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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
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魔女の急襲③

 進軍する結社の軍勢2万。魔武の数、4千。ランクA魔術師の数、120。教術師の数、80。固定砲台、6基。その軍勢が砂埃を上げながら山道を列を組んで進んでいる。固定砲台は収納魔術では収納するこのできない大きさを誇っているために牛を使って引かせている。軍勢のスピードはその固定砲台を運ぶスピードに合わせているという感じだ。非常にゆっくりだ。

「これだったら罠も有効に働きそう」

 村から少し山を登ったところに切り立ったががけの上から遠望魔術で進んでくる結社の軍勢を目にする。昨日、ヨナさんを振り切った後、ロン毛のおじさんに会うために山を降りて詳しい情報をさらに仕入れて必要な魔術を加えて準備を整えた。

 その日は風也さんのところには帰らない街の宿で一晩を明かして村まで戻ってきた。

 魔術は私の意志でいつでも発動可能状態になっている。火炎弾を木々にセットしてあって、発動と同士に仕掛けた火炎弾が地面に放たれてがけを破壊して土砂崩れを起こす。村の道は地盤が悪くちょっとした雨とかですぐに崩れてしまうという性質を利用したものだ。

 とりあえず、それが最初の攻撃だ。後は場の状況に合わせて臨機応変に。

「手はたくさんある。負けるわけない」

 一度、村のほうへ目をやる。私にひと時の平和と安らぎをくれたことは本当に感謝している。でも、私は逃亡軍に所属する魔女、美嶋秋奈だ。だから、その役目を果たさなければならない。敵は私たちが完全に後退してしまったと思い込んでいるはずだ。だから、あんな大掛かりな武器を運ぶだけの余裕がある。十分にチャンスはある。

「よし」

 街で買ったパンを詰め込んで立ち上がる。

「行こう」

 1対2万。数では圧倒的に不利なこの状況。でも、私には魔女と呼ばれる由縁である魔術の知識がある。命令を聞いて戦うだけの初心な魔術師と比べて強い自信はある。

 急な斜面を下っていって木々に手を付いて転ばないようにゆっくり下っていく。そして、足音が聞こえるところまでやってきた。藪の中に身を潜めてゆっくり頭だけ出すと簡素な金属の鎧を身に纏った魔術師たちがそれぞれリュックサックの荷物を持って山道を進んでいた。途中途中で足を止めている魔術師もいる。あれがいわゆる指揮官クラスの立場のものだろう。運のいいことに私に背を向けている。つまり、斜面に背を向けているということだ。

 藪の中に頭を引っ込めてはいずりながら進んで仕掛けた魔術のところまでやってきた。両親が使っていたという先端に十字架がついた杖を取り出して準備完了。

「戦闘開始」

 木の枝に仕掛けた魔術を杖を突いて発動させる。魔術は火炎弾というレベルの低い火属性魔術であるが、魔方陣のレベルを変えても発動できる珍しい魔術である。威力も射程も変わらないので基本的に一番レベルの低い状態で使う魔術師がほとんどだが、レベルを高くすることで魔力の伝わる速度が遅くなるために発動スピードも遅くなる。その性質を使って火炎弾を発動させてすぐに走って次の火炎弾を発動させる。次を発動させたらまた次を発動させる。そして、最初の一発目が撃ち放たれたら仕掛けた最後の魔術を発動し終えた。すぐにがけの上側に走る。

 ドンドンと時間差で次々と地面に放たれる火炎弾の音にさすがに指揮官クラスの魔術師が振り向く。

「なんだ!」

 爆発と砂埃が森の木々の間から立ちこめる。全部で10発発射したでも地面は崩れる気配はない。

「もう一押し!」

 カードを取り出して地面に叩きつけるように杖で打ち付けて発動する。雷属性の雷槌。武器に雷を宿らせて魔術師の意図で武器に宿らせた高出力の雷を放出する魔術。私はそれを火炎弾で割れた斜面の突き刺すと同時に雷を放出すると大爆発が起きる。同時に山の斜面が轟音と共に木々をなぎ倒して崩れ始めた。

