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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
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外野の行動②

 上空を飛ぶ俺にはその地獄絵図の光景を見ることができた。土砂崩れた道は砂埃と爆薬が爆発した黒煙が広がっている中で、その光景は見るに耐えないものであった。土砂の中に埋もれ息絶えた仲間を嘆き声と怒涛の罵声。指揮官を失ったことで統制が取れず盗賊となんら変わらない。後衛の味方が真っ先に助けに向かってくると思いきや、軍勢の味方は運んでいた砲台を使って敵がいるであろう山のほうに向けて容赦なく榴弾を打ち続ける。そこに土砂崩れ等で難を逃れた味方がいるのにもかかわらず。

 これが戦争の光景だ。俺たちが見たくなかった光景で、俺たちが関わりたくなかったことだった。だから、こうして少しでも戦争の火種から遠くはなれるためにこの朝鮮半島まで逃げてきた。イギリス魔術結社は魔術の発展のためならば戦争することすらも抵抗を辞さない。その危険な魔術組織から離れたつもりが、まさか、大陸の東の果てまでやってくるとは思ってもいなかった。

 戦火の火を消すことは俺たちにはできない。ならば、その火が収まるまでおとなしくしているしかない。その火を強くするだけの力を俺たちは持っている。俺の握る魔武、右風刀はこの戦争で初めて本格実装された新たな兵器だ。こんなものはさっさと捨てたいと思うが、魔武は機関の地獄を共に生き抜いた相棒で体の一部のようなものだ。だから、俺たちは魔武を捨てずに隠し持っている。

 さて、その魔武を使って敵になるべく捕捉されないように遥か上空から高みの見物をしている。敵に見つかるかもしれないリスクを負ってまで様子を見に来たのには理由がある。結社の軍勢を襲った連中の確認だ。敵は万を超える人員と砲台を持つ軍勢だ。そんな相手をするのは容易じゃない。つまり、結社の軍勢を襲った奴は軍勢を襲うことにメリットがあるということになる。今の情勢において結社の軍勢を襲うことにメリットがあるのは逃亡軍くらいだ。

 しかし、あんな大規模な土砂崩れを引き起こすだけの人を俺たちにばれないで潜ませることができるのだろうか?多くある不審点の確認をし、今後の心得にすることともうひとつ、確認したいことがある。

「・・・・・・アキナ」

 俺が口ずさんだ一人の少女の名前。

 彼女は逃亡軍の前線部隊が壊滅したその日に行き倒れているところを俺たちが助けた。それから、逃亡軍かもしれないし結社側の人間かもしれないという疑いから長い間拘束し続けたが、人を助け、人のために自分の知識を活用するその姿を見て俺は彼女が善良者であると判断して拘束を解いた。それからしばらく、拘束されていたときと同じように魔術に関するアドバイスを村でし続けた。ヨナや雷恥、火輪たちとも仲良くなり村に溶け込んでいるその様子を見て俺は安心していた。だが、昨日アキナは突然俺たちの前から姿を消した。ヨナのために作った魔術に関することが書かれたノートを残して。

 仮にアキナが善良者であることを俺たちに偽装していてこの日を待ち望んでいたというのならば、逃亡軍が多くの人材をこの村の辺りに潜伏させていたとしてもおかしくない。この仮説が実証されたのならば、アキナは俺たちを騙したことになる。機関出身者という戦いの中でしか生きていけないような俺たちが戦いを避けて平和な暮らしに浸っているのを見れば、戦いを持ち込むことが厳禁であることくらい分かるだろう。それを知ってなお、俺たちを利用していたというのならば俺は右風刀で彼女を斬らなければならない。だから、あの戦火の中でアキナの姿を探すが見つけたくはなかった。

「ん?」

 炸裂音が崩れた山の斜面よりも村側で聞こえた。音のしたほうに目をやれば森の木がめきめきと音を立てて倒れた。炸裂音と共に驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。

「何かが村に近づいている!」

 すぐに転進しようとするときに、また見たくないものを見てしまった。アキナの姿ではない。結社の軍勢の後方から剣や銃を持った者たちが森の中を進んでいるのが見えた。その向かう先は森を抜けた村のほうだった。

「氷華に・・・・・梨華にすぐに伝えないと!」

 風を爆発的に起こして周りの雲を吹き飛ばして村に飛び帰る。

 その最中だった。炸裂音と共に上空に黒煙と白い蒸気が出来上がった。その近くに透明な水のような翼を生やした男の姿があった。何か両手のひらの上で何か生成して撃ち放って誰かを攻撃しているように見えた。その誰かは黒髪のポニーテールの少女だった。

「アキナか!」

 魔術師か教術師か分からないが襲われていることだけは分かった。いてもたってもいられずに村からアキナの元に飛び込む。だが、上空の男が手のひらの上で生成した何かを今まさにアキナに向かって撃ち放った。

 アキナは善良者だ。俺はそう信じている。もしも、彼女が結社側であっても逃亡軍であっても俺たちの魔武を目にしたらそれを奪って自分のものとしてしまってもおかしくない。拘束を解いたらな、すぐに村から逃亡してもおかしくない。でも、その様子はまったく見せなかった。それどころか貧しい環境下の子供たちが学ぶことが難しい魔術のことを教えた。

