魔女の急襲②
「あれ?お姉さんは?」
「・・・・・朝から見てないぞ」
「呼びました?」
「わぁ!」
突然、背後に現れた私にヨナさんが驚いてしりもちをつく。
「アキナどこに行っていた?」
「散歩です。せっかく自由に動けるようになったんですよ。村の様子をのんびり見て回ることがいけないことですか?」
風也さんはそれ以上何も言ってこなかった。
実際は結社の軍勢が通るであろう道の下見をしてきたのだ。私に怪しい目を向けられないところを見ると完全に私は信頼されてしまっている。その期待を裏切る行為をしようとしていることは悟られてはいけない。私の信頼が崩れたところで彼らの関係が壊れるわけじゃない。結社の軍勢を襲ったら、私は結社の軍勢を引き連れて前線部隊と合流するつもりだ。そうすれば、彼らには害なく終わる。大丈夫。
「アキナ。朝ごはんがあるわよ」
「あ、ありがとうございます」
「ヨナもまだなら食べてく?」
「はい」
私の隣に割り込むように座って煮た豆とパンをむしゃむしゃと食べる。
「そうだ。氷華、雷恥、火輪に伝えておこう」
風也さんの声に全員が食事をしながら目を向ける。
「結社がこの辺りまで進軍しているという話が街で流れていた。時間帯によって結社はこの辺りにキャンプを張って一夜を明かす可能性もある。そうなるといろいろと厄介だ」
「機関出身者である私たちに目を付けられた面倒ね。戦争に味方として加勢しろといわれるか、逃亡軍が買った傭兵かって言われるか」
どちらにしても戦闘に参加することは免れない。
「どちらにしても村としては密かに息を殺して過ぎ去ってくれるのをおとなしく待つ方針らしい。戦闘になるかもしれないから武器を携帯しておくようにいっておくが、使うのは最終手段だ。村に戦いの日が降りかかりそうになったとき以外は使うのな。基本的に村に住んでいる一農民と振舞うんだ」
分かったと返事をする。
機関での生活をしてきた4人にはこの生活は貧乏であるが戦いのない平和な暮らしなんだろう。私もその生活を壊すつもりなんてまったくない。でも、私には果たすべきことがある。そのために魔女という異名を付けられるようなことをし続けてきた。妥協する気なんてない。
朝食を食べ終わると風也さんと雷恥さんと火輪さんは農作業に出て行っていった。氷華さんは食器を洗い終わってから同じように家を出て行った。
「お姉さん!今日も魔術を教えてください!」
いつものように気合を入れて手帳と鉛筆を取り出した。
「すみません。今日は少し用事がありまして」
「用事ですか?なら!私もいっしょに!」
私に用事があるといえば、基本的に魔術に関わることだ。ヨナさんは勉強のためにか言っていつも後ろにくっついてくる。断る理由を一生懸命探すにしても私はよそ者で、どういう行動をしているのかは常に監視されている。監視しているヨナさんは監視している気なんてさらさらない。
風也さんは私のことを善良者だといってくれた。他の3人も私が敵であるという認識を完全に解いてくれた。でも、氷華さんとの間にはまだ溝を感じている。私を疑うことやめているものの何か起きればあの人は真っ先に私を疑う。変な事すれば、氷属性魔術の攻撃が私を容赦なく襲う。私は雷属性の魔力の波長を持っているから属性的に有利でも油断できない。
ヨナさんは無邪気な子供だ。私のやっていることはきっとすぐに広まる。結社の軍勢が通るであろう道に魔術を仕掛けて軍勢を壊滅または足止めができればと考えている。そのためには大規模な魔術を用意する必要がある。ロン毛のおじさんの話では明日には結社の軍勢は村の近くの道を通る。今日の間にすべての準備を整えておきたい。
何かいい方法は・・・・・と考えているときにひとつのアイデアが浮かぶ。
「よし!」
「・・・・・どうしました?」
「今日はヨナさんとマンツーマンで魔術の発動の練習をしましょう」
その瞬間、ヨナさんは満点の花を咲かせるように笑顔が咲く。
「本当ですか!」
「はい」
「だったら、すぐに行きましょう!」
「そうですね。私は少し準備があるのでヨナさんは先に広場のほうに行っていてください」
「はい!待ってます!」
といって電光石火のごとくヨナさんは家を飛び出して笑い声を上げながら村のあぜ道を走り抜けていった。元気だ・・・・・。
「ごめんなさい。ヨナさん」
実のところ行く気なんてない。
例の広場は私が結社の軍勢に奇襲を仕掛けようと思っているところと位置が真逆なのだ。これでゆっくり準備ができる。純粋な子を騙すことは少しばかり気が引ける。それにたぶんヨナさんと会うのはこれが最後だ。私が知っている魔術の情報をいろいろ書き込んだノートを残していくことにしよう。
「さて、行こう」




