外野の行動①
その音は少し山を下った村にも聞こえた。
森の向こう側で白い砂埃と黒煙が上がっている。
村の誰もがその様子を作業を止めて空を見上げていた。
それは機関を出た俺たちも同じだった。
「風也」
「なんだ?」
「あの音って」
そう、あの音は俺たちが数年前までは当たり前のように聞いていた音。戦争の音だ。かなり、近くだ。地響きも起きて家の中の棚の上においてあった軽いものが落ちてきた。村に迫っている戦火。逃亡軍はかなり南に後退してこの辺りにはいないはずだ。いたとしたら俺たちや村人が目にしているはずだ。
「あの」
皆が不安そうに森の向こうの砂埃を見上げている中でヨナだけがそれに目もくれずおれたちの元に真っ先にやってきた。
「あの、お姉さんはいないんですか?」
「アキナは・・・・・」
昨日、突然彼女はいなくなった。俺たちにお礼の書置きとヨナに向けて描いたと思われる魔術の知識が描かれたノートを残して。
「まさかな」
あれをアキナがやったのか?あいつはただの善良者だ。見知らぬ、村人を助けて村の子供たちに魔術を教え、魔術に無知な村人に魔術に関するアドバイスをするために村を回るような奴があんなことをするのか?
やらない根拠はない。
だが、俺たちにはやるべきことがある。
「氷華、雷恥、火輪。武器を持て」
「え?なんで?私たちは農民に」
「そうも言っていられる状況か?村を守る。とりあえず、村のみんなを町のほうへ避難させよう。ここも時期にあの戦いの火に巻き込まれる。その前に被害を少しでも小さく。俺が飛んで様子を見てくる。魔武は本当に危なくなったとき以外は取り出すな」
魔武はこの戦争で初めて使われた武器だ。持っているのは大半が結社だ。だが、逃亡軍も元々は結社の一部の人間だ。魔武を持っているとなると逃亡軍と間違われる可能性がある。
「慎重に動けよ」
「分かった。風也も気をつけて」
「・・・・・ああ」
俺は収納魔術から一本の短い刀を取り出す。黒い刀身は俺が手にすると鮮やかな銀色の刃へと姿を変貌して言う。師匠から受け継いだ契約系の魔武、右風刀だ。魔力を流すと刃に風が宿りその力を使って俺は空高く飛ぶ。
「私たちも!」
といって氷華たちが村人に声を掛けに村中を走り出す。
そこで俺はいっしょにいたある人物の姿を見ることができなかった。ヨナがどこにもいなかった。