 だから、俺は助けるぞ。

 右風刀の風を爆発的に発生させてまるで銃弾のように飛んでいく。男が打ち放った何かよりも早くアキナに突っ込むように抱え込んでその何かからアキナを守る。右風刀の風を逆噴射させて森の中に止まる。

 アキナ自身も上空の男も何が起きたのか把握していないようだった。

 俺の胸の中にいるアキナが俺の顔を見て驚く。

「ふ、風也さんじゃないですか!」

 どうして自分を助けたのかという疑問もその言葉の中に感じることができた。

「おい!貴様!何者だ!まさか・・・・・魔女と同じ逃亡軍か!」

 上空の男の吐いたセリフによって俺の思考が止まって固まる。俺の中で否定し続けたことが証明されてしまった。

 アキナも同じように上空の男のセリフに体を強張らせる。

 分かっていたことだ。逃亡軍の前線部隊が壊滅したその日に出会った時点で。だから、氷華はアキナと一定の距離を置き続けた。同じ女のアキナの嘘を女の勘とか言うもので見破っていたのかもしれない。だが、確証がなかった。俺もそうだ。

 しかし、今ここで俺たち以外の第3者がアキナが逃亡軍であることを明かした。しかも、魔女といった。魔女は魔女と呼ぶには幼い。だが、凶悪で知識量が並みの大人を遥かに凌駕する。その魔女が俺の胸の中にいる少女だというのか?アキナが逃亡軍であることは間違いなさそうだ。しかし、本当に魔女なのか?

 否定に否定がなさなり頭の中で収拾がつかなくなる。今はアキナがどんな立場の人間でどんなことをしてきたのかは後で十分に聞きだすことにする。今は目の前のことを片付けなければならない。

 胸の中に抱えていたアキナをおろして上空の男と間に入るように立ちふさがる。

「貴様!その手に持つ刀は魔武か!それは俺たちイギリス魔術結社が開発した武器だ!貴様のようなものが持っていいようなものではない!」

「うるさい。少なくとも口だけのお前よりかは俺のほうがこいつを使いこなせる」

 と売ってきたけんかを買ってみる。

「黙れ!そもそも、俺は教術師だ!魔武なんて無縁なんだよ!」

「なら、誰が使っていようが問題ないだろ」

「大問題だ!俺はイギリス魔術結社の七賢人に最も近い男!聖翠のバルカンだ!これからの結社のためにもその武器はお前のようなものが持っているべきものではない!ここでお前を倒し魔武を回収し!ついでに魔女を倒して俺は七賢人になる!」

 なんとも欲深い奴だ。

「口だけは達者だな」

「なんだと!」

「戦場において無駄口を叩くということはその名の通り無駄な行為だ。何がどう転がるか分からない。突然、味方が裏切ってくるかもしれない。気付かない間に結界の中に閉じ込められているかもしれない。すでに敵の魔術の射程内に入っているかもしれない。多くの不測の事態が発生しうる戦場において常に感覚は研ぎ澄まさなければならない」

 例え、こうして武器を振るわず口を動かしているときであってもだ。

「何が言いたい?」

「お前は隙だらけだってことだ」

 俺が横にステップして動くとアキナが魔術を発動させていた。六芒星の陣が浮かび上がり、陣の中央から黒い霧が立ち込める。そして、勢いよく霧の中から何かが飛び出す。それは真っ黒な蛇だ。

「なんだ!?」

 まっすぐ飛んでいく黒い蛇から逃れるように移動すると、その背後に人の姿があった。それは杖を振りかぶったアキナだった。

「いつの間に!だが、幻影魔術ではない!」

 といって背後のアキナを無視して迫り来る黒い蛇から逃れようとするが背後の幻影のアキナが振りかぶった杖がバルカンの後頭部を殴打する。

「な!」

 殴られたことでふらつくバルカンに黒い蛇が腕に噛み付いてチェーンと変わる。まるで拘束器具のようにチェーンがバルカンの腕に巻きつく。

「なんだ!こんなもの!」

 振り払おうとするが。

「無駄ですよ」

 バルカンのチェーンを握っているアキナが引っ張るとアキナの細い腕からはありえないほどの強い力で引っ張られたバルカンが上空から地上に叩きつけられるように落下する。

「くそ!なんだよ!さっきの幻影じゃないのかよ!このチェーンはなんだよ!」

「知る必要はないと思います」

 ゆっくり近づいた。アキナの杖には雷が宿っていた。

「この程度の拘束で!」

「分かっています。教術師に天使の力は面倒ですね。だから」

 杖を再びコンと地面を叩くとその地面にはカードが置かれていた。再び六芒星の陣が浮かび上がると一斉に飛び出した真っ黒な蛇がバルカンの腕と両足に噛み付いてチェーンとなり拘束する。

 力任せにチェーンを引きちぎろうとするが、チェーンは切れる気配はない。背中の羽を使って飛んで逃げようとするもチェーンによって地面に伏せつけられる。

「・・・・・・動けない」

 さすがに焦り出したバルカンを冷酷に見下すアキナは雷の宿った杖を振りかぶる。

「お、おい。やめてくれ。俺はまだ死ぬわけには行かないんだ。俺は七賢人になって田舎のばあちゃんに少しでも裕福な暮らしを」

「そんなこと知らないです」

 アキナが振りかぶった杖の雷がまるで落雷が落ちたような衝撃音と主にバルカンが真っ黒に黒こげ出て動かなくなった。

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