脱魔女の章⑩
雷属性は遠距離の攻撃が非常に苦手とする属性だ。逆に遠距離でなければその高い火力は他の属性魔術と比にならないものだ。そのためか魔武との相性は最もいいといっても過言ではない。雷鳴弾という魔術はきっと非常に使われることが稀な魔術だろう。だが、目の前のアキナという少女はそれを使って砲弾からこの村から守って見せた。ヨナが空に向かって放った放射水で上空で雷が停滞することのできる空間を作り出した。水属性は雷属性の威力を上げてさらにその起動を制御することもできる。放射水は範囲の広い水属性魔術だ。その水の範囲をさらに広げるために俺の右風刀の風属性を使って水を広げた。風属性が水属性の威力を削ぐような関係性はないが、雷属性の威力を下げてしまう。だから、アキナはすぐさま風属性を解くように俺に指示を送った。属性魔術のそれぞれの特性を分かっている上で送ることのできる指示だ。ヨナのような子供たちに村の魔術が無知な老人に魔術を教えるだけのことはある。
アキナは一体何者なんだ?その魔術の知識は一体どこから来ている?
「あなた、さっき魔女って?」
氷華が若干青ざめながら言う。俺と同じく師匠から譲り受けた左氷刀を握りながら。
「あなた逃亡軍の人間ね!」
左氷刀を突きつけるとそれをかばうように間にヨナが入る。
「待ってください!お姉さんは村を!」
「ヨナ!悪いことは言わない!その女から離れなさい!その女は魔女よ!」
「魔女?」
「風也も知らないの?逃亡軍に恐ろしく強く残虐な魔女と呼ばれる少女がいるって言う噂を!」
確かに聞いたことがある。魔女というには幼すぎる魔術師がいるというやつだ。それがアキナなのか?疑いを払拭したいが砲弾を防いだときの属性魔術の特性を完璧に理解したうえで送った指示と魔術の扱いを見てしまったらファローのしようがない。
「でも!お姉さんは村を守った!」
ヨナが鋭い眼光で氷華の前に立ちふさがる。それにも勝る眼光で見下す氷華。
「その女がこの村に戦いを持ち込んだ。その女がいなければ、村はこんな被害を受けることはなかった」
「でも!お姉さんがいなかったら私はいなかった!」
その言葉に氷華が珍しく気押された。
「私が怪我をしたのはお姉さんのせいじゃない。事故だった。もしも、お姉さんが上級の回復魔術を暗記していなかったら今の私はいない。私はお姉さんのおかげで生きている。生きていられる!」
確かにあの場にアキナがいなければヨナは死んでいた。
「お姉さんがこの災いのすべてだというならば私もその災いの一部です。お姉さんを殺したいのならまずは私を殺してください!もちろん、ただで死ぬつもりはありませんから!」
その手にはカードと十字架が握られているが小刻みに震えていた。瞳からは負けてはいけないという強い意思であふれている一方で氷華の威圧に怯える気持ちを必死に押し殺している。氷華がどれだけの実力を持っているかをヨナは知っている。それを知った上で戦うことを選んでいる。それが彼女の強さだ。
その硬い意思に向けられる子猫並みの闘争心を感じた氷華はため息を漏らす。
「バカバカしい」
向けていた左氷刀を下げた。
「今回ばかりは見逃してあげるわ。いろいろと問題はまだ山済みよ」
氷華のいうとおりだ。今は内輪揉めをしている場合じゃない。
「結社の砲弾の攻撃を防ぐことができたとはいえ、結社はまだすぐそこにいる。また、砲弾で攻撃してくるのか、それとも魔術師を送り込んでくるのか」
「どっちにしてもどうにかして結社が私たちが敵じゃないってことを証明するしかないわね」
一番の問題はそこだ。結社はこの村に逃亡軍がいると思ってしまっている。実際にいることにはいるのだがアキナひとりだけだ。そのひとりだけのために砲弾を撃つのは採算が合わない。つまり、結社の軍勢は逃亡軍がここを拠点とし大掛かりな攻撃を仕掛けてきたと思っている。その仕掛けはひとりではできないと。アキナはひとりでやってしまったのだが・・・・・。
「そんなの面倒よ。ここはいっそう敵を全滅させて」
「それだとアキナとやっていることが変わらないぞ」
いい案だと思ったのか拒否されてしょぼくれる氷華。
「氷華の案が成功したとしても村は今後も結社に狙われることになる。それだけは避けたい」
そもそも、魔武を持っているとはいえ、何千人という敵を一気に相手にするのは無理な話だ。向こうと比べてこちらは圧倒的に数が少ない。少数精鋭でも捌ける数というものには限界がある。
「当初、私は結社の軍勢に攻撃した後に敵に姿を晒してひきつけるように前線部隊と合流できるところまで逃げる予定だったんですが・・・・・」
「それも難しいだろうな」
敵はアキナひとりだとは思っていない。
「あの」
ヨナが手を上げる。
「つまり、たくさん人がいるように見せかければいいんですよ?」
「・・・・・あ、ああ」
アキナひとりだけが敵をひきつけるのは難しい。だが、アキナだけじゃなくそこに複数の人間がいればひきつけることも難しいことじゃない。
「私に考えがあるんですけど」




