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誰も知らない神の領域  作者: 駿河留守
新の領域
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脱魔女の章⑦

「アキナおねえちゃん!また、明日!」

「はーい。また明日です」

 元気よく散っていく子供たちを家の前で見送る。時刻は昼過ぎだ。村の子供たちは午後から農作業などの家の手伝いをしにいってしまう。だから、いつもこの時間で解散となる。この後は村の人たちが使う魔術のアドバイスとかをしに回るのがここ最近の日課となっている。

 元気よく散っていく中でヨナさんだけは私の隣で立ちすくんでいる。

「ヨナさんは帰らないんですか?」

「お母さんたちがお姉さんにしっかり魔術を学びなさいって仕事の手伝いはいいって言われたんです」

 いい両親だ。勉学を学ぶのが子供の仕事といっても過言じゃない。

「でも、お姉さんの魔術講座は午前中で終わっちゃうので暇になるんですよね」

「いつもは何してるんですか?」

「魔術になれる練習をしています」

「ということは魔術を実際に発動させているということですか?」

「はい」

 熱心なことだ。私も魔術師官学校に通っていたころも図書館と演習場に通ったものだ。父と母は優秀な魔術師だった。物心付くころにはふたりともすでに死んでしまっていたけどすごく優秀だったということは大人たちから聞かされていた。いない二人の面影を私も追いかけ続けた得た知識と技術は目の前で仲間を殺されたことで私は魔女となるための触媒となった。

 この子はそんなことはないだろうと私は思っている。

「なら、少し付き合ってあげましょう。その魔術の発動練習に」

「いいんですか!」

 笑顔をらんらんと咲かせて迫る。

「大丈夫ですよ。私を拘束するものはもうなので」

 両手の手錠はもうない。

「いい場所があるんですよ。誰にも邪魔されない場所が」

 そういって私の手を引いて走り出す。村のあぜ道を走り回る私たちの姿を温かい目で見守りながら農作業を続ける。この村に流れる空気は暖かい。魔術という力は確かにこの村には存在する。でも、違うのはその魔術は人を殺すために使わないということ。生活のためだけに使う魔術はどうしてこんなに違うのだろうか。

 好き勝手に生えた雑草がまるで獣道のように踏み倒れている。どんな虫がいるか分からない雑草の道を通って森の中に入っていく。木々によって暗い森の中を進んでいくと獣道の先が明るくなる。

「あの先です!」

 駆け出そうとすると目の前に人影が突然現れる。

「止まるっす!」

「雷恥さんじゃないですか」

 目の前に現れた雷恥さんに足を止めると。

「伏せて!すぐに!」

 獣道の外れの草むらに身を低くして火輪さんが潜んでいた。まるで何かから身を隠しているように。

「なんで隠れているんですか?」

「隠れればわかるっす!」

 といって私たちを火輪さんが隠れている草むらに押して誘導する。火輪さんの横にうつ伏せになって隠れる。その隣になんか無駄にワクワクと楽しそうなヨナさんが隠れてその隣に雷恥さんが伏せて隠れる。

「あの、何があるんですか?」

「広場のほうを見て」

 火輪さんに言われて暗い森とは対照的な木々の生い茂っていない広場のほうを目をしかめてみる。どうやら、草の隙間は私の正面辺りにしかないようでヨナさんと火輪さんと雷恥さんが顔を寄せ合って草の隙間から広場のほうを覗く。森の広場は少し小高い丘のようになっていて中央に大きな一枚岩がぽつんと生えるようにあった。その一枚岩の上に男女が熱いキスをしていた。

 思わず自分の顔が熱くなるのがわかった。私だけじゃない。ヨナさんも火輪さんもそうだ。直接、頬に触れていない雷恥産もきっと同じだ。その世界は私たち子供が入るような世界ではない大人の世界だ。

 キスをしている男女。男の人は短い黒髪の人。女の人は長い艶のある白髪の人。ふたりには見覚えがあった。

「うそでしょ。あのふたりってできていたんですか~」

 声を殺しながら顔を真っ赤にしたヨナさんが手を口元に押さえながら驚いていた。

「機関を出る前からそんな感じだったんっすよ」

「なんか私たちとは関わり方が違うのはわかってた。でも、こうまじまじと見るとこっちまで恥ずかしくなる」

「分かります」

「分かるっす」

 私も共感してしまう。ここ数日間の間、常にいっしょに行動していて普段から見知っている顔同士が恋人という関係になっていることを見ると今までの自分の行動が恥ずかしくなってしまう。

