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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
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外野の行動④

 森の木々の間を潜り抜けていく。師匠から引き継いだ右風刀から出せるだけの風を出して全力で村へと向かう。そんな中砲弾の発射音が再び聞こえ、空気を切る音がどんどん大きくなってくる。早く戻らないと村が危ない。氷華たちには村の人たちを村の外へ街のほうへ避難させるように指示はしてあるが、果たしてそれを村の人たちが素直に聞き入れてくれているかは難しいところだ。結社の軍勢が迫っていてその軍勢が攻撃を受けているこの状況で村から逃げ出せば、結社は村の人たちのことをどう思うかは―――。

「とにかく今は戻ることだけを!」

 森の先に見える差し込む光の先に村はある。その光が迫ってきて銃弾のように森から飛び出すと同時に打ち出された砲弾が村に着弾した。爆発音とこげ茶色の土を巻き上げる。ひとつの砲弾が俺たちの住み慣れた家に直撃した。村からはいたるところから煙が上がっていた。村の人たちが慌しく逃げ惑っていた。その中に何か言い争っていて逃げようとしない村人がいた。中には氷華の姿もあった。

「何やってるんだ!さっさと街のほうに逃げろ!」

 俺の怒鳴り声に村人が皆反応する。

「風也!」

 氷華が俺の姿を見て安心したような表情を浮かべて駆け寄ってくる。

「どうした?なんで逃げない?」

「ちょっといろいろ面倒で」

「面倒?」

 何がだ?

 その答えはすぐに知る。

「そこで何もたもたしてる!さっさと!」

「お前らのせいじゃ!」

 ひとりの禿げた小太り中年の村人が胸倉を掴みかかってくる。

「なんだよ!」

「なんだよじゃないわ!お前らのせいで村が結社の標的になってんだろうが!」

「はぁ?」

 俺たちのせい?どういうことだ?

「お前ら、機関出身者がいるせいで結社が俺たちを敵だと認識した!だから、今こうして攻撃されとるんじゃろうが!」

 それは平和を壊されたことへの怒りだ。

 すると小太りの中年の背後から同じように筋肉質の中年の男が腕を組みながら冷静に言う。

「今、ここでお前らの言うことを聞いて街に逃げれば結社が俺たちのことを敵対勢力だとみなすだろう。どこの誰だか知らない誰かが結社を攻撃した。その直後に俺たちが村から逃げ出せば、その逃げ出す理由が追撃を逃れるためだって思うだろう」

「待て。それは考えすぎだ」

「考えすぎでも何かしら関与しているって考えるのが普通じゃないか?攻撃を受けた直後に近くの村がもぬけの殻になっていたら?不審だと思わないか?」

 確かにその村の住民が逃亡軍の拠点だったと思われれば、結社は街で村の人たちを探し当てて殺しかねない。いや、そんなことすらも面倒になれば街ごと攻撃しかねない。多くの関係ない人たちが犠牲になる。

 胸の奥底から浮き上がってくる怒り。アキナが結社の軍勢を攻撃しなければこんなことにはならなかった。すべてをアキナのせいにすればこの場は収まるかもしれないが、そのあとはどうしようもない。どうすればいい?

「あとね」

 筋肉質の中年の男の隣にいる同じく美魔女的な雰囲気を醸し出した中年の女が険しい表情で語る。

「あたしら畜産で生活している身からすれば、家畜を捨てて逃げることなんてできないわ。豚たちが心配よ」

「そんなもの無視して」

「いつかは食べることになっても生きているうちはあたしの家族なの!そんな家族を置いていけるか!」

 村の人たちがこの村から逃げない理由は様々だった。だが、ここに居残った時点でどの道待っている結末は最悪なものだ。

「氷華さん!それに・・・・・風也先輩!」

 雷恥が砲弾で大きく穴の空いたあぜ道を回り込んで俺の元に駆け寄る。

 胸倉を掴みかかっていたハゲの中年の男は手を離す。雷恥の表情がただならぬ顔をしていたからだ。

「どうした!」

「さっきの砲弾が民家に直撃して、中にいた人たちが下敷きに!」

 すぐさま俺はその民家のほうに駆ける。俺だけじゃない。氷華も村人も急いで向かうと、そこは黒い煙を上げていて木造の家はもうただのゴミとなっていた。

「お母さん!お母さん!」

 ひとりの少年が手のひらから血を流しながら泣きながら必死に瓦礫を掻き分けていた。だが、黒い煙からはオレンジ色の火も見えた。

「君!危ないから離れて」

 火輪が半ば強引に引きずるようにじたばたとする少年を連れ出す。

「嫌だ!お母さんが!お母さんが!」

 火は瓦礫をから瓦礫へと燃え広がる。下敷きになった人が危ない。

「氷華!左氷刀の氷で火を消せ!俺たちで下敷きになった奥さんを探すぞ!」

「分かったわ」

 氷華の握る太刀の左氷刀から五芒星の陣が青白く光る。それを見て瓦礫を掻き分ける。俺たちに好戦的だった村人も結束して大きな瓦礫を持ち上げようと力を合わせる。

「雷恥!火輪!村人の避難を進めろ!」

「でも、村の人たちは街のほうには」

 と火輪が泣きじゃくる少年を慰めながら答える。

「街のほうじゃなくても村から出るんだ!砲撃はまだ」

 撃たれるかもしれないといった瞬間だった。ドーンという音が無数に山の向こうから聞こえた。そして、風を切るヒュルヒュルという音がドンドン大きくなってくる。それは打ち出された砲弾が近づいている証拠だ。