 私は爆発の勢いで吹き飛ばされていて土砂崩れの範囲から抜け出した。急に崩れ始めた土砂を見た指揮官が叫ぶ。

「逃げろー!」

 だが、すでに遅い。土砂崩れは巨大な砂埃を巻き上げながら軍勢の一部に襲い掛かる。悲鳴声を上げながら魔術師たちはなす術もなく土砂に巻き込まれていく。その中には移動中の固定砲台も含まれていてあっという間に土砂の勢いに負けて谷底に落下していく。一部の魔術師が魔術を使って土砂から身を守っている。だが、辺りは砂埃で視界不良の状態で周辺の軍勢が敵の奇襲にパニック状態だ。

 ここで手は抜かない。

「次」

 魔術を発動させる。

 砂埃の中で剣を手にした指揮官が声を上げる。

「落ち着け!敵の奇襲だ!陣形を整えろ!」

 敵って逃亡軍は撤退したんじゃないのか?

 どれだけの数がいるんだよ!

 どこにいたんだ?全然、気付かなかったぞ。

 といった不安な声を上げる魔術師たちに指揮官は声を張る。

「ここは戦場だ!何が起こっても動じるな!敵がいるということはこの奇襲で分かったんだ!この混乱を突いて次が来るぞ!気を引きしんめか!」

 活の聞いた言葉に不安げだった魔術師たちが戦う準備を始める各々自分のみを守るためにまたは敵と戦うためにカードを取り出す。いつでも魔術を発動させて攻撃するために。

「見えた!崩れた斜面の方!」

 ひとりの声に指揮官を含めた魔術師たちが斜面の方に一斉に眼を向けると複数の影が迫ってきていた。黒いフードをかぶって姿がよく見えないが杖を持っているだけは確認できた。魔術師たちは一斉に向かってくる敵に魔術を発動させる。すべて遠距離系の魔術ばかりだ。それはそうだ。敵は自分たちとの距離はまだある。近づけさせないために遠距離系の魔術を発動させるのは至極当たり前のことだ。

 だけど、それは失敗だ。

「撃て!」

 指揮官の掛け声と共に火属性、水属性、土属性、氷属性といった遠距離攻撃に向いている属性魔術が一斉に迫る敵に襲い掛かる。

「残念でした」

 黒い影に魔術が直撃する。だが、直撃した瞬間その魔術が吸収されてしまったかのように消えた。影は影でしかなかった。魔術は直撃するとすり抜けて地面に直撃して爆発や轟音を上げるだけだった。そして、吸収された魔術は影の胸の中にある丸い手鏡の中に消える。その鏡を見た指揮官が危機感を覚える。

「反鏡魔術!」

 吸収した攻撃を跳ね返す結界系魔術。

「みんな逃げ」

 だが、今回の指示も一歩遅い。

 反鏡魔術によって吸収された魔術は一斉に放たれて混乱から指揮系統を取り戻したばかりの軍勢に襲い掛かる。

 悲鳴と共に爆発音と轟音が響き渡る。魔術を打ち込んだばかりの魔術師はなす術がない。跳ね返ってきた魔術を対応するために魔術を発動するためのカードを選んで十字架を打ち付けて魔術を発動するタイミングなんて存在しない。次々と自分の魔術で傷を負い死んでいく魔術師たち。一部の魔術が弾薬を詰め込んだ荷車を直撃して予想外の大爆発が発生する。まるで人間が紙のように吹き飛んでちりちりになっていく。あたりに燃えるものの多くが人間だった。まさに地獄絵図だった。そんな中、額から大量の血を流した指揮官が叫ぶ。

「どこだ!敵はどこだ!」

 運よく自分の魔術が反鏡魔術によって跳ね返ってこなかった指揮官が刀を手に崩れた斜面を駆け上がる。そして、影に向かって切り込む。だが、影は影であって刃が通る分けなくすり抜ける。手を突いて影を見て指揮官は気付いた。

「幻影魔術か!」

 そのとおりだ。この視界がはっきりしない環境は相手を騙してでしか効力を発揮しない幻影魔術を発動させるにうってつけの環境なのだ。そして、無属性魔術は重複させて発動させることができる。その性質を使って幻影魔術の影に反鏡魔術を持たせた。強力な攻撃ほど自分たちが痛手を食らう。そういう作戦だ。

「どこだ!魔術師はどこだ!」

「ここですよ」

 声に反応して振り返った指揮官の前には火の玉を構えた、私こと魔女、美嶋秋奈の姿がある。

「は!」

 とあざ笑った指揮官。

「さようなら」

 私は容赦なく指揮官の顔面に火炎弾を打ち込んだ。

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