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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
158/192

魔女の急襲④

「ふぅ~」

 と一息入れる。

 辺りには黒煙と砂埃が立ち込める辺りを見渡す。すでに戦える状態の者の姿は見当たらなかった。私の目の前にはさっきまで人だったものが転がっている。士気をあげるにはきっと適した人なんだろうけど、指示を出す上ではまだまだ未熟な感じの人だった。早めに殺すことができてよかった。今後、私の脅威になることはもうないから。

「さて、後は敵に私の姿を見せてから前線部隊に合流しよう」

 そうなると土砂から免れた結社の軍勢の後衛側に移動しなければならない。そこではいつどんなときに魔術師に襲われてもいいように準備をしているはずだ。そんなところに姿を出すというのは非常にリスクが高い。でも、私はあの村で貰ったものは壊すわけには行かない。魔女だった私に善良者としてくれたあの村の人たちをこの戦いに巻き込みたくない。そのためにも敵の目標は私ひとりだけでいい。

「何か作戦を立てていかないと大変そうですね」

 そのとき、ズキッと何か指すような何かを感じた。

「なに?」

 周りを見渡しても敵の姿はない。

 でも、この感覚には覚えがある。前線に配属されたばかりのころ、この感覚を感じた瞬間、敵に発見されて固定砲台が一斉掃射をその場所にしかけてきた。後から聞けば、それは透視系魔術の視線ではないかという予測を前線で戦い抜いてきた歴戦の隊長殿が教えてくれた。

 つまり、私は敵に探知された。これは好都合だ。

 私の顔は結社側には知れ渡っているはずだ。魔女がいるということが向こうに伝わっているのならこのまま村から離れるルートを使って前線部隊のところに向かえばこのことを起こしたのはすべて魔女のせいだと向こうは思うだろう。

「なら、すぐに下山を」

 そのときだ。ドンという音共にヒューっという音がしてその音がどんどん近づいてきた。

「これって・・・・・・まさか!」

 すぐに身を低くした。瞬間、私の数十メートル後方に砲弾が着弾して黒い煙を上げ、砂利を巻き上げて爆発をする。身を低くしたおかげか飛んできた砂利からは難を逃れた。

「まさか、移動中の固定砲台を使ってくるなんて!」

 また、ドンという低い音が聞こえた。今度は複数だ。

「音が聞こえてから判断してたら遅い!逃げないと!」

 元々、山を下ろうと思っていた斜面側に着弾して爆発する。その爆風に巻き込まれて吹き飛ばされる。砂利の山の斜面に体を叩きつけられて転がる。咳き込むとつばに血が混ざる。

 これは不味い。鉄の塊でできた軍艦に穴を開けるような砲弾を物理結界なんかで防げるはずがない。逃げるしかない。しかし、砲弾を発射する音が容赦なく鳴り響く。着弾地点を見分けるような技量は私にはない。ただ、適当に逃げたところで砲弾に当たってしまう。敵には私が見えている。私がどこにいてどこへ逃げるか予測してこの砲弾を撃って来ているに違いない。斜面にいたら人はどこへ逃げるのが逃げやすいか?

「下ったらダメだ」

 上らないと!

 本来の作戦とは別の方向へと進む。山を登る。となるとあの村に近づくことになる。素通りすればあの村が標的になることはない。ただ、敵に私の姿を見られたということは私を殺すために魔術師を送り組んでくる可能性がある。私が魔女だということに向こうが気付けば、送り組んでくる魔術師のレベルは格段に跳ね上がる。そうなれば、村の中で戦わなければならなくなるかもしれない。もしそうなったら、ヨナさんたちを巻き込むことになる。ならば、あの砲弾の雨の中を潜り抜けるしか・・・・・・。

 砲弾が着弾した地点は地面がえぐれて大きなクレーターになっている。硬い地面の岩が簡単に粉々になっている。あんな砲弾に生身の人間が当たったらと考えると身が震える。

「大丈夫。すぐに走り抜ければいいんだ。あの平和な人たちを戦いに巻き込みはしない。走って前線部隊のところに戻ろう。そうすれば、いつもの魔女って呼ばれる美嶋秋奈に戻れる。だから、走るんだ」

 あの平和な時間だけが流れるあの村に戦いを持ち込みたくないという考えが私の判断力を鈍らせる。それが結果的に最悪な結果を生み出してしまった。

 砂埃が立ち込める土砂崩れの斜面を登りきって木々の意茂る森の中までがけを上ってきたときだ。

「そこにいるのは・・・・・・魔女か!!!」

 声が頭上から聞こえた。すぐに頭を上げると水の翼を携えたひとりの青年の姿があった。体つきは細いが筋肉品のいい体つきで堀の深い渋い顔をした黒髪の男が堂々と腕を組んで私を見下すようにその天使は上空を浮遊していた。

「これでも食らえ!水裂弾(すいれつだん)!」

 男が両手のひらを私のほうに向けると五芒星の陣が発生してその陣を中心に水が球状に渦のように集まってくる。そして、その集まった水の弾が螺旋状の回転をともなって私に向かって銃弾が打ち込まれるように発射される。とっさに伏せてその攻撃をかわす。水の銃弾は背後にあった太い木を削るように折った。