「近くに落ちる!」

 ひとりの村人が叫ぶと村の人たちが慌てふためる。だが、瓦礫の下敷きになった人を助けようとする村人たちは動じなかった。だが、ここに着弾したということは近いところに着弾する可能性は高い。

「お前たちも早くにげろ!」

 氷華が何とか火を氷属性魔術で溶けた水で消し終えてすぐさま自分も逃げようとするが、逃げ出さない村人と俺を見て逃げることを戸惑う。

「逃げられるか!村の仲間がこの下で苦しんでんだぞ!逃げ出せるか!」

 それは貧しいながらも平和な暮らしを共に過ごしてきた仲間を見捨てない固い絆を感じることができた。俺たちもこの村に来たばかりのときはこの人たちの明るさに助けられてきた。戦いしかなかった俺たちに戦いのない平和を教えてくれた。

 俺は作業する手を瓦礫から右風刀に持ち替える。

「やってみるだけやってみる!」

 右風刀から風を爆発的に起こして飛び上がる。

「風也!」

 氷華には俺が何をしようとしているのか分かったように飛び立つのを止めるように呼び止めるが俺は飛び上がる。そして、迫る砲弾をひとつに向かって飛んでいく。村の一番奥側に瓦礫と化した民家はある。つまり、今飛んできている砲弾の一番高い軌道を辿っている砲弾が民家の近くに落ちる可能性がある。

 その砲弾と同じ軌道を取って限界まで近づく。そして、砲弾の周りに沿うようにして下側に潜り込んで砲弾の腹に向かって右風刀の風を全力でぶつける。同時に俺の体も地上に向けて吹き飛ばされるが、砲弾の軌道が保っていた起動よりもさらに高くなって瓦礫と化した民家から数十メートル離れた森の中に着弾した。だが、それ以外の砲弾はまだ村人の残る村に直撃する。悲鳴と破壊音が交錯する。

 吹き飛ばされた態勢を右風刀の風を使って立て直して村に安全に着地する。

 悲鳴と泣き声と火災が発生するところを必死に消そうとする。誰一人と村から出る気配はない。

 すぐに結社が砲撃をやめる保証はない。さっきみたいに強引に砲弾の軌道を変えて村への被害を100%抑えるのは無理だ。あの方法で砲弾の軌道が必ず村の外にずれる保障もどこにもない。砲弾から村を守るには砲弾を打ち出しているものをどうにかする必要がある。だが、さっき飛び上がって見えた結社の軍勢は万を有に超えている。いくら機関で魔武の使い方に慣れているからと言って万の敵に囲まれたらひとたまりもない。

 魔術にあの砲弾を完全に防ぐ方法なんてない。

 どうすればいいかアイデアが浮かばないまま、次の砲撃の音が聞こえた。村の中で逃げ惑う人々の表情が青ざめる。次は自分の頭上から砲弾が降ってきて死ぬかもしれない。その恐怖が体を村の外へと持っていく。逃げ出す。結果的に砲弾が発射されて着弾するおかげで村人が村の外へ逃げてくれる。だが、それでは被害が最小限に抑えられない。

「ダメもとで俺が全部の砲弾の軌道を変えれば!」

 すると誰かに手をつかまれた。その手は汗でほのかに湿っていて震えていた。

 その手は白くて細い。

「ダメ」

 息を切らしながら涙目で氷華が俺を止めた。

「ダメ。行かないで」

 涙声で声を震わせながらぎゅっと俺を手を握る。

「だが、このままだと村が」

「村なんてもういいの!風也が・・・・霧也がいなくなったら私は・・・・・私は」

 ぽたぽたと瞳から流れ出るしずくが地面に吸い込まれる。

「梨華」

 握っていた右風刀をあぜ道の地面に刺して離す。同時に銀色に輝いていた刃が炭のように黒ずむ。空いた右手で梨華の握る手を解く。

「霧也?」

 震えた声で俺を呼ぶ。

「悪いな。恩って言うのは返さないといけないもんなんだよ」

 刺していた右風刀を握りなおすと刃は銀色へとその光を取り戻す。

 そして、俺は飛んできている砲弾へ目を向ける。

 さっきみたいに砲弾の腹に強い風をぶつけて軌道をずらすしかない。村の外にだ。砲弾は全部で5つ。早く行かないと。

「待って!霧也!」

 氷華の伸びる手をかわして飛び上がろうとする。

「風也さんが飛ぶ必要はありません」

 その声に俺の体が硬直する。それを逃さないように氷華が抱きつくように飛び掛ってくる。その勢いに負けてあぜ道に倒れる。倒れた態勢でも俺の目線はその声のほうを向いていた。そこには先端に十字架のついた杖を構える一人の少女の姿があった。次会ったら殺すと忠告したはずなのにその少女は再び俺の前に現れた。その隣にはヨナの姿もあった。

「あの砲弾から私が・・・・・・私こと魔女、美嶋秋奈が村を守ってみせる!」

 一枚のカードを取り出す。

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