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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
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外野の行動③

黒蛇束縛。

相手を拘束してある術者の思った通りに束縛者をある程度強制的に動かす魔術。鎖を使うことによって相手を痛めつけることも可能だ。主に強力で押さえつけるのが難しい魔術師や教術師を拘束して戦闘不能にするための魔術だ。

有幻影魔術。

実体を持つ幻影魔術。発動条件としては幻影魔術とは逆に相手に幻影だと思わせること。実体持つために物理的攻撃が可能だ。

どちらも上級魔術であり発動条件も扱いも難しいものばかりだ。だが、それは扱いが難しいだけで扱うことができれば強力な魔術である。無属性魔術は属性魔術のような強力な攻撃力を持たない代わりにその攻撃の補助をすることで属性魔術の攻撃力を存分に発揮することができる。だが、その無属性魔術を属性魔術の補助に使う魔術師は少ない。今現在の魔術は属性魔術による力押しと魔武のような素早い発動による先制攻撃といったことが主流になっている。そんな中で私のように多数の無属性魔術を組み込んで属性魔術につなげる遠回りの攻撃をする魔術師は少ない。知識も技術も魔力も必要となるからだ。それを持ち合わせているからこそ私は魔女と呼ばれているんだ。

 目の前に転がるやっと名前を覚えた聖翠のバルカンさんは七賢人になることなく人生を私の手が手を下して終えた。真っ黒焦げになったバルカンさんを拘束する黒蛇束縛を解いて杖に宿る雷属性魔術を解く。その瞬間、私のうなじに何か鋭いひんやりとした金属が突きつけられる感覚があった。それがなんなのかは振り向かずとも予想がついた。

「風也さん。その刀を私に向けないでくださいよ。せっかく、助けたのに殺しちゃうんですか?」

 さっきは本当に助かった。私の魔術の発動スタイルは基本的に動かずに相手を拘束するような魔術を無属性魔術を連続で展開して属性魔術でとどめを刺すというスタイルだ。自分自身が動き回っていると魔術を発動しづらいので困っていたところだった。

「殺す気なんてない」

 だけど、向けた刃は下ろさない。

「お前は誰なんだ?アキナは一体何者なんだ?」

「私は・・・・・」

「嘘はもういい。お前は結社の人間ではないことは分かった。さっきのは結社の人間だ。その人間を殺したお前は結社の人間じゃない。逃亡軍の人間だ」

「・・・・・・正解です」

 私はもう隠すのは無駄だと判断して素直に本当のことを告げた。

 結社でも逃亡軍でもないという嘘は最初から最後まで疑われていた。だから、はじめに私を手錠で拘束した。でも、その手錠を外したということは少なからず疑いが薄れたということだ。

「だが、ただの逃亡軍の人間じゃない。お前・・・・・途中で俺の意図に気付いただろ。だから、あの羽の生えた男の不意を付いて攻撃した。そうだろ?」

「すごいですね」

 風也さんは私とバルカンさんの間に入るようにして割って入ってくれた。バルカンさんから見て私はちょうど風也さんの陰になった。その隙を突いていくつかの魔術の発動用意を密かに行った。その行動を風也さんは気付いていた。だから、私が攻撃準備が整ったところでよけてくれた。

「アキナ自身もその意図を感じていたんじゃないのか?」

「感じてないですよ」

 風也さんがよけることがなくてもその背後からバルカンさんを攻撃する気でした。違うのはバルカンさんが攻撃されたことに気付くか気付かないかの違い。結末はきっと同じだった。

「アキナ。お前はなんでここにいる?拘束されていたときは仕方ないかもしれないが、拘束が外れた時点でお前は自由の身だ。どうして逃げなかった?」

 逃げなかった理由。ひとつは平和に浸かれていたこと。ふたつは誰かに頼られていたこと。

 三つ目の理由で私の脳裏に浮かんだのはヨナさんの素顔だ。魔術を無邪気に学び誰も使わないような新しい魔術を使いたがるその姿は単純に魔術を学ぶことを楽しんでいたころの私の面影と重なる。そのヨナさんが私みたいな魔女へと堕ちることだけは避けたかった。だから、逃げなかった。

 でも、それを素直に言って信じてもらえる状況下ではない。だから、私はまた嘘をつく。

「私たち前線部隊を壊滅させた結社の復讐ですよ」

 少し風也さんを見下すように振り返って告げる。私の目玉の本の数センチ先に風也さんの握る小太刀の剣先が見える。私は動じないで風也さんを見つめ続ける。

 風也さんの中では私の言うことが本当なのか、自分の判断した私が善良者なのか、という疑問自答しているに違いない。でも、そのことに考えている雰囲気はほんの数秒でやめてしまった。さすがにそれには驚いた。

「どうしたんですか?」

「アキナがどんな奴なのかは分からない。嘘つきなのか善良者なのか悪人なのか、それは判断するには材料が足りない。だが、もしもアキナが俺の思うような善良者であるならこの状況をどう感じる?」

 風也さんは私に向けていた刃を下ろして森のほうに刃を構えてようやく気付く。

 すでに私たちの周りには複数の黒装束の魔術師に囲まされていた。

 風也さんの背中を守るように杖を構える。

「俺と共闘するのか?」

「現状はそうした方が私にとっても風也さんにとっても生き残るには最善の方法だと思います」

「ハハハ」

 不意に風也さんが笑みを浮かべた。敵に囲まれたこんな状況で笑うこと事態が異常だった。そして、笑みの後に底なし沼の下からでてきた風也さんの黒々した重い殺気に私の体が凍りつく。

「なめるな、アキナ。この程度の雑魚、ひとりで十分だ」

 握る小太刀を中心に青白い陣が浮かび上がると風也さんを中心に嵐のような風が吹き荒れる。木々が荒れ狂うように乱れる。その風に押し出されるように私はその場に伏せ倒れる。しかし、その行動は正解の行動だった。

 私が伏せ倒れた瞬間、まるで風のように風也さんが飛ぶ。風也さんの後方にいた魔術師に斬りかかる。魔術師は手にしていた剣を構えてその攻撃を防ごうとするも、風の勢いがかさ増しされた斬撃の勢いと重さにその剣が耐え切ることができず、まるで野菜を切るように剣を斬り、魔術師を斬った。血が吹き出て魔術師は斬撃の勢いに飛ばされて倒れる。

「この野郎!」

 すぐ近くにいた魔術師がカードに十字架を打ち付けて魔術を発動させる。手のひらを中心にして四角形の陣が浮かび上がり氷の塊を生成する。それを撃ち飛ばして攻撃する魔術だ。しかし、魔術師が氷の塊を撃ち飛ばそうとしたときには風也さんはもうその場にいなかった。

「どこに!」

「後ろだ!」

 風が吹き荒れると魔術師の背後には小太刀を抜刀の形で切りかかろうとしている風也さんがいた。もう、どうしようもなかった。背中を斬られて再び血が飛び散る。

「撃て!」

 ひとりの合図と共に残りの4人の魔術師が一斉に魔術を撃ち放つ。小太刀から発生する風が風也さんの体を持ち上げて上空へ飛ぶ。一斉に打ち放った魔術はただ風也さんがいたところに爆煙を上げるだけで無駄に終わった。上空に飛び上がった風也さんは器用に体をひねらせて頭を敵の魔術に合わせる。上空でほぼ逆さの状態になる。同時に小太刀から風が爆発するように発生して上空の風也さんの体を押し出す。そのスピードは目で追えない。

 地面にすれすれのところで空中で体を反転させて地に足をつけてすべるようにひとり目を右股関節から左胸にかけて切り上げる。勢いを殺さずに隣にいた魔術師を刺し殺す。勢いは殺しきれずに魔術師を刺したまま木に激突する。吐血する魔術師は抵抗しようと仕込んでいたナイフを手に取るが、刺されていた小太刀が抜かれて、支えがなくなり立っていられることができずに倒れる。

「この悪魔が!」

 と魔術師が言って風が圧縮された塊を生成する。あれは着弾と同時に地面をえぐる風が吹き荒れる魔術だ。でも、その風が打ち出される前に風也さんが地面を蹴って風を勢いに急接近し、目にも留まらない速さで腕を切り落とした。魔術師は悲鳴を上げる間もなく、切り落とされて自分の支配から離れた圧縮された風の塊が暴発するのを見た。瞬間、魔術師は肉片となって粉々になった。

 風也さんは小太刀の風の力を使って安全圏内に逃げていた。瞬く間に味方が殺されてどうしようもない残りの魔術師の背後に。

「お前はどうする」

 手足を震わせた魔術師は握っていたカードと十字架を落として悲鳴を上げながら軍勢のほうへと逃げていった。

 さすがに鳥肌が立った。小太刀から滴り垂れる血と返り血に汚れた見た目に黒々とした殺気が、森が作る影によってその邪悪さを際立たせている。こいつに勝負を挑むことは無謀だ。すぐに武器を捨て降参するべきだ。そう、語らずして伝えていた。

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