「はぁ?どんな威力ですか!」

 水属性は属性魔術の中でも最も攻撃力に乏しい属性だ。そんな属性の攻撃で木を削り折るとか普通じゃない。

「かわされた!だが、次は外さない!」

 新たに水裂弾を生成し始める。

「させない!」

 カードを腰に装備していた丸カンから引きちぎって地面に叩きつけるように杖で打ちつける。杖の先端に火炎弾が生成される。すぐさま、上空の男に向かって撃ち放つ。

「ちょ!ま!」

 まっすぐ飛んでいった火炎弾は上空の男に直撃して爆発する。しかし、次の瞬間に白い蒸気が発生してその中から水の翼を持つ男が出てきた。

「いきなり何をする!っていないし!」

 隙を見て木の陰に身を潜めた。

「どこに行きやがった!」

 手のひらに生成した水裂弾を持ちながら辺りをきょろきょろと見渡す。

 今の火炎弾を防いだのはあの水裂弾じゃない。別の水属性魔術の可能性が高い。そうなるとあの男は教術師である可能性が高い。さらに水属性には風属性のような浮遊能力のない。にもかかわらず、あの教術師は背中の水の翼で浮遊している。つまり、あの翼は天使の力だ。発現条件が謎に包まれている力のひとつだ。魔術師にも教術師にも共通してその力を使えるものが現れる不思議な力だ。天使の力は浮遊能力を得るほかに魔術、教術の力の飛躍的向上が挙げられる

 さっきの水裂弾が木を削り折ったのは天使の力が上乗せされたことで発生した威力が原因だろう。そうでなければ、あの威力を証明することはできない。

「どこだ!どこに行きやがった!また、俺の前から逃げる気か!」

 また?もしかして、どこか出会ってるの?全然記憶ないんだけど・・・・・・。

「だったら、適当に撃つぞ!そこか!」

 上空の男が見当違いのところに発射して再び木がめきめきという音を立てて倒れた。

 このまま隠れていたらあのあてずっぽに当たってしまう。でも、対策はある。

 カードを地面において魔術を発動させる。すると目の前に自分と同じ姿をしたものが現れる。幻影魔術だ。人を騙すことで初めて効力を得ることのできる魔術だ。もしも、この幻影魔術によって作られた私の幻影が相手に幻影だと知られた時点で幻影は消えてしまう。本当に難しい魔術だ。そして、さらに魔術を組み合わせる。カードを打ち付けて発動させたのは鏡のような結界。反鏡魔術だ。鏡が吸収した攻撃を跳ね返すという上級魔術だ。

 作戦はさっきと同じだ。あいつの目の前に反鏡魔術を背に隠し持った幻影の私を見せて攻撃させる。反鏡魔術で跳ね返す。その隙に山を登る。さっきはできた隙に指揮官を殺すことを計画していて見事に成功した。見た感じ、あの教術師はバカそうだからきっと大丈夫。

「行くぞ」

 幻影に指示を送って木の陰から飛び出す。その姿を上空の男は逃さなかった。

「逃がさない!食らえ!水裂弾!」

 襲い掛かる水の弾丸は幻影をすり抜けて鏡に吸収される。そして、即座に水の弾を打ち返す。

「はぁ?」

 跳ね返ってきた水の弾になすすべなく腹部に直撃して吹き飛ばされる。

「弱い」

 天使の力を持っていても使い手に技術がなければそれは宝の持ち腐れだ。

 すぐに山を登ろうと木の陰から出た瞬間だった。

「見つけた」

 肝冷やすような声に背中が震え上がった。水裂弾が木々や葉っぱを吹き飛ばして私に迫ってきていた。

「嘘でしょ!」

 咄嗟に杖を突き出して防ぐ。金属製の杖を破壊するほどの威力はないようで杖にぶつかった瞬間、水の弾丸ははじけるように消える。だが、その衝撃は殺されることなく私は遥か後方に吹き飛ばされて木にぶつかってとまる。

 せき込んで呼吸を整えて前を見るとそこには水の翼を携えたあの男が健在だった。

「なんで?直撃したはずなのに?」

「あの程度の攻撃で弱音を吐くような鍛え方をしていない!」

 つまり、単純に耐えただけだというのだ。木を削り折るほどの威力を持つ水の弾丸に。

「1週間ぶりだな!魔女!俺のことを覚えているか!」

 杖を支えに立ち上がる。

「すみません。覚えてません。誰です?」

 上空でこける男。

「覚えてないのか!俺は1週間ほど前に逃亡軍の前線基地を急襲する際に先陣を切って攻撃した!イギリス魔術結社の中で最も七賢人に近い男!その名も聖翠のバルカンだ!」

「・・・・・・誰ですか?」

「知らないのかよ!」

 確かに襲撃されたときにやたら威力の高い水属性の攻撃があったような気がするけど、逃げるのに必死だったから覚えがないし、そもそもイギリス魔術結社に属している有力な魔術師、教術師は大体知っている。学校でも習ったし。でも、聖翠のバルカンって聞いたことない。忘れたということはないだろう。だって、すごくダサい名前だし。絶対印象に残るはず。

「俺を知らないとは何事か!」

 両手で水裂弾を作り出す。

「それは不味いです!」

 火炎弾を発動させて撃ち放つ。

「撃ち落とす!」

 放った水裂弾は見事火炎弾に直撃してそのまま突き抜けて私の元に襲い掛かる。すぐに山の斜面を上へ上へと逃げる。そのおかげで最初の一撃は当たらずに済んだ。

「逃がすか!」

 次の水裂弾が炸裂する。今度も直撃せず足元にぶつかって弾けた水の勢いに体が宙を浮いて飛ばされる。

 どうすればいい?有利な雷属性は使えるけど、あの威力の攻撃を防ぐ防御力は雷属性にはない。雷属性は攻撃力が他の属性と比べて圧倒的に高い分、遠距離の攻撃が苦手で防御に向いていない。

 どうすれば・・・・・・。

 考えている間に次が来た。

「魔女を殺して俺は七賢人になる!」

 水裂弾が私に襲い掛かる。

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