 風也さんと氷華さんは一言二言話すと再びキスをかわした。

 ひゃーっと言う声を思わず上げてしまいそうになる。

 こんなところで隠れてこそこそ愛の証を確かめ合っているということはこの関係を雷恥さんや火輪さんたちを含めた村の人たちに知られたくないんだろう。冷やかされるのが苦手なのか。どうしてなのか分からない。その疑問を私よりも押さないヨナさんが声を殺しながらも無邪気に尋ねる。

「なんでこんなところで隠れてるんですか?」

 そこはデリケートな問題な気がするので下手にたずねないほうがいいと思う。知りたいことを素直に聞いていいときと聞いてはいけないときがある。それを判断できるようになれば大人へと一歩進むことになるのだ。

「えっと、たぶん私たちに気を使っているんだと思います」

「気を使ってる?」

「ふたりが付き合っていることが分かれば、俺らはふたりから距離を置くっすよ。恋人同士の中の間に俺たちがいたら邪魔っすよ」

「風也さんたちは4人で暮らしたいんですね」

「そうね」

「そうっすね」

 だから、ふたりの関係を隠して4人でいることを選んだ。気を使って雷恥さんと火輪さんが離れていかないように、こうして隠れて二人の愛を確かめ合っている。機関という地獄と機関から出て右も左も分からない苦悩の生活を4人で乗り切ってきたんだろう。その関係を誰も崩したくないと思っているんだ。

 雷恥さんも火輪さんも今日はじめて知ったわけじゃなさそうだ。それでも、ふたりの関係を知らないふりをしているのは今の生活をこれからも続けたいと思っているからだ。だから、私たちの接近を防いだ。

 私には分からない深い絆でこの4人は結ばれている。

 うらやましいと思った。

 ふたりは熱いキスを終えると上目遣いになった氷華さんが風也さんに寄り添うように体を寄せるとワイシャツのボタンに手をかけた。

「へ?」

「え?」

 私つぎにヨナさんが思わず声を出してしまった。だけど、ふたりには聞こえなかったようだ。

 氷華さんがワイシャツを脱ぐと風也さんも服を脱ぐ。氷華さんはズボンも脱いで下着姿になるとそれを風也さんが押し倒して。

「子供には見せられない」

「18禁っす」

 私とヨナさんの視界を火輪さんと雷恥さんにふさがれる。

「ちょ!」

「見たいですよ!」

「ダメっす!もう少し大人になってからっす!」

「おふたりだって十分子供ですよ!」

「ヨナに言われたくない!」

「私は大丈夫ですよね?」

「同じっすよ!」

 それでもその場で左右に動いて抵抗する。ふたりが何をしているのかすごく気になったのだ。まだ、13歳という思春期の好奇心という奴だ。抵抗の末に火輪さんの拘束から逃れて広場のほうに目をやると。

「あれ?誰もいない」

 誰もがえ?という言葉と共に固まった。そのとき、私たちの背後から気配を感じた。それはひどくざくざくと刺すような振り向くことに恐怖を感じるような気配だった。私と雷恥さんと火輪さんと雷恥さんにに未だに目をふさがれたままのヨナさんが振り返るとそこには太刀を手にした白い下着姿の氷華さんが鬼の形相で伏せている私たちを見下した。

 ヨナさんが状況を確認しようと目を隠す雷恥さんの手をどかして氷華さんの姿を見ると再び雷恥さんの手を元に戻す。

「大丈夫です。私は何も見ていないです」

 逃げた!

「どこまで見た?特に雷恥!」

 太刀を雷恥さんに向ける。

「え?いや、俺は全然見てないっすよ。別に氷華さんが誘うようにワイシャツとズボンを脱いで風也さんが押し倒すところなんて」

 風が吹いた。ヨナさんの目を覆っていた雷恥さんが消えてヨナさんの視界に氷華さんが入る。

「何も見てないです」

 といって自分で目を覆う。もう、無駄な足掻きな気がする・・・・・・。

 消えた雷恥さんはというと氷華さんの後ろのほうで上半身裸の風也さんがなんか無心に拳を振り下ろして悲鳴が聞こえているけど、見なかったし聞こえなかったことにしよう。

 鬼の形相の氷華さんが太刀を私たちに向ける。

 白く輝く白い髪に白い肌は真っ赤に染まりあがっているように怒りが目に見える。

 そこで私が取った行動といえば・・・・・。

「何も見てないです」

 自分の手で目を覆うくらいだ。

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