ってきた。

「お姉さん!」

 そう、私のことをそう呼んでくれたのはひとりしかいない。

「ヨ、ヨナさん」

 それは成長したヨナさんだった。